swordian saga second   作:佐谷莢

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 ダイクロフト・玉座。
 ここでエルレインがひょいっと現れてミクトランに加勢したら、面白いことになっていたのに。
 いや。そんなことは考えてはいけないのでしょう、たぶん。


第六十一戦——歴史は史実を忠実になぞる~様々な痛みも苦悩も伴って

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──カーレル・ベルセリオスは健在である。彼は唯一人、ミクトランと対峙していた。

 他のソーディアンマスター達は満身創痍で、その一騎打ちを成す術もなく見守っている。誰一人、アトワイトですら晶術を使わない辺り、すでに晶力は尽きているのだろう。

 そして一同は、再び歴史的瞬間を目の当たりにした。

 長きに渡る天地戦争の、決着の瞬間を。

 

「ミクトラン、覚悟ッ!!」

 

 すっかり息の上がったカーレルがソーディアンを携え、捨て身に近い特攻を仕掛ける。

 それまでの戦いで蓄積された消耗の賜物だろう。回避の気配こそあったものの、足をふらつかせたミクトランは刃を受けた衝撃で、身体を甲虫のように丸めた。

 しかし。

 

「私とて、天上の王と呼ばれた男……ムダ死には、しないっ!」

「カーレル、逃げろ!」

 

 かろうじて即死を免れたミクトランは、身体を貫かれながらも己の剣を振り下ろした。

 ディムロスの警告空しく、肩から胸にかけて深々と刃が埋まる。

 ソーディアンを手放せば助かっただろうが、それでは仕切り直し。仲間達も限界を迎えている今、この機を逃せばもう後がないと判断したカーレルの、極限の選択なのだろう。

 我が身を引き換えに、天上王を討つと。

 

「離しは……離しは、しない!」

 

 身体を斬り裂こうとする凶刃に目もくれず、カーレルはソーディアンを両手に握りしめた。

 血塗れの口元が小さく動き、剥き出しのコアクリスタルが煌めく。

 ソーディアンの刀身が埋まっているからできる芸当なのか。晶術は、ミクトランの体内にて発動した。

 そうだとわかったのは、何の前触れもなく天上王の胴体が内側から音を立てて崩壊したためである。

 内臓のみならず、今度こそ心臓を潰された人間に生き延びる術はなかった。

 

「うぐあああぁぁーッ!!」

 

 残されたのは身を振り絞るような断末魔と、たっぷりと血を啜ったソーディアン・ベルセリオス。そして。

 

「兄さんっ! しっかりして、兄さんっ!」

 

 ミクトランの最期をその目にしかと焼きつけたカーレルが、吐血と共に崩れ落ちる。

 たまらず飛び出したハロルドの呼びかけに、カーレルはうっすらと目を開けた。

 

「ハロルド……ハハ、ヘンだな、幻聴か……? いつもなら……兄貴って……」

「しゃべっちゃダメ、傷口が広がる!」

 

 ハロルドの手が無意識に何かを探してさまよい、ハッとしたようにカーレルへすがりつく。

 おびただしい失血は、小さな手だけでは止められない。

 

「……どうした、ハロルド? なに……泣いてんだ? また……だれかに……いじめられた……か?」

 

 ふらっ、と持ち上がった手が、ハロルドの頬を撫ぜようとしてなのか。壮絶に空を切る。

 慌ててその手を取ったハロルドに、カーレルは定まらない瞳で微笑みかけた。

 

「あんし……ん……しろ……にいちゃんが、まもって……」

「しゃべっちゃ、ダメだってばっ!!」

「にいちゃ……は……いつ……も……おま……え……いっ……しょ……だ……」

 

 かくん、と。その手が目に見えて、脱力する。

 その手を抱きしめるようにしていたハロルドならば尚更、それに気づかぬはずもない。

 

「兄さん……?」

 

 兄の手を両手で握りしめ、爪すら食い込ませながらハロルドは叫んだ。

 痛いよ、と彼が言うことを、再び言葉を発することを期待するように。

 

「兄さん! 目を覚まして、兄さんッ!!」

「ハロルド……カーレルは、もう……」

 

 あまりの痛々しさにディムロスがそれをやめさせようとするも、ハロルドに力なく払われる。

 そんなことはわかりきっていると、けれども認めたくないと、想いを零すように。

 

「兄さん、兄さんっ! わあああっ!!」

 

 堰を切ったように泣きじゃくるハロルドに看取られ、穏やかな微笑みを湛えたまま。カーレル・ベルセリオスは永遠の眠りについた。

 天上王は倒れ、戦争は終わる。しかし、当事者達の心に喜びは微塵もない。

 やり切れない思いだけが去来する、このひと時。

 天地戦争に、勝利者はいない。

 

 

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