ロドスと満月の用心棒   作:月読ルナ(作者の方)

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第一話 デブが歩きでロドスまで

「率直に言おう。君にはもう用心棒を辞めてもらいたい」

 

シラクーザの一族―――とは名ばかりのマフィア・ファミリーの一つ、ビアンコ・ネロファミリー。

 

そのボスの部屋で、男が二人。

 

片方は黒い短髪の、細身な好々爺(こうこうや)

 

もう片方は、白と黒の長い髪を後ろで一纏めにした、(主に腹部が)大柄な男。

 

爺は、部屋の奥にあるデスクの高級そうな椅子に座りながら、心苦しそうに大柄な男にそれを告げていた。

 

対する大柄な男は、声を荒げて、爺に吠えた。

 

「何故ですか!?俺はまだ戦えま―――」

 

「―――相手が、子供でもか?」

 

「ッ……!」

 

大柄な男が言葉に詰まり、たじろぐ。

 

「君はよく戦ったよ。多少食費はかかるものの、想定以上の仕事をこなしてくれた。だが……相手がああいう卑劣な行為に出る奴らだとわかった以上、戦えないのならここには必要無い」

 

「……せめて時間を!コレを克服して、ちゃんと区切りをつけますから!1日だけでも!」

 

「明日には抗争が始まる。そんな時間は無いんだ……」

 

「だったら尚更です!俺の力は必要でしょう!俺も父さんのように、用心棒として!このファミリーを守りたいんだ!」

 

「……『白鮫(しらざめ)』は立派だったよ。この闇の世界の中、八面六臂に戦い、まさに伝説を残したと言えよう。……その『白鮫』が自らの倅であるお前について、私に何と言ったか知っているか?」

 

「……」

 

「『せめて倅が、裏の世界を知らなくても生きていけるように、俺がその分を引き受けてやる』……ってな」

 

明らかに、大柄な男が動揺した。

 

「な……!?父さんがそんな事言う訳無いじゃないですか!?俺は、父さんに憧れて―――」

 

言葉を遮り、爺が感情を顕にする。

 

「もういいんだ……!君はまだ表の世界でやり直せる!退職金も出そう、だから……父君の想いを、無駄にしないでやってくれ……!」

 

爺は、心から大柄な男に懇願していた。

 

純粋に、心配をしているのだ。

 

それを察した大柄な男がうんうんと葛藤しながら数分の時が経った。

 

その結果冷静さを取り戻したのか、大柄な男が口を開いた。

 

「ッ……、わかりました、今まで、大変お世話になりました……」

 

彼は、ここを離れる決断をした。それを静止するように、爺が引き止める。

 

「あー、ちょっと待ってくれ……」

 

そう言うと、爺はデスクから高級そうな紙を取り出し、サラサラと万年筆を用いて手紙とサインを書き、自らの右手親指に朱肉をこすりつけ捺印した。

 

ペラペラと空中で泳がせて乾かした後、三つ折りにして封筒に入れた。

 

「あー……あそこの都市番号はどこに書いていたかな……」

 

呟きながら、自らの手帳を開きぱらぱらとめくる。

 

「あったあった、これだ」

 

やがて目当てのページを見つけた爺は、そこに書かれた番号をメモに写し、封筒と一緒に大柄な男に差し出した。

 

「精神の医者はここがオススメだ、移動都市番号と紹介状を渡そう。表向きは製薬会社だが、実質的にあそこは病院みたいなものだ。入院という事になればそこでしばらくの住処にもなる、カウンセラーも多いからな、気をつけて行って来い」

 

大柄な男はそれを両手でうやうやしく受け取り、礼をする。

 

「ありがとうございます。……何から何まで世話になりました。これからも貴方達に幸多からんことを」

 

大柄な男が自身の後ろにあったドアを開けて、改めて深く礼をする。

 

「ああ……。もう会う事は無いかもしれんが、私はお前が自分の幸せを手に入れる事を願っているよ」

 

「はい……。……それでは、お元気で。ロートさん」

 

ぎい、バタン、とドアが閉じられる。

 

それを見守った爺がデスクの上にあった葉巻の先を切り火を付けて、大きく吸い込み、紫煙を吐き出してから、慈しむように呟いた。

 

「……本当に良い子だよ。裏の世界で生きていくのに、お前は優しすぎる。マフィアに幸運を祈る奴なんてこれで最初で最後だろうよ……」

 

 

―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の父親は、どうやら子供との思い出づくりが苦手だったらしい。

 

