swordian saga second   作:佐谷莢

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 カルビオラ最奥から、現代。地上軍拠点跡地へ。
 この後、本来は四英雄(スタン除く)のところへ向かうのですが。


第九十三戦——まさかのまさかの、もの別れ~多分これが最後の修羅場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光景に色彩が宿る。

 気づけば一同は、イクシフォスラーが鎮座する格納庫へと帰還していた。

 

「帰ってきたのはいいとして、問題はこれからどうするかだが……」

 

 面々の無事を確認しつつ、ロニが切り出す。

 しかし問われたカイルは一同に対しそっぽを向き、沈黙すばかりだ。

 世界を守ればリアラを失う。事実を知った衝撃は、誰より大きい。

 

「やれやれ……肝心のカイルがこの調子じゃな」

「ムリもないよ。落ち込まないほうがどうかしてるさ。あんな話を聞かされた後なんだから」

「カイル……」

 

 かける言葉が見つからないのか、リアラは力なく彼の名を呼ぶばかりだ。

 再び沈黙に突入するかと思われたが、それを振り払ったのは彼だった。

 

「しかしだからといって、このまま手をこまねいていても変わらない。エルレインは神のたまごを衝突させるつもりだ。何があろうともな」

 

 その言葉に、カイルがピクリと反応する。彼の言わんとすることを察してか、カイルは伏せていた顔を上げた。

 

「……ジューダス」

「カイル、お前がいくら悩んだところで事実は変えようがない」

 

 この世界の行く末と、リアラ。どちらを選ぶのかを、ジューダスは尋ねた。

 

「おい、てめぇ……!」

 

 残酷な選択の強要を耳にしてロニは激昂するが、次なるカイルの言葉を聞いて沈黙する。

 

「……どうすれば、いい?」

「カイル……」

「言ったはずだ。どうするかはお前が決めることだと。これは他の誰にも決められない。リアラの英雄となったおまえにしかできないことだ」

 

 その一言にピンと来たのか、突如としてカイルは思いつく。

 この世界を一度救った人々なら、どうしたらいいのかを知っているかもしれないと。

 

「なるほど、英雄の先輩たちにアドバイスをもらうってわけか。悪くないぜ、そのアイディア」

「いいね、行こう! ここでじっとしてたって、なんにもならないしさ」

 

 提案内容の是非はさておいて、ナナリーの一言に尽きる。一時的な逃避のように感じなくもないが、この場にてできることは少ない。

 

「なら、足はコイツを使えばいいわ」

 

 そう言って、ハロルドが示したのは、鎮座するイクシフォスラーである。

 先程レンズを使ってしまったのではないのかと問えば、外したのは迎撃用の予備エネルギーで、通常飛行機能に差し障りはないらしい。

 

「確かに、あちこち行くならコイツの方が便利だな」

「そーゆーこと! さ、乗って乗って!」

 

 ハロルドに促され、次々とイクシフォスラーに乗り込んでいく。それを見送る形で、フィオレは立ち尽くしていた。

 このまま本心を隠してついて行き、カイルが決定した時点で行動を定める。

 それが一番、都合がいい。カイルが世界を選べばそれでよし、リアラを選んだ時点で行動を起こせば、後腐れがない。エルレイン、そしてフォルトゥナを仕留めた後に憂鬱な仕事が待っている、と辟易しなくていい。

 しかし。連れ合ってイクシフォスラーへ乗り込まんとする二人を、フィオレは呼びとめた。

 

「二人とも。私はここで、お別れです」

「……え」

 

 正直、このことを彼に告げるのはためらわれた。非常に不安定になっているカイルがこれを聞いたなら、精神的に揺さぶられることは火を見るより明らかである。

 それでもフィオレの目的は変わらないし、黙って離脱するくらいなら何食わぬ顔で同道するべきだろう。それだけ冷酷であるべきだ。

 思いのほか、彼は動揺を露わとした。

 

「な、どういうつもり……」

「私に選択の余地はありません。フィリア達と会うこともできませんし……リアラを選んだ瞬間、彼女が死ぬところを見たくないでしょう」

 

 とある単語を耳にして、カイルの顔つきが変わる。同じく瞳を見開いたリアラを背にかばい、彼は躊躇なく剣を抜いた。

 

「カイル!?」

「……それは、フィオレが世界を選ぶ、ってこと?」

 

 いつまでも来ないことで様子を見に来たらしいロニが叫ぶ。それに解さず、カイルは油断なくリアラを下がらせようとした。

 

「その通りです。リアラのために、世界を捨てることはできません」

「それは、守護者たちのために……?」

 

