竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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名前だけのキャラを登場させてみた第二弾。今回は天狗たちの長の天魔です。
ちなみに第一弾は龍神になります。


第百二話 山を護る黒き風

 

「……これはちょっと困ったな」

 

先日ルーミアに食べられた分の食料を調達する為に釣りに来たんだが、紅魔近くの川の中に魚の姿が見えずに困っていた。

恐らくは、この間の覚醒に驚いて上流に逃げていったんだろうけど、まさか全部逃げているとは夢にも思わなかったな。

湖の中には巨大魚が残ってると思うが、アイツ等を釣り上げるのは結構大変だし、俺と霊夢だけじゃ食べ切る事も出来やしない。

別に一日で食べ切る必要は無いけど、中途半端に残した奴を何日も保存出来る訳じゃないからな。

今日必要な分を連れれば良いと思ってたんだが、この感じだと幾ら餌を投げ込んでも意味は無さそうだな。

 

「しゃーない、今回は上流の方に行くか」

 

溜息混じりにそう呟きながら、俺は釣竿を担いで川の上流に向かって歩き始めた。

この川の上流にあるのは『妖怪の山』、天狗や神々が住んでいてあまり立ち寄らない方が良いとか。

天狗は兎も角、神々が住んでいる土地に近寄りたくはないんだが、他に行くあても無いし仕方が無いか。

 

 

 

 

 

………

……

 

川に沿って歩く事数十分、山を取り囲む樹海を抜けて進んで行くと、開けた空間に出て漸く川の上流部に辿り着く事ができた。

大河……と呼ぶには川幅が少々狭いが、苔むした大きな岩がアチコチに転がっていて、中々良い雰囲気の川のようだ。

川の中を覗いてみると、下流から逃げてきたと思われる魚達が泳いでいて、結構な数が居るように見える。

これだけの数が居れば今日は豊漁が期待できそうだな。

そんな期待に胸を躍らせていると、突然山の方から自然の物とは思えないの風が吹き抜けてきた。

 

「なんだ今の風?」

「ど、どうも~……」

 

一陣の風が吹き抜けたと思ったら、俺の目の前に一本足の下駄を履いた黒髪の少女が居た。

彼女は引き攣った笑みを浮かべながら挨拶してくるが、俺は彼女の事をあまりよく知らない。

と言うよりも、彼女と何処であったのかさえ覚えていない。

向こうは俺の事を知っている様だが、こっちは全くと言って良いほど覚えていないんだがな。

 

「…すまんが、アンタは何処の誰だ?」

「ワタシの事覚えてないんですか!?」

「ああ、全然」

「ひ、酷い……。あんな脅しを掛けておいて全く覚えていないなんて……」

「……………」

 

俺は全く見に覚えが無いんだが、彼女が言うには前に何処か出会っているようだ。

その時に酷い脅し方でもしたのか、その時の恨み言をグチグチと呟き続けている。

コッチとしては覚えが無いんだが、もしかしたら相当機嫌の悪いときに出逢って、無意識の内に脅してたのかもしれない。

流石にそんな事はないと思いたいんだが、何せ俺のことだから、絶対にありえないなんて言い切れないんだよな。

 

「よく覚えてないが、すまなかった」

「……もう良いですけど、今日は何の用で此処にいらしたのですか? ここら辺はワタシ達の勢力圏に近いですので、余り近付かないで欲しいんですけど」

「別に山に用があってきた訳じゃない。ただ釣りをしに来ただけだ」

「それなら下流の方でも十分でしょ」

「下流に魚が見当たらないから此処まで来たんだよ」

「はぁ。……まぁ、兎に角、コレ以上山に近付かないで下さい」

「だから、コレ以上先に進む気は無いっての。疑り深い奴だな」

「貴方は閻魔様を倒せる危険人物ですから。疑うのは当然じゃないですか」

「だったら監視でもしてれば良いだろ。全くめんどくさい奴だな」

「なら、その役目はアタシに任せてもらおうか」

「ん? 今度は誰だ?」

 

何処からともなく突然声を掛けられたと思ったら、俺達の前には黒い風の塊が空から舞い降りた。

黒い風が少しずつ解けて行くと、中から現われたのは漆黒の大きな翼を持ち、威風堂々とした佇まいの黒髪の女性が姿を現す。

黒髪の少女は女性の姿を見た途端、眼を丸くして驚き、俺は彼女を見て何処か懐かしい気持ちになった。

 

「て、天魔様?! 如何してこのようなところに!?」

「なに、ちょいと厄介な奴の気配を感じてな。白狼天狗や烏天狗じゃ荷が重いだろうから、アタシが直々に出て来たって訳だ」

「ですが、貴女様にお出で下さる程の事では……」

「良いからお前さんはさっさと他の仕事に戻れ。コイツの相手はアタシがしておくから」

「は、はあ……」

 

少女は何処か納得できない様子だったが、翼の女性には逆らえずに押し切られた。

彼女は女性に向かって一礼した後、来た時同様に風となって、すぐさま何処かへと飛んでいった。

川岸には俺と翼の女性だけが残されたが……正直な所、物凄く居心地が悪い。

懐かしさを覚えた事から、恐らくは昔の知り合いなんだろうけど、彼女から妙に威圧されてるんだよな。

龍神の話を聞く限りだと、昔の俺は碌な事をして無いから、その時になんかの恨みでも買ったんだろう。

 

