swordian saga second   作:佐谷莢

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 十八年前のダイクロフト・神の眼の間というか、玉座? 
 本来ならここで、バルバトスとの因縁の決着がつくはずなんですが。


第六十三戦——最後の大事件、その前に~オールドラントへれっつらごー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──真っ白になった眼の前が、再び色を取り戻す。

 見覚えこそないが、何となくミクトランのいた玉座によく似た雰囲気の空間に、人非ざる者が意志を発する気配がした。

 

『この世界の今は、我らが守る。だが、この世界の行く末はお前達が決めるんだ』

 

「ここって、ダイクロフトよね。未来にもダイクロフトが存在してるの?」

「違う。天地戦争より千年後、神の眼を巡る事件が発生したんだ」

 

 意識を取り戻した各々が状況を確認し、とりわけハロルドはまず彼女が知る由もない背景説明を求めている。

 それをジューダスに任せて気配がする場所を探せば、目についた階段の向こうに巨大なレンズを見つけることができた。

 斜め読みだが、一応は把握している神の眼を巡る騒乱の結末を思い出す。

 死闘の末に勝利の女神は、ソーディアンマスター達に微笑んだ。が、ミクトランは最期の力を振り絞って神の眼を暴走させ、ダイクロフト及び地上を覆っていた外殻の欠片が地上へ雨あられと降り注いだのだという。

 このままでは本当に道連れにされてしまうと、スタン達は神の眼にソーディアンを刺し──接続し、コアクリスタルを同調させることで自爆を誘発させたとか。

 今がちょうど今生の別れなのか。察すると同時に、フィオレは階段を上っていた。最上階の手前で身を屈め、様子を(うかが)った先にいたのは、すでに三本のソーディアンが突き刺さった神の眼と、その眼前に立つスタン、その彼を見守る仲間達である。

 その手にはソーディアン・ディムロスが握られ、空色の瞳は切なげに相棒を見つめていた。

 

『いい世界にしてくれよ。お前達にならばできる!』

「ああ……」

『さらばだ、スタン!』

 

 覚悟を決めたようにひとつ頷いたスタンの手によって、ディムロスの刀身が神の眼に埋め込まれる。

 その手が柄を離し、二歩、三歩と下がったところで彼らを見つめるマスター達を、ソーディアン達は容赦なく叱りつけた。

 

『何をぼやぼやしておる!』

『あまり長くはもちませんよ』

『私たちがやろうとしている事を、無駄にしないで!』

『早く逃げるんだ』

「みんな……ごめん!」

 

 振り切るように背を向けて、四人が駆け去っていく。

 

「父さん……」

 

 すぐ近くでそんな呟きが聞こえて、振り返れば後を追ってきたらしい一同が身を隠すように待機していた。

 誰ともなしに、四本のソーディアンが突き刺さった神の眼の前へ移動する。

 文献の通りなら、スタン達が脱出するタイムロスを経て神の眼が自爆……つまり、単純に考えても大爆発を起こすわけだが、怖くないのだろうか。とはいえ、フィオレもそれが怖いならとっくに避難している。

 問題なのは、待つと言ったくせに姿どころか気配もないバルバトスのことだ。

 

「バルバトスの奴がいねえなあ、どういうこった?」

「仲間割れとか、オレ達に恐れをなしたとか……」

 

 前者はともかく後者はありえない。僅かな距離とはいえ、ここで一人潜んでいる間に強襲をかけられても困ると、フィオレが彼らと合流しようとした矢先。

 じわり、と何かがにじむように空間の一部が歪む。肥大化したひずみより闇色の放電をまとった漆黒の球体が発生した。

 

「バルバトス!」

「ようやっと到着か。それにしても、何を縮こまっている? よもや俺に恐れをなしたわけでもあるまい」

 

 ダイクロフトでの負傷を完全に癒したバルバトスが、握る戦斧の背で肩を叩くようにしている。

 その視線の先には、階段にて身を起こしたフィオレがゆっくりと歩み寄ってくるところだった。

 帽子を心持深く被ったフィオレだが、警戒を隠さず紫水を握りしめている。

 

「……単純な罠はもう通用しないから、とうとう総力戦をお考えですか」

「何?」

「下僕の圧倒的な存在感を隠れ蓑にしても無駄です。そこでせせこましく不意討ちを企むのですか、気高き聖女様」

「……相も変わらず、口の減らぬ亡霊だ」

 

 気配だけだった存在が声を発し、最もその声の主を知るだろうリアラが身体を震わせた。

 時折放電現象を起こす神の眼の真上に発光体が出現したかと思うと、それが人の形を成す。

 

