竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第百十三話 現実への帰還

 

駆けつけてきた兵士によってラッソは逮捕され、倒された兵士の遺体も速やかに回収された。

他の兵士達と一緒にアースラもやって来るが、俺の顔を見るなりいきなり銃口を向けて来るのは止めてもらいたい。

そりゃ確かに彼女の事を殴りはしたけど、アレは緊急事態だったんだから仕方が無いだろ。

なんとかアースラに事情を説明して銃を下げてもらうと、さっきとは一変して今度は感心した様子で俺の事を見てきた。

 

「…まさかお前がこんな手柄を立てるとはな。私は遂に反旗を翻したのかと思ったぞ」

「アンタは俺をなんだと思ってるんだよ。幾らなんでもそんな事はしないっての」

「そうかもしれないが、普段のお前の態度にも問題があるだろ。そう思われたくなければもう少し真面目に仕事をするんだな」

「これでも真面目にやってるつもりなんだけどねぇ……」

 

小声でボソっとそんな事をもらすと、アースラは黙れと言わんばかりに俺の事を睨み付けて来る。

この世界で何度かあったやり取りだけど、今の俺の胸を埋め尽くすのは空しさだけだった。

目の前にかつての仲間が居るのに彼女の事を只の偶像としか見る事が出来ない。

力を取り戻した弊害なのか、周りにいるモノ全てが薄っぺらく感じてしまい空しさばかりがこみ上げて来る。

 

「……本物じゃないって分かっていたんだけどな」

「ん? 今何か言ったか?」

「いや、何も言って無いですよ。それより今日はもう疲れたんで休んでいいですか?」

「そうだな……。残っているのは後処理だけだし、別に問題は無いだろ。寧ろ残っているほうが邪魔だ」

「酷い言い分だけど、まぁいいか。それじゃお先に失礼しますっと」

 

そう言って俺はその場から立ち上がり、他の兵士たちを残してこの場を後にする。

アースラは他の兵士たちに指示を飛ばして、今回の件の後処理をしていく。

俺はそんな彼女の背中を見ながら、誰にも聞こえないくらいに小さな声で〝さよなら〟と呟いた。

 

城の屋根を降りて場内に入ると、今回の件が既に知れ渡っているのか皆慌しく動いていた。

城内を警備していた兵士たちは忙しそうに走り回り、城のメイド達は如何して良いのか分からず右往左往している。

もう片付いたんだから少しは落ち着けと思うが、王女の誕生日パーティーでこんな事件が起これば騒ぎになるのも当然か。

走り去っていく兵士たちを見ながらそんな事を思いつつ、俺はニーナの部屋の前までやって来た。

扉の前にはサイアスが一人で突っ立っていたが、俺の姿を確認すると何も言わずに席を空けてくれた。

恐らくニーナの指示だと思うけど、なんか余計な気を遣わせたみたいで申し訳ないな。

頭を下げてサイアスに礼をした後、俺はニーナの部屋の扉をノックした。

 

「はい、どちら様でしょうか」

「俺、リュウだけど今大丈夫か」

「えぇ、どうぞ」

 

部屋に招かれた俺がドアを開けると、其処にはパーティー用のドレスに身を包んだニーナの姿があった。

俺の記憶の中にドレスを着たニーナは存在しないんだが、姉のパーティーの時に冒険に出ていた時と同じ服装で居るほうがおかしいか。

扉の前でそんな事を考えていると、突然ニーナが俺の前にまでやって来ていきなり手を握り締めてきた。

 

「有り難う御座います、リュウ! コレもアナタのお陰です!」

「お、おう? いきなり如何したんだよ」

「話は聞きましたから恍けなくても良いんですよ。アナタが侵入者を撃退してくれたんですよね。私との約束を守ってくれたんですよね?」

「なんだ、その話か」

 

俺が若干溜息混じりにそう呟くと、ニーナは不思議そうな顔をして小首をかしげた。

 

