竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第百十話 偽りの世界

 

なんやかんやでアースラも同行する事になった俺達は、ニーナが写真立てを注文していた言う写真屋に辿り着いた。

店の外観は町の雰囲気に合わせてあるが、窓から見える店の中に、何処かで見た事のある丸っこい鉄の物体の姿がある。

あの姿は、十中八九アイツで間違いないだろうけど、こんな所で一体何をしてるんだ?

 

「ごめんください。注文をしていた物を取りに来ました」

「いらっしゃいっと、マスターが申しております」

 

ニーナが店の中に入ると、丸っこい鉄の物体……じゃなくて、マスターが眼を光らせて挨拶をしてきた。

俺の知っているマスターと変わらない独特の喋り方だが、なんだってこんな所で店番なんてしてるんだ?

それに、此処にマスターが居るって事は、この店の主人はディースさんって事だよな?

あの人が店を切り盛りしてるとか、物凄く違和感しかないんだけどなぁ~……。

 

「こんにちは、マスターさん。頼んでいた物は出来上がっていますか?」

「あれなら既に完成しているからすぐ持ってくるよっと、マスターが申しております」

「はい、宜しくお願いします」

 

マスターはガシャガシャと音を立てながら店の奥へと引っ込んでいく。

鋼鉄の身体だから、歩くだけでも音を立てるのは当然なんだけど、あの音を聞くのは物凄く久し振りだ。

あの世界を皆で旅をしている時は、あまり気にしなかったけど……こうして改めて聞くとやっぱり五月蝿いな。

まぁ、こればっかりは鎧の造りの問題から仕方のない事なんだけど、もうちょっと静かになれないのか?

俺はそんな事を考えながら、マスターが戻ってくるまでの暇潰しも兼ねて、店の中を見させてもらう事にした。

写真屋っと言う事もあってか、店のアチコチにある棚には何台ものカメラと、何も入っていない写真立てが飾られている。

カメラの値段はかなり高額で、とてもじゃないが俺みたいなのが買える様な値段じゃない。

写真立ての方は……良心的な値段って言えば良いのか? 俺の小遣いでもなんとか買えそうな値段をしている。

とは言っても、カメラを使って写真を撮る様な趣味は無いし、別に写真立てが必要になる事も無いだろうな。

 

「如何したんですかリュウ? そんなボケーっと写真立てを眺めて」

「ん? ……特に意味は無いよ。ただ暇だからボケーっとしてただけ」

「お前なぁ……今は仕事中だぞ! もっとシャキッとしろシャキっと!!」

「へぇ~い……(こんな店の中で襲撃される事なんて、早々ないと思うんだけどな)」

 

アースラの説教を適当に聞き流していると、物凄い勢いで店の扉が開いて誰かが店に入ってきた。

余りにも突然の事だった為、一瞬敵が襲撃してきたのかと思い、腰に差していた剣に手を掛けて抜こうとするが、店に入ってきたのは如何やら敵ではないようだ。

 

「カメラが壊れたから修理して貰おうと来てみれば、まさかこんな所でニーナ王女と出逢えるとは……なんと言う僥倖! 早速ですが取材しても宜しいですか?」

「えっと……貴女は?」

「これは申し遅れました、わたしの名前は『射命丸 文』と申します。文文。新聞のしがない新聞記者です、以後お見知りおきを」

「はぁ……新聞記者の文さんですか……」

 

店の中に突然入ってきたのは、元の世界で『妖怪の山』に住んでいる鴉天狗だった。

元の世界でも記者をやってるらしいが、この世界でも新聞記者なのは一緒らしく、入ってくるなり行き成りニーナに取材を申し込んできやがった。

記者の一方的な質問に、こう言う事に慣れていないニーナは圧倒されっぱなしだが、なんとか上手い事いって記者の質問をのらりくらりとかわしている。

……まぁニーナの場合は、上手い事を言ってるんじゃなくて、回答が思いつかなくてはぐらかしてるだけかも知れないけど。

 

