前回はBOFを知らない人にはさっぱりだったと思いますが、今回からまた何時もの竜幻ですのでご安心を。
朝晩の冷え込みが厳しくなる十一月、私は布団に包まって眠っていた。
布団の温もりに包まれてまどろんでいたけど、私の体内時計は正確らしく、何時もの時刻に眼を覚ましてしまう。
部屋の中は薄暗く、まだ完全に日は昇りきっていないらしい。
私は掛け布団を退けながら上半身を起こし、両手を高く上げて軽く背筋を伸ばす。
軽く体を解した後、布団からもちゃんと起き上がり、タンスの中に仕舞っている服を取り出して手早く着替える事にした。
何時もの服に着替えた私は、顔を洗って眠気を覚ました後、こっそりとリュウの部屋へと向かう。
アイツを起こさない様に静かに障子を開けて中に入り、布団の中で気持ち良さそうに眠っているリュウの横に座る。
リュウは私が入った事にも気付かずにスヤスヤと眠ったまま。
私は彼に何かをするわけでもなく、ただ隣りでリュウの寝顔を眺めている。
本当にそれだけだと言うのに、私の胸の鼓動は徐々に速くなり、顔も少しずつ熱くなっていくを感じた。
「ふふっ」
何が可笑しかったのか自分でも分からないけど、つい顔が自然と綻んでしまう。
少しの間リュウの寝顔を堪能した私は、起こさないように彼の部屋から出て行く。
そして締め切ったままの雨戸を開けて裏庭に出て、外の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込む。
そろそろ本格的な冬が始まろうとしているのか、今朝の空気は夏や秋に比べてひんやりと冷え切っている。
このくらい冷たい方が火照った顔にはちょうど良いし、雪さえ降らなければ特に不満もないわね。
「さって、今日も一日頑張りますか」
私は朝焼けの空を見ながら背を伸ばし、今日一日分の気合を入れる。
今日も一日が良い日でありますように…そんな願いを籠めながら……。
………
……
…
家の中に戻った私は、アイツが起きてくる前に朝食の準備を始める。
昨日の内に研いでおいた米をお釜に移し、釜戸にセットして適当に薪をくべて火にかける。
リュウが起きてたら火力の調整が楽なんだけど、アイツより先に起きているのは私なんだし、コレばっかりは仕方がない。
そんな事を思いつつ、釜戸の火を弱めに調整して湧き上がるまで待つ。
この間に洗った野菜を切って簡単な付け合せを作ったり、魚を捌いて七輪の上に乗せて焼く。
汁物は昨日の残りが有るからそれで良いとして、あともう一品くらいは欲しいところね。
そんな事を考えながら、野菜を置いてある場所に眼を向けていると、居間の方から物音が聞こえてきた。
「おはよ~……。今日も霊夢は早起きだな……」
「お早うリュウ。あと私が早起きなんじゃなくて、アンタが寝すぎなだけじゃないの」
「んな事はねぇと思うが……ふぁ~……」
「言い訳は良いから、早いとこ顔を洗ってきなさいよ」
「そうするわ」
寝惚け半分のリュウは、私に言われるがまま顔を洗いに行った。
アイツが居間から出て行ったのを見て、私は思わず安堵の溜息が零れる。
リュウの顔を見た瞬間、胸の鼓動が高鳴ったけど……ちょっと後ろめたい事があるから不安もあった。。
勝手に部屋に入ったのがばれたら流石に怒られるだろうし、リュウの寝顔を見て綻んでいることが知れたら恥かしすぎる。
アイツの事だから軽蔑はしないと思うけど、あんまりばれたくは無いし、もう暫くは気付かないで居てくれると助かるかな。
我が侭が過ぎる様な気がしないでも無いけど、このくらいの事なら神様もきっと見逃してくれるわよね。
「そういや霊夢」
「キャアッ?! あ、アンタ何時の間に傍に居たのよ!?」
リュウが他の所に行っていると思い、完全に油断していた私は、思わず悲鳴を上げて後ろに下がってしまう。
なんで顔を洗いに行ったコイツがいるのか知らないけど、気配を消して近付くのは止めてよね。物凄く心臓に悪いんだから。
「話し掛けただけで後ろに下がるなよ。地味に傷付くぞ」
「あ、ゴメン……って、なんでアンタが台所に居るのよ!?」
「俺が台所に居るのは別に良いだろ。それよりも、魚が焦げてるぞ」
「えっ? ……あーッ!!!!」
リュウに言われて七輪に眼を向けると、確かに魚から黒い煙が上がり始めていた。
真っ黒コゲに為る前に気がつけたお陰で、食べられないほどに焦げ付いてはいないみたい。
あのまま考え事していたら今日の朝食は、白米と味噌汁と付け合せの和え物だけに為る所だったわ。
「あ、危なかった……。ありがとリュウ、助かったわ」
「気にするなって。あと、考え事は程ほどにな」
「アンタが言うな」
「確かにそうだな。…んじゃ、顔を洗ってくる」
