swordian saga second   作:佐谷莢

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 イクシフォスラー内と、スノーフリア、数日たってから、アクアヴェイル。
 もの別れしてからの、それぞれ。


第九十四戦——お別れと行く道と~終着点は同じでも、辿るのは別の道

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……逃げられたわ」

 

 イクシフォスラー内部、コクピット付近のモニタを見つめて、ハロルドはぽつりと呟いた。

 彼女の視線の先、モニタには何重もの輪が描かれており、点滅する白点が今まさにモニタの外へ出て行こうとしている。

 

「追えないのか?」

「できるわよ。ただ、本格的に抵抗された時が怖いわね。なんせあっちはベルクラントを迎撃できるんだから」

 

 イクシフォスラーの機体を案じてだろう。追跡をあきらめたハロルドはシートに背を預けて、足を投げ出した。

 

「まあ、いいわ。撃墜するより捕まえて解剖したほうが楽しいわよ。たぶん」

「そんな呑気な事を言ってる場合か」

 

 操縦席にてイクシフォスラーを安定させていたジューダスが立ち上がる。

 ホバー中の機体は、もちろん揺らがない。

 

「あの場で決着をつけられなかったのは痛いぞ」

「決着って、お前……」

「何を大袈裟な、と言いたそうだな、ロニ。お前、あいつを斬ることができるのか?」

 

 問われて、ロニが黙りこむ。これまで行動を共にし、時には助けられてきた彼女を敵に回せるのか。

 ──殺すことが、できるのか。

 

「でも、それは。フィオレにとっても同じことじゃないのかい?」

「だろうな。だからリアラはまだ生きている。あいつが決心をしていたら、あるいはカイルがリアラを選んでいたら……「やめてくれ!」

 

 先程からリアラの傍を離れようとしないカイルが叫ぶ。

 気まずい沈黙が漂う前に、ぴしゃりとそれを払ったのはハロルドだった。

 

「あんたがいくら叫んだところで、どうにもなりゃしないわ。あんたはまず、自分がどうするのかを決めなさい」

 

 沈黙するカイルを余所に、ハロルドはジューダスに話の続きを求めた。

 

「今度会ったら、あの子は敵かしら?」

「……カイルの選択による。ただ、仮にこちらが世界を選んだとして、それをあいつが信用するかどうか」

「罠と勘繰られたら、めんどくさいかもね」

 

 投げだしていた足を引っ込め、頬づえをつく。

 しばらく黙りこんで、ハロルドは一同を見回した。

 

「今後の方針がはっきりしない以上、私達にできるのはこの時代の英雄とやらに話を聞く、ってことでいいかしら」

「……フィオレのことはいいのかい?」

「対策は立てるべきだけど、おそらく奇襲はないわ。それを心配するのは、エルレインが、もしくはフォルトゥナが死んだ後でしょうね」

 

 迷うカイルを擁したまま、イクシフォスラーは灰色の空を飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、一同からの追跡を逃れたフィオレは汗だくでスノーフリアへ到着していた。

 

『フィオレ……よかったの?』

「──彼がリアラを選んだ瞬間、彼女を殺したら。私はカイルに八つ裂きにされないといけなくなりますからね」

 

 やってしまった、という意識はない。こうなることは必然だった。

 なんとなく予感はしていたのだ。早く、意識を切り替える必要がある。

 

『だけど……』

『やめなさい、シルフィ。これは本来、私達の責なのですよ』

『いつこうなってもおかしくはなかった。とはいえ……』

『でもー』『だけどー』

『そこまで、だ。お前たち、起こってしまったことを穿り返すでない』

 

 そして、もうひとつ。

 シデンの洞窟に封じられているであろう、ルナシャドウを解放する。

 スノーフリア船着き場にて旧シデン──現アクアヴェイル行きのチケットを入手、乗り込むことには成功した。

 エルレインの妨害は、入らないだろう。彼女は神のたまごと称した隕石をこの惑星へぶつけようとするのに忙しいはずだ。

 でなければ、とうの昔にフィオレのもとへ刺客がやってきていることだろう。

 現状は把握されているが、手駒がないだけでも結果は同じ。

 

『シルフィスティア。視界を貸してください』

『──うん』

 

 船室の中、シルフィスティアの視界を借りる。

 どんな地盤沈下があったのやら、シデン・モリュウ・トウケイの三領にて区分されていた彼の地は見事に統一されていた。

 これによりかつてのシデン領に属していたルナシャドウが眠る洞窟は、もちろん現存していない。アクアヴェイル入りを果たした後は、洞窟跡を探索することから始める必要がある。

 まずはそれに集中しようと、フィオレはそのまま目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アクアヴェイル入りを果たし、数日の探索行を経て。フィオレはルナシャドウとの再会を果たした。

 探索といえど、フィオレ自身は大したことをしていない。十八年前、すなわち地形が変異する前のシデン領海図を求め、それを参考にそれらしい場所を総当たりしただけだ。結果としてすでに崩れて沈みきっていたため、アクアリムスの力を借りて海中の洞窟跡を訪ねた。

 そのままルナシャドウとの接触に成功し、すんなり封印が解ければよかったのだが……

 エルレインが遣わしたと思しき水龍が、聖域の名残を示すその場所で悠然と佇んでいた。

 困ったことに水龍はフィオレを察知した瞬間襲いかかってきたのだが──どうにか退治に成功し、今に至る。

 水龍の体内に封じられていたらしいルナシャドウは、まるでたゆたうかのように水中をゆらゆら動いた。

 

『──感謝』

『これで、すべての守護者があなたの元に集いました』

 

 ようやっと聞こえたルナシャドウにかぶって、アクアリムスの声が聞こえる。

 これで一応は彼らとの約束を果たしたことになる。もちろん終わりではない、やっと始点に立ったようなものだ。

 

『お次は、神様とその使い退治か……』

 

 まさに神をも恐れぬ所行だが、それは彼女らを信仰する人々にとっての話。

 この世界が生まれたその時から寄り添う守護者達と反りが合わないどころか、それに高じて排除せんとしたのだから、文句を言われる筋合いはないだろう。

 問題は、この世界を破壊せんと目論むエルレインが今、どこにいるのか。

 それを探そうとして、まずは陸へ上がろうとする。

 

『アクアリムス、ありがとうございました。地上へ……』

『あなたさえよければ、これよりフォルトゥナ擁する彼女の潜伏するその場所へ、(いざな)います』

 

 一体どうやって。

 ただ、フィオレにその場所を(いざな)えるということは、彼らはその場所を知っているということか。

 

『……彼女達は、今どこに?』

『神のたまごー。カルバレイス大陸上空に浮かんでるからさ、フィオレだけじゃ近づくのも大変だと思う』

 

 シルフィスティアのあやふやな言葉ではわかりづらくはあるが、概要は伝わった。

 ただ。

 

『シルフィスティアの力は貸してもらえないのですか?』

『……神のたまごは、全方位に対して迎撃装置が展開されている。シルフィスティアの力だけでは、叩き落とされるぞ』

 

 フランブレイブの言が事実なら、守護者達の力を駆使しなければ神のたまごとやらへ乗り込むことはできない。

 彼らはどうするのだろう。

 そう考えて、首を振ってその思考は追い出した。

 

『では、お願いします。でも、その前に』

 

 これが最終の、決戦である。そう、あるべきだ。この軽装で行くのは自殺行為である。

 まずはアクアリムスに陸へ戻るよう、フィオレは求めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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