「ところでニーナ様、隣りに居る方はもしかして恋人ですか?」

「いえ、彼とはそう言う関係ではなくてですね……」

「そんな事を言って、実は脈ありなんでしょう?」

「えっと……その……」

「おいコラ三流記者。それ以上ニーナ様を困らせるならこの場で拘束するぞ」

「さ、三流記者ってなんですか三流記者って! 確かに新聞の売り上げはそこそこですが、三流に落ちぶれた覚えはありません!!」

 

記者の一方的な質問に遂に切れたアースラは、店の中だと言うのに銃を抜いて彼女の頭に突きつけた。

剣を抜きそうになった俺が言うのもアレだけど、こんな所でそんな物騒な真似をするなよな。

俺にはとやかく文句を言うくせに、アースラだって危ない性格をしてるじゃないか。

 

「リュウ、如何しましょう? このままですと喧嘩に発展しちゃいそうですよ」

「ん~……別の放っといても大丈夫だと思うけど? 丁度マスターも戻って来たみたいだし」

「えっ?」

 

ニーナが不思議そうに首を傾げると、店の奥から鉄同士がぶつかる音が聞こえてきた。

音が聞こえてくる方に顔を向けると、丁度マスターが店の奥から何かを持って戻ってくるのが見えた。

マスターが手に持っているのは、長方形の箱を綺麗に包装してある小包の様なもの。

恐らくあの小包の中に入っているのが、ニーナが特注で頼んでおいた写真立てなんだろう。

頼んだ物から其処まで大きくは無いと思っていたけど、ちゃんと綺麗に包装されているとパッと見ただけじゃ、何が入ってるのか分からないな。

 

「お待たせしましたーと言いたい所ですが、なにやらお邪魔だったようですね」

「いえ、そんな事ありません! 寧ろ助かったくらいです!」

「そうですか、グフフフフフフ…………ここ、笑うところですか?」

「えっと……多分違うと思いますけど」

「そんな漫才やってないで、さっさと買い物を済ませたら如何だ?」

「それもそうですね。では、お会計の方をお願いします」

 

ニーナがカウンターに立って会計を始めると、喧嘩しそうになっていた二人も大人しくなった。

雰囲気は未だに険悪なままだが、少なくとも二人の様子を見る限りでは、この場で本格的な喧嘩を始める事は無さそうだ。

二人も落ち着いたし、ニーナが買い物を済ませて城に戻れば、護衛の任も解けるだろうし、一度部屋に戻って状況整理でもするかな。

 

「お代は確かに頂いた、何かあったらまた来てくれっとマスターが申しております」

「はい、何か有りましたらまたよらせて頂きますね。……では、記者さん。わたし達はこれで失礼させて頂きます」

「もっとお話が聞きたかったのですが、仕方が有りませんね。この続きは何時か必ず」

「あ、あはははは……。それでは三人とも行きましょう」

「ハッ!」

「うぃ~っす」

「…………ああ」

 

こうして買い物を済ませた俺達は、記者を店に残して城に帰る事になった。

俺の後ろに居るアースラは、店を出るときに適当な返事をした俺に睨みを利かせてくるけど、イチイチ気にしていたらキリが無いので此処は無視する。

そんな感じに来た道を戻っていると、前方から魔理沙そっくりな奴が歩いてくるのが見えた。

ニーナは欲しい物が手に入って上機嫌なのか、目の前まで迫って来ている奴に気が付いていない。

このままだとぶつかると判断した俺は、何も言わずにニーナを抱き寄せ、代わりに魔理沙のそっくりさんとぶつかる事にした。

口で伝えれば良いだけの事なんだが、向こうの歩く速度が思いのほか速く、気が付いても避ける事は出来なかっただろうな。

 

「おっと、悪いね」

「いや、こっちも不注意だった」

 

短いやり取りを終えると、魔理沙のそっくりさんは早足で人混みの中へと消えていった。

此処から去る時に若干焦っていた様にも見えたが……俺の気のせいだったのか?

