竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第百一話 食糧危機?

 

湖付近でルーミア(仮)を倒した俺と霊夢は、彼女を連れて一度神社にまで戻って来た。

暴走していた彼女を倒したのは良いが、どうやって封印するのか分からず、神社に残っている文献を読み漁っているのだが……コレと言った収穫が無い。

なにせ、かなり昔に書き留められたものらしいから、本自体の状態もかなり悪いうえに、読めたとしても書き方が今と大分違ったりして、なんて書いてあるのか理解できそうにない。

霊夢はまだ読み解けるそうだが、解読するにはかなりの時間と労力が必要だとぼやいていた。

 

「あ~……昔の人は、なんだって堅苦しい書き方をするのかしらね?」

「俺に言われてもな……。当時はこれが普通だったんだろ」

「時代の流れってのは面倒なモンね」

「あははは……」

 

呆れながら呟く霊夢に、俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。

倉庫で使えそうな文献を引っ張り出した俺達は、一旦外に出て一息入れる事にした。

あのまま倉庫で調べていても良いんだが、流石に埃っぽいし、何よりも霊夢の集中力が続きそうに無い。

本腰を入れて調べる前に、お茶でも飲んで一息入れるのも悪くないだろう。

そんな事を考えながら居間に上がると、台所の方から何か物音が聞こえてきた。

一瞬泥棒かとも思ったが、こんな辺鄙な所に忍び込む泥棒なんて……魔理沙くらいなもんだろう。

でも、アイツがウチの神社に忍び込んで台所を漁るなんて……普通にありそうだから困る。

 

「ったく、私の家も備蓄がある訳じゃないんだから、態々来て荒らすんじゃないわよ」

「そう言うのは本人に直接言ってくれ」

 

溜息混じりにそう言いながら、俺は泥棒を捕まえるために台所へと向かった。

台所と居間を隔てる壁の端からは、金髪で黒い服の女性の姿が見える。

この界隈でその二つが当て嵌まるのは、魔理沙くらいなもんなんだが……微妙に違和感を覚えた。

魔理沙にしては髪の長さが短いし、服装も普段は白と黒の衣服の筈なのに、今回は黒一色で統一されている。

俺は不思議に思いながらも、気付かれないように魔理沙(仮)の襟首を掴んで、思いっきり引っ張り上げた。

 

「おい、こら。そこで何をして……るんだ?」

「…んぐ…んぐ」

 

俺が魔理沙だと思ってとっ捕まえたのは、魔理沙ではなく昼間倒したルーミア(仮)だった。

彼女は俺と顔を見合わせながらも、備蓄しておいた野菜たちを口いっぱいに頬張っている。

いきなり引っ張られて驚いている様にも見えるが、口の中に入れた食材を食べる事を止めたりはしない。

 

ーぐ~きゅるるるる~……ー

「…なんだ今の?」

 

腹の虫の音と思われるそれは、かなり大きな音量で俺の直ぐ傍から聞こえてきた。

霊夢の腹の虫はこんなにも大きくないし、俺も今は腹が空いて無いから鳴るわけがない。

他に考えられるのは、俺が襟首を掴んでいるルーミア(仮)しかないんだが……。

 

ーぐ~きゅるるるる~……ー

「……一つ聞くけど、今のはお前の腹の虫か?」

「んぐ」

 

ルーミア(仮)は、口の中に物を詰め込んで喋れない代わりに、首を縦に振って肯定してきた。

腹の虫の音を聞かれて恥かしくない様だが、幾らなんでも腹を空かせすぎだと思う。

只管に食事を続ける彼女を見ていると、呆れれば良いのか、感心すれば良いのか分からなくなってくる。

今も黒い触腕を巧みに使って、備蓄の野菜を次々と口の中に放り込んで……って?!

