竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第百十八話 神々の宴会

 

「お主達、今晩は暇か?」

 

火燵に手足を入れて霊夢と二人温もりを甘受していると、突然やって来た龍神の奴がへんな事を聞いてきた。

今日はこのままダラダラ過ごそうと思っていたから、暇と言えば暇ではあるが……なんとなくめんどくさそうな気がする。

大晦日や正月が終わって一段落着いた頃なんだし、今日くらいはこのままダラダラさせて欲しいもんだ。

そう思った俺は、まともに話しを聞くのも面倒なんで、適当な事を言って断る事に決めた。

 

「…いや、夜は寝るのに忙しいから暇じゃない」

「そうよね。人間、惰眠は大事よね」

 

霊夢も同じ様に面倒に思ったのか、俺の話に便乗して龍神の申し出を断ろうとする。

そんな俺達を見かねたのか、龍神は呆れたといわんばかりの溜息を付く。

 

「お主等なぁ……莫迦な事を言うとらんで話を聞け。今晩、妾の知り合いを集めて宴会を開くからお主達も参加せい」

「たっちゃんの知り合いって言うと……龍の一族くらいしか思いつかないわね」

「もしくは、俺と一緒に放浪してる時に知り合った神様くらいか」

「「……どっちにしてもめんどい」」

「お主等なぁ……」

 

俺と霊夢は適当な事を言って有耶無耶にしようとしたが、結局は龍神に押し切られて宴会に参加する事になった。

会場までは龍神が連れて行ってくれるらしいが、他の参加者が参加者なだけに服装はちゃんとした物を着て来いと念押してくる。

只の宴会に服装が如何こうと言われたくないし、礼服なんて一着も持って無いから何時もの服で参加するとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

宴会に来て行く服を準備していたら、気がつくと日も傾き辺りがすっかり暗くなっていた。

まだ時刻は午後の四時頃ではあるが、季節は冬と言う事もあって日が落ちるのがかなり早い。

日が落ちるのに合わせて気温も一気に下がるから、寒いのが嫌いな俺にとっては何かと辛い時期でもあるんだよな。

 

「さて、後は龍神が来るのを待つだけなんだが……アイツ、何時頃来るんだ?」

「さぁ? 今晩宴会を開くって事しか聞いてないもの。何時来るのかなんて知らないわよ」

「強制参加させるなら、何時頃来るのかも教えて欲しいもんだけどな」

「その事を教えたら、リュウに逃げられるとでも思ったんじゃないの」

「んなアホな」

 

霊夢と他愛の無い話をしながら龍神が来るのを待っていると、薄く雪が積もった裏庭に何の前触れもなく八角形の陣が描かれ始めた。

余りにも突然の出来事に居間から様子を窺っていると、描かれた陣から嫌味に為らない程度に着飾った龍神が姿を現す。

普段はもっとフランクな格好をしている龍神だが、今回は珍しい事に上質そうな生地の服に煌びやかな小物まで身に着けている。

何時もの龍神からは考えられない服装だが、見た目が幼いから服装が良くなっても何時もと大差ないように見えるな。

 

「またせたな、二人共。服装の方は……大方予想通りじゃったが、霊夢はもう少しなんとかならんのか?」

「巫女をやっている私が、たっちゃんみたいに煌びやかな小物を持っているわけ無いでしょ」

「それもそうじゃの。第一、アヤツ等の元に行くのに変に着飾っても失礼に当たるじゃろうしな」

「だったら着飾れなんて言わなくても良かっただろ」

「これから飲む連中が連中じゃからな。普段通りの格好と言うのも問題が有るんじゃよ」

「それなら今からでも礼服を買いに行くか? 俺はこういう服しか持って無いし」

「別にお主は問題ないとしても、霊夢は少々小物を身につけてみるか?」

「別にいいわよ。そう言うのを着ける趣味も無いしね」

「そうか。ならば直ぐに向かうぞ、アヤツ等の事だから痺れを切らして先に始めておる筈じゃからな」

 

