実のところ、ちょっと風邪を引いてしまいまして数日ばかり寝込んでました。
あと新しく話を書いていたってのもあるんですが、お待たせしてしまい申し訳御座いませんでした。
これからも更新間隔が不定期になるとは思いますが、お付き合いの程宜しくお願いします。
秋から冬へと季節が移り変わっていくのを感じながら、俺は今日も今日とて暇を持て余していた。
特に異変が起きる事も無く、上白沢さんから妖怪退治の依頼が来るわけでもなく、平穏な毎日が過ぎている。
まぁ平和なのは良い事なんだが、それが連日の様に続くとなると流石に暇になって仕方が無い。
食材の買い出しは先日霊夢がしてくれたし、境内の掃除はもう終わっているし、釣に行くには気分が乗らない。
こんな時は霊夢と他愛の無い話をするのが一番だけど、アイツは魔理沙にお礼参りにいくとか言って出かけたまま帰って来ない。
恐らく魔理沙と弾幕ごっこでもしてるんだろうが、なんでお礼参りに行ったのかがさっぱり分からん。
出かける前に聞いてみたものの、曖昧な笑顔ではぐらかされたから結局分からず仕舞いだ。
まぁ放っておけばその内帰ってくるだろうし、霊夢の居ない間に剣たちの手入れでもしておこう。
そう考えた俺は、自室から道具一式を持ち出して母屋の中で一番広い居間で作業する事にした。
愛刀も叢雲も相変わらず刃毀れ一つしていないが、ゴミや土埃なんかは付着している。
この辺りは一応気をつけているけど、気が付かない内に付着しているもんだから小まめな手入れは欠かせない。
……とは言っても、自宅で出来る手入れにも限度があるし、鍛冶屋に持っていってちゃんと手入れをしてもらいたいもんだな。
使っている材質が普通の金属だったら気にしないけど、二つとも
だからせめて手入れくらいは小まめにしてるんだが、やっぱり一度くらいは剣を研いでやりたいよな。
「…それが簡単に出来れば悩んだりしないか」
自分でも呆れながらそんな事を呟くと、誰かが珍しく玄関の戸をノックする音が聞こえてくる。
霊夢なら戸を叩かずに入ってくるし、他の連中は玄関からではなく裏庭から声を掛けてくるはず。
なのに律儀に玄関から入ろうとしてくる奴なんて……彼女くらいしかしないか。
―コンコンコンコン―
「は~い! 悪いけど今手を離せないから、勝手に上がってきてくれ!」
外に居る彼女に聞こえる様に返事をすると、戸を叩く音が止まり誰かが戸を開ける音が聞こえてきた。
その音を特に気にしたりせずに手入れを続けていると―――
「こんにちは、リュウさん。今日もいい天気ですね」
―――台所の方から衣玖さんが居間に上がりこんできた。
「いらっしゃい、衣玖さん。悪いけど、今は見ての通り手入れの最中でね。お茶は出せそうに無いんだ」
「いえ、お気に為さらないで下さいまし。わたくしが急に押し掛けてきたのですから」
「別に衣玖さんだったら急でも構わないんだが……まぁいいや。とりあえず適当なところに座っててくれ」
「分かりました」
彼女は俺が作業している手を止めない事を気にもせず、手入れの邪魔に為らない様に少し離れたところに座った。
別にそこまで気を遣わなくても良いんだが、彼女にそう言っても座る位置を変えたりはしないか。
そんな事を思いながら剣の手入れをしていると、衣玖さんの方から俺に話しかけてきた。
「あの…リュウさん。今日は霊夢さんはご在宅ではないのですか?」
「ん? 霊夢の奴だったら魔理沙にお礼参りしに行ったぞ」
「魔理沙さんにですか? また如何してその様な事に」
「さぁな。出かける前に俺も聞いてみたけど適当にはぐらかされちまった」
「リュウさんに言えない様な事って一体何があったんでしょうね」
「そればっかりは本人に聞いてみないと分からんが、きっと話してはくれないんだろうな」
