swordian saga second   作:佐谷莢

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 ダアト港からケテルブルグへ。
 財布は他人様に預けるものではありませんね(適当)


第七十一戦——唐突なる金欠~前にも、こんなことがあったような

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 契約の証は手に入れた。

 いよいよセルシウスに、間接的にウンディーネと話をつけることができる。

 意気揚々とザレッホ火山より下山、ダアト港に戻ったフィオレを待ち受けていたのは、ずっしりとした落胆だった。

 その要因としては、返還された路銀入れにある。

 落胆とは反比例に、軽い。

 

「……私と別行動になってから、何カ月が経過しましたか」

「や、約二日といったところか……」

「じゃあなんでこんなに軽いんですか」

 

 落としたとか盗まれたとか、端的で信憑性に欠ける申告を省いて話を聞く限り、どうもぼったくりに遭ったらしい。

 しかし、それ自体は比較的少額だったようだ。

 

「たかだか5000ガルドの損失で、ここまで軽くはなりません」

「そ、そうなんだけどさ……」

 

 それでも無駄な出費をフィオレは怒るだろうと、一同は結論を出したらしい。

 そこで悲劇が発生したようだ。

 

「手っ取り早く稼ぐには賭けだ、ってことで──」

「その、港の端で賭け事をしていた人達がいたから、混ぜてもらったの。そうしたら」

 

 ボロ負けしたそうだ。これは単に運の問題ではなく、余所者から巻きあげてやれとばかりハメられたのではないかと思われるが、それは論点ではない。

 おそるおそる、路銀入れの中身を確認する。

 中の硬貨、紐でまとめられているガルド札をばらして数える内、フィオレは肩を落としていた。

 あぶく銭、身につかずとはこのことか。これで十分間に合うはずだった路銀が、非常に心もとなくなった。この分では、元の世界に戻る前に使い潰してしまうだろう。

 路銀入れの中身を見つめたまま、愕然と肩を落としてしまったフィオレを遠巻きに見つめ、カイル達は冷や汗をかきつつ密談をかわした。

 

「怒ってる……よね?」

「あれ、フィオレが用意した奴だもんな? それを半分以上使いこんだら、そりゃ……」

 

 密談を耳にしてなのか、うなだれていた肩がぴく、と動く。

 すぐさま顔を上げるも、その表情は帽子の奥に隠されており、読めない。

 

「──済んでしまったことはどうしようもありません」

 

 ただ、これからは気をつけてほしいと、まかり間違ってしでかした場合は変に繕おうとせず、事実を教えてほしいと伝えておく。

 懐が非常に痛いが、彼らとて悪気があってしたことではない。ハロルドすらも詳細を教えてくれないことも、何らかの事情があるのだろうと勘繰っておく。

 軽くなってしまった路銀入れのことは一旦置いて、フィオレはこれからの動向を話した。

 ここでの目的は済んだから、これから雪国へ向かうと語れば、カイルは意外そうに息をついている。

 

「ここにもあるんだね、雪国」

「ありますよ、雪国。路銀の都合により防寒服の新調はできません。現地調達になりますので、それまでは我慢してくださいね」

 

 このダアト港でも、ケテルブルク行きの直通便がある。そのため防寒具に取り扱う店舗はあるが、例によって値段は少々高め。現地であれば特別高いということはない。

 女性陣にはフィオレの予備とジューダスのマントを渡せばいいし、唯一あぶれてしまうハロルドも生まれが生まれだけあって平気だと自己申告してくれた。

 ジューダスは自前があるため問題なし。残るはカイルとロニだが、彼らには少々我慢してもらおう。

 路銀の少なさを意気揚々とした心持でカバーし、ケテルブルク行きのチケットを入手、再びの船旅と相成る。

 航海中のこと。珍しく地図を持たないハロルドがフィオレに声をかけてきた。

 

「フィオレ。ちょと顔貸して~」

「何か?」

「義手の整備。ここんとこバタバタしてたから、すっかり忘れてたわ」

 

 二人で船室にこもり、フィオレは義手を外して彼女に手渡す。

 万が一を考慮して、義手はわりかし簡単に外せるように設計してもらったのだ。

 外した通電義手を手に取り、ドライバーとスパナと六角レンチを手に解体を始めたハロルドは、ちらりとフィオレを見やった。

 

「なんっか、妙に小奇麗な気がするけど」

「時々手入れだけはしてましたから」

「そう。あれから使ってて何か変なことはない? どんな小さいことでもいいから」

 

 違和感を覚えない日は一日とてない。フィオレはできるだけ彼女の意に沿うよう、使用中の出来事を語った。

 油を差し忘れた日には非常に関節がぎこちなくなり、天気によっては接合部に鈍痛が帯びる。初めの内はかなり重たかったが、今はそれほどでもない。水気を帯びると漏電する。意図的に浴びせたことはないが、ザレッホ火山にて滝汗をかいた際、この現象が発生した。

 ひとつひとつ真剣に聞いていたハロルドは、ふむふむと頷いた。

 

「まあ、想定内ね。使用頻度の割には熱暴走も起こしてないみたいだし、良好な方かしら」

「そうですね。汗に反応してしまうのが困りものですが」

「完成を急いだから細かい加工してないのよね。今からでもしとく? 手持ちの薬品でできるだけのことはしとくわよ」

 

 その申し出に一も二もなく依頼する。これから先何が起こるか分からない以上、特に義手は万全にしとくべきだろう。

 通電義手を解体する傍ら、ハロルドはとある部品をつまみあげた。

 

「一番の問題は動力源よ。今はこれがあるからいいけど、晶力が尽きたらどうするの」

 

 彼女が示したもの。それは、シルフィスティアの眷属より徴収した完全球体のレンズである。義手は重たいが耐久性の問題により軽量化できず、更に煩わしい動力源──バッテリーの付随を嫌ったフィオレは、持ち物の有効利用を思いついたのだ。

 ベルクラントを構成していた物質の欠片──晶力増幅器とこのレンズを取りつけ、義手の動力源としている。

 今のところは。

 

「猛特訓で滑らかに動かせるようになったまではよかったけど、レンズにも寿命があるわ。増幅作用で使用晶力こそ微量だけど、今の調子で運用してたら確実に消滅するわよ」

「──そうなる前に、事態の解決を目指します」

 

 ハロルドの言うことは至極もっともだが、対策があるわけでもない。現時点で有効策があるとも思えないが、おいおい考えていくしかない。再び隻腕に戻ってしまえば、交戦はおろか日常生活も満足に送れないのだから。

 そのため。

 

「見学見学」

「まあ、好きにしてなさい」

 

 ついでとばかり、これまで見よう見まねで行っていた手入れ方法を教えてもらう。

 刀の手入れに使う丁子油に似たオイルを分解した部品のひとつひとつに塗り込み、羊皮紙の上に載せて乾燥を促す。

 この後、義手の関節部を除く外甲部位に蝋を塗り込み、元通り組んで完成らしい。が……オイルの臭いはけしてかぐわしくなく、同室のナナリー達はおろか隣室からも苦情が来るのは免れないだろう。

 そこで。

 

「ねえちょっと、臭いんだけど」

「そうそう。ハロルドにはお聞きしたいことが」

 

 香水の噴霧により、ハロルドから苦情がくるものの相手にしない。

 此度の船旅は大陸同士が近いこともあって、あっという間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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