言いたい事をいうと龍神は、俺達に向かって手招きをして陣の中に入るように催促してくる。

俺と霊夢は促されるまま陣の中に入ると、八角形の陣から突然光が溢れ出して俺達の視界を遮る。

眩い光に包まれて少しの間目が眩むが、それも徐々に治っていき少しずつ視界がはっきりしてきた。

眩んでいた目も漸く治り、何が起こったのか確認しようと周囲を見渡してみると、其処はさっきまで居た神社の裏庭ではなく、雪一つ積もっていない何処かの平原だった。

今は一月の末で、雪が降っていてもおかしくないのだが、この場所は不思議な事に春の様に暖かな空気に満たされている。

まるで時間が止まっている様な不思議な空間だが、俺は前にも此処に来た事がある様な……そんな気がして為らない。

いや、遥か昔に龍神と一緒に世界中を旅していたのだから、その時にこの場所に立ち寄っていた可能性は十分にある。

その時の記憶が薄らぼんやりと残っているのなら、この場所に来た事があると思っても不思議じゃないか。

 

「ちょっとたっちゃん、此処はいったい何処なのよ? 幻想郷じゃないみたいだけど……」

「確かに幻想郷ではないが、地球から出たと言う訳でもない。一言で言って仕舞えば……天界の僻地と言ったところかのぉ」

「天界の僻地って……私達を何処に連れてきてるのよ」

「じゃから宴会会場じゃよ。文句を言うとらんで黙って妾について来い」

 

そう言うと龍神は何処かへと向かって歩き出し、俺と霊夢は首を傾げつつも彼女の後をついて行く。

龍神は何も言わずドンドン先に進んで行くと、前の方に何故か昼間の様に明るい場所が見えてきた。

だが、空を見上げてみれば夜の帳が下りて、雲一つ無い空には満天の星が輝き始めている。

幾ら此処が天界の僻地だといっても、あの一角だけ昼間の様に明るいというのは幾らなんでもおかしい。

宴会の為に灯りを用意しているんだろうが、あそこまで明るく燈せる灯りなんて存在しない筈だがな。

 

「龍神、あの灯りは一体なんだ? 幾らなんでも明るすぎるだろ」

「誰かが光を操っておるのじゃろ。別に気にするほどの事でもないわ」

 

龍神にはぐらかされて、結局分からず仕舞いのままその場所に辿り着くと、不思議な事にその場所に灯りの様な物は一切置かれていなかった。

其処のおかれていた物は、幻想郷では余りお目にかかることの無い豪華な料理に、大きな樽に入れられた酒と思われる液体。

それ等を囲んで食べたり呑んだりしているのは、人ではなく俺を忌み嫌っている筈の神族の連中だった。

太陽を思わせる頭飾りを着けた気品溢れる女神に、四つの腕に青黒い肌をした民族衣装を着た野性味溢れる男の神。

その男の神に寄り添う女神も居れば、青い龍に赤い鳥、白い虎に黒い亀なんかもこの場で呑んでいる。

コイツ等以外の神も来ているが、全員に共通して言える事は、俺が来ても驚いたり逃げ出したりしないと言う事だ。

集っている面子の異常さに隣りにいる霊夢も驚いていると、龍神が慣れ親しんだ様子で飲み食いしている神々に話しかけた。

 

「待たせたな皆の者。やっと竜とその嫁を連れてきたぞ」

《遅かったですね龍人。皆、貴女達が到着するのを待っていたのですよ》

「すまんな天照。じゃが、そう言うのなら妾達が来るまで待っていても良いではないか」

(わたくし)は兎も角、他の方がこれだけの料理を前に待っているとお思いですか?》

「……それもそうじゃな。どいつもこいつもこらえ性が無いしのぉ」

 