 

「おいちょっと待て。一体幾つ野菜を食べる気だ」

「…………んあー」

「人の話を聞け!!」

 

コッチを無視して食事を続けようとする彼女を止めるべく、俺は彼女の頭と顎に手を置いて無理矢理に口を閉じさせた。

 

「んぐーッ!!」

「こら、暴れるな!!」

 

食事を中断されて怒ったのか、ルーミア(仮)は子供の様にジタバタと暴れ始めた。

その力は思いのほか強く、ちょっとでも気を抜いたら振り解かれてしまいそうな位だ。

だが、コレ以上彼女に食材を食べられでもしたら、今週……と言うか、今日の晩飯の分すらなくなりかねない。

騒ぎを聞きつけて来た霊夢と協力して、なんとかルーミア(仮)を大人しくさせる事が出来た。

 

 

 

 

 

 

………

……

 

大人しくさせて台所から引っ張り出した後、彼女を霊夢が張った結界の中に入れて話を聞くことにした。

話を聞くだけなら別にこんな事しなくても良いんだが、こうやって閉じ込めておかないとウチの食材を全て食い尽くされるからな。

小さい方のルーミアの食欲も相当なものだったが、目の前に居るほうの食欲はそれ以上らしい。

 

「……それで、アンタは一体なに?」

「わたしの名前は『ルーミア』。何処にでもいる只の妖怪」

「そこら辺の妖怪は他人の家の食料を漁らないわよ」

「お腹が空いてたらご飯を食べるのは人も妖怪も一緒」

「確かにそうだろうけど、アンタの場合は度が過ぎてるって言ってるの!!」

「そんな事一言も言ってない」

 

……目の前にいるルーミアが本物か如何かは置いておくとして、なんとも霊夢と相性の悪そうな子だな。

喜怒哀楽がはっきりとしている霊夢と違って、ルーミアは表情一つ変えずに淡々としている。

いや、淡々としていると言うよりも、食事を邪魔されて不機嫌になっているだけか?

 

「とりあえず落ち着け霊夢」

「落ち着けるわけ無いでしょ! 只でさえお金がないから食材買うのも大変なのに……!」

「言いたい事は分かるが、食べられたものは仕方が無いだろ」

「リュウ、お腹が空いた」

「それは俺に言われても困る。ってか、ウチの三日分の食料を食っておいて、まだ腹減ってるのか」

「わたしは今まで一度も飢えを満たした事が無いから、あの程度じゃ満たされない」

「満たした事が無いって……そんな餓鬼じゃないんだから」

「無いものは無い」

 

腹を空かせて俺に強請ってくる彼女を見ていると、呆れ果ててしまって溜息しか出て来ない。

それにしても、こうしてルーミアと会話していると、かなり燃費の悪い妖怪くらいの印象しか受けないな。

八雲が言っていた通り、暴食ではあるんだろうがなんでも食べられるみたいだし、別に封印する必要もない様な気がする。

だとしたら、なんであのスキマ妖怪は態々俺達に依頼なんてしてきたんだ? この程度なら放っておいても大丈夫な気もするが、飢えが満たされない事に問題があるのか?

 

「……つかぬ事を聞くけど、今まで食べたご飯の中で一番量が多いのってなんだ?」

「…………何処かの村一つだった気がする」

「「……えっ?」」

「だから、何処かの村一つだって言ってる」

「それは、村一つ分の野菜や肉って意味だよな?」

「違う。その村に住んでいた人や家畜、あと作物も食べ尽くした覚えがある」

「さ、さいですか……」

 

淡々と言ってくるルーミアに若干引きつつも、如何して彼女が封印されたのか合点がいった。

飢えが満たされなくて、なんでも食べられるって事は、今のルーミアに取ってこの世界に在るのもの大半が食料と同じなんだ。

お腹が空いたと言う理由で村を滅ぼされてたら、人間だけじゃなく他の妖怪にとっても死活問題に成りかねないな。

妖怪たちにとって人間の存在は必要不可欠なものだが、それをたった一人の妖怪に食い尽くされたら堪ったもんじゃない。

本当だったら〝封印〟じゃなくて〝討滅〟したかったんだろうけど、当時の人選じゃ其処まで出来なかったから封印されたんだろうな。

 

「…なんで八雲があんな物騒な依頼をしてきたのか分かった」

「私も……。まさか、村一つ食べ尽くす妖怪がいるなんて思いもしなかった」

「…? なんの話?」

「「大体はお前/アンタの話」」

「…??」

「それで如何するのリュウ。これは早期に手を打たないと不味いわよ」

「んな事は分かってるけど、封印式が分からないんじゃな……」

「結局は其処が問題のよね……」

「「はぁ……」」

 