「……意外とリュウさんには話せない様な事なのではないでしょうか」
「さらっと変な事を言うなよ……」
いきなり変な事を言って来た衣玖さんに思わず呆れて溜息を零す。
彼女は俺のそんな様子が可笑しかったのか、俺の顔を見ながらクスクスと小さく笑った。
何が可笑しいのか俺には理解出来ないが、変な風に考えても仕方が無いし、余り気にしないようにしよう。
そう考えて頭を切り替えた俺は、地味に作業していた叢雲の手入れを終えた。
手入れの終えた叢雲は、縁側から差し込む太陽の光を反射して輝き、その刀身に雲の様なオーラを纏わり付かせた。
叢雲が綺麗に為ったのは喜ばしい事なんだが、この剣を見てふと最近コイツを使っていない事を思い出す。
手に入れたのに使わずに仕舞っておくだけなのも悪いし、機会があれば使ってやりたいんだが……大概の事は愛刀一つで事足りるんだよな。
俺の力の事を考えると少し不安も残るから、叢雲よりも愛刀の方を優先しちまうんだよ。
「ん~……
「…? なんの話ですか?」
「いや、叢雲を使ってやる機会がないなぁ~っと思ってな」
「そうは仰いますが、リュウさんは既に剣をもう一つお持ちでは無いですか。でしたら、
「確かにその通りなんだが、これ程の剣を使わずに仕舞っておくだけなのも勿体無くてな」
「はあ…。そう言うものなのでしょうか?」
「まぁちょっとした我が侭みたいなものだから、余り気にしなくて良いよ」
叢雲の有効的な使い方はないものかと考えながらも、俺は叢雲を何時もの場所に仕舞い残っている愛刀の手入れを始めた。
こっちは柄から刀身を外して作業しないといけないから若干手間が掛かる。
叢雲みたいに柄と刀身が一体に為っているならどんだけ楽か……いや、こんな事愚痴っても仕方が無いか。
そんな事を思いながら作業していると、何の前触れもなく裏庭に一陣の風が吹きぬけた。
最初は木枯らしかとも思ったが、何者かの気配がしたところから察するにそう言う訳じゃないみたいだ。
「ども~、清く正しい射命丸文で~す」
「新聞でしたら間に合ってますからお引き取りください」
「おおう。予想外の方から辛辣な言葉を投げかけられるとは思いませんでした」
どうやら衣玖さんに続いて今度は鴉天狗がウチにやって来たみたいだ。
衣玖さんがウチのやって来るのは何時もの事だが、この天狗はいったい何の用があってウチに来たんだ? もしかしてまた新聞の取材にでも来たんじゃないだろうな。
「射命丸さん…と仰いましたか。この神社に新聞は不要ですので、どうぞお引取りを」
「いえいえ、本日は新聞の勧誘ではなくてですね、霊夢さんにお渡しするものが有ってきたんですよ」
「霊夢さんにお渡ししたい物?」
「はい。本人に直接渡したいのですが……どうやら出掛けてるみたいですね」
「ああ。アイツに直ぐ渡したいって言うなら魔理沙の家に行ってみろ。多分居る筈だから」
「う~ん……別に急ぎの用事もありませんし、此処は噂の天女さんにちょっと取材でもしましょうかね」
「ん? 天女?」
天狗の言葉がちょっと引っ掛かり、作業の手を止めて顔を上げてみると、既に天狗は手帳とペンを持って取材する体勢に入っていた。
「え~っと、まず初めに確認しておきたいのですが、貴女が神社にやって来る天女で間違いありませんか?」
「いいえ、違います。わたくしは天女ではなく竜宮の使いです。此処には色々な方がやって来ますから、他の方と間違えているのではないですか」
「ですがワタシの仕入れた情報ですと、その天女は緋色の衣を纏った青髪の女性と聞いていますが」
「あ、確かにそれなら衣玖さんの事だな。ウチの神社に来る奴でその条件に該当するのは彼女だけだ」