龍神は如何考えても失礼な発言をするが、その事を咎めるものはこの場には誰も居ない。

それが分かっているからか龍神も訂正せず、そのまま天照と呼ばれた女神の隣の席に座り込んだ。

俺と霊夢はこの状況に如何したもんかと頭を悩ませていると、俺達の方を振り向いた天照が微笑みながら話しかけてきた。

 

《お久し振りです……と言っても、竜は何も覚えていないのでしたね。では、改めて自己紹介を。私の名は『天照大御神(あまてらすおおみかみ)』、知っての通り高天原を統べ、太陽を司る者です。気軽に〝天照〟とでもお呼び下さい》

「「……………」」

 

天照と名乗った女神は丁寧な自己紹介をしてくるが、俺と霊夢は思わず目を丸くして呆然としてしまった。

まさかこんな所で天照と会えるとは思ってなかったし、神々が住む高天原を統べる者に此処まで丁寧な挨拶をされれば呆然としちまうよな。

 

《ん? 如何かしましたかお二人共?》

「……あぁいや、余りにも丁寧な挨拶だから驚いちまって。……知ってるだろうが、俺の名前は『リュウ』。それでこっちが―――」

「―――『博麗 霊夢』よ。……まさか主神に面と向かって会う日が来るとは思ってみなかった」

《まぁ本来でしたら声を聞くことはあっても、この様な場で会う事などないでしょうね》

 

そう言って天照が上品に笑うと、彼女につられて俺と霊夢にも笑みが零れ、不思議と肩の力が抜けた。

俺と霊夢は彼女の近くの場所に腰を下ろし、何時から始まったのか分からない神々の宴会に参加する事にする。

余っている杯を二つ手に取った俺は、樽の上に置かれている錫を使って中に入っている酒を注いで片方を霊夢に渡した。

龍神の奴は俺達よりも先に酒を注いでいて、既に何杯目なのかも分からない位に呑んでいる。

余りのハイペースっぷりに呆れていると、天照が自分が使っている杯を俺達の方に向けてきた。

彼女の意図を察した俺は、自分の持っている杯を彼女の杯に軽くぶつけて乾杯をすると、天照は霊夢の方にも杯を向け彼女とも乾杯をした。

 

《……しかし、こうして竜と乾杯するなど一体何年ぶりなのでしょうね》

「あ~……最後に竜を交えての宴会が何時だったのか覚えておらんが、少なくとも数百年以上は経っておる筈じゃぞ」

《そうなのですか。道理で彼との乾杯が懐かしく感じられるわけです……》

 

天照は感慨深そうに小さな声で洩らすが、俺としては以前もこの場に居た方のが驚きだ。

 

「……この面子の中に以前の俺が居たなんてとても信じられんな」

「閻魔を殺そうとするような奴だもんね。この中で普通に酒を飲んでいる光景が思い浮かばないわ」

《今度はその様な事をしていたのですか? ……まぁ、以前と比べれば大分大人しいですし、別に良いのですが》

「ちょっと待て天照。その口ぶりだと以前はもっと酷い事をしたみたいに聞こえるぞ」

《してましたよ? なんでしたら語って差し上げましょうか、聞くも涙語るも涙な大椿事を》

「大椿事って一体なんだよ! てか、そんなもん語らんで良いわ!!」

 

俺が大声を挙げて天照を止めようとすると、龍神の奴が物凄く悪そうな笑みを浮かべてきやがった。

 

「いやいや、折角竜が妾達の輪に戻ってきたのじゃ。昔を懐かしむ序でに今宵は語り明かそうではないか。なぁ霊夢、お主も聞きたいじゃろ?」

「……そうね。たっちゃん以外の奴から聞くリュウの昔話ってのも悪くないかも」

「霊夢、お前もか!!」

「だって面白そうだし、酒のツマミにはもってこいじゃないの」

「笑い者にされる俺の身にも為って見やがれってんだ!!」

《竜の抗議は置いておくとしまして……。僭越ながら一番手は私、天照が行かせて頂きます》

 