個人的には彼女を討ちたくはないんだが、封印出来ないとなるとそうするしか方法がない。

術式が見付かるまで自由にさせておいたら、きっと里の人間たちが食い殺されるだろうな。

だからと言って、このまま神社に居候させでもしたら俺達が餓死……って、俺はその程度じゃ死なないか。

 

「神社にも置けず、自由にもさせれないとなると……ルーミアの飢えを満たす方法を考えるしかないか」

「それは幾らなんでも無理だと思うわよ? コイツの底なしの胃袋を満足させようと思ったら、幻想郷を差し出すしか思いつかないもの」

「そんなの八雲が許す訳無いだろうし、此処は一つ天才の知恵を借りるとしますか」

「天才って……あぁ、月から来た異星人の事ね」

「そう言う事。…んじゃ、早速出かけるとしますか」

 

コレ以上二人だけじゃ無理だと判断した俺は、ルーミアを連れて『永遠亭』に行く事にした。

正直なところ、あの人の頭脳に頼って解決できるのか分からないが、俺達だけで話し合ってるよりはきっとマシだろうしな。

 

 

 

 

 

 

………

……

 

「と言う訳で、何かアイディアをくれ」

「久し振りに来たと思ったら、随分とへんな事を頼んでくるわね」

 

輝夜の家にやってきた俺達は、屋敷に仕掛けられている何時ものトラップを掻い潜り、永琳の診察室に足を運んだ。

ルーミアは、俺に両腕を後ろで押さえ付けられた上に、下手に力が出せないように霊夢の札を張られている。

こんな体勢を取っているの訳は、診察室に来る前に屋敷の庭にいるウサギ達を見て、ルーミアが飛び掛ろうとしたのをなんとか霊夢と二人掛りで押さえ込んだからだ。

その時の騒ぎを聞きつけ、やって来た妖怪ウサギにも噛み付こうとしていたんだが、もしかしてルーミアは妖怪も食べられるんじゃないだろうな。

幾らなんでもそれは無いと思うが、もしそうなら……幻想郷の全ての生物を食い尽くせるんじゃないのか?

 

「幾ら食べても満たされないねぇ……。うどんげー、ちょっと来なさい」

「はい、なんですか師匠」

「薬第一保管庫にある、イの56の薬を大至急持ってきて頂戴」

「第一のイの56ですか? わかりました、ちょっと待って下さいね」

 

簡単な命令を受けたウサ耳二号は、そのまま小走りで何処かへと走り去っていった。

何を思い付いたのか知らないが、薬と聞いてあまり良い予感はしないんだよな。

……まぁ単純に、俺が薬に碌な思い入れがない所為なんだろうけど。

 

「一つ聞くけど、アンタ一体なんの薬を持ってこさせたのよ」

「別に大した物じゃないわ。昔私と姫様が使っていた『空腹を誤魔化す薬』よ」

「空腹を誤魔化すって……飲めば腹が膨れるって事か?」

「そうじゃなくて、本当に誤魔化すだけよ。本当にお腹一杯になる訳じゃないけど、暴飲暴食を抑えるには十分でしょ」

「……本当に大丈夫なのかそれ」

「私と姫様が逃亡生活をしてる時に使っていたから、効果の程は私達が保障するわ」

「いや、俺の心配はそう言う事じゃなくてな」

 

俺の心配を話す前に、薬を取ってきたウサ耳二号が診察室に戻って来た。

彼女の腕には確りと封をされた壺があり、永琳が言っていた薬はあの壺の中に入っている様だ。

 

「師匠、この薬ですよね」

「えぇ。ついでに彼女に薬を飲ませてあげて」

「分かりました」

 

元気に返事をしたウサ耳は、壺の蓋を開けて中から団子の様に丸い薬を取り出した。

大きさとしては、里の茶屋で売っている団子よりも二周りほど小さいが、薬として見るならそれなりに大きい方かもしれない。

 

「それじゃ、口を大きく開けて下さいね」

「んあ~……」

 

ウサ耳に言われてルーミアが口を大きく開けると、ウサ耳は何の警戒もせずに薬をルーミアに飲ませようとする。

永琳は特に気にもせずに紙に何かを書いているが、俺と霊夢はこの後どうなるのか察しが付いていた。

警戒心のないウサ耳が、手に持った薬をルーミアの口の中に入れた瞬間―――

 

