竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第百十六話 スキマと亡霊の陰謀

 

妖夢Side

 

暦が師走になり年越しの準備で何かと忙しい中、私は主である幽々子様に朝早くから呼び出しを受けた。

本当なら今日は私の宿敵であるリュウさんの所に赴き、今年最後の勝負を挑む心算でしたが……幽々子様に呼ばれたのでは仕方がありませんね。

心の中で呼び出された事に若干の不満を零しながら、私は屋敷にある幽々子様の自室の前までやって来た。

 

「幽々子様。魂魄妖夢、只今参りました」

「入りなさい」

「失礼します」

 

私は目の前の屏風を開け、幽々子様の自室へと入らせていただく。

部屋の真ん中には、幽々子様が上品に正座しておられ、その直ぐ脇には一振りの長刀が置かれている。

あの方の剣術指南役兼庭師としてお仕えいるけど、幽々子様の脇にある長刀を見るのはこれが初めて。

直接拝見させて貰わないと分からないけど、恐らくは何らかの曰く付きの刀と見て良いと思う。

鞘に収められている状態からでもあの刀の存在感は凄く、もしかしたら私の刀よりもずっと凄い物なのかもしれない。

……でも、そんな刀を持ち出して一体如何したというのだろう?

 

「妖夢。入り口に居ないでもっと近くに寄りなさいな」

「あ、はい」

 

幽々子様に言われるがまま、私はあの方の近くにより、礼儀正しく正座する。

私が座ると幽々子様は脇に置いてある刀を持ち、それを何も言わず私に差し出してきた。

私は幽々子様の意図が分からず、差し出された刀と主人を交互に見比べてしまう。

 

「あの…幽々子様、この刀は一体……」

「この『斬馬刀』は、その昔に龍を斬ったと言う逸話が残り刀よ」

「なんと……」

 

私は幽々子様の話を聞いて、思わずあの方が差し出している刀を凝視してしまう。

一目見たときから何らかの曰くつきだとは思っていたけど、まさか龍を斬った刀だとは思いもしなかった。

幽々子様がコレを何処で手に入れたのか気になるけど、この刀が有れば私はあの人に勝てるのだろうか……。

 

「……………」

「妖夢」

「あ、はい。なんでしょう、幽々子様」

「この刀を貴女に託します。大事に使いなさい」

「……えっ?」

 

私は一瞬、幽々子様が何を言っているのか理解出来ず、思わずあの方の顔を見上げてしまった。

だけど幽々子様はそんな私など気にも留めず、そっと私の手を取ってその長刀を握らせてきた。

手の中で長刀のズッシリとした重さが伝わり、この刀を握っているんだと言う実感が湧いてくる。

……だけども、如何して幽々子様はこの刀を私に託して下さるのだろう? ご自身で使わないにしろ、私に託す意味なんて何処にもない筈なのに。

 

「話は以上です。下がりなさい、妖夢」

「……一つだけ質問をしても宜しいでしょうか」

「何かしら?」

「如何してこの刀を私に託してくださるのですか? 私には『楼観剣』と『白楼剣』がありますので、別に新しい刀が必要と言う訳では……」

「確かに貴女には二つの刀があるわね。……でも、その二つを使って彼に勝てたのかしら」

「そ、それは……」

 

幽々子様に手厳しい事を言われ、私は何も言い返すことが出来なかった。

リュウさんと戦うようになってから勝負を挑んだものの、今まで一度たりとも彼に勝てた試しがない。

追い詰める事は出来ても、後一歩と言う所で逆転され、幾度と無く苦汁を舐めさせられてきた。

何度も〝火力がもっと有れば〟と悔やみ、筋力を上げようかと思い悩んだ事もある。

……でも私は、祖父から教わった戦い方を捨てる事ができず、結局は何時もと同じ戦法で挑み続けた。

 

「貴女が二つの剣と、妖忌から学んだ事を大切にしているのは知ってるわ。……だけど、それだけでは彼に勝つことは出来ないわ」

「ですが、幽々子様。私は……ッ!」

「妖夢。……貴女は武器を選ばずに勝てるほどの達人なのかしら」

「……ッ」

「意地悪と思うかもしれないけど、私はコレ以上思い悩む貴女を見たくないのよ」

「幽々子様……」

 

私は幽々子様のお気持ちに感動し、思わず涙が出てしまいそうになる。

零れそうな涙を押し殺して、私は手の中にある刀をもう一度良く見てみた。

どの様な経緯で、この刀が幽々子様の元に来たのか分からないけど、私がこの方の思いに応える方法はただ一つ。

それは、この斬馬刀を使って今度こそリュウさんに勝つこと。それ以外で幽々子様の気持ちに報いる術などない!