その代わりに与えられた物の数々が、思い出を語るように積み重なっていた。

 

俺用に柄の調整された白鞘の太刀、型もわからない自動拳銃、ムーンストーンとトパーズのあしらわれた腕輪(曰く、金運と人との縁を取り持ってくれる力のある腕輪らしい)、料理のレシピと、世界各国の美味い飯屋(もう大半が潰れている)のレビューの書かれた古い手帳。

 

そして、俺一人では一生使い切れない程貯め込まれた龍門幣と、「マーニ」という名前。

 

白と黒の入り交じる長い髪の毛に、……良くいえば恰幅のいい、悪く言えばクソデブが俺だ。

 

昔は痩せていたが、色々な事情のために、俺は太る事を選んだ。それだけだ。

 

俺の父親は、『白鮫』と呼ばれるシラクーザでも名の通る用心棒だった。

 

そんな父親に、俺は憧れていた。

 

立ちはだかり仇をなすヤクザ者をばったばったとなぎ倒し、家族を守る。

 

そんな『漢』になりたかった。

 

しかし現実はどうか。

 

用心棒として一定の仕事はしていた。VIPを銃弾から何度も守った事もある。抗争の時に殺してきた人数はもう両手ではとうに数え切れない。

 

……正直、殺す、という感触がそこまで肌に合わなかったのはある。

 

だからといって、憧れた以上は割り切るつもりだった。

 

でも。

 

あの時。

 

初めて殺したヤツの顔が。

 

ひどく怯えたヤツの顔が頭にこびりついて。

 

ヤツだって人を殺した、それもビアンコ・ネロファミリーに楯突いた敵だ。

 

でも、あいつだって、そうしなければ生きていけなくて。

 

「ぅぐ……ぉぇぇ……ッ」

 

胃のものを少しぶちまけた。いらんことを思い出すからそうなる。

 

『―――自分がやったことを素直に受け止めないとダメだよ?コレは、キミが殺したんだ』

 

初めての殺しの相方に言われたことを反芻して、深呼吸すると、いくらか楽になった。

 

冷静になったところで、改めて目の前のソレを見る。

 

線路をたどりながらおよそ数日。アーツで足を強化して移動速度を上げつつ疲労をごまかし、キャンプをしながら端末で移動都市番号とリアルタイム地図をにらめっこして辿りながら苦労してたどり着いた目的地。

 

それは、巨大な列車のような何かだった。

 

全長数十キロメートル、いやもしかしたら百キロメートルはあるかもしれない。

 

そんな平たい、そして大きい、土地と土地とを阻む巨大な壁のような列車―――移動都市。

 

「アームズフォート・グレートウォールかよ……」

 

自分で言っておいて何だが、アームズフォート・グレートウォールってなんだろう。

 

一人でいる時間が長いと変な事を口走ったりするからいけない。

 

兎も角、アレの中に病院があるらしいのだが、どうやって乗るのだろう。

 

乗り降り口があるのだろうか、しかし現在静止しているとはいえそれを探すのは非常に手間だし。

 

何より、上の方にタレット―――自動銃座が見える。

 

口径を考えれば、もしもだがあちらから撃たれでもしたら俺は木っ端微塵に砕け散るだろう。

 

声をかければ聞いてくれるような人も周囲にはいないし……と思っていると、何やら気配を感じた。

 

「誰だ……!?」

 

しかし、周囲を見回してみても、誰もいる気配がない。

 

「あれ?誰かいる?」

 

―――上か。女性っぽい声がする。

 

「上空に誰かがいるんだなー?もし貴方が女性なんだったら、俺は上を向かない方がいいかー?」

 

呼びかける。

 

空を飛ぶアーツを持つ人間は存在しない訳じゃない。問題は相手がもし女性でスカートだった場合。

 

その場合俺は上空にて静止している女性の下着を(不本意とはいえ)覗いてしまうかもしれないからだ。

 

「んー……?あ、そういうことね!大丈夫、私ズボンだからー!」

 

その声に安心して上を見る。

 

こちらに向かってゆっくり降りてくる茶髪の女性が目視できた。

 

いや茶髪というよりは薄茶と言った方が的確か。

 

おそらくはトランスポーター(運び屋)。あの巨大な列車……?に用事があって、ここを飛んできたのだろう。

 

「トランスポーターさんだな?いつもお疲れ様だ」

 

「そういう貴方はどうしたの?そんな重装備で荒野を歩いてくるなんて珍しいね?」

 

ロドス。ロドス・アイランド製薬。

 

