swordian saga second   作:佐谷莢

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 引き続きバチカル。
 どうにか合流、そしてまた別行動へ。しばらくカイル達とはお別れ、寂しいスタンドプレイの幕開けです。


第七十六戦——それじゃあ皆頑張ってね~カイル達は闘技場に就職した!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく満足に動けるようになったのは、なんと朝日が昇る頃になってからである。

 彼らに宿を教えておいてよかった。

 とはいえ、早朝単独で動き回るのは挙動不審として兵士に目をつけられる恐れがある。日の当たる天空馬車で冷えた身体を暖めてから、バチカルへ戻った。

 一応、人前で致命傷になり得る暴力を働いた身である。できる限り変装をし、顔も隠していない。

 ただ、カイル達がこの変装を見てフィオレだと認識できるかも怪しいが……そこはフィオレから彼らを見つけて声をかけよう。

 行き交う人々にまぎれて、正確にはまぎれているつもりで宿を目指していると、目指す方向に人だかりが発生していた。

 当然興味のないフィオレは素通りを試みる。しかし。

 

「やめろってば! この人につっかかったって、しょうがないだろ!」

「そうだよジューダス、落ち着きな!」

 

 それはできないようだ。

 人だかりから離れようとしていた足の進路補正をして、注目の中心へ行こうと試みる。

 人の壁を割り入って進んだ先、カイル達一同と巡回していたらしい兵士二人組がいた。

 あのジューダスがトラブルを起こしたとは珍しい。事の成り行きを見守りたい気もするが、そうもいかない。

 事情を野次馬から尋ねる時間も惜しんで、フィオレは突貫した。

 

「え!?」

「わたくしの連れに、何か御用でしょうか」

 

 驚く一同は無視、彼らと兵士の間にするりと入りこむ。

 カイルらが驚くのも無理はない。現在フィオレは、借姿形成を使ってまったくの別人になりきっているのだから。

 それも、彼らにとって全く知らない人間ではない。

 

「な、なんだあんたは」

「彼らの引率ですわ。何か粗相を働きまして?」

 

 緩やかに波打つ新緑色の髪、菫色のつぶらな瞳。しゃなりとした物腰。

 被服こそ旅装束だが、フィオレはフィリアの姿を借りていた。

 ただし、フィオレがよく知るにはカイル達の時代より18年ほど若いフィリアである。三つ編みをほどいて眼鏡もつけていないため、大分印象は違うだろう。

 まずは事態を鎮めることから。

 兵士は第三者の飛び入りにしかめ面だが、それでも事の成り行きを教えてくれた。

 

「そこの仮面の男が、我々の聞きこみ調査に過剰反応を示したのだ」

「聞き込み?」

「港での騒ぎのことだ。モースの逃亡に手引きした女と、仲間割れを起こしたふりをしてまんまと逃げおおせた人物……」

 

 なるほど。そのように解釈されたか。

 ここでフィオレは、くるりとジューダスを見やった。

 彼もまた驚愕していた様子だが、誰より早く正気に戻ったようだ。

 

「それでどうして、憲兵の方にくってかかる必要が?」

「……特徴が……」

 

 フィオレそのものの特徴を聞いて、事件の詳細を聞き出そうとしたのだろうか。

 何にしても、騒ぎを維持するのはいいことではない。ジューダスをとっちめるのは後だ。

 

「その女性の特徴とは?」

 

 兵士の語るスィンの特徴に逐一頷いて、フィオレは深々と頭を下げた。

 今はただ、この騒ぎを鎮静化させることに精を出す。

 

「連れが失礼を働きました。件の女性はわたくし達も捜しておりまして」

「捜していただと……? 知り合いか」

「いいえ。お金を借りているのだそうです」

 

 あっけに取られているであろう仲間達に背を向けたまま、フィオレはこの短時間でどうにか構成したでっちあげを騙った。

 手配中の女性、スィンにはいくばくかの借金があり、貸与期間はとうに過ぎたのに、返済どころか音沙汰がなくなってしまったため、取りたてるよう依頼されているのだと。

 それを滔々と語り、用事があるからこれで、とその場を立ち去る。

 そのまま大通りを抜け、闘技場へ続く通りの片隅で立ち止まり。

 

「……何をしていらっしゃるんですか、あなたは」

「そのままそっくり返してやる。お前こそ一体何をしているんだ!」

 

 帽子を被って声を元に戻したことで、落ち着いたのかそうでないのか、ジューダスは言葉を荒げて詰め寄った。

 彼の問いは、やはり港での出来事を指しているのだろうか。

 

「どうにかこうにか、元の世界へ戻るべく奮闘中でございますが」

「そんなことを聞いてるんじゃない! とりあえず、その仮装の説明をしろ」

 

 ジューダスは知っているはずだが、先程から鳩が豆鉄砲を受けたような顔で、二人の後ろをついて回る他一同は、まだ事態が理解できていない様子だ。

 できることならスルーしてほしいが……そういうわけにはいかないだろう。

 

「フィオレ、なんだよね。フィリアさんそっくりだけど」

「でも、でもよ。大分若くないか? 髪降ろして眼鏡外したからって」

 

 フィオレが良く知るのは、彼らの時代から遡って十八年前のフィリアだ。それどころか、あの世界に転送されてから最もよく知る人間であるといっても過言ではない。

 この世界の人間に変装するのは必要に迫られた時だけと決めた以上、借姿形成を彼女に設定したのは自然なことだった。

 

「18年前の時代に転送されたその時から、私は死亡したも同然です。だからもう、元の顔で出歩くことはできません」

「フィリアってのが誰なのか知らないからどうでもいいけど、変装じゃなくて幻術の類かしら?」

「そんなところです」

 