 

「済みませんリュウ……って、あら?」

「ん? どうかしたのか?」

「リュウ、腰にあった剣は如何したのです?」

「……えっ?」

 

ニーナに指摘されて慌てて確認すると、確かにさっきまで在った筈の『ドラゴンブレード』の姿がない。

何処かに落としたのかと周囲を探してみるけど、あの剣の姿など何処にも見当たらない。

店に居るときには間違いなくあったから、落としたとしても此処から店までの僅かな距離の筈。

仮に落としたとしても、その時に音が為るだろうから、その音で気付ける筈だけど……。

 

「一体何処に行ったんだ?」

「……さ、さっきの女が持って行った」

「サイアス、それは本気で言ってるのか?」

「…………ああ」

「……あの野郎、絶対にとっ捕まえてやるからな!!」

 

俺は盗まれた武器を取り戻すべく、ニーナたちを置き去りにして魔理沙を追い掛け始めた。

人混みの中に消えたとは言え、まだそう遠くには行っていないだろうし、根気良く探せば見付かる筈だ。

大通りを歩く人々の間を縫うように進みながら、周囲を探して魔理沙のそっくりさんを探し回る。

そろそろ太陽が空高く昇る時間帯だからか、城の上から見たときよりも人の数が多くなっている様な気がする。

多少の進みにくさを感じながら探し続けていると、人混みの中に俺の剣を大事そうに抱えて、暢気に前を歩いている魔理沙の姿を見つけた。

俺は逃がさない様に直ぐに駆け出そうとするが、運悪く魔理沙の奴に見付かってしまい、全速力で走り出されてしまった。

俺も後を追いかける様に走り出すけど、沢山人が居る中だと思うように走る事が出来ず、どんどんと魔理沙との距離を離されてしまう。

力を抑え付けられてなかったら、人混みから外れて建物の屋根を軽々と走り抜けるって言うのに……。

心の中で愚痴を零していると、とうとう魔理沙の姿を見失ってしまい、降り出しに戻る羽目に。

その場に立ち止まって周囲を見回してみるけど、あの特徴的な金髪と服装の姿は何処に見当たらない。

如何したもんかと考えながら、周囲をキョロキョロと見回していたら、前方から歩いてくる人の姿に気が付くのが遅れてしまい、運悪くぶつかってしまった。

 

「イッタ~……。ちょっとアンタ! 一体何処に目を付けて歩いてるのよ!!」

「悪い、人を探していたから気付くのに遅れた……って、霊夢? こんな所で何してんだ?」

「アンタみたいな奴に気安く名前を呼ばれる筋合いはないわよ!!」

 

突然現われた霊夢に声を掛けるが、向こうは俺の事を赤の他人の様な口ぶりで言う。

一瞬寝惚けているのかと思ったけど、此処は幻想郷じゃなくて全くの別世界なんだから、この霊夢が俺の事を知らないのも無理は無いか。

 

「……あ~すまん。知り合いにそっくりだったから、つい間違えちまった」

「ったく、次からは気をつけなさいよね」

「ああ。……ほら、立てるか?」

 

先に立ち上がった俺は、霊夢のそっくりさんに手を伸ばす。

しかし霊夢は、俺の手を握る事無く立ち上がり、自分の服に付いた埃や汚れを叩き落とした。

差し出した手は行き場を失ってしまい、仕方が無く俺はその手で痒くも無い頭を掻いた。

 

「それで? 随分と急いでいたみたいだけど、何か遭ったの兵隊さん」

「あ~っと……金髪白黒に俺の剣を盗まれちまって……」

「随分とマヌケな兵隊ね。良くそんなんで入隊試験を合格できたわね」

「うぐっ。…自分でもそう思ってるから、それ以上は言わないでくれ」

「まぁ良いわ。それにしても金髪白黒って、十中八九魔理沙の奴よね。全く、兵隊相手になにしてるんだか」

「霊夢、アイツの事知ってるのか!?」

 

魔理沙のそっくりさんを知っているらしき発言に驚き、俺は思わず彼女の両肩を掴んでしまう。

だが、俺の両手は跳ね除けられてしまい、そのうえ何かを思い付いたのか、不貞な笑みを浮かべてきた。

 