リュウは笑いながらそう言った後、台所から出て顔を洗いに向かった。
私はアイツの笑顔を見て、顔が熱くなって呆けてしまうけど、直ぐに立ち直って準備の続きを始める。
七輪の火力が高いみたいだし、炭を幾つか取り出して、釜戸の中に放り込もう。
お釜をセットした所の火を強くしないといけないし、ちょうど良かったのかもしれないわね。
………
……
…
朝食も食べ終わり、神社の仕事も大体が片付いた午後。
私は神社にリュウを一人残して、人里に赴いて今晩の夕食の材料を買ってきた。
今夜は前に出来なかった中華を作りたくて、里にある店を虱潰しに探していたら思ったよりも時間が掛かった。
食材自体も中々良いのが手に入ったのだけど、それ以上に調味料が中々見付からなくて苦労したわ。
まぁ、十件目くらいのお店で漸く見付かったから別に良いんだけどね。
「ただいま~。……リュウ、居ないの?」
買った食材を持って神社に着くと、境内の中は異様に静まり返っていた。
アイツには留守番を頼んでいるし、勝手に居なくなるわけ無いから、恐らくは昼寝でもしてるんでしょ。
そう思いながら玄関の戸を開け、買ってきた食材を台所に適当に置いてから、居間に行くと……案の定、リュウは縁側で座ったまま眠っていた。
「全く、なに昼間から寝てるんだか」
「ZZzzz……」
普段の自分の行動を棚に上げてるけど、今は関係ない事だし気にしないでおく。
今日は天気も良いし、リュウも秋・冬用の長袖を着ているとは言え、今は冬の到来が近付いている十一月。
縁側で寝させておくには寒いだろうと思った私は、自室から薄手の毛布を引っ張り出し、リュウを横に寝かせて毛布を掛けてあげる。
リュウを横にしたのは良いけど、このままだと首が曲って寝違えてしまうかもしれない。
そう思った私は、誰も居ないにも拘らず周りに見渡して、本当に誰もいない事を確認してからリュウの頭を私の膝の上に乗せた。
「……よし、起きてないわね」
「ZZzzz……」
私が膝枕をしてあげても、リュウは起きる気配もなく熟睡している。
こんなにも疲れるまで何をしているのかと思ったけど、一晩寝れば体調が治るって豪語してる奴が、次の日に疲れを残すなんて考えにくい。
もしかしたら、本当に午後の陽気に誘われて眠ってしまっただけなのかも。
そう考えると、私と同じところを発見できた気がしてちょっとだけ嬉しくなってしまう。
「…こんな事で嬉しくなるなんて、私も随分と変わったな」
リュウが来る前と比べて随分変わったのは自覚してたけど、改めて口に出してみると嬉しい様な、そうでもない様な……結構微妙な気がする。
昔だったら絶対こんな事しなかったのに、人間って変わるときはとことん変わるのね。
どこか他人事の様に考える自分が妙に可笑しくて、私は思わず笑みが零れてしまう。
リュウを起こさない様に小さくに笑っていると、私の手が彼の髪に触れている事に気が付く。
コイツの髪は結構硬いのか、触れている私の手に細い針がチクチクと当たっている様な感触がする。
私は手の位置を変えて、今度はリュウの頭を撫でるようにして彼の髪に触れる。
そうやって触ってみると、リュウの髪は意外にも触り心地が良い事に気付く。
上手く説明出来ないけど、こうして触れていると何時までも触っていたくなるような感じ。
……前にリュウも、私の髪を触れて楽しんでた事あったけど、あの時もこんな気分だったのかな。
懐かしい記憶を思い出していると、眠っているリュウがもぞもぞと身体を動かし、仰向けになった。
一瞬、リュウが眼を覚ましたのかと焦ったけど、どうやら只の寝返りをうっただけらしい。
リュウがまだ眠っている事に安心して、安堵の溜息を零すと……彼の口から妙な言葉が出てきた。
「ついにみつけたぞグミオウ。きょうこそけんを……ZZzzz」
「……けんを如何したのよ」
〝グミオウ〟って言うのは前に魔理沙たちが召喚した珍生物けど、寝言から聞こえた声音は随分と嬉しそうな感じがした。
なんであの珍妙な生物が出てくるのか知らないけど、夢の中でリュウは一体何をしているのやら。
あの枕を使ってもう一度リュウの夢に潜ることも出来るけど、潜ったところで今見ている夢に入れるとは限らないか。
あの生物にどんな執着が有るのか分からないけど、きっと私の想いもよらないような摩訶不思議な空間が広がっているに違いないわ。
「もしかしたら、アンタの中に居る竜たちが会話をしてるのかもしれないわね」
流石にそれはないと思うけど、リュウの夢なんだし、何が起こっても不思議じゃない。
……でも、叶う事なら貴方の夢の中にも私が現われて欲しいって想ってしまう。
夢の中にまで一緒にいたいと願う事は、やっぱり贅沢に為っちゃうのかな?
