とうとうやってきました、ラストダンジョン。
もの別れ後、一同は一人姿を消したフィオレとあいまみえます。
英雄達の助言を得て、リアラと新たに心を通わせ。決心したカイルを擁する一行は神のたまごへ乗り込んだ。
ハロルドが改造したイクシフォスラーによって半ば押し込みをかけた状態ではあるが、迎撃されるのだから強行突破より他に道はない。
神のたまごの内部は不自然で、歪で、不安定の一言に尽きた。
通路らしいものはないが、リアラが迷いない足取りで進む先を示す。
エルレインと同じ聖女だからか、フォルトゥナと同じ性質を持つ神の化身であるからか……
誰もが思い当たり、故に尋ねられない中、少女はぽつりと呟いた。
「フィオレ、いないわね」
「おいおい、フィオレにゃイクシフォスラーがねえんだぜ? いくら守護者がいても、そう簡単にこんなとこへ乗り込めないじゃ……」
「そんなはずないわ。だって今わたしは、フィオレの足跡を辿っているのよ」
ロニの言葉に対し、華奢な首を大仰に振る。その後ろでハロルドは小型端末を取り出していた。
「なるほどね。正確には、あの子の持つ神の瞳の波動かしら? 確かにそれなら、私でも道しるべが見えるわね」
リアラの言葉が正しければ、辿った先にフィオレがいるはず。
緊張しいしい、それでも歩みを緩めない一行の行く先。唐突に探し人は姿を現した。
「あれは……!」
「んな!?」
これまでの道のりとちっとも変わらない、強いて言うなら少々広くなった空間で。
フィオレは誰かと交戦していた。
「ち、ちょっと待ちなよ。どういうことだい?」
「でやあぁっ!」
ナナリーの戸惑いなど余所に、猛々しい雄叫びが上がる。
気合と共に振り回されたは、盛大に空を切り裂いた。
「こンのっ!」
長物を振り回すのは、一同の知る彼と寸分違わぬロニである。
彼が今、必死に斬り伏せようと挑むのは、どこか冷めた目でロニを見返すフィオレだった。
抜刀どころか特に構えてもいない。ただ、迫る
「だああっ!」
「……」
やがて一息つくように
滝汗をかいて膝をついたロニが、血走った目でフィオレを睨みつけた。
「余裕ぶっこきやがって……! 俺をいなすのなんざ、お茶の子さいさいだってか!」
「……」
「そうだよな! だってお前は、俺の憧れたフィオレシアさんだもんな! 俺が生まれる前から戦いに明け暮れていたお前に、勝てるわけないもんな!」
休憩時間を稼いでいるつもりなのか、ロニはあらん限りの悪態をつく。
もしかしたらフィオレを挑発せんとする策略だったのかもしれないが……当の本人が聞いている様子はない。
視界からロニを外すことはしないが、絶えず周囲に気を配っている。
その注意散漫な様子が彼に伝わるはずもなく。
「聞いてンのか、こら!」
「お前の言葉に傾ける耳はない」
まるで冷や水を浴びせるように、フィオレは初めて口を開いた。
今までにない、冷めた目と冷たい口調が激昂していたはずのロニを黙らせる。
──正体を隠す必要性が無いから、なのか。決戦に向けてあらゆるハンディを排除したのか。帽子も眼帯も、その面から取り外されていた。
故によくわかる。如何に彼女が落ち着き払っているのかを。
「まるでロニみたいなことを言いますね。正確にはロニの立場での罵倒かな。ロニを騙りやがって、図々しい」
「お、俺が偽物だとでも抜かすのかよ」
「おお、認めましたか。潔いですね」
そう言って、薄く微笑む。ただし色違いの瞳は、全く笑っていない。
「変身能力はお見事ですが、詰めが甘「いい加減にしろ!」
突如として、何の前触れもなく。火花が散ったかと思うと、ロニの体が炎に巻かれた。
「っ……!」
「あ」
悲鳴どころか、燃える暇もあらばこそ。塵すら残さずロニに化けた何かは、一瞬にして消滅した。
その跡から、ちゃりんっ、と小さな音が残る。
それは、魔物が絶命した際発生するレンズの音に酷似していた。
音の正体がレンズであることを確認し、フィオレは安堵のものと思われるため息をついている。
「偽物でしたか。よかった」
「何を呑気な。彼らの巣窟で遊んでいる場合ではない。障害は速やかに排除するべきだ!」
怒鳴りつけるは、敵の本拠地につき事象に対してあらゆる介入を許されたフランブレイブだ。彼のみならず、フィオレは守護者全員の介入を許している。
「私は一応、彼が本物で尚且つエルレイン辺りに操られている可能性を視野に入れて……」
「彼らは世界を選ばない。汝はその仮定のもと、行動しているのではなかったのか」
それについて否定することはないらしく、フィオレの反論はない。
わずかに表情を曇らせ、嘆息するばかりだ。
「もういいです。では先へ……」
「誰か来たよ!」
辟易して話を投げ出したフィオレは、シルフィスティアの警告を聞いて弾かれたかのように、自らが歩んできた道を振り返った。
とうとう追いついた一行を、その眼で認める。
守護者達とのやりとりで他者の気配を失念し、咄嗟に反応できないフィオレ。
守護者達の声が聞こえない上、ロニそっくりの青年が一瞬にして消されたことに意識が行き、やはり混乱する一同。
その中で、まず我に返ったのは彼女であった。
「少なくとも、フィオレは本物みたいね」
「は、ハロルド? 何をいきなり……」
「罠、幻の類かと思ったけど、守護者の気配がするのよね。神の瞳もあるわけだし」
神の瞳を所持した上、守護者とやりとりできるのはフィオレ本人を除いて他にいない。
一方で、フィオレもまた正気に返っていた。
「……本物、ぽいですね。限りなく」
「どうしてそう思うの?」
一同六人をまんべんなく観察し、呟く。それに疑念を抱くは、フィオレをかばうように姿を現したシルフィスティアだ。
実体化しているため、幼子に似た声が誰もの耳にも届いている。
「汗とか、体臭とか、化粧の匂いとか。いわゆる人の匂いがするからですよ」
ここへ至るまでの道のりは、けして短くも平坦でもない。人である以上、少なからず発汗の類は避けられないことだ。
先程ロニが物理的に炎上しても冷静だった理由は、これに準ずる。彼は滝汗をかいていたが、至近距離でもその臭いは一切感知できなかった。
「ふうん、いいけどね。彼らに敵意があるかどうかが、一番重要だよ」
「あなたの言うとおりね、シルフィ」
穏やかな女声が響き、シルフィスティアの隣に顕現する。
なびく蒼の髪、白の衣に包まれたたおやかな姿。携えた大槍を優雅に構え、迎撃の姿勢を取る。
「彼らは敵でも、味方でもいい。あなたを害さない限り、あなたの行く手を阻まぬ限り」
二人して実体化した辺り、戦いになっても遅れをとらんとしているのだろう。一度彼女らを制して、フィオレは一同に呼びかけた。
「あなた方が本物であるという前提のもと、お尋ねします。何をしにきたのですか」