周りの協力のお陰でなんとか開催することが出来た残暑の夜の大宴会。
幻想郷に住んでいる人や妖怪が神社に集い、各々が酒や食材なんかを持ち込んで好き勝手に飲んで騒いでいる。
気の合う仲間が集り幾つかのグループが出来上がっている中、俺と霊夢もとあるグループに混じって酒を飲んでいた。
「それにしても、竜ちゃんも随分と変わったわね~。思いっきり別人だもん」
「全くだ。アタシの知ってる竜は鋭い刃の様な男だったしね」
「アレは〝刃〟と言うよりも、手の付けられない殺戮兵器じゃ。…妾と天照がどれだけ苦労した事か」
「……アンタ等の話を聞いてると、昔のリュウがどれだけ酷いのか良く分かるわ」
「てか、俺の知らない俺の話をするな」
俺が今いるグループは、龍神に旋那に神綺の古くからの知り合いに霊夢が加わったものだ。
最初の方は、霊夢と二人で静かに飲んでいたんだが、何時の間にか旋那が俺達の所にやって来て、其処に何時もみたく龍神が絡んできて、最後に面白半分で神綺が合流してきた。
宴会で静かに飲める訳無いのは分かっていたけど、なんだってこのメンバーが集ってくるんだ?
あの三人が話す話題ってのが、基本的に昔の俺に何をされたって事だから、昔の恥じをほじくり返されてるみたいで気分が悪い。
……まぁ、その事をこの三人に言った所で、聞く耳なんて在るわけ無いんだけどな。
「それにしても、竜が魔界神にまで喧嘩を売っていたとはな。妾は全く知らんかったぞ」
「私の所には竜ちゃん一人で攻め込んできたもの。たっちゃんが知らないのも当然よ」
「リュウが誰かに喧嘩を売るのは今更だけど、なんだって魔界神にまで喧嘩を売ってんのよ」
「……んなもん、とうの昔に忘れちまったっての」
俺は不貞腐れながら、コップに注がれている酒を一気に煽る。
不貞腐れる俺の様子に、古くからの知り合い三人……と言うよりも主に旋那が、ニヤニヤと笑いながらコッチを見てくる。
そんな風に笑われる筋合いもないし、あの笑い方には流石にイラっとくるが、流石に此処は我慢しよう。
本当なら酒でも顔面にぶっ掛けてやりたいが、流石にそれは酒が勿体無さ過ぎる。
今日は折角の宴会なんだし、多少の事は大目に見てやら無いと雰囲気がぶち壊しになるか。
「お? 昔だったら間違いなくキレてたのに、随分と我慢強くなったな」
「違うわよ天魔。今のリュウはアンタの知ってる頃と怒るポイントが違うのよ」
「そうじゃな。春頃にぶちギレおって、閻魔を半殺しにしておったし」
「あらあら、そう言う所は相変わらずなのねぇ」
「コレに関しては、今も昔も…そしてこれからも変わる事は無いじゃろう」
「なら、今後もリュウを慰めなくちゃいけない日が来るかもしれないのね……」
口ではめんどくさそうに言ってるが、表情は何処と無く嬉しそうにも見えた。
俺が凹んでるのを見るのが嬉しいのか? ……いや、霊夢はそんな奴じゃないから、俺を慰められるのが嬉しいのか。
……なんでそんな事で嬉しがるのかイマイチ理解できんぞ。
「竜ちゃんと慰めるって一体どうやったのかしら? お姉さん物凄く興味あるなぁ~」
「うっさいわね。アンタには関係ないでしょ」
「まぁまぁ、そんな硬いこと言わずに話しちまったら如何だい? ……それとも人には言え無い様な方法か?」
「いやぁん、霊夢ちゃんって顔に似合わず大胆なんだから」
「其処の酔っ払い二人は、ちょっと黙ってなさい!」
「そうじゃそうじゃ。この霊夢にお主等が考えておる様な事が出来るわけ無いじゃろ。妙なところで奥手じゃしな」
「アンタも余計な事を言うんじゃ無いわよ!!」
弄る対象が俺から霊夢に移ったことで、このグループの騒がしさは更に加速した。
此処で助け舟を出すと、また弄る対象が俺に移ってしまうだろうから、この場は静観しておく。
それに……今のコイツ等のノリとテンションにはついていけない。
只でさえ喧しいのに、酒が入っている所為か声量とリアクションがかなりデカイ気がする。
そんなに盛り上がれる話題じゃないと思うんだが、女性からするとそうでもないのかなぁ?