「やはりそうでしたか! 初めて見かけした時からそうだろうなぁ~って思ってたんですよ!」
「……リュウさん」
余計な事を言わないで下さいと言わんばかりに衣玖さんはこっちを睨んでくるが、俺は視線を逸らして彼女からの抗議を無視した。
それでも衣玖さんは恨めしそうに睨んでくるが、天狗はそんな事お構い無しに彼女に質問を投げ掛ける。
「では、さっそく質問です。ここ一・二年の間に貴女の姿が目撃される様になりましたが、どういった経緯で此処に通うようになったのですか?」
「貴女にお話する様な事ではありません」
「……では次の質問です。普段は空に住んでいるとは思いますが、地上に降りて何か困った事はありますか?」
「特別そう言った事はありません」
「……では次です。この博麗神社で改善して欲しいと思っているところはありますか?」
「その様なものはありません」
「……あの~、もう少し真面目に答えて欲しいのですが。これじゃ取材になりません」
「わたくしは取材に応じた覚えはありませんし、これでも十分に真面目です」
「そう言われるとこっちとしても困るのですが……」
碌な回答が返ってこず困り顔の天狗とは対照的に、すまし顔で淡々と質問に答える衣玖さん。
あの天狗でも困る事があるんだと関心するのと同時に、衣玖さんが此処まで事務的に応対するのも珍しい様な気がする。
初めて会った時でも此処までじゃなかった筈だし、ウチに来るようになってからでも見た事が無い。
天界で仕事をしているときは知らないが、今回は随分と珍しい衣玖さんを見れた様な気がする。
「それじゃ次の質問です。一部の人から貴女がリュウさんの通い妻になっていると言われていますが、その事に付いてどう思いますか?」
「わ、わたくしが通い妻?! い、一体いつ頃からその様に言われていたのでしょうか……」
「てか天狗、その情報を何処で仕入れたのか俺に教えろ」
「お断りします。情報提供者の事をそう簡単に外部に漏らすわけ無いじゃないですか。…それに貴方の場合はなにをするか分かりませんしね」
「別に何もしねぇよ。ただソイツにちょっと話があるだけだ」
「絶対に教えません。そんな事したらワタシの信用問題に発展しかねませんし」
「むぅ……」
この天狗が一体どれだけ信用されているかはさておき、俺としてもあまり大きな騒ぎは起こしたくない。
力付くで喋らせるって方法も有るけど、その後で新聞のネタにでもされたら堪ったもんじゃない。
一体誰がこんな事を言い出したのか気に為るところだが、此処は大人しく引き下がっておくか。
「まぁそれはさておきですね、リュウさんはこの事に付いて如何思われていますか? やっぱり浮気なんですか、てかそうですよね」
「なに莫迦な事言ってんだ。俺がそんな事するわけ無いだろ」
「えぇ~……。これだけの美人さんが傍にいながら何も無いって言うんですか」
「あのなぁ…衣玖さんは飽く迄も友人なんだよ。その友人に何かするわけ無いだろ」
「ですが、友情から始まる恋があっても不思議じゃないですよね?」
「んな事しるか。第一、俺なんかと恋仲にされても衣玖さんだって迷惑だろ。なぁ?」
俺は同意を求めて衣玖さんに声を掛けると、彼女は一瞬だけ悲しそうな顔をするが、その訳を尋ねるよりも早くその表情を引っ込め何時もと変わらない顔をする。
「迷惑と言う事もありませんが、わたくしではリュウさんとつり合いませんから恋仲には為れませんよ」
「ふむ……そうですか。まぁ、貴女がそれで良いのならワタシは何も言いません」
「良いもなにも、わたくしは事実を言っているだけです」
「……やれやれ、こんなんじゃ碌な記事が掛けそうにありませんし、今日の所は退散しましょうか」
そう言って天狗は席を立ち上がると、仕舞おうとした手帳の間から一枚の写真が落ちた。