「如何したんですか、リュウ。なんだか曖昧な返事でしたけど……」

「いや、確かに侵入者を撃退したけどまだアイツ等に指示を出した奴を捕まえた訳じゃないから、ちゃんと約束を守ったって言い辛いんだよ」

「あ、確かにそうかもしれませんね。……でも、アナタのお陰で兄様と姉様を守ることが出来ました。だから、ありがとうです」

「……どういたしまして」

 

彼女の礼を曖昧に受け取りながら、俺は繋いでいたニーナの手を離した。

突然手を離されたニーナはキョトンとした顔をするが、俺はそんな事お構いなしに彼女に背を向けた。

 

「あ、リュウ」

「悪いんだけど、お礼とかはまた今度にしてくれないか? 今日は疲れたし、ニーナも色々と大変だったろ」

「そう…ですね。では、この話は父も交えてまた後日としましょう」

「其処まで大事にしなくても良いって。……それじゃあな」

「はい、また明日」

 

そう言ってニーナは笑顔で見送ってくれるが、俺はその笑顔に応えられないまま彼女の部屋を後にする。

サイアスは俺が部屋から出て来たのを見て、また何も言わないまま彼女の部屋の前に立ち警備に戻った。

俺と違って仕事熱心なサイアスに関心しながら、自分の部屋を目指して歩き出した。

最後にクレイの様子を見ておこうかとも思ったけど、あの二人の邪魔になりそうだったから顔を出すのはやめる事にした。

マスターにも会いたかったけど、アイツだけ城じゃなくて街に住んでるから気軽に会いに行く事も出来やしない。

二人に挨拶できないのは心残りだけど……これで皆ともお別れ。力を取り戻した今の俺にこの世界は留まる理由は無い。

後はこの物語を破綻させるだけだが、やっぱり皆と会えなくなるってのは辛いもんだな。

もう少し皆と一緒にいたかった、そう考えると動いていた足が思わず止まってしまいそうになるけど、俺の居るべき場所は此処じゃない。

アイツが生きる場所に帰る、その思いを胸に俺は足を動かし部屋へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

あの戦いから一夜明けた後、俺は誰にも言わずに城下町に繰り出し城門へと向かっていた。

城の鎧は部屋に置いたままにして、必要最低限の荷物だけを手にこの街を後にする。

朝靄に包まれて、人気の無い大通りを歩いていると、前の方に霊夢のそっくりさんがいるのが見える。

どうやら俺が来るのを待っていたらしく、コッチの姿を見つけるとゆっくりと歩み寄ってきた。

 

「お早うリュウ。こんな朝早くから何処に行くの?」

「なに、いい加減この世界から出して欲しくて交渉しに来たんだ、本の主さんよ」

 

俺が臆す事無く言うと、霊夢……もとい本の主は一瞬驚いたような顔をするが、直ぐに観念した様子で溜息を吐いた。

 

「……なんだ、気が付いてたんだ」

「昨日までの俺だったら無理だろうけど、力を取り戻した俺ならこの位分かるさ」

「でも貴方は、こうして会う前から私がそうだと分かってたのでしょう?」

「主が俺の事を見張っているなら、遠くからじゃなくて近くだと思ったからな。何時も俺の傍に居て違和感がないのは霊夢くらいなもんだ」

「成る程ね……。あ~ぁ、最高の遊び相手だと思ったのになぁ~。こんな簡単に見付かるなんて思わなかった」

 

残念がる彼女の様子は夕暮れ時の子供の様な印象を受ける。

彼女からしたらただ俺と遊んでいただけなんだろうけど、俺は何時までも此処に留まっている訳にも行かないんだ。

 

「正体を曝したのなら俺をさっさと帰してくれ」

「……もし此処で私が断ったら如何する?」

「そん時は、何時もの様に自由気ままに暴れるだけだ。命が惜しくないならそうしろよ」

「流石の私も命は惜しいし、仕方が無いから帰してあげますか」

 