「兎に角! アレは私とリュウだけの秘密なんだから、アンタ等には絶対に教えないわよ!」
「そう言われると、無理矢理聞き出したくなるのが人の性と言うもんじゃろ」
「……お前は人間じゃなくて、龍族だろうに」
「なんか言ったか竜」
「いや、別に何も言ってないが」
龍神が半目で睨みを利かせてくるが、俺は華麗にそれを無視する。
出来るだけ小声で言った心算だったんだが、流石に耳が遠くなったりしてる訳ないよな。
「ねぇ霊夢ちゃん、如何しても教えてくれないの?」
「当たり前でしょ」
「む~……。ねぇ旋那ちゃん。この中に心を読める妖怪って居ないかしら?」
「流石にこの場には来てないね。そもそもアイツは地上には住んで無いからな」
「なんだ旋那。その言い方だと、地上以外にも妖怪が住んでるみたいに聞こえるぞ」
「その心算で言ったからね。……もっとも、あそこへの出入りは禁止になってるから、向こうから出てくる事も無いだろうさ」
「ふ~ん……」
興味なさげに言ってはいるが、地上以外に妖怪がいる事に内心では驚いている。
正直な所、妖怪ってのは地上にしか住んでいないものだと思っていたからな。
まさか、それ以外の場所でも暮らしている種族がいるなんて思いもしなかったな。
「まぁ、あの連中が地上に来ていたとしても、妾達に協力してくれるとは思えんがな」
「えぇ~なんでよ~。こんな面白い話に協力しない手は無いじゃない」
「あそこ連中は捻くれ者が多いんじゃよ。じゃから素直に頷く事は無いじゃろ」
「なら力付くで従わせれば良いじゃない」
「妾はやらんぞ。コレでも立場と言うものが在るからな」
「アタシもパスさせてもらうわ。あそこの連中と決めた約束みたいなものもあるんでね」
「ぶーぶー」
神綺が子供みたく文句を言っているが、冷静になってみてみると色々と凄い光景だな。
仮にも魔界の神だって言うのに、他人の恋路一つに此処までブーイングして来るとは思わなかった。
……まぁ、それを言い出したら旋那や龍神も似た様なもんだけどな。
それぞれ立派な立場がある筈なのに、こうして集って話している話題が他人の恋路ってのも流石にどうかと思うぞ。
宴会の場で辛気臭い話をされても困るが、もっと他に話す話題があっても良いだろうに。
「ったく、なんでこの話題で盛り上がれるのか俺には分からんわ」
「そんなもん面白いからに決まっておるじゃろ」
「だな。山にいるとこう言う話が出来る奴がいないから、中々に新鮮で面白い」
「私はアリスちゃんの恋バナが聞きたいんだけど、あの子には相手が居ないって言うのよ」
「あの引き篭もりに彼氏が出来るとは思えないわね」
「だからお見合い写真を持っていったのよ。……でも全部突っ撥ねられちゃって」
「親の心子は知らずって奴かね? まぁ、魔界人なら長生きするだろうし、気長に見守るのが良いんじゃないのか?」
「私は早くアリスちゃんの子供を見たいのよ」
四人がアリスのお見合いについて盛り上がっている中、俺は手近なところにあった酒瓶を片手に、話題に乗らずに独りで酒を飲んでいる。
何時の間にか話題が逸れているが、また変に追及されたくないし、このままの話題でも良いか。
「しかし霊夢よ。お主も何気に他人事では無かったんじゃぞ」
「はぁ? なんで私が」
「何故も何も、あのままお主達が別れておったら、お見合いでもさせねば為らんかったからじゃ」
「……それは〝博麗の血〟を途絶えさせないため?」
