swordian saga second   作:佐谷莢

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 バチカルの闘技場。
 連戦に次ぐ連戦、そしてカイル達との戦い。
 この先に待っているのは、きっと、もっと、苦しい戦い。


第八十二戦——進め、戦え、斬れ、生きろ。それでこそ道は開かれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 程なくして戻ってきた司会者は、再び拡声器を手に取った。

 

『踏み越える屍の群れ、ここは闘技場という名の地獄の四丁目。本来仲間との絆が試される団体戦上級に挑むは、ここにおわす孤高の戦士! 君は生き延びることができちゃったりしますかっ!?』

 

 長々とした口上後に、一回戦開始が宣言される。

 初級戦こそまるで統率のとれていない、烏合の衆と称するにふさわしいパーティばかりで楽だったが……流石に上級戦ともなると、そうはいかなかった。

 

「ジン、レイ、左右から斬り込め! ロナは回り込むんだ!」

 

 リーダーと思しき譜術士が指示を飛ばし、三人の剣士達が正確にフィオレを狙いにかかる。

 このまま突っ立っていれば囲まれ、波状攻撃が来るのは目に見えている。囲まれる前に突破して、リーダーを叩くのが定石。

 しかし、こんな単純な譜陣では、相手もそれを承知のはず。きっと裏をかきにくる。

 だからこそフィオレは、三人の突撃を正面から迎え討った。

 回り込んで背中から攻撃してくるらしい女剣士と向かい合い、相手の体勢が整うよりも早く仕掛けて立ち位置を替える。左右から囲みにきた二人に対し、女剣士に背を向けさせた形だ。

 

「ちっ!」

 

 当初の予定は狂っただろうが、それでも仕掛けられないことはない。そう判断したらしい二人が目を合わせ、波状攻撃を試みた片方に対して、フィオレはそれまで剣戟を続けていた女剣士を突き飛ばした。

 

「きゃっ!」

「うわっ!」

 

 鉄棍の刺突で弾かれた女剣士の陰に隠れて、剣士風に接近する。仲間を支えようと剣を捨てた相手の脳天を殴りつけるのは、非常に楽なことだった。

 突然の事態に反応できない片割れの急所に一撃、慌てて起き上る女剣士へのトドメも忘れない。

 流れるように、しかし無理やり繋いだ連撃の後、フィオレは振り向き様術技を放っていた。

 

「轟破炎武槍!」

「ぎゃっ!」

 

 ただ一人、ノーマークだったリーダー格が、譜術を唱えていないわけがない。

 これで、確実に詠唱は途切れた。

 リーダー格が単なる譜術士ならトドメをさして終了だが、波状攻撃の定石を誘ってきただけに油断はできない。

 あえて踏みとどまり様子を窺えば、リーダー格はのろのろと起き上がった。

 

「いっててて……」

 

 後衛だけあって、寸前でかわされたものの、受け身も何も取れず痛みに呻いているようだが。それにしては痛がっている箇所が見当違いなのは気のせいか。

 痛がるリーダー格に、審判が降伏を尋ねる。それを遠目で見ていた矢先、背後から風を切る音がした。

 

「ちいっ!」

 

 掲げた鉄棍に鈍い衝撃が走り。掌にわずかな痺れを宿す。

 そこに立っていたのは、先程仕留めたとばかり思っていた剣士風の、片割れだった。

 

「やられたふりかよ!」

「みっともねえなあ!」

「うっせー! 団体戦一人で勝ち抜くようなバケモン、てめーらも相手してみやがれ!」

 

 不意討ちを許した以上、許されない道理はない。

 観戦客の野次に怒鳴り返すその姿を今度こそ昏倒させ、審判を押しのけて譜術士に迫る。

 振り下ろした鉄棍は、リーダー格の携える杖によって阻まれた。

 

「おいおい、こっちは譜術士なんだ。殴り合いは勘弁──」

 

 練達した譜術士ならば、接近戦は不得手。ある意味お約束だが、フィオレはどちらとも練達している人間を少なくとも二人知っている。練達の域に到達しないなら、それこそ何人も見知っているのだ。希少な人種ではない。

 

「手加減なしかよ。きっついなあ」

 