「如何したんだ竜? 折角来たんだから釣りでもしたら如何だい?」

「その心算だけど……とりあえず、まずはその威圧を止めてくれないか?」

「お前さんみたいな危険人物を警戒するなって方が無理に決まってるだろ」

「……さいですか」

 

今のやりとりで何を言っても無駄と悟った俺は、肩を落として小さな溜息を吐いた。

此処で凹んでいても仕方が無いと割り切り、当初の予定通りこの場所で釣りをさせて貰う事に。

持って来た釣竿を手早く準備し、目の前を流れる川に釣り糸を垂らして魚が掛かるのを待つ。

下流から逃げて来たと言う事もあってか、川の中には大量の魚が泳いでいるし、それほど苦労せずに釣り上げる事が出来るだろう。

 

「始めたか。…それじゃ、アタシもご一緒させてもらうか」

 

そう言うと女性は、何処からか一本の釣竿を取り出し、俺の隣りで釣りをし始めた。

俺としては、邪魔さえしなければ文句は言うつもりはないから、此処は彼女の好きにさせておこう。

 

「ところで竜。たっちゃんの奴から聞いたが、お前さん昔の記憶が無いんだってな」

「嗚呼。昔の事は龍神から聞いた程度しか知らない」

「なら、アタシが何者なのかも覚えてないって訳か」

「……すまん」

「別に謝る様な事じゃない……とは言え、忘れられたままなのも嫌だし、もう一度名乗っておくか」

「そうしてくれるとすんげぇー助かる」

「んじゃ、まずはアタシからだ。…アタシの名前は『旋那(せんな)』。天狗たちを統べる天魔さ」

「知ってると思うが、俺の名は『リュウ』だ。それ以上でもそれ以下でもない」

「嗚呼、知ってるよ」

 

旋那は可笑しそうに笑いながら、あっと言う間に一匹目の魚を釣り上げていた。

彼女が釣り上げたのは、それなりの大きさに育った鮎だった。

アレなら塩焼きにしたら美味いだろうなぁ~っと考えていると、彼女は釣り上げた魚に引っ掛かった針を外すと、そのまま魚を川の中に放り込んで逃がしてしまった。

 

「おい、逃がしちまって良かったのか?」

「別に構いやしないさ。魚ならまた釣れば良いんだからな」

「……それもそうか」

 

納得したように呟きながら、俺も負けじと魚を一匹釣り上げた。

俺が釣り上げたのは岩魚だったが、食べるにしては少々小さすぎるサイズだ。

この大きさの魚なら、食用にするのは止めて逃がした方が良いだろう。

そう思った俺は、魚の口から針を外して、そのまま川の中へと魚を放り込んだ。

 

「なんだ、お前さんも逃がすのか」

「あの大きさは喰うほどの物じゃないからな」

「そらそうだ」

 

旋那は暢気そうに言いながら、川に浮かべたウキをジッと見詰めていた。

一見すれば暢気に二人で釣りをしてるように見えるが、旋那の奴は俺が変な動きをしないか常に注意していた。

視線は川のウキに向けつつも、意識は俺に向けるなんて随分と器用な真似が出来るもんだな。

そのお陰で俺は、気楽に釣りを楽しむ事も出来ず、なんか妙に肩がこって仕方が無い。

 

「……なぁ、旋那」

「ん? 如何した?」

「肩がこるからいい加減警戒を解除してくれないか?」

「そいつは出来ない。自由だった時は兎も角、今はこの山の長だからな。アタシが確りしないと、下の連中に示しが付かないだろ」

「……俺と一緒に釣りをしてる時点で、無駄な心配だと思うがな」

「なんか言ったか?」

「いや、別に」

 

聞こえるように言った心算だが、旋那に見事なまでにスルーされてしまった。

まぁ、反論して来たとしても適当に聞き流すから、別に如何と言う事はないんだけどな。

そんな事を考えながら、特に会話らしい会話もなく二人並んで釣りを続けた。

やはり此処は魚の数が多いのか、思ったよりも簡単に釣り上げる事が出来るが、大きさがバラバラだし釣れ過ぎても食べきれる訳じゃないから、釣った大半の魚は直ぐに逃がしている。

旋那も結構な数を釣り上げているが、俺と同じ様に釣った魚は直ぐに逃がしてしまっている。

何を考えているのかイマイチ分からないが、少なくとも俺と同じ様に晩飯のおかずにする心算はないようだ。

 

「…そういや、竜。お前さんは今あの神社に住んでるんだってな」

「そうだが……それが如何かしたのか?」

「いや、アタシの知ってるお前さんからは想像出来ないからさ。ちょっと驚いてね」

「お前の知ってる俺ってどんなんだよ」

「常に傍にいた奴には如何映ったのかしらないが、アタシにはとにかく自由な奴に見えたよ」

「……あ~、神々に喧嘩を売りまくってたからか」

「そうそう。しかも、日の本の大体の神と戦い終わったら、今度は海を渡って大陸に行っちまう様な奴だからな。アタシの眼から見ても、あそこまで自由に動ける奴はそうはいないよ」