「うむ。お主は良い顔せんじゃろうが、この幻想郷において〝博麗〟の存在は重要じゃからな。霊力が高いだけなら外から攫ってくれば良いが、血筋となればそう言う訳にもいかんからな」
「……アンタの言いたい事は分かるけど、本当に面白くない話ね」
霊夢は本当に面白く無さそうな顔で、手に持っていたコップの酒を一気に飲み干した。
龍神も顔色一つ変えないで話しているが、アイツの性格を考えると本当はこんな事を言いたくは無いんだろう。
だが、龍神の〝幻想郷の最高神〟と言う立場上、この地を存続させる為にも、霊夢には子供を産んで貰いたいと思っているんだろうな。
コイツはあの時みたいな事を危惧してるんだろうけど、今の俺達にそんな事を心配する必要も無いだろうに……。
「言っとくけど、私はお見合いなんて絶対にしないからね」
「んな事は分かっておるが、頭の固い奴は納得したりせんじゃろうからな」
「誰になんて言われようとも、俺は霊夢の傍を離れるつもりはないぞ」
龍神の言葉に反応してつい本音を漏らすと、さっきまで喋っていた四人が一斉に黙り込んだ。
別におかしな事を言った心算はないが、何故か霊夢以外の三人から変な物を見る様な眼で見られている。
俺は自分の気持ちを正直に言っただけなのに、如何してそんな風に見られなきゃいけないんだ? 正直なところ、物凄く不愉快だ。
「ん? なんだよ急に黙り込んじまって……」
「いや、なんて言うか……今のは告白したって事で良いんだよな?」
「随分と変わったと思ってたけど、此処まで来ると本当に別人よね」
「あの時出逢っておったのが今の竜じゃったら今頃……くッ」
「あ~っと……とりあえず、飲むかたっちゃん」
「コレが呑まずにやってられるかーッ!!」
龍神が俺から酒瓶を奪い取ると、そのまま急に自棄酒を始めだした。
今の会話の何処に、自棄になる部分があるのか分からないが、とりあえず巻き込まれない様にしよう。
幸いな事に、旋那と神綺の二人が龍神の自棄酒に付き合っているから、俺と霊夢が巻き込まれる心配は無いだろう。
今まで飲んでいた酒を奪われちまったし、他所のグループから酒を分けてもらうとするか。
そう思い立って席を立ち上がると、何を思ったのか、霊夢が俺の服の袖をいきなり引っ張ってきた。
「如何した霊夢? なんか取ってきて欲しい物があるのか?」
「……さっきの言葉、アレは本気にしても良いのよね?」
「本気も何も、前にそう約束しただろ? 何を今更言っているんだ?」
「あ、そうだったわね。ゴメン、すっかり忘れてたわ」
「確りしてくれよ。俺はあの日の約束を本気で守る心算なんだからな」
俺がそう返事をすると、霊夢は何故か顔を真っ赤にして俯いてしまった。
顔は真っ赤にしているが、甘えてこないところを見ると、酔っ払っている訳ではなく恥かしがっているみたいだ。
……なんで恥かしがってるのか分からないんだが、もしかして俺の感性が可笑しいのか?
「……その言葉が聞けただけで十分ね」
「ん? なんか言ったか?」
「何でもないわよ。それよりも、何か取りに行くならおつまみを持って来て」
「食い物系はルーミアに食い尽くされていると思うが……」
「探せば見付かるわよ。それじゃ頑張ってね」
「へいへい」
適当な返事をしながら、俺は四人から離れて酒とおつまみを取りに向かった。
酒に関しては如何にでもなるが、おつまみに関しては……本当に如何するかな?
他の連中が分けてくれるとは思えないし、なんとかしてルーミアと交渉してみっかな。
一話一話の文字数が安定しないのは、この作品では良くある事。