心に強くそう思った私は、服の袖で涙を拭い、顔を上げて幽々子様を見詰める。

 

「幽々子様、この斬馬刀……有り難く頂戴いたします」

「えぇ。…頑張りなさい、妖夢」

「はい! それでは、私はこれで失礼させて頂きます」

「分かったわ」

「では……」

 

私は幽々子様に一礼した後、あの方の自室を出た。

そのまま真っ直ぐに中庭へと赴き、鞘を抜いて頂いたばかりの刀を見てみる。

刀は『楼観剣』と比べるとかなり重いが、光を反射して輝く刀身はあの剣にはない凄みがあった。

龍を斬ったと言うこの刀があの人にどの程度通用するのか分からない。……でも、幽々子様の期待に応える為にも、次の勝負で必ずやリュウさんに勝ってみせる!

 

「まずはこの重さに慣れる所から始めないと。……よっし、頑張るぞ!!」

 

そう言って気合を入れてから、私は刀を握り締めて徐に素振りを始めた。

剣を振り下ろすと言うよりは、剣に振り回されている気もするけど……コレは単純に、私がこの剣を扱い切れていない証拠。

長さ的には、普段使っている楼観剣と大差ないんだし、間合いを修正する必要なんて無いんだ。

今はただこの剣の重さになれないとまともな勝負すら出来そうに無い。

私は自分のそう言い聞かせながら、ただ黙々と刀を振るい続けた。

 

 

妖夢Side out

 

 

 

 

幽々子Side

 

妖夢が私の部屋から出て行くのを見送ると、今度は目の前にスキマが現われ其処から紫が顔を出した。

何時もの事ですっかり慣れちゃったけど、相変わらず見計らったかのように姿を表すのね。

 

「はぁい、幽々子。貴女の従者はちゃんと刀を受け取った?」

「えぇ、ちゃんと受け取ってくれたわよ」

 

妖夢が刀を受け取った事を伝えると、紫は悪戯が成功した時の子供の様な笑顔を見せる。

 

「それは良かったわ。……コレでちゃんとした賭けが成立しそうね」

「まだ近くに居るかもしれないんだから、そう言う事は口にしないで頂戴」

「大丈夫よ。幽々子に応援されたのが嬉しくて、珍しく上機嫌みたいだから」

「覗き見なんて趣味が悪いわよ」

「私が覗いてたの知っていたじゃないの」

「あら、何のことかしら?」

「またまたすっ呆けちゃって」

 

紫は微笑みながら問いかけてくるけど、此処は何時も通り誤魔化させて貰いましょう。

ウチの庭師を賭けの対象にしてるのだし、この位の誤魔化しは見逃してもらいたいものね。

 

「ところで紫。彼の方はどうなっているのかしら?」

「相変わらず霊夢と仲睦まじくしていたわ」

「そうじゃなくて、今回の賭けを教えてあるのかって事」

「教えてるわけ無いじゃない。そんな事をしたら霊夢が五月蝿いに決まってるし」

「……それもそうね」

 

私は紫が言って来た一言を聞いて、思わず納得してしまった。

あの紅白巫女が、最愛の彼と私の妖夢の勝負をごく一部で賭けの対象にされているなんて知ったら、どんな行動に出るのか分かったもんじゃないわ。

最悪の場合、本気になった巫女が私達に襲い掛かってくる……なんて事もありそうね。

 

「とにかく、霊夢と妖夢、それと竜神さんにはこの事を教えちゃ駄目よ」

「えぇ、分かったわ」

「それで幽々子はドッチに賭ける? やっぱり妖夢かしら?」

「当たり前じゃない。何時までも負け続けてるあの子じゃないわ」

 

何時もの様に妖夢の勝利に賭けると、紫は私の事を哀れむような眼差して見てくる。

正直な話し、そんな眼差しを向けられるのはいい気分じゃないけど、あの子の今までの戦績を考えると哀れに思われても仕方が無いわね。

 

「……こう言ったら悪いけど、妖夢の勝利はかなりの大穴よ」

「なら、あの子が勝ったら凄い事に為りそうね」

「今の倍率なら…………大体10倍ってところかしらね」

「それなら私は、妖夢の勝利に十万ほど賭けさせてもらうわ」

 

そう言って私は懐から茶封筒を取り出し、その袋を紫に差し出した。

袋を受け取った紫は、中に入っているお金を数えた後、感心した様な呆れた様な顔で私を見てきた。

 

「また大きく出たわね~」

「この位しないと面白くないじゃないの」

「確かにね。……だったら私は、引き分けに十万を賭け様かしら」

「ソッチの方が大穴じゃないの?」

「妖夢の勝利ほどじゃないわよ」

「あら、皆ひどいのね」

 

紫の話を聞いて、賭けの参加者からの評価がどれだけ低いのかが良く分かる。

確かに今までの戦いで全敗している妖夢だけど、今回はあの剣を授けてあるからそう簡単に負けはしない。

その為に態々紫に頼んで、あの剣を探して来てもらったのだから、今回ばかりは頑張って貰わないと。

 

「ふふっ。次の試合で皆の驚く顔が眼に浮ぶわ」

「自信満々なのは良いけど、本当に勝てるのかは分からないわよ」

「大丈夫よ、あの子はやれば出来る子だもの」

「……親馬鹿よねぇ」

「別に良いじゃない」

 

幽々子Side out

 

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