 

旋那は昔を懐かしむ様に語るが、何も覚えていない俺としては懐かしむ事もできやしない。

ただ、コイツの話が本当なんだとしたら、昔の俺は一体どれだけの神々と喧嘩していたんだよ。

あまり考えたくない事だけど、あの頃の俺は相当戦いに飢えていたんだろうな……。

 

「龍神から話は聞いてたが、昔の俺は随分と好き勝手にやってたんだな」

「まぁな。……だからこそ、今のお前さんを見ているとなんだか微妙な気分になってくるよ」

 

旋那はそう言いながら、若干わざとらしく肩を落として溜息を零した。

 

「微妙ってなんだよ微妙って」

「前は気楽に喧嘩も出来たのに、今は立場があるから出来ないのが空しくてね」

「……俺達、喧嘩なんてしてたのか?」

「正確に言うと、アタシが一方的に喧嘩を吹っ掛けただけなんだけどな。その度にボロボロにされてたけど」

「……………」

 

天魔の奴とは知り合いだと聞いていたが、まさかこう言う繋がりだとは思いもしなかった。

まともに知り合えた奴はいないと思っていたけど、昔の俺の知り合いって全員が喧嘩仲間なんじゃないだろうな? しかも、何かと共闘してたんじゃなくて、ガチの殺し合いの中で知り合っただけって可能性でだ。

……戦いにばかりしていたとしても、流石にその可能性は低い……と思いたいな。

 

「こうして話していると思うんだが、時間の流れってのは本当に残酷だな」

「……なんだよ急に」

「自分の中では変わらないつもりでも、周囲の環境が変わっちまったら、自分でも気付かない内に変わっちまってる気がしてな」

「世界ってのは常に変化し続けるもんだ、こればっかりは如何しようもないだろ」

「んな事は分かってるけど、変わらないものが在っても良いだろうに……」

 

遠くを見詰めたまま呟く旋那の姿は、何処となく哀愁のようなものが漂っていた。

記憶を失った俺には何が悲しいのか理解出来ないが、コイツには悲しむだけの理由がきっとあるんだろう。

龍神の奴なら何か上手い事を言えるんだろうけど、生憎と俺は気の利いた台詞なんて思いつけないんでな。

……だから俺は、俺が思い付いた言葉をそのまま伝えるとするか。

 

「変わらないものなら一つだけ知ってるぞ」

「ホントか? それは一体……」

「今まで過ごして来た思い出。過去の記憶なら、本人が忘れない限りは変わらないだろ」

「……………」

 

俺が思った事を伝えると、旋那は眼を丸くして呆けてしまった。

そんなに変な事を言った心算はないが、返事一つなく沈黙だけが続くのもかなり困るな。

 

「……ぷっ、だ~はっはっはっはっはッ! 成る程、思い出か! 確かにそれは変わらないな!!」

「てめぇ、そこまで爆笑しなくても良いだろうが」

「いや、お前さんがそんな洒落た事を言えるとは思ってなくてな」

「お前は俺の事なんだと思ってるんだよ……」

「破壊神」

「よし分かった。お前は此処でボコる」

「そいつはおっかないね。この場は退散させてもらうか」

 

逃げようとする旋那を殴ろうと拳を繰り出すが、当たる前に空へと逃げられてしまった。

俺は釣竿を岩の上に置いて、代わりに愛刀を取り出して鞘から剣を抜き放った。

 

「おいおい、少しは落ち着けって。アタシを此処で斬っても何の得にもならんぞ」

「じゃあ下りて来い。今ならぶん殴るだけで勘弁してやる」

「お前さんに殴られるのはもうこりごりなんでな。……その代わりと言っちゃなんだが、この辺りまでなら近付いても良いようにしてやるよ」

「……………」

「妖怪たちはアタシの力で抑えてやるし、神々もアンタに喧嘩を吹っ掛けたりしないだろ。…釣り好きのアンタには丁度良い条件だと思うんだがねぇ」

「チッ。調子の良い奴だな」

 

苛立ちの余り舌打ちを打つが、俺は抜いた剣を鞘に納めて、そのまま何処かへと仕舞いこんだ。

それを見た旋那は胸を撫で下ろすが、決して下に下りて来ようとはしなかった。

 

「それじゃアタシは、この事を他の連中に伝えに行くよ」

「おう行け行け。これでゆっくりと釣りが出来るってもんだ」

「人を邪魔者扱いするなよな。地味に傷付くぞ」

「んな事しるか」

「さいですか。……それじゃ、またな竜。今度会った時は一緒に酒でも飲もう」

「飲みたければ酒を持ってお前の方から来いよ」

「嗚呼、分かってるさ」

 

最後に頷いた旋那は、背中の翼を大きくはためかせて山の方へと飛んでいった。

その後姿を見送った俺は、小さな溜息を吐いた後、岩の上に置いた釣竿を手に釣りを再開するのだった。

 

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