俺は落ちたその写真を拾って見てみると、其処に写し出されていたのは秋ごろに撮られたと思われる、俺と霊夢のツーショット写真だった。
「おい、天狗。なんか写真が落ちたが……コレ何時の間に撮ったんだ?」
「ん? …あぁそれですか。それは前に取材させてもらった時に撮った一枚です。リュウさんに差し上げますよ」
「差し上げますって……俺は別に要らないんだが」
「良いから持っていてください。…と言うか、今日はそれを霊夢さんに渡そうと思って寄らせて貰ったんです」
「そうなのか。だったらアイツが帰ってきたら渡しておくか」
「お願いします。……では、ワタシはこれにて失礼させてもらいます。次はちゃんと取材させて下さいね」
それだけ言うと天狗は裏庭に出て、風に為ったかのように一瞬にして飛び去ってしまった。
別のネタを探しに飛んでったんだろうが、アイツが飛び去るときに起こした風の所為で土埃が舞い上がり、愛刀が手入れする前よりも汚れてしまった。
仕上げの段階じゃなかったからまだ良いけど、もう少し大人しく飛び去れないのだろうかと思ってしまう。
木枯らしでも此処まで激しく吹き抜けないのに、アイツの起こす風はそれ以上とか呆れて物もいえん。
「…やれやれ。これだと剣よりも先に部屋の掃除をした方がいいかな」
「あ、それでしたらわたくしがやりますから、リュウさんは手入れの続きをして下さい」
「いや、この程度なら衣玖さんの手を煩わせる程じゃないさ。それよりもお茶を淹れてくれないか? なんか喉が渇いてきて」
「畏まりました。直ぐに用意いたしますので少々お待ちを」
「別に急ぐ必要はないんだが……まぁいいか」
そう言いながら俺は拾った写真をちゃぶ台の上に置いて、掃除道具を取りに行く為に席を立ち上がった。
舞い上がったのが土埃なのを考えると、箒で掃くよりも雑巾で拭いたほうが良いかもしれないな。
そうと決まればバケツと雑巾を探さないといけないが、一体何処に仕舞っていたっけか?
何処に片付けたのか思い出せないまま、とりあえず倉庫の方から探してみる事にした。
オマケ
あの方にお茶の用意を頼まれましたが、お湯が湧くまでの間少々暇になってしまいました。
この間に居間の掃除をすることも出来ますけど、あの方の道具も置いてありますし、下手に弄るよりも現状維持のままにしておいた方が得策でしょう。
しかしそれですと、お湯が沸くまで暇を持て余してしまいますし、何もせずにジッとしてると言うのも個人的に落ち着きません。
他に何かないモノだろうかと周囲を見渡してみると、ちゃぶ台の上にあの方が置いて行ったと思われる一枚の写真がありました。
射命丸さんが撮ったと言う写真が気に為ったわたくしは、あの方に黙って台の上に有る写真を手に取りました。
その写真に写し出されていたのは、本当に楽しそうに笑い合っているリュウさんと霊夢さんでした。
普段と何ら変わらないワンシーンですが、この写真を見ていると胸が締め付けられる。
「……リュウさんってこんな風に笑うんですね」
この写真の様に笑うリュウさんをわたくしは見た事が無い。
あの方が笑わないと言う訳ではありませんが、わたくしに見せてくれる笑顔はこの写真とは何かが違うもの。
もし最初に出逢ったのがわたくしだったのなら、そんな考えが頭に浮んだとき台所の方から甲高い音が聞こえてきた。
その音を聞いて我に返ったわたくしは、手に取った写真をちゃぶ台の上に戻して、慌てて台所の方へと向かいました。
何か良からぬ事を考えていた様な気がしますが、今はそんなこと気にせず仰せ付かった仕事をこなすとしましょう。
そう頭を切り替えてお茶を淹れる作業に戻るものの、胸の苦しみが消えることはありませんでした……。