 厳密にはもちろん違うが、ハロルド相手に詳細を説明していたら日が暮れる。

 そこで、ナナリーが非常に言いにくそうな調子で切り出してきた。

 

「……それでさ、フィオレ。あたし達、あんたらしき人が帽子を被った奴に殴り倒されてどっかに連れてった、みたいなことを聞かされたんだ」

「はい」

「トラブル起こしたジューダスにも非はあると思うけど、そんなの聞かされたら冷静じゃいられないよ。だから……」

「すいません。何も話せないです」

 

 婉曲的に求められた事情説明を、きっぱりと拒絶する。

 全てを語るのは容易い。しかし、一部を隠して矛盾なく語るのは至難の技であり、彼らを謀ることになる。

 彼らを騙してばれたその時、向けられる負の感情は恐れない。だが、それなら全てを隠して恨まれるもまた、同じこと。

 今いい顔ができるかそうでないか。その程度の違いなら、フィオレは後者を選んだ。

 もちろん彼らは鼻白んでいる。

 

「え……」

「これからしばらくはこの扮装で過ごします。惑わされることはないでしょう」

「そういう問題じゃない。何故貴様そっくりの女がいて、そいつに襲いかかる必要があるんだ!」

 

 ──どうして、そんなことになってしまったのか。

 

「そんなの私が聞きたいくらいですよ」

 

 一方的に話を終わらせて、周囲に目を配った。

 ジューダスの声量はかなり大きかったが、闘技場はバチカルの観光地でもあるため、周辺はそれなりに賑わっている。

 聞き耳を立てていたり、今の会話を聞きつけて目の色を変えた人間も見当たらない。

 尤も、見当たらないというだけですでに立ち去っている危険性も高いが。

 

「どういう意味──」

「街中で騒ぎは起こすなと言ったのに。まさかあなたが、それを真っ先に破るとはね」

 

 彼の不手際ではなかろうが、一度大量のガルドを無駄遣いしたという失態も見逃している以上、もう妥協はしない。

 その一言でジューダスはおろか、一同をも黙らせて。フィオレは闘技場へ乗り込んだ。

 一歩足を踏み入れた途端、仕合の真っ最中なのか熱気に満ち満ちた歓声が聞こえる。

 

「王都って言うだけあるな。規模がハンパねえ……」

「登録希望です。つきましては、見学も兼ねて頂きたいのですが」

 

 おのぼりさんっぷりを遺憾なく発揮する数名を置いて交渉を開始する。

 受付嬢から担当の黒服に交代してもらい、いくつかのやりとりを経たフィオレは唐突に一同を手招いた。

 

「これから闘技場を見学して、一般参加してもらいます」

「フィオレ、わたしたちは……」

「二人は治癒術士として登録します。まずは見学してからですね」

 

 黒服に全ての説明を丸投げ、彼らの後ろをついて歩く。フィオレとして、長くバチカルにいたが闘技場にはあまり親しみがない。

 無味乾燥な黒服の、事務的な説明が淡々と闘技場内の施設を紹介していく。

 ただしこれらは基本、挑戦者たる戦士達が利用するもので、闘技場に所属する人間が使うものではない。

 そんなオチがついたところで、一同は闘技場参加と相成った。

 

「私達は観客席にいますから」

 

 リアラとハロルドを連れ、先程見学したばかりの円形席へ赴く。

 闘技場の形はノイシュタットにあったような屋内型の、舞台を囲み見下ろすような形式だ。

 いつか見た同じような風景にリアラは落ち着いているが、ハロルドは忙しない。

 

「……殺し合いを見世物にして、こんだけ人が集まっちゃうわけね」

「人間は残酷な生き物ですから。でも、ここから道が拓ける人もいるんですよ」

「そうね。あんたと、私達の道が拓けることを祈っときましょうか。非科学的だけど」

 

 励まされてしまった。

 やがて、一同による団体戦への挑戦が始まる。

 フィオレの見立て通り、彼らはすいすいと勝ち進み。あっという間に、登録条件である勝ち抜き戦を制覇してしまった。

 

「さ、みんなのところに戻りましょう。あなた達の腕を見せないと」

 

 いくらすんなり勝ち進んでも、無傷ではない。

 医療室へ、と黒服が促すのを制し、彼らの擦り傷を少女と一見少女が治療するところを見せれば、彼は小さく頷いた。

 

「ふむ。団体用選手に治癒術士付きか」

「知識はゼロという認識でお願いします。実際彼女達は士官学校の出ではない」

 

 契約内容の詳細を語り、契約書そのものはフィオレが預かる。

 これから黒服による剣闘士規則や施設説明を行うということで、フィオレは席を辞することにした。

 

「では、私はこれにて」

 

 挨拶もそこそこ、そそくさとその場を立ち去る。

 きっと彼らは不思議に思い、あるいは腹を立てているだろうが仕方ない。

 ──フィオレは彼らを、借金を返済しきって無一文になった人間として、闘技場に売りつける形をとったから。

 実際には売っていないし、彼らの人権も保障されている。しかし、形式をそうとした以上、上っ面だけならともかく親しい様を見せてはまずいと。わざと素っ気なく振る舞ったつもりだ。

 これで捜査の手が道端で揉め事を起こした彼らに向いても、大事には至らない。闘技場に所属する剣闘士、及び職員は叩けば埃が出てくる身。

 隠し事がある以上、軍の介入を嫌がるはずである。

 もしも人身御供の意を込めてキムラスカ軍に差し出されたとしたら、全力を持って助けよう。たとえあの王女殿下を敵に回しても、一国と敵対することになっても、彼らの安全を優先することを誓った。

 とりあえずはまず、彼らの無事と活躍を祈って。

 フィオレは徒歩にて、バチカルを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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