swordian saga second   作:佐谷莢

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 バチカルの闘技場。
 一緒に行かないことに決めたフィオレは、後ろ髪引かれる思いで逃亡し。
 一同は当然のように、戸惑う、と。


第八十三戦——振り向くな、迷わずに行くんだ~守るべき未来を信じて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歓声が、なりやまない。

 

『かんど~です!! もう、ちょ~かんど~です!! 今、ここに語られ称えられるべき伝説が生まれましたっ!!』

 

 確かに。出会った頃と比べて、感動的なまでに成長してくれた。

 ジューダスはもちろんのこと、カイルの成長は目覚ましい。

 だがそれでも、だからこそ。二人がかりであれ体力が尽きかけていても、負けるわけにはいかなかった。

 フィオレが己を負かせとハッパをかけるのは、手塩をかけて育てた弟子相手だけだから。

 仕事だから仕方ないのだが、何やらべらべらと勝者を褒め称える司会の声など、ちっとも耳に入らない。

 優勝賞金だけはきっちりと手にして、きびすを返す。

 借用した鉄棍を返却し、自分の荷を手にしたフィオレが闘技場から出ていこうとする前に。

 とある人物に、行く手を塞がれた。

 

「──ハロルド。みんなは」

「連中の治療なら、リアラに任せてあるわ。一体どうしちゃったのよ」

 

 仕事はどうしたと言いかけて、黙殺される。

 あの戦いで傍観していただけだろうに、何に気付いたというのだろうか。彼女は矢継ぎ早に質問を重ねた。

 

「そんなことよりあんた。これから何をするつもりなの?」

「何って、私の目的はひとつだけ。今更それを聞いてどうすると言うのですか」

「……そうよね。あんたはそれのために奮闘している。でも、今のは何なの?」

 

 本気で意味がわからない。

 その意を彼女に尋ねれば、ハロルドはびしっ、とフィオレに指を突きつけた。

 ──そういえば、帽子を被っていない。顔は変えていないのだ、隠さなければ。

 

「なんで、全部あきらめたような顔してるのよ。これから何をしようとしているわけ? それにあんたが、ただの報告であんな無茶するなんて」

 

 ハロルドの追及を最後まで聞くこともせずに。

 取り出した帽子を目深に被ったフィオレは、彼女を押しのけてその場を後にした。

 

「ちょっと!」

「──ジューダスが、詳細を知っています。必ず、戻ってきますから」

 

 などと言ったところで、ハロルドの性格ではこのまま尾行つけてきかねない。

 広げた地図を彼女の顔面に突き出し、完全に目をそらしてからきびすを返す。

 地図の一点に刻まれたしるしに一瞬目を奪われたハロルドは、人ごみに紛れたフィオレをあっさり見失ってしまった。

 

「……んもう」

 

 そうとなったからには、無駄な追跡はしない。慣れぬこの世界で、できることは限られている。

 きょろりと周囲に視線を巡らせて、ハロルドもまたきびすを返した。

 フィオレによって剣闘士となって以降、日々真面目に挑戦者を撃退──結果として黒星無しの戦績を評価され、現在一同は専用の個室を与えられている。

 その一室、漢部屋にハロルドを除く一同は待機していた。

 とはいえ、戦っていた四人はすでに回復している。

 ロニは鳩尾をえぐられ、倒れた際にたんこぶを作っただけで内臓損傷は無し、ナナリーなどただ眠っていただけ。

 カイルもジューダスも全身に及ぶ打撲や痣は失神するほどに酷いものだったが、骨に達するものはなく治癒晶術によって快癒している。

 ハロルドの帰還に気がついたリアラが口を開きかけるものの、彼女は首を横に振った。

 

「逃げられちゃったわ」

「そう……フィオレ、一体どうしちゃったのかしら。戦い終わったと思ったら、すごく思い詰めたような顔してたのに」

「必ず戻ってくるって言ってたけど。あの子は何をするつもりなの、ジューダス」

 

 意外そうな風情のジューダスに先程交わした内容を語り、残された地図を見せ。彼はため息交じりに、試合中交わした会話を話した。

 

「北の大陸の、最果てに行くと言っていたな。そのために路銀が必要で、僕らのことはちょっと顔を見に来ただけらしい」

「でも、それだけであんな顔するかい? あたし達見てホームシックになったわけじゃあるまいし……」

「僕が知るものか」

 

 こうして憶測を交わしていても、解決どころか事態の進展にもならない。

 それに気付くまでもなく、意味のない話し合いすら行わせなかったのはハロルドだった。

 

「選択するべきは二つに一つよ。今すぐフィオレを追うか、またフィオレが来るのを待つか。どっちがいい?」

「……なんで僕に言うんだ」

 

 一応ハロルドは全員を見回しているが、一同の視線はジューダスに集中している。

 かつてない視線の集中砲火を受けて、彼は居心地悪そうに座り直した。

 

「最適な答えが出せそうなのがあんただと認識された結果ね。ま、一番付き合いが長いとか、そんな理由でしょうけど」

『難しい問題ですね。僕個人としては、今すぐ追いかけるべきだと思っていますが』

 

 黙るジューダスをフォローするでもないだろうが、シャルティエがひそりと意見を出す。

 ジューダスと同程度に彼女を見知るシャルティエの意見を、ハロルドは聞き流さなかった。

 

「シャルティエは追うべきだと思うわけね。なんで?」

『心配だから。その一言につきます。あんな不安そうな顔初めて見ましたよ。今は彼女を信じる時ではなくて、支えるべきだと思います』

「それはお前の個人的な感情だろう。僕はそうは思わない」

 

 対するジューダスは、それを真っ向から否定している。幾度となく煮え湯を飲まされた過去を思えば、致し方ないことなのだろうが。

 

「確かに、あんな表情を見たことはないし、その覚えもない。ただ、あいつは隠し事を徹底する性質(タチ)だぞ。暴かれることを望んでいるとは思えん」

「じゃあ、放っておくってのかい?」

「支援が必要ならその旨伝えると言った奴を追いかけてどうするんだ。心配だから同行するとでもいうのか? 子供じゃあるまいし、それはあいつに対する侮辱だぞ」

 

 ジューダスが言っているのはまぎれもない正論である。一同の知るフィオレの性格、考え方としてもそぐわないものではない。

 短い付き合いでそれがわかっていても、ハロルドは不満顔だった。

 

「……」

「ハロルドは、追った方がいいと思ってる?」

「当たり前でしょ」

 

 尋ねるカイルに対して、ハロルドはきっぱりと言い切った。

 その顔には、不満がありありと浮かんでいる。

 

「根拠はあんまりないけどね。一番目に女の勘、二番目にフィオレの眼、三番目にあの挙動不審ってところかしら」

 

 それでも、行くべきでないとするならそれに従うとハロルドは言った。自らの直感とはいえ、根拠もなくそれを主張、押し通すようなことはしないと言う。

 追うべきか待つべきか。真っ二つに意見が分かれた二人と、はっきり意見を出しかねる四人。

 話が硬直しかけたその時のこと。

 空気を一変させたのは、部屋の扉を叩くノッカーの音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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