天照がそう言って名乗り挙げると、耳ざとく聞いていた連中から一斉に拍手が巻き起こった。

流石にイラっときた俺が周りの連中を睨み付けると、関係ないと言わんばかりに更に大きな拍手が巻き起こる。

拍手が巻き起こるだけでも腹が立つってのに、拍手をしてる奴の顔が例外なく龍神と同じ笑みを浮かべてるってのが余計に腹立つ。

そんな俺の気持ちなどとは関係なく、天照は瞼を閉じて昔を懐かしむ様に語り始めた。

内容としては前に龍神から聞いたのと大差ないが、彼女の視点から語れると言う事もあって当時の気持ちなんかも話してくれる。

出逢った当初は、滅茶苦茶に暴れる俺に好い感情を持って無かったとか、傷付き倒れていく同胞を見て何度涙で枕を濡らしただとか、手加減して欲しいと頼んだのに全力で暴れる俺を見て卒倒しそうになったとか、大体はそんな感じの事だ。

天照が話せば話すほど周りの視線が痛くなり、そんな視線を向けられる度に肩身が狭くなり、物凄く申し訳ない気持ちで一杯に為ってくる。

 

《当時の彼は暴れん坊の弟が可愛く見える位に酷かったです……》

「でもそれだと、如何して天照が今この場にいて一緒にお酒を飲んでいるのか謎ね。話を聞く限りだと当時は嫌いだったんでしょ?」

「妾もそれが謎じゃったんじゃよ。気が付いたらお主と一緒に酒を飲むようになっておったし」

《そうですね、当時の私は他の神同様に彼の事を嫌っていました。……ですが、ある事件を切欠に竜に好意を向けるようになったのです》

「ある事件?」

 

霊夢は首を傾げながら尋ねると、周りの神々からも興味深そうな視線が天照に向けられた。

天照は周りの連中を見渡した後、一呼吸置いてからその事件に付いて語り始めた。

 

《……霊夢は知っていますね? 私が年に一度『天香香背男命(あめのかがせお)』を討伐している事を》

「そりゃまぁ、毎年天照が勝てるように儀式を執り行っているし、その位は知ってるけど」

《その討伐に私は一度失敗しそうになった事があるのです》

「……えっ?」

 

信じられないとばかりに驚く霊夢を他所に天照が語り始めたのは、一年の終わりと始まりの間で行われる星神との戦い。

太陽神である彼女に最後まで抵抗し、夜が終わっても輝き続けようとする明けの明星を懲らしめようと戦いを挑んだ天照だが、当時儀式を執り行った巫女が失敗し、天香香背男命の力を封じ切る事が出来なかった時があったらしい。

夜が明けても明星が輝き続けていると闇の年になってしまう為、儀式の失敗などで臆すわけにも行かず天照はそのまま戦いを挑んだそうだが、そのまま戦いに敗れてしまい闇の年を迎えようとしていた。

天照は闇の年が来るのを食い止めるべく、傷付いた身体のままもう一度戦いを挑もうとした時、空間を引き裂いて白い竜が二柱の神の間に割って入ったそうだ。

 

「……それが当時のリュウだったって訳?」

《はい。彼の姿を何度か見た事のありましたから、その竜が何者なのか直ぐに検討が付きました》

 

戦いに割って入ってきた竜に、天照は傷付いた身体のまま〝何しに来たのですか〟と睨み付けたそうだ。

白い竜は天照を見る事無く、目の前に居る天香香背男命を見据えたまま〝お前に死なれたら困る〟と呟くと、それ以上は何も言わずに星神に戦いを挑んだ。

結果は語らずとも分かる通り白い竜の圧勝、星神は命かながらにその場から逃げ果せたと言う。

戦いが終わった後、天照は何故助けたのか尋ねたそうだが、白い竜は一言〝言っただろ、死なれたら困ると〟だけ言い残して去って行ったそうだ。

 