主はおどけながら言うと、自身の姿を霊夢から白いワンピースを着たのっぺらぼうの少女へと変えた。

それと同時に少女の後ろには光のトンネルの様なものが出現する。

トンネルが出現すると、少女は俺を促すように横に移動し、俺は彼女に何も言わずそのままトンネルへと向かう。

後少しで光の中に入ると言った所で、俺は彼女に言わなきゃいけない事を思い出し、つい足を止めてしまった。

 

「ん? 如何したの? 早く帰りたいんじゃないの?」

「いや、一つ言わなくちゃいけない事があってな」

「言わなくちゃいけない事? ……先に言っておくけど、文句なら聞かないからね」

 

のっぺらぼうだから、今どんな表情をしてるのか分からないけど、なんとなく拗ねている様な気がした。

拗ねている彼女に苦笑いを浮けべながらも、俺は気を取り直して彼女に言葉を伝えた。

 

「ありがとうな、また皆に会わせてくれて」

「……えっ?」

「もう二度と会えないと思ってたし、ただの幻影でも会えて嬉しかった。だからお礼をと思ってな」

「……そんな事を言うくらいならこの世界に住めば良いのに」

「それは出来ない。…今の俺の居場所はアイツの隣りだからな」

「そっか……。なら、此処でさよならね」

「ああ、さよならだ」

 

後腐れない様に別れを告げた俺は、今度こそ光のトンネルに入り、後ろを振り向かないで歩いていく。

トンネルの中には何も無く、光が何処までも続いているような殺風景な物だったが、道だけは先まで確りと続いていた。

何処までも続いているように感じられるトンネルを歩いていると、遠くの方に紅魔館の図書館が見えてくる。

俺は逸る気持ちを抑えきれず、其処に向かっている内に早歩きになり……気がつくと駆け出していた。

出口に近付いて行くに連れて、走る速度も段々と速くなって行き、顔も自然と笑顔になっていく。

幻想郷との時差がどの位か分からないけど、数日ぶりに霊夢と会えるのかと思うと、顔が綻ぶのが止められない。

逸る気持ちに後押しされて光の中を走り抜けると、眩いトンネルから薄暗い図書館に辿り着いていた。

図書館に辿り着いてのなら、パチュリーの奴に礼を言いたいけど、それよりも先に霊夢に会いたい。

その気持ちのまま、本棚と本棚の間から出ようと角を曲がると、丁度やって来ている人影に気がつかず、そのまま激突してしまった。

 

「いったぁ~……ちょっと気をつけなさいって、リュウ。アンタ何処に隠れたのよ、皆探してたのよ?」

「……………」

「ちょっと話聞いてるの? もっしも~し」

 

霊夢が何か話しかけてきているけど、俺は無意識の内に彼女の事を抱き締めていた。

自分でも何をしているんだって思うが、数日ぶりに会える所為か、霊夢を離そうとは思えなかった。

 

「ち、ちょっと?! いきなりなに抱き付いてるのよ!?」

「……悪い。でも、もうちょっとこのままで居させてくれ」

「そんなの駄目……って事もないけど、あいつ等に見付かったら恥かしいじゃない」

「見付かったときは見付かった時に考えれば良いだろ」

「それは確かにそうだけど……」

「なら、もう少しこのままで」

「……ねぇリュウ。もしかして何か遭ったの? なんか変よ」

「色々遭ってな。ちょっと疲れたんだよ」

「……何よ色々って」

「それは後で話す」

「ったく、しょうがないわね……」

 

霊夢は呆れたように呟くけど、嫌がったりもせずに抱き締め返してくれた。

そのまま俺達は、地下の図書館の一角で静かに抱き締めあっているのだった……。

 




色々と手直してをしていたら、元々四話も使っていた話が六話にまで伸びてしまった。
やっぱりこの章は手直しするところが多いな。
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