「あぐッ」

「……えっ?」

 

―――ルーミアはウサ耳の手ごと薬を食べてしまった。

此処に来るまでに何度も腹の虫が鳴ってたから、相当お腹が空いていたんだろうな。

 

「あ、あの……離して欲しいんだけど……」

「んぐんぐ」

「話を聞いてって、イタタタタタタッ?! 指噛んでる、思いっきり噛んでる!?」

「だ、大丈夫うどんげ?」

「助けて下さい師匠!!」

「「あ~ぁ、やっちゃったよ」」

「貴方たちも暢気に見てないで助けてよ!!」

 

本格的にウサ耳の手が喰われる前に、なんとか四人掛りでルーミアの口を開かせる事に成功した。

口の中から解放された掌は、ルーミアの唾液でベトベトになっていて、其処彼処に歯形が付いていて若干血も滲んでいる。

薬の方は普通に飲み込んでくれたが、一つだけでは大した効果も無く、結局同じ薬を二十個ほど飲んで漸く満足してくれた。

 

「あ、あの薬を二十個も飲んで漸くなんて……どんな胃袋をしてるのかしら」

「……感心するのは其処かよ」

「だけど、一度にコレだけの数を飲むとなると、直ぐに底を尽きてしまうわね。これは新しい薬の開発が必要ね……フフフ、面白くなってきたわ」

「ちょっと優曇華、アンタの師匠変なやる気を出してるわよ」

「最近の師匠は、新薬を作る機会がないってぼやいてたから、きっとその所為ね」

「……天才の考えってのは良く分からん」

 

天才ってのは周りの人間から理解されにくいもんだが、どうやら永琳もその例にもれない性格のようだ。

……まぁ何はともあれ、ルーミアの食欲の問題が解消されるならこっちとしては文句を言うつもりは無い。

そんなこんなで。永琳が専用の薬を開発するとか言い出した為、ルーミアは暫くの間永遠亭に居候する事になった。

なんでも、彼女専用の薬を作るには精密検査しないといけないとか尤もらしい理由だが、永琳がルーミアの身体に興味を持っただけな気がする。

……まぁ、ウチに居座られても養えられないから、物凄くありがたい申し出ではあるんだがな。

 

「ったく、今日は慌しい一日だった気がする」

「そうね。後日、アイツに食べられた食材の分を買い出しに行かないと。……今月は赤字決定ね」

「何時も赤字だから気にしなくても良いだろ」

「ぶつわよ」

「なぜ?!」

 

霊夢とそんなやり取りをしながら永遠亭の中を歩いていると―――

 

「リュウ」

 

―――後ろからルーミアに声を掛けられた。

 

「ん? 如何したルーミア?」

「お礼をまだ言ってなかった。…ありがとう、やっぱりお前は良い奴だ」

「別にお礼が言われたくてした訳じゃない。それよりも、今後はもっと我慢する事を覚えろ」

「努力はしてみるけど……多分無理」

「……そこは頑張れよ」

 

努力しようと言う気があるだけマシだが、それでも即答されると辛いものがある。

これは一刻も早く永琳に薬を開発してもらわないと駄目そうだな。

 

「それじゃ、俺達は帰るけど輝夜たちに迷惑かけるなよ」

「分かった。…それじゃまた」

「嗚呼」

 

別れの挨拶を済ませると、ルーミアは後ろを振り向いて来た道を戻っていった。

彼女の後姿を見送っていると、何故かいきなり霊夢に足を踏まれてしまった。

 

「いててて。何すんだよ霊夢」

「べっつに~。ただ、あんた等仲が良いなって思っただけよ」

「そんな理由で足を踏むな……って、イタタタタタッ! 体重をかけるな体重を!」

「うっさいバカ!」

 

なんでか知らないけど、久し振りに霊夢の理不尽な怒りを買ってしまった様だ。

如何してこんなに怒るのか知らないけど、俺は別に悪い事をしてないよな?

 




個人的なイメージだけど、うどんげって衣玖さんに並ぶくらいの苦労人だと思う。
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