「知ってるけど……そんなの教えて欲しい?」

「あ、嗚呼。盗まれたまま戻りでもしたら、隊長になんてどやされるか分かったもんじゃない」

「それつまり……アンタの面子を保つ為って訳?」

「命令無視ばっかりしてるのに、今更保つ面子なんてねぇよ。只単に怒られるのが嫌なだけ」

「ふ~ん……まぁ良いわ。それじゃ案内してあげるけど、コレは貸しだからね」

「それは良いけど、余り無茶な要求は呑めないぞ。其処まで位も高くないし」

「別にそんな事言う心算は無いわよ。そうねぇ……とりあえずご飯でも奢ってくれれば良いわ」

「……出来るだけ安い所でお願いします」

「それじゃ案内するから、確りと着いて来なさいよ」

「其処で無視かよ?!」

 

霊夢のそっくりは、俺のツッコミを無視して路地の方に向かって歩き出した。

こう言う所はなんか似てる気がすると思いながら、なんとなく遣る瀬無い気持ちになってしまい、思わず溜息を吐いた。

なんとか気を持ち直した俺は、彼女が入った路地に入り、先に進む彼女の後を付いていく。

大通りから外れたと言う事もあって、路地を一つ入っただけなのに人通りが全く無い。

耳を澄ますと、大通りの喧騒が聞こえてくるくらい静かな道を歩いていると、何時の間にか城壁の端の方に辿り着いていた。

こんな変わった所に住んでいるのかと思いつつ、前を進む霊夢の後について行くと……彼女はある店の前でその足を止めた。

俺は霊夢の隣りに立って、その店が何なのか見てみると看板には『香霖堂』と書かれていた。

 

「……此処にも在るのか『香霖堂』」

「なに、アンタこの店の事知ってるの?」

「同じ名前の店ならな」

「ふ~ん。……まぁ、別に良いんだけどね」

「それでこの店に魔理沙って奴が住んでるのか?」

「正確には、この店に盗んだ物を売りに来ているってのが正しいわ」

「てっことは……此処の商品は全部盗品か」

「流石に全部って事は無いでしょうけど、幾つかはそうなるでしょうね」

「やれやれ……。まぁ、剣さえ取り戻せればそれで良いけど」

「国の兵隊としてそれは如何なのよ……」

 

なんか霊夢に呆れられてしまうが、そんなことは気にせず俺は店の中に入る。

ドアを開けて中に入ると、俺の知っている『香霖堂』と同じ様に色んな道具がアチコチに置かれていた。

道具でゴチャゴチャとした店のカウンターには、さっき霊夢の言っていた通り、魔理沙が俺の剣を森近さんのそっくりさんに売ろうとしていた。

来店を知らせるベルが店の中に鳴り響くと、魔理沙と森近さんは同時にこっちの方を見てくる。

そして俺の顔を見た魔理沙は、奥歯で苦虫でも噛み潰したように顔を顰めた。

 

「いらっしゃい、余り見ない顔だけど僕の店に何か用かい」

「アンタが今買おうとしている剣を引き取りに来た。それは俺の剣だ」

「……魔理沙、今のは一体如何言う事だい?」

「えっと……きっとアイツが勘違いでもしてるんじゃないのか?」

「人から盗んでおいてよく言う。盗人たけだけしいとはこの事か」

「随分な言い草だな! それにわたしは盗んでいない、ただ借りているだけだぜ!」

「勝手に借りた事にする上に、それを勝手に売ろうとするな!!」

 

俺が大声で文句を言うと、俺の迫力に圧倒されたのか、魔理沙は顔を顰めて畏縮してしまった。

そんな俺達の様子に森近さんは溜息を吐き、カウンターの上にある俺の剣をコッチに投げて来た。

俺は投げられた剣を片手で掴み、そのまま投げ付けて来た森近さんに睨みを利かせる。

 

「そんな恐い顔で睨まないでくれ。剣だってちゃんと返したんだからさ」

「……物を返せばそれで許されると思ってるのか」

「魔理沙、ちゃんと彼に謝るんだ」

「……ごめんなさい」

 