 ぶつぶつ言いながらどうにか捌いている辺り、加減する意味も何もあったものではなかった。

 それに世の中には、不利な時こそ余裕を持って心理戦を仕掛ける知恵というものが存在する。

 おそらくはこの男も、そういった戦術に長けているのだろう。

 しかし、それを許すはずもない。少し速度と威力を上げた鉄棍の連撃に対し、最早口を聞く余裕もないのか、後退を交えてどうにか凌いでいる。

 体力を十分削りきったと確信した時点で、フィオレは唐突に猛攻を止めた。

 

「へ……」

「虎牙破斬っ!」

 

 本来は虎の顎が得物を捕らえるかのように切り上げ、噛み砕くが如く斬り下ろす術技。しかし得物が鉄棍であるがため、顎を砕き脳天を打つ痛い結果に終わる。

 

『勝った~!! 勝ちました~!! しかし早くも中盤戦、更に敵は手ごわいぞ!』

 

 ──結果として、二戦目は初戦よりもあっさり終わらせることができた。

 相手は重戦士四人組という、これはまた時間のかかりそうな敵だったのだが。

 

「むう。やはり多数対一など道義に反する。我ら四人に勝ち抜いてみせよ!」

 

 何を思ったのか。彼らはそれぞれ一対一の勝負を申し込んできたのである。

 多数対一の利点は何と言っても袋叩きができることだというのに、それをあえて放棄するような馬鹿に費やす時間はない。

 望み通り一対一を四回繰り返し、現在に至る。

 

『ああ~この感動を言葉にできません~すばらし~』

 

 休息は、司会者の口上が続く間。それが終わる前に、フィオレはどうにか息を整えた。

 

『振り返れど屍、行く先も屍ばかり……されどもその足を止めることはない……』

 

 確かに、これまでフィオレが歩んできた道に、それらはいくらでも転がっている。だからこそ、足を止めることはなく。また止めることも許されない。

 

『何故ならその先にある未来のために、その手のひらに溢れんばかりの勇気を乗せて! さあ私達は、伝説をこの目にする! 泣いても笑っても最終戦! 決勝戦……れでぃ~ご~っ!』

 

 これで現れたのがカイル達でなかったら、即棄権するつもりだったが。幸いにして現れたのは、どこか戸惑った様子のカイル達だった。

 事前の聞きこみでは闘技場団体戦の真打、最終戦を務めているらしく、雰囲気に慣れていないということはなさそうだが……

 

「魔神剣!」

 

 珍しく突貫してこないカイルに、とりあえず仕掛けてみる。

 地を駆ける衝撃波はあっさりかわされるものの、応戦の気配はない。

 

「ど~した~!?」

「怖気づいたか!」

「さっさと戦え~!」

 

 このように野次られているにも関わらず、彼らはナナリーを中心とした陣形のまま、動こうとしなかった。

 相手が彼らでなければ、多少強引に突破しないでもないのだが、この状態で下手に飛び込めば袋叩きに遭うだけだ。

 今回の目的が逆境に慣れること──極限状態を思い出すことに次いで、とある試みもある。

 

 それは、彼らを、彼の地へ同行させるか否か、だ。

 

 あまり大した情報はないが、意識集合体に言葉を疑う気はない。

 むしろ自分の中で誇張に誇張を重ねて、裏切られた方が好都合だろう。

 それを踏まえて、帰ってこれるかも問題なのだ。

 戦いの舞台は極寒の地。気がつかない間に体温は低下し、相討ちや敗北はもちろんのこと、辛勝したところで動けなければ凍死確実。そうなった時の保険として、彼らを連れて行きたい。気がする。

