swordian saga second   作:佐谷莢

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 引き続き神のたまご。
 細かいことはいいから早よう仲直りしろと、誰もが思うところなのですが。
 溝は解消されぬまま。ラストバトルへ突入です! 


第九十七戦——終わりへの、終幕への序曲~その先に、何が待とうとも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何を言われても揺るがぬフィオレを反応させたもの。それは、悲劇が約束された少女からのものだった。

 

「どうして……どうして、なの」

「……」

「私はあの人たちと同じだから、終わることは免れない。あなたは違うはず。死を覚悟してまでいる理由は」

「今や私は、守護者との約束を果たすためだけに存在しているからです。この戦いで首が落ちようが命を落とそうが、私は構わない」

 

 自分のことのくせに、ありえないほど他人事だった。まるで吐き捨てるかのように、緩やかに歩んでいたその足が速くなる。

 一同の視線から、逃げるかのように。

 

「おい、何を──」

「……まさか」

 

 押し殺した呟きは、ハロルドから紡がれたものだ。紅を差した、殊更女性を意識するその場所から、フィオレの最も聞きたくなかった質問が飛ぶ。

 

「月のものが来ない、なんて言わないわよね」

 

 ぴた、と先行く足が止まる。

 まるで張り付いてしまったかのように動かない足が、全てを語っていた。

 

「ねえ、月のものって何?」

「え、えっと」

「何って、そりゃお前せい「あんたはちょいと黙ってな!」

 

 カイルの無邪気な質問に、知識自体はあるようで。リアラは言いよどんでいる。

 思わず正直に答えそうになったロニがナナリーにぶっ飛ばされ、彼は悲鳴を上げながらもこっそり親指を立てていた。

 ジューダスはといえば、目を見開いて固まるばかりだ。

 背後で繰り広げられる漫才を無視して、ハロルドは続けている。

 

「……」

「それなら心配いらないわ。あんたの体がショックで調子狂ってるだけ。落ち着けばすぐ元に戻るわよ。あんたが危惧しているようなことは……」

「ありがとう、ハロルド。その、慰めて、くれて」

 

 皆まで言わせることなく、フィオレはまるで遮るように礼を言った。

 ただ、振り向くこともしない辺り、その言葉で安堵したようには到底思えない。

 

「やけっぱちになるんじゃないわ。大丈夫。そんなわけないんだから……」

「ハロルド、お願いです。そんな、まるで自分に言い聞かせるような言い方をしないでください。まさかあなたがそんなことするなんて、こっちが不安になります」

 

 これまで耳にしたこともないフィオレの懇願を聞き入れてか、ハロルドが気まずそうに口を噤む。

 そのまま一同に会話はなく、カイルも漂う雰囲気を感じ取ってか先程の話題を取り沙汰しない。

 

 そのまま、とうとう、一同は最奥へと到達した。

 

 その場所は、断崖になっているのか。道はぷつりと途切れて、これまでも利用してきた宙に浮く足場がまんじりと佇んでいる。

 断崖の、遥か先。仄かに光る長大なレンズを前に、誰かが立ち尽くしていた。

 神を降臨させると嘯いて、この世界に極大隕石を降らせんと企む聖女、神の使い──エルレイン。

 彼女の姿を認めて、戦慄する一同を尻目に。先導していたフィオレがくるりと、彼らと向き直った。

 あたかも、何事もなかったかのように。

 

「──では、いってらっしゃい。御武運を」

「え?」

「お前、今度は何を言い出すんだ」

 

 しれっとした顔で一同を送り出しにかかるフィオレだが、口から吐くのはまぎれもない正論だ。

 

「守護者の手先と認識されている私が同乗したら、まず間違いなく移動中に撃墜されます。エルレインと対峙して、気を引いてください。不意打ちで仕留めます」

「不意打ちか……いや、手段を選んでる場合じゃねえな」

「一撃で仕留める算段があるのか」

「上手くいけばね。できなかったその時は、加勢をお願いします」

 