一応魔理沙も反省しているのか、ちゃんと俺に向かって頭を下げて謝罪してきた。

本当に反省しているのか怪しいもんだが、コレ以上此処で面倒を起こす気にもなれそうに無い。

 

「ったく、次やったら問答無用で逮捕するからな」

「お? 見逃してくれるのか?」

「調子に乗るようなら、この場で捕まえてやっても良いんだぞ」

「本当にすいませんでした!!」

 

魔理沙の奴は本当に逮捕されたくないのか、今度は土下座までして許しを請うてきた。

そんな彼女の態度を見て、なんだかコレ以上付き合うのが莫迦らしくなってきて、俺は溜息一つ吐いてそのまま店を後にした。

店の外に出ると、俺が出てくるのを待っていたのか、店の前で暇そうに立ち尽くしていた。

 

「よう。そんなところで何をしてるんだ?」

「アンタが出て来るのを待ってたのよ。さっさと借りも返して欲しいしね」

「あ~っと……今はお金が無いからまた今度でも良いか?」

「なによそれ! 男だったら今すぐ誠意を見せてみなさいよ!」

「仕方が無いだろ、任務の途中で盗まれたんだから」

「仕事の途中だろうとなんだろうと、お金くらいちゃんと持ってなさいよね!」

「無茶を言う為っての!!」

 

俺達は口論に為りながらも、後日飯を奢ると言う事でなんとか話をつけた。

霊夢はよほどお腹が空いていたのか、グチグチを文句を言い続けてきたけど、それもなんとか言い包める事が出来た。

……とは言え、こんな約束をしてしまったからには、それなりの店で奢らないと納得してくれなさそうだな。

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

剣を取り戻して皆と合流しようと戻ってみると、既に三人の姿はその場所には無かった。

周囲の人に色々と尋ねてみると、あの三人は俺が駆け出して直ぐに城へと帰ったそうだ。

多分アースラの差し金だろうけど、少しくらいは待ってくれても良いじゃないか……。

俺は三人に対して落胆から肩を落としながら、大通りを歩いて城への連絡用リフト乗り場へと向かう。

大通りは相変わらず賑わっているけど、今の俺にはその喧騒すら煩わしく感じてしまう。

暗い気持ちを引き摺ったまま、ノロノロと歩いていると、前の方から浅黒い肌に黄色い髪に黄色の耳の大男と、ニーナと同じ白い翼を持った女性が歩いてくるのが見えた。

黄色い髪の大男は『クレイ』だろうけど、もう一人の方は……えっと、確かニーナの姉さんの『エリーナ』さんだったかな?

一兵士である俺が言うのもなんだけど、こんな所であの二人は一体何をしているんだ?

 

「ん? 其処に居るのはリュウか? こんな所で何をしている」

「いや、それはコッチの台詞だって」

「……相変わらず上官に対して敬語を使わん奴だな」

「あははは、なんか敬語は使えなくて」

「全く、実力はあるのに本当に困った奴だなお前は」

 

普段の態度がよほど悪いのか、クレイはコレ以上追及する事無く呆れ果ててしまう。

そんなクレイの横で、エリーナさんが俺達のやり取りを面白そうに微笑んでいた。

俺は漫才をやっているつもりはないんだけど、日常的に行われていたら漫才に見えてしまうのかな?

 

「それで二人はこんな所で一体何をしてるんだ?」

「あっとそれはだな……」

「クレイがわたくしの誕生日プレゼントを買ってくれるそうですので、何か良いものはないかと探しにきたのです」

「お、おいエリーナ」

「本当の事ではないですか、何を慌てる必要があるのです?」

「それはそうなのだが……」

 

少し慌てるクレイと、楽しそうにしているエリーナさんの様子を見て、この二人の関係が如何いうものなのか流石の俺でも察しが付いた。

詰まる所、これは二人のデートみたいなもんで、俺は二人に取ってお邪魔虫って訳だ。

だとしたら、コレ以上二人の邪魔をするわけにも行かないし、さっさと退散するとしますか。

 