 それを聞いてどうするというのだろう。

 リアラがその場にとどまったまま、それを問う。

 距離にして間合いの内だが、カイルが盾になっているため、仕留める前に逃げられるだろう。

 

「もちろんそれもあります。でもこれは私の意志。ディムロス達が存続を望み、スタン達が守ったこの世界を、壊されたくないです」

 

 守護者達のせいにはしないし、したくもない。

 したところで、同情なんかもらえない。もらいたくもない。

 

「守護者達の望みと、私自身の意志に基づき、あの二人は生かしておけません。必要ならばリアラ。あなたを斬ることも辞さな……!」

 

 鋭い剣戟を受けて、中断せざるを得なくなる。

 その先を聞くことは耐えかねたようで、警戒しきっていたカイルが詰め寄ったのだ。

 

「させないっ! そんなこと、絶対に!」

「……結論を出すのは、まだ早いですよ」

 

 力任せのそれを易々流して、周囲を見やる。

 会話を聞いて血相を変えた仲間達が、イクシフォスラーから降りつつあった。

 

「英雄達の話を聞くのでしょう? リアラの意見は? あなた自身の望みのまま突っ走るもまた一興ですが、待つのは悲劇だけですよ」

「うるさいっ!」

 

 怒りに支配されるまま、再び突っ込んでくるカイルを回避して、立ち尽くすリアラに迫る。

 今、この細い首を刎ねれば、全てが終わるだろう。何も悩むことはなくなる。

 エルレインがそんなことを繰り返していたな、とぼんやり思い出しながら、少女の背後に回りこみ、カイルに対しての盾にした。

 

「きゃ……!」

「リアラ!」

 

 絶望的なカイルの、悲鳴じみた叫びが耳に痛い。

 

「……護りたいなら、することがあるでしょう」

 

 先程ためらったことを少し惜しく思っても、最早後の祭り。

 回復晶術がある限り、少女の首を切断でもしなければ、この場での絶命はさせられない。この状態ではそれができない。

 フィオレの嘆息を知ってか知らずか、妙に落ち着いた少女の声音が格納庫に響いた。

 

「フィオレ」

「はい」

「どうしてカイルを挑発するの?」

 

 挑発した覚えはないが、リアラはそのように感じたようだ。

 フィオレの沈黙などお構いなしに、少女は続けた。

 

「あなたがその気なら、わたしなんてとっくに死んでるわ。ううん、いつ殺されても不思議じゃないって思ってた。フィオレの立場は知ってたし、あなたならけしてためらわないでしょう……」

「リアラ。先程も言ったように、私には選択の余地がありません」

 

 フィオレには守護者達との契約がある。元の世界に戻れなくなった今も、契約を破棄するつもりはないし、私情で世界を護りたいと思っているのだ。それでも真剣にリアラと天秤にかけてしまえば、どちらが傾くかはわからない。

 故に、天秤にはかけない。

 

「だから、カイルには是非選んでいただきたい。あなたか、世界か。そして、リアラがどちらを選ぶのかにも興味があります」

 

 少女とて、けして他人事ではないのだ。確かにリアラはカイルの決断を無条件で受け入れるだろうが、少年は少女が一言「死にたくない」と言えば、それに従わざるを得ないだろう。

 カイルの選択は、リアラの選択でもあるのだ。

 

「……わたしは、カイルに従うわ」

「どうとでも。納得できる結果だといいですね」

 

 彼がどちらを選ぼうとも、少女は必ず受け入れるだろう。ただしカイルは、私利私欲を優先させられるほどの暴君になれるだろうか。

 リアラと共に世界の黄昏を、心穏やかに受け入れることができるだろうか。

 少女を盾に取られて攻めあぐねるカイルの挙動を受けて、突きつけていた短刀を引く。

 目をむいて奪いにかかるカイルにリアラの背を押して、フィオレはくるりと踵を返した。

 そのまま一目散に、格納庫出口へ向かう。

 

「フィオレ! お前……っ!」

「あなたもカイルの判断に従うのでしょう? 私にはできない。それだけです」

 

 何かを言いかけるジューダスを一言で沈めるも、続くハロルドの罵声に首をすくめる。

 

「この私を敵に回すなんて、いい度胸だわ。覚悟はもちろんできてるわよね!」

 

 被服の下から数本のメスを取り出して吼える彼女から逃げるように、格納庫から飛び出す。

 そこへ。

 異音を聞いて振り返れば、格納庫天井が音を立てて開きつつあった。規模からして、イクシフォスラーがくぐれる程度のもの。

 迎撃装置の動力源を外したとは言っていたが、位置を捕捉されるのはまずい。

 フィオレは即座に、紫水に飛び乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※フィオレはパーティ離脱しました。
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