swordian saga second   作:佐谷莢

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 十年後のストレイライズ大神殿~聖地カルビオラ奥へ。
 カイル達と目的が微妙に違うフィオレだけは、こっそり悶々としております。


第九十一戦——いざ、敵さんのお膝元へと~それぞれの心境や、如何に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目もくらむその光が失われた時、広がっていたのは。

 

「ここは……未来のアイグレッテ?」

 

 ふと気づけば、一同が集っていたのはストレイライズ大神殿の門前広場だった。

 何の行事が行われる気配もなく、往来は観光客や信者らしき人々が行き交い、談笑する姿が見受けられる。

 

「エルレインは大神殿か? なら、前に使った裏道で……」

「いえ、神殿にはいません」

 

 善は急げとばかり、すぐにでも神殿へ特攻しようと促すロニを止めたのは、他ならぬフィオレだった。

 帽子は被ったままにつき詳細は伺えないが、義手に仕込まれた神の瞳を右手で包み込むようにしている。

 

「ならどこに……」

「カルビオラですね。大分様子が変わっていますが」

 

 神殿にいないと分かった時点でエルレインに所縁ある地を中心に風の視界を借りて探索したところ、まるで導かれるかの如く彼女の姿を発見した。

 カルビオラ神殿に隠されていたであろう扉、地下へ通じる螺旋階段を降りた先にて佇むエルレインを。

 

「カルビオラか……」

「ってことは、船に乗るの!? 世界が危険だってのに、呑気に船旅なんか……!」

「短気は損気よ。焦ったっていいことないわ」

 

 はやるカイルをハロルドは押しとどめ、アイグレッテを後にする。

 ナナリーの時代におけるアイグレッテ港への道のりは初見だが、フィオレ達が知るものと大差なく、船の手配はナナリーが引き受けてくれた。

 

「飛び込みで乗れるのね……私達の時は大変だったのに」

「まあ、この船どっちかっていうとカルビオラへの巡礼者送迎と、チェリクへ信者勧誘に出た教団の人間を迎えに行くようなモンだから」

 

 ホープタウンへの勧誘は来ないのかと聞けば、彼女の村へはヒートリバーなる熱湯の河川を越えなければならないため、教団の人間がやってくることは滅多にないという。

 

「そうだ、思い出しちまった。またあのゴミ溜めを通らなきゃならねーのか……」

「聖地カルビオラへの正規ルートに巡礼者用の街道があるよ。何なら変装でもして通っちまえばいいさ」

「あ? 何言ってんだよお前。それじゃあ里帰りできねーじゃねーか」

 

 乗客の少ない船の中、他人がいないことをいいことに甲板でこれから先の事を話しあっていた矢先にふと話題が逸れる。

 この時代においてそれほど時間は経っていないだろうが、ナナリーにとっては久々の故郷であるはずだ。もともと彼女はカルビオラ神殿への案内だけのつもりだっただろうし、一同としてもその認識に相違はない。

 しかし、彼女はそんな心配は杞憂と、豪快に笑い飛ばした。

 

「何言ってんだい。今戻ったらチビ達に忘れ物でも取りに来たのか、って笑われるだけだよ」

「でもよ、お前……」

「帰るなら、エルレインを倒してからだよ。寄り道して世界が滅ぼされちまったら、笑えないって!」

 

 確かに、笑うどころか悔やむこともできなくなるかもしれない。

 その言葉に多少の空元気があることは気づいたが、ここでは気づかぬふりをする。

 

「なら、信者に扮するか? アイグレッテで揃えてくればよかったか……」

「日差し対策のフードとマントで何とかなるでしょう」

 

 街道といえど砂漠地帯もしばらく歩くのだから、違和感はないはずだ。

 チェリクに着いてからの動向、巡礼者達の街道とやらを通る選択、もし通れなかった場合はホープタウンを経由するルートで進むことを検討する。

 そこへ。

 

「いないと思ったら、皆ここにいたのかよ!」

 

 リアラと二人きりにしておいたカイルに発見され、話し合いは自然消滅と相成る。

 束の間の余暇、じゃれあう一同を──主にカイルを見守るリアラの顔は微笑んでいるものの、瞳はどこか沈んでいた。

 イクシフォスラーを前にして、誓わせた言葉を思い出す。一見カイルに決意を促しているように見せかけて、自分に言い聞かせているように少女はそれを肯定した。

 それはまるで、英雄の判断に従う聖女としての建て前を作るかのようで。

 

 ──これだけは確認しなければならない。

 

 少女の沈み具合とエルレインと同等の存在たる少女であること、フォルトゥナとの関連を鑑みるに、適当な思いこみと結論づけるのは非常に危険なことだった。

 エルレインを止めるがため、彼女を討伐したら。彼女らを生みだしたフォルトゥナが、消滅したら。この少女がどうなるのかを。

 尋ねて、確認しなければならない。フィオレが選ぶべきはすでに決まっていて、選択の余地はないのだから。リアラとエルレインが共倒れしてしまうなら、早急に離れるべきなのだと。

 世界は、存続させなければならない。世界と引き換えに彼女を殺さなければならないのだとしたら……覚悟と、割り切る時間が欲しい。

 しかし。

 チェリクに辿りついても、ストレイライズ大神殿に管理されている巡礼者の街道が何故か解放されていたため堂々通っている最中も、オアシスを経由して聖地カルビオラを間近にしても。