 確かに、これまでエルレインはフィオレだけは明確な敵として対応していた。幾度と無く目論みをぶち壊され、そろそろ我慢の限界だろう。

 救うべき人間たる一同、並びに自らと同じ存在であるリアラを無視して襲いかかってこられた日には、全滅必至だ。狭い足場に乗っての移動滞空中、できることは少ない。

 

「……フィオレ、これ」

 

 フィオレを除いた一同が、足場に乗り込んでいく。その最中、ブスくれた表情を浮かべたハロルドが、不躾に義手を差し出した。

 

「可愛い顔が台無しですよ」

「あんたって、女のくせに女の機嫌を取るのがへったくそね。そんな世辞はどうでもいいから、さっさと受け取んなさい。重いのよ」

 

 更にずい、と機械の腕が突き出されるが、フィオレは受け取ろうとしなかった。

 

「……いえ、義手なら結構です」

「どうしてよ。あんた、その腕でどうやって戦う気!?」

「その腕を使うとなると、レンズとこの石ころ……増幅器を使わねばなりません。違うことに使いたいので、義手は使わないことにします」

 

 一体どういうことなのか。

 ハロルドを始めとする仲間達から口々に問われ、フィオレは口ごもりながらも己の目論見を語った。

 

「ベルクラントを押しのけてみせたことがあったでしょう。あれを使うつもりです」

「あれをエルレインにぶつけるってか! 確かに、ベルクラントとタメ張れるような代物くらったら、いくらエルレインでもひとたまりもねえだろうが……」

「それに、あれなら決して、あなた達に害を与えることはない……リアラを除いて」

 

 そして、フィオレ自身を除いて。

 晶術ではなく、守護者達の、ひいてはこの星のエネルギーを用いた術だ。命を受け育まれた彼らを害するものではない。ただ、跳ね返された時フィオレ自身は間違いなく負傷するだろうが……その辺りは考えないようにする。

 しかし。考えないようにするフィオレの意識とは裏腹に、ジューダスは容赦ない突っ込みを入れてくる。

 

「だが、あんな大技を使って支障はないのか? 仮にエルレインを撃破したところで、次は間違いなくフォルトゥナが降臨する。奴は、間違いなくお前だけは排除しにかかるだろう。対抗策はあるのか」

 

 ──いつかのことを思い出す。初めてフォルトゥナとまみえた、カルビオラであった小競り合い。

 ラストヴァニッシャーと言っていたか。天地より万象を揺るがし押し潰すあの術を使われたら、ディスラプトーム──万象を崩壊・消失へ導く術を使えばいい。もし消耗が激しくて使えなかったとしても、守護者達の力を駆使すればどうにかはなるだろう。

 代償として、フィオレの体から大量の音素(フォニム)が失われ、更に肉体を構成すると元素の均衡が崩れた瞬間、消滅するだろうが。

 ただ、それを素直に話せば最後。

 ジューダスやハロルドはわかってくれるかもしれないが、カイル達は間違いなく止めにくるだろう。

 この戦いに勝利すればリアラが死ぬ──少なからず敗北したエルレインやフォルトゥナと同じ運命を課せられるというのに。

 だからこそ。

 

「支障ねえ。無いと言えば嘘になりますが、それを恐れていたら何も出来ません。仮にフォルトゥナが私だけを排除に来たら、それは好機でしょう。あなた方は総がかりとなれるのですから」

 

 偽りこそ言わないが、多くは語らない。

 固めたはずの覚悟が緩んでしまうことを懼れてるように、フィオレは一同を送り出した。

 

「さあ、お先にどうぞ。お達者で」

 

 ゆるゆると足場は動き出し、彼らはエルレインの元へと移動していく。当のエルレインがそれに気づいたかは定かでないが、念には念を入れて。

 

『フィオレ。ボクの力で様子を探るのは……』

『エルレインに気取られたくありません。動くのは、皆が着いてからです』

 

 一同が、こちらに背を向けるエルレインに向かって駆けていく。

 それに、今気づいたかのようにエルレインが振り向いた。

 ──エルレインの気を一同にひきつけて、こそこそと。そんな後ろめたさを存分に味わいながら、フィオレは行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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