「私は高慢ちきな神様の使いっぱしり──もとい偉大なる神の御使いに最大限の敬意を払っているだけです。何かご不満でも?」

 

 本音も建て前も垂れ流す低俗な挑発の相手をする気はないらしく、エルレインは尊大にフィオレを見下ろした。

 フィオレから完全無視をされたバルバトスだが、そのことについて頓着している様子はない。

 それどころか、彼は憎々しげに聖女を見上げて声を荒げた。

 

「貴様、何の用だ。これ以上俺の邪魔をするんじゃねえ!」

「──天地戦争にて、鬱憤を晴らしたのではなかったのか? お前の目的はリアラの英雄だろう。彼らに用はない」

 

 つまり、エルレインはフィオレに用事があるということか。

 もはやバルバトスなど眼中になく、臨戦態勢を整えるフィオレを見て、エルレインはにっこりと微笑んだ。

 

「?」

 

 蔑むでも、もちろん慈しみでもない。例えて言うなら、長年の悩みが今解決したような、何かから解放されての喜色を含んだ笑みだった。

 

「そなたの望みを叶えよう。あるべき場所へ、還るがいい」

 

 エルレインが口にしたのは、フィオレを罵るでもなく、また晶術の詠唱ですらない、そんな一言である。

 その場に居合わせた大多数がその言葉の意味を理解していないまま、彼らへのフォローも忘れてフィオレはそのまま返した。

 

「何をおっしゃっているのか、理解していますか?」

「何も争う必要などなかったのだ。無理やり連れてこられた上、帰還を盾に従うことを強要されたのだから、私がその望みを叶えればいい。史上最大級のレンズがここに現存する今、大奇跡──星を超えての送還を成してみせよう」

 

 これは──エルレインがフィオレを守護者との代行者ではなく、フィオレンシア・ネビリム一個人の望みを探って彼女なりに出した解決策なのか。

 今すぐ、元いた世界へ還る。

 とんでもなく甘い誘惑に駆られて、正常な判断をしたくなくなったフィオレの周囲を、雑音が飛び交った。

 

「ど、どういうことなんだい? 連れてこられたとか、あるべき場所に還るとか……」

「星を超えての送還て、また壮大な話ねえ」

「フィオレ、どういうことだ? 一体、何の話をしている!?」

 

 掴みかからんばかりのジューダスから身をかわし、ただエルレインから目を離さない。

 これでとうとう彼らも真実を知ってしまうのかという憂いと、エルレインを前にしての警戒。それらがない交ぜになっている今、フィオレに仲間達のことを気遣う余裕はなかった。

 そして。

 

『ど、どうしよう!? ねえどうしよう、みんな!』

『とうとう、その手段を提示してきましたか……』

『代行者よ、惑わされないでくれ!』

『でも、惑わしてなんかないよ』『あいつ、多分本当にやるよ』『今なら可能だもんね』

『これは……どうしたものか……』

 

 凄まじい勢いでわめく守護者達の相手をするヒマも。

 

「永久の眠りよりそなたを叩き起こし、当然のように使役する彼奴らに嫌々かしずくことはない。願ったり叶ったりだろう?」

「私は……彼らを、否定しません。あなたの打算だらけの施しなど、願い下げです」

 

 制御不可能であるはずの神の眼が、一際強く輝く。

 呼応するように輝くエルレインのペンダントを見ながら、フィオレはじりじりと後退した。

 

「あくまで抗うというのなら、私は障害となる者を平和的に排除するまで……」

 

 予兆も何もあったものではない、急激な発光に視界が潰される。

 十分に取ったつもりの距離に何の意味もなく、輝きがフィオレを拘束した。

 

「フィオレ!」

「──!」

 

 来ないでくれと、叫んだつもりの言葉は大気を震わせることもせず、何もかもが光に吸い込まれる。

 五感はおろか、あらゆる感覚の全てが暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 エルレイン、とうとうフィオレを「クーリングオフできるやろ。返品しちゃるわ(意訳)」と抜かしました。
 エルレインはフィオレがいなくなれば嬉しい、フィオレはかえることができるなら嬉しい。なんというwin-win。
 フィオレとしては、人情抜きの理屈だけで考えれば、受け入れるより他ないのですが。
 そんなわけで物語は終盤ですが。フィオレどころか、一同も巻き込まれる形で。
 オールドラント(テイルズオブジアビスの世界)へ強制移動。
 次回より、テイルズオブデスティニー2とテイルズオブジアビス、クロスオーバー回突入でございます! 
(テイルズオブジアビス知らん人すまんのう!)
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