 とうとう、尋ねることはできなかった。

 デリケートな問題だから、と一同に……主にカイルに知られないように気を回した結果、リアラは彼の傍をほとんど離れなかったため、タイミングを逃したことが主な原因である。

 それだけではなく、フィオレの内面による原因もあったこともまた事実だが……とりあえず今は、それどころではなかった。

 

「最終決戦で死にそうな人は今のうちにデータ採らせてぇ☆」

「って、アホか! 縁起でもねえこと言うんじゃねえっ!」

 

 暑さにうだったか、元々か。ハロルドが突如抜かした戯言(たわごと)に彼らは三者三様の反応を返した。

 

「誰ひとり死にゃあしないよ。ね、カイル?」

「ああ、あったり前だろ!」

 

 ロニは突っ込み、ナナリーは苦笑、カイルはいつも通り。ジューダスはスルー。そして、リアラは。

 

「うん! ……絶対、みんなを死なせたりしないわ!」

 

 ……みんなを、ときたか。

 その様子に、道中覗かせていた不安定な調子はない。ここへ至るまで、フィオレがうだうだしている間に彼女は肚をくくったようだ。

 

「フィオレは~?」

「……死ぬのはもう御免で御座います」

「そっか~♪ じゃあ戦闘後でいいから、みんな一回ずつ解剖させてね」

 

 そしてこの話題は、一同の総拒否に終わったわけだが……ふと疑問が残る。

 カルビオラ神殿に人っこ一人いないこともそうだが、仮にエルレインを、ひいてはフォルトゥナをこの世界から排除したら、何が起こるのだろう。

 守護者達の望みは、世界をあるべき姿に導くこと。世界に深く干渉したがる彼女達が排除されれば、願いは叶ったことになるだろうが。そもそもこの願いは十八年前の世界において望まれたことだ。

 主にエルレインが行ってきた世界への過干渉の爪痕を残して、あるべき姿の世界とはしないだろう。ということは、彼女らがしてきたことは修正されるのだろうか。

 そんなことをつらつら考えながら、一同の後についてカルビオラ神殿に侵入する。一体なにがあったのか、内部に人の姿はない。

 そして、かつては道を閉ざしていた通路も、ぽっかりと口を開いていた。

 

「何があったのかしら」

「聞き込みをする時間も惜しんで突き進んできたからな。何があったかなど知ったところでどうにもならないだろうが」

 

 最奥だと思われた場所、フォルトゥナが降臨した空の見える広間。

 レンズが掲げられていた台座は空っぽ、その下に、件の通路は存在していた。

 

「レンズが、なくなってる……」

「いかにもって感じだね。きっとこの中にいるんだろうね、エルレインは」

「よし、それじゃあ……「待った」

 

 意気揚々と隠し通路に身を投じかけたカイルを制止する。

 当然のことながら気勢を削がれて、彼はぶーたれた。

 

「なんだよ。早く捜さないと……」

「気持ちは同じですが、私は反対です。どんな罠が仕掛けられているかもわからない敵陣に身ひとつで飛び込むなんて」

 

 いつどのような目的でこの地下施設ができたのか、フィオレには当然わからない。

 しかし、風の視界を介して見た施設内は、地盤沈下を恐れるほどに深く広く。もしフィオレが敵方なら、内部にいると見せかけておびき寄せ、十分進んだところでカルビオラ神殿を崩壊させる。唯一の出入り口を塞ぎ、リアラの最終手段さえ封じてしまえば、一同はいつか野垂れ死にするしかない。

 フィオレのこの発言は、一同に対し大きな波紋を招くことになる。

 

「ハロルドじゃあるまいし、何を我儘抜かしているんだ」

「あら、よかったわね。私も正直、のこのこ罠にかかりに行きたくないわ。行きたい奴だけ行けば?」

「……言いたいことはわかったが、じゃあどうすんだよ」

「そうだよ。まさかこのままほっとく気じゃないだろうね」

 

 ジューダスは皮肉り、真実はさておきハロルドが乗っかり。ロニもナナリーも当然渋い顔だ。

 フィオレは他の誰でもなく、リアラを見やった。

 

「リアラ。改変された世界でダイクロフトへ転移した時のことは覚えていますか?」

 

 戸惑いながらも頷く少女に歩み寄り、それをもう一度行ってほしいと乞う。この方法なら、仕掛けられた罠の全てを無視して、且つエルレインに奇襲をかけられる。

 しかしリアラは首を振った。

 

「でも、レンズがないわ。いくらフィオレに行き先がわかっていても……」

「神の瞳、でしたっけ。このレンズ自体にエネルギーはなくても、変換すれば捻出はできます」

 

 まだ左腕があった頃、改変世界にてリアラが言っていたことを思い出す。

 レンズの正体がはっきりするまではためらっていたが、あれから折りをみて何度か試みたのだ。

 問題はひとつしかないはずだ。

 

「そんなことしたらフィオレが……!」

「事態は急を要するはずです。私だって急いでいます。さあ早く」

 

 義手に仕込んだレンズが輝き、装甲から洩れている。後ろで何か言っている仲間達を無視して、仕込まれたレンズごと義手を突き出した。

 

「……!」

 

 同時に、アイグレッテで見たエルレインの居場所を、風の守護者の力を借りて投影する。

 彼女は玉座を模した台座の前に、まんじりともせず佇んでいた。

 何をしているのかは杳としてしれないが、中空に大量のレンズを遊ばせている辺り、何かしようとしているようにしか見えない。

 それを見て顔色を変えたリアラは、何も言わずにレンズペンダントを握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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