「物凄く当時の竜らしい行動じゃな。余り多くを語らず行動だけ示す辺りが特に」

《流石にそれだけで心許す事は出来ませんでしたが、死した人々の怨念から生まれた悪霊や、呼び出してはならない魔物などを討伐する姿を見て考えが変わっていきました。もしかしたら彼は、神を滅ぼす為に生まれたのではなく、世界に仇名すモノを討つ為に生まれたのではないかと》

「……世界を仇名すモノを討つ為に生まれた竜神か。確かにそう言われたら、リュウの出鱈目な強さも納得出来るわね」

《私がその様に考えても他の神々は聞く耳を持たず、本人も黙して何も語ろうとはしませんでした。……ですから私は直接彼と語らう事でその真意を知ろうとし、こうしてお酒を飲み交わす様になった訳です。……私の話はコレで終わりです。皆さん、長いお話に付き合って頂き有り難う御座います》

 

天照が最後にそう言って話を締め括ると、語り始めた頃と同じかそれ以上の拍手が巻き起こった。

俺も他の連中に釣られて一緒に拍手をするが、自分の昔話を聞かされて拍手をするなんておかしな話だな。

 

「それで天照、結局アンタは当時のリュウの真意を知る事は出来たの?」

《いいえ。彼から真意を聞く前に姿を消してしまいましたから、分からず仕舞いのまま現在に至っています》

「なぁ~んだ、当時のリュウの気持ちを知る良い機会だと思ったのに」

《ふふっ。その事を知る事が出来る者が居るのだとしたら、それはきっと私ではなく、霊夢、貴女だと思いますよ》

「私よりも付き合いの長い神様が知る事が出来なかったって言うのに?」

《貴女はこの場に居る誰よりも竜の傍に居る。きっと忘却の彼方に追い遣られた使命も呼び起こす事が出来るでしょう。……それだけの絆を貴女方は紡いできたのでしょう?》

 

天照が柔らかな笑みを浮かべながら言うと、霊夢は少し顔を赤くして恥かしそうにする。

 

「た、確かにそうだけど……他人から言われるとちょっと恥かしいわね」

「なぁ~に柄にも無く恥かしがっておるんじゃ。何時もの霊夢らしくも無い」

「うっさいわね。そんな事よりも、折角の機会なんだし他の奴もリュウとの思い出話を聞かせてよ」

《ならば、二番手は同じ龍族である俺が勤めるとしよう》

 

そう言って今度は青い鱗の龍があまり聞きたくも無い昔話を語り始める。

この調子だと全員が語り終わるまで続きそうだなと、いい加減諦めの境地にまで達し始めていた。

ワイワイと話が盛り上がっている中、俺は自分の昔話を聞き流しながら空になった杯に新たに酒を注ぐ。

並べられている料理をツマミながら酒を飲んでいると、隣りに居る天照が周りに聞こえない様な小声で話しかけてきた。

 

《如何したのですか竜。何処か諦めにも似た表情をしていますよ》

「……記憶に無いのに自分の恥を語られたら、誰だってこうなると思うぞ」

《それは過去の貴方の言動に問題があったからとしか言いようが有りませんね》

「実際にその通りなんだろうから何も言えねぇんだよ」

 

不貞腐れながらそう言って杯を注いだ酒を一気に煽って飲み干す。

そして次の酒を呑もうと錫を手にすると、天照が満面の笑みで俺に空の杯を差し出してきた。

俺は溜息を一つ吐いた後、彼女の持っている杯を取って、彼女の分の酒を注いでやる。

 

《ふふっ。本当に変わりましたね竜。昔でしたら〝自分で注げ〟と一蹴しますのに》

「アンタには色々と迷惑を掛けたみたいだからな。この位しても罰は当たらんだろ」

《神でも裁けない貴方に罰を与える事など出来るわけないじゃないですか》

「さらっとトンでもない発言をするな。流石に今のは俺でも耳を疑うぞ」

《閻魔の一人を瀕死にまで追い込んだのは何処の誰でしたか?》

「……アーサケガウマイ」

《そこで誤魔化しますか……》

 