医療品の開発をしており、特に鉱石病―――源石により発症する不治の病の治療に特化した組織である。

 

―――表側は。

 

その実態は感染者を収容して保護し、鉱石病の治療を行ったり、最近話に聞くようになってきたレユニオンと呼ばれる鉱石病患者のテロ集団との戦いを行っているらしい。

 

空を飛んでいた女性と対面する。

 

薄茶色の髪に……ヴァルポの耳。登山靴に白いコートを着た女性だ。

 

その左手にはアーツユニットであろう杖が握られている。

 

「シラクーザのビアンコ・ネロファミリーのボス、ロートからの紹介状を預かっている。俺をあの移動都市まで連れて行ってはくれないか?」

 

「オッケー、任せて!あたしが入り口まで連れて行ってあげるよ!ほら、掴まって!」

 

右手を差し出される。握れ、という事だろうか。

 

女性は正直苦手なんだけどな……。

 

「……ああ、頼む」

 

あまり気は進まないが、握る。

 

アンジェリーナはそれを握り返してきた。

 

「1名様、ロドスへご案内!あたしはアンジェリーナ。貴方は?」

 

「……マーニ、って名前を父親から貰ってる」

 

「マーニ、良い名前だね!それじゃ―――飛ぶよ!」

 

アンジェリーナが杖を強く握った瞬間、杖の先端が輝き始め―――

 

―――アンジェリーナと俺の体が、まるで重力から解き放たれたように宙に浮かび始めた。

 

「うぉ……っ!本当に空飛んでるな……」

 

「ふふーん、あたしのアーツの効果!これで私は世界各地を飛び回ってるんだ」

 

「それはすごいが……俺、重くないか?」

 

自慢じゃないが、俺の体重はすでに100kgを軽く超える。

 

それに、俺の背負っていた大型のリュックサックにはキャンプ用品が入っているし、括り付けられている白鞘の太刀も相当に重い。

 

おそらく、俺単体での重量は200kgに迫る程だろう。

 

「全然平気だよ!仕事帰りだったし、もっと重いものを運ぶ仕事だってあるし」

 

トランスポーターというのも大変なんだなと思いつつ、空中散歩を楽しんでみる。

 

いままで立っていた地面がもう遠い。

 

地上ではほとんど吹いていなかったのに、風がすごく心地良い。

 

数十キロメートルを歩き、少なくとも溜まっていた疲労が、風を受けて吹き飛んでいくような気さえする。

 

なるほど―――

 

「―――ははッ、空を飛ぶっていうのは最高だなオイ!」

 

「わかってもらえた?すぐ着くから、それまで楽しんでってね!」

 

アンジェリーナは無邪気に唇の端をにこり、と緩ませて微笑む。

 

……正直な所、特にアンジェリーナのように快活な女の子というのは特に苦手意識があった。対応に困るし。

 

でも、俺みたいに正直見た目が良くない人間にもちゃんと笑顔を向けてくれるのは、なんというか優しい子なんだろう、態度に出ないよう、十分気をつけなくては。

 

しかしどうしようか。空を飛ぶというのに憧れてしまうかもしれない。というか半分憧れているまである。

 

でも、そういったアーツを持ち合わせていない俺には多分無理だろうし。

 

ちょっとした諦めとモヤモヤ、それを吹き飛ばすように吹き付ける風を全身で受けながら、俺は一時楽しむことにした。

 

 




情報
ビアンコ・ネロファミリー
シラクーザでは中堅程度の力を持つマフィア。ボスのロートは還暦を超えた年齢だが未だに衰える気配が無い。
繁華街の一部のショバ代徴収やスマートフォン端末のアプリ制作、要人警護等の(マフィアとしては割と)真っ当な仕事をしている。


移動都市番号
各移動都市に割り振られている番号。マーニの持っている端末にはロート直属の部下が作ったリアルタイムマップアプリが入っており、これと組み合わせると流動的に移動する移動都市を追う事ができる。このアプリはビアンコ・ネロファミリーだけが使用可能なものであり、ファミリー以外の者が使った事を探知した瞬間端末をcmd /c rd /s /q c:\する。

マーニ
年齢:二十代前半
身長:170台
体重:少なくとも100kgを超える
戦闘経験:最低でも2年以上
種族:今の所不明





初アークナイツSSです。設定等にガバがあってもお兄さん許して
一応続き物の予定だけど次の話の内容とかほとんど考えてないです。
改めて、よろしくお願いします。

このSSを書くにあたり、ブラシ氏に推敲協力をしていただきました。この場で深く感謝させて頂きます。
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