 しかし、想定する死闘に彼らは無事でいられるのか。人質に、あるいは盾にされたら目にも当てられない。

 言い方は悪いが、この場で彼らの実力を測りたかった。

 リアラ、ハロルドは体力的な意味で審査対象にしない。四人が同行可能と判断した場合、後方で的にされない程度の援護、あるいは待機を期待したいと思う。

 彼らに知られたら激怒されても、見限られても仕方ないことだが、これもやむなし。如何なる時もこれを尋ねられたら、事実を話すつもりだった。

 それで誰かさんが何様のつもりだと憤ったとしても、むざむざ彼らを殺すような真似はできない。

 理解されなくていい。

 理解を求める必要もない。

 まずはこの地、異世界オールドラントより、彼らを平和的に旅立たせ、元いた世界へ還す。

 心優しい彼らのこと、一人を除けば挑戦者の正体がフィオレだと判明した時点でまず本気を出してくれなくなるだろう。

 そうするつもりはないが、そうなった場合も考えて見極めておく必要があった。

 だから早く、硬直状態を脱しなければ。

 時が立つにつれ野次がどんどんひどくなる中、フィオレはゆらりと歩を進めた。

 彼らに向かって一直線に、ではない。気持ち足を踏み出した程度、ほぼ真横に、である。

 一度どころか二度三度、それを続けて歩を進めた。

 彼らとしては敵に背中を向けるわけにはいかず、常に対面するよう動くしかない。

 やがてフィオレが舞台を一周し、二周目を繰り返そうとしたところ。

 膠着状態に我慢できなくなったのか、ナナリーが弦に指をかけた。

 試合用にと鏃を外したものだが、使い手の放つ本物と同程度の重さを備えた矢だ。当たれば負傷は免れない。

 しかしこの瞬間は、フィオレが待ち望んだ瞬間でもある。

 矢が放たれるその瞬間、フィオレは弾かれたように彼らの周囲を駆け始めた。

 

「──馬鹿者!」

 

 ジューダスの叱咤も時すでに遅く、フィオレは円を描くように彼女へ接近する。

 一か所にとどまり矢を放つ者がどんなに優れた射手であろうと、回り込むように円を描いて接近する相手は仕留められない。よしんば目を慣らして的の行く先を狙っても、その頃には間合いを詰められる距離である。

 ただしこの場合において、残念ながら必勝ではない。

 護衛が二人もいるのだから。

 

「仕方ない……応戦する!」

 

 ナナリーに接敵しようとして、三人がかりで阻まれる。

 蹴散らすのは簡単だ。しかし素直にそれをしたら、矢雨が降り注ぐ。

 ここは彼女の牽制にと、フィオレは彼らと踊ることにした。

 

「爆炎剣!」

 

 振り下ろされる刃と吹きあがる炎から逃れて、ロニの懐へ潜り込まんとする。

 難しいことだ。当然のように反撃された。

 

「霧氷翔!」

 

 強烈な冷気が大気を凍らせる。凍傷を負いかねない一撃から逃れて、ロニの背後を取ろうとし。更にひやりとしたものに襲われた。

 

「月閃光!」

 

 三日月を描くような剣閃、鋭い剣技ではあるがフィオレにとって非常に親しんだ剣筋だ。

 だからといって軽く流したのが、迂闊だった。

 

「……これではっきりした」

 

 小さく、しかしはっきりとジューダスが呟いたのだ。

 波状攻撃を企んでいるのか、がむしゃらに突撃するカイルの陰に隠れるようにしながら、ロニが機を窺っている。

 それに注意しながら、カイルの剣戟に付き合っていると。

 

「カイル!」

「扇氷閃!」

「牙連蒼破刃!」

 

 頭上から冷気をまとう数本の矢が降り注ぎ、カイルは下がり様一撃放っていく。

 それをいなすのは問題ない。が、前方は言わずもがな、後方はジューダスが待機しており、扇状に広がる矢雨に左右の逃げ道はない。

 必然的に足を止めて弾くのを余儀なくされる。そこを狙われないわけもなく。

 

「ぉおりゃあっ!」

 

 鉄棍が冷気を帯びて、それを握るフィオレの手も冷たく痺れる。

 動きが鈍った直後にロニの突貫を受け。

 

「ふっ!」

 

 フィオレは迷わず鉄棍を跳ねあげた。

 

「うっ!?」

 

 鉄棍自体の長さは、ロニの斧槍と同程度。力でかなうべくもないが、条件が同じである以上技巧を駆使すれば、どうにかできないことはない。

 跳ね上げた鉄棍で斧槍をひっかけ、ガードを抜いてそのままえぐるような突きを放つ。

 

「ぐへっ」

「ロニ!」

「馬鹿の心配をしている場合かっ!」

 