天照が呆れて溜息を吐くが、俺はそんな事など気にせずに酒と料理を飲み食いする。

そんな俺を見た天照は、それ以上何か言おうともせず静かに酒を飲み、青い龍の話に耳を傾けた。

 

「……そういや、一つ聞きたい事があったんだけどよ。此処っていったい何処なんだ? 龍神の奴は天界の僻地としか教えてくれなかったが」

《その認識でも間違いでは有りませんが、正確に言えばこの地はどの世界にも属さない特別な場所でもあります》

「特別な場所? それなら此処は天界じゃないって言うのか?」

《いえ、場所で言えば確かに天界の一角になるのですが、此処には強力な結界が施されおり、普通では辿り着く事のできない隔絶された空間なのです》

「隔絶された空間……って事は、ある意味では幻想郷と同じって訳か」

《あの地は懸念的な結界で護られていますが、此処は物理的にも懸念的にも突破出来ない結界が施されています。この地に来る事の出来るのは、龍人が編み出した転移術を使える者だけです》

 

天照の口から語られた話を聞いて、この地に張られた結界の強固さに思わず引いてしまう。

 

「ず、随分と厳重な結界みたいだが、なんだって其処まで強固な結界を張ってるんだ?」

《龍人曰く、この地は貴方が光臨した場所だからだそうです》

「……此処に俺が」

《はい。……恐らく彼女は、この地を天人に渡したくないと思い、強固な結界で包み込んで護る事にしたのでしょう》

 

天照に教えてもらい、改めて周囲を見渡してみるが……懐かしいと感じるばかりで、本当に此処に降り立ったのかは思い出せない。

でも、古くからの付き合いである龍神が結界を張って護ろうとする以上、きっと此処には特別な思い入れがあるんだろう。

恐らくは俺にも関係のある事なんだろうが、全く思い出すことも出来ないと言うのも歯痒いものだな。

 

「…アイツが其処までして護ろうとする場所なら、よっぽど大切な思い出が此処に在るんだろうな」

《そうなのでしょうが、それは貴方にとっても同じだと思います。この地で何度と無く皆で語り合い、朝まで飲み明かしていたのですから、貴方にとっても大切な場所ですよ》

「……そう、なんだろうな。この場所に来て一番最初に感じたのは〝懐かしい〟って気持ちだったしな」

《ですから竜、貴方にこの言葉を贈らせて下さい……》

 

そう言って天照は満面の笑みを俺に向けて―――

 

《お帰りなさい、竜。また貴方にお会いする事ができて嬉しく思います》

 

―――万感の想いが込められた言葉と共に、天照は俺の帰りを迎えてくれた。

沢山の思いが込められた言葉に戸惑いはしたが、俺も自分なりに精一杯の笑顔を彼女に向けた。

 

「ただいま、天照。また迷惑掛けることになるが、そのときは宜しく頼む」

《迷惑は勘弁して貰いたいですが、竜ですし仕方が無いですよね》

 

天照が呆れたように呟くと、俺達は二人して小さく微笑んだ後、もう一度乾杯をした。

 




この回を見るとリュウもそんなに嫌われていないように見えますが、それはちょっとした誤解です。
リュウの事を気に入っている神様は十数柱程度で、神道の神様だけを見ると本当に数える程度しかいません。
世界全体で見るとリュウを嫌っている神様の方が多く、こうして一緒に飲んでいる方が少数派。
リュウが山で釣りをするときは近くに居る神様は全力でその場から離れる。その位にリュウは神々から畏れられているんです。

あと、天照がたっちゃんの事を〝龍人〟と呼んでいましたが、これは誤字ではありませんのであしからず。
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