「あ、にげられた……ZZzzz」
「……ホントにどんな夢を見ているのやら」
リュウの寝言が面白くて、私はついつい笑みを零してしまう。
彼の言動が可笑しくて笑みが零れて、ふと下に眼を向けたらリュウの唇に眼が留まってしまった。
如何して其処に眼が留まってしまったのか、それは私にも良く分からない。
ただリュウの顔に視線を向けたら、自然と其処に目が行ってしまっただけなのだから。
「……………」
私はもう一度周囲を見回して、近くに誰も居ない事を確認する。
そして誰も居ない事を確認できたら、自然と自分の顔をリュウの顔に近づけていく。
胸の鼓動もドンドン速くなって、顔も熱くなっていくのが分かるけど……コレ以外の事に頭が回らなくなっている。
顔をドンドン近づけて、リュウが吐く息を肌で感じられるくらいに近付けたその時、近くの茂みで物音が聞こえた。
慌てて顔を上げると、茂みの中には魔理沙に萃香にたっちゃんの姿が其処にはあった。
「あ、アンタ等、其処で何してるのよ!?!」
「やべ、バレた。全員撤収!!」
「わ~逃げろ~」
「じゃから妾は押すなと言ったんじゃ」
「今はそんな事行ってる場合じゃないだろ!」
「待ちなさい!!」
私は逃げる三人をとっちめる為に立ち上がると、膝の上から何かがずり落ち、硬いモノが地面に当たる音が聞こえてきた。
恐る恐る下に眼をやると、其処には私の膝から落ちたリュウが、地面に顔面を強打してノビている姿があった。
「リュウ、ゴメン!!」
「……………」
一応声を掛けてみるけれど、完全に気を失っているらしく返事はなかった。
私はリュウを抱き上げ、縁側の上にそっと寝かせてあげる。
顔面を強く打っているみたいだけど、コレと言って目立った外傷もなく鼻血も出ていない。
その事は不幸中の幸いだったけど、不注意でリュウを落とした事には心が痛む。
リュウが起きたらちゃんと謝っておかなくちゃ。そんな事を考えていると―――
「おい、霊夢!」
―――とっくに逃げたと思っていた魔理沙が突然声を掛けて来た。
「なによ。今はアンタに構ってる暇はないわよ」
「旦那は大切にしろよ」
「……霧雨、泣かす!!」
物凄く良い笑顔でいってくる魔理沙に流石の私も切れた。
リュウの真似をして手の中に霊力の塊を作り、それを更に複数作り上げて札の代わりに弾として周囲に展開した。
「マジで切れやがった! 二人共早く逃げるぞ……って、誰も居ねぇ?!」
「其処を動くなぁ!!」
「うわ、やっべ」
箒に跨って全速力で逃げる魔理沙を追って、私も全速力で飛びながらアイツに向かって弾幕を放つ。
何時頃から覗いていたのかなんて如何でも良い。とりあえず、あのバカを全力でぶっ飛ばせるならそれで良い!!
頭に血が上った私は、あの二人の事などすっかり忘れて、魔理沙を追い掛け回すのだった。
本当はこの回、第二章の時にやる予定だったのですが……読み返してこの回は後の方がいいと判断したので、今日までずっと引っ張ってきました。
風神録が中々始まらない原因の一つがこれだったりします。