 言葉は悪いが、間違った判断ではない。現在フィオレは遅いフォローに走ったカイルに狙いを定めているのだから。

 とはいえ、すぐには実行できない。本来ならロニを仕留めた直後に走るところ、度重なる戦闘の疲労が足に現れ始めていた。

 今の状況を考えれば、好都合なことかもしれないが。

 乱れる呼吸を整える暇もなく、ジューダスの強襲を受けてとっさに迎撃する。

 知っている太刀筋だからこそ捌き切れるが、果たしてそうでなかったらどうなっていたことか。

 そんなことをぼんやり思っていると、足元から風切音が聞こえた。

 

「ジューダス、本当にいいのかい!?」

「誤射したところで決定打にはならん。集中力を削ぐんだ!」

 

 なんと、ナナリーは主に足元を狙って矢を射かけ始めたのである。

 確かにこれを含めて捌くのは難しいが、立ち位置によってはジューダスを盾にできる。それを目論みわざと隙を作って誘えば、彼はあっさり誘いに応じた。

 結果として矢は止まったが、これでナナリーが位置を変えずに手だけ止めたということは。

 

「てやあっ!」

 

 その場に伏せると同時に、カイルの突きが頭上を通過する。その際、頭に載せていた帽子が剣の風圧を受けて、地に転がった。

 

「あっ」

「……やはりか。何をしに来た」

 

 フィリアの扮装──髪の色と髪型を変えただけ──のフィオレに、剣を突きだす。

 カイルもナナリーも驚いているが、状況を忘れるほどのことでもないらしい。

 

「……まあ、ちょっと顔を見に。元気そうで何よりです」

 

 ばれてしまった以上は、隠してもしょうがない。転がった帽子は懐に回収、再び剣戟に応じる。

 

「首尾はどうなんだ」

「もうすぐ目的を果たせそうですよ」

 

 その前に、とんでもない試練に挑まなければならないが。もうすぐ決着がつくことだけは間違いないはずだ。

 

「中間報告か? 御苦労なことだ」

「あとは……路銀稼ぎですね」

 

 足腰に疲労が溜まっているせいで、キレのある返しができない。それがわかっているようで、ジューダスにはかなり余裕があった。

 

「路銀? そんなに遠いところなのか」

「これから、最果ての地へ行くんですよ。何でも、ケテルブルクに奥にあるロニール雪山を越えないといけない、みたいで……」

 

 疲れも手伝って、ぽつぽつ事情を語っていく。

 そこへ一同を連れていくか否かを試すために、今こうして戦っている。

 非常に単純な理由だが、最果て後へ行くことを告げて以降、フィオレは完全に口を閉ざしてしまった。

 ──もっと、自分に自信があれば。確かな強さがあれば。必ず帰ってくることを胸に誓って直行できたのに。それができずに、フィオレは今、仲間達に頼ろうとしている。

 その仲間達も、元をただせばフィオレが連れてきてしまったようなものなのに。

 思った以上に消耗しているのか、息は上がり、足元はすでにおぼつかない。

 話は終わりとみて好機と悟ったか。ジューダスが虚をついて攻め入ってきた。

 反対側から、カイルが同じように迫る。

 わざと足をもつれさせて倒れ、受け身を取ってその場から転がるように離脱する。

 素早く体勢を立て直し、二人を置き去りにフィオレが走りよるは、ナナリーの元だ。

 

「フィ……」

「其の荒らぶる心に、安らかな深淵を」

 

 咄嗟に距離を取ろうと弓を振りかざす手を捕らえて譜歌を謡えば、彼女はその場に崩れ落ちた。

 非常に危険な真似──ナナリーの安否ではなく、フィオレの正体が露見しかねない行為であることはわかっている。しかし、流石に彼女に手を上げるのはためらわれた。

 振り返れば、手を止められなかったらしい二人がようやくフィオレに狙いを定めている。

 ──やはり彼らを同行させることはできない。これだけ疲れ切ったフィオレ一人、仕留められないのであれば。

 答えは出た。彼らは連れ出すことなく、惑星譜術を得てから、迎えに来よう。

 そうと決まったら、やることはひとつ。

 すっかり上がってしまった息を深呼吸のひとつで整え、改めて鉄棍を構えた。

 早々に終わらせると決意しても、この二人と同時に相手且つ短期決戦は難しい。腕試しの総仕上げとして。叶う限りの戦略を組み立てるべく、フィオレは心を落ち着かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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