「なんか俺はお邪魔みたいだし、さっさと城に帰るとするかな」

「別に誰も邪魔だとは言っていないだろう」

「あら、わたくしと二人っきりでは不満だと言うのですか?」

「そんな事は断じてない! …………しまった」

「ふふっ。クレイならそう言ってくれると信じてましたよ」

「むぅ…………」

「……なんか本当に邪魔みたいなんで、俺はもう行きますね」

「えぇ、ご機嫌よう」

「リュウ、今の事は誰にも言うなよ」

「へ~い」

 

適当な返事だけをして、俺はあの二人から別れて、城に向かってそそくさと歩き出した。

歩きながら思うのは、クレイとエリーナさんが仲睦まじくしていたと言う事。

あの世界では色々とあった所為で、折角会えたのに二人は永遠に別れることになったからな。

せめてこの世界の二人は、あのまま幸せに成って欲しいと柄にもなく本気で願ってしまう。

 

「……って、なんか俺らしくねぇな。こんな奴だったけか?」

《ホントよね。今の貴方を本物の霊夢が見たらなんて言うのかしら》

「アイツの事だから、悪いものでも食べたとか心配してくるんじゃないのか?」

《なるほど。確かにそうかもしれないわね》

「…………ちょっと待て、俺は今誰と話してるんだ?」

 

聞こえた声にそのまま返事をしたが、俺の周りには声の主の姿は何処にもない。

大通りを歩く人々は、俺に関心もなく横を通り過ぎているだけなのに、声は確かに俺の耳に届いた。

直ぐ近くに声の主が居る筈なんだが、もう一度周囲を確認してもあの声の主は何処にもいない。

只の幻聴かと考え始めたころ、なんとなく近くの窓を見てみると、ある一箇所の窓だけ他の箇所の窓とは違う感じになっていた。

不思議に思った俺は、その窓に近付いてよく調べてみると……その窓の向こうには、何故かパチュリーと小悪魔の姿が在った。

 

「……お前等、そんなところで何をしてるんだ?」

《それは私達の台詞よ。人の本を勝手に読んだ挙句、その本に取り込まれるなんて何をしてるのよ》

「本に取り込まれる? …………あ~そう言えばそうだったな。状況に流されてすっかり忘れた」

《確りしなさい。でないと、一生その本から出れなくなるわよ》

「……如何言う事だ」

 

パチュリーの言っている事がイマイチ理解出来ず、俺は思わず彼女に聞き返してみた。

 

《貴方が手にした本はね、中に眼を通した相手を取り込んで物語を作る本なのよ。登場する人物は取り込んだ相手の記憶の中から選ばれ、それぞれ合いそうな配役が渡るわ。だから、貴方の知っている人とは性格や立場が違ったりするのよ》

「成る程……。アースラがこの国で働いているのはそう言う理由か」

《その上、物語を完結させないと本からは出られないし、その世界での怪我は現実のものと同じだから、下手をすれば取り込まれたまま死んでしまうわ》

「なら如何しろってんだ? 何時終わるかも分からない物語を延々と続けろと?」

《それが一番安全なんだけど、その方法だと時間が掛かりすぎるわ。だから、何とかして本の主を見つける事ね。ソイツなら其処から貴方を出す事が出来るでしょうし》

「何処に居るのかも分からんのに、気軽に言ってくれるな……」

《だって私には関係が無いもの。……それじゃ頑張りなさいよ》

 

言いたい事だけを告げると、紅魔館の図書館が見えていた窓は普通の窓に戻り、彼女の姿が見えなくなってしまった。

一人取り残された俺は、本の主とやらを探すために大通りを見てみるが……人混みが多くて、誰が主なのか皆目検討もつかない。

時間を掛けて進めて、この物語をなんとか完結させれば良いんだろうけど、外に待たせてる奴等もいるし、あまり時間のかかる方法は取りたくないな。

 

「……はぁ~なんとかして見つけるしかないか」

 

溜息を吐きながら自分に言い聞かせるが、大通りを歩く人の数を考えると、物凄く頭の痛くなりそうな話だ。

数えるのすら面倒に為りそうな人の群れを見て、俺は頭を垂れて深い溜息を吐くしかなかった。

 

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