竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第百二十四話 神社に居座る吸血鬼

 

フランが暴走した日から数日が経った。

屋敷は修復が必要なほどに壊れ、住人達の大半は治療が必要な為に今は永遠亭に入院している。

レミリアと門番の怪我は比較的マシな部類に入るが、咲夜とパチュリーは重傷を負っていた。

咲夜は全身の骨に皹が入っている上に、無茶な戦いを繰り広げた為に全身筋肉痛になって一歩も動けずにいて、パチュリーは元々身体が弱いのにフランの攻撃を受けたらしく、永琳から全治二ヶ月が言い渡され今でも入院している。

これだけの怪我人を出して、更に変身した俺の攻撃を受けたフランはと言うと―――

 

「よし、今度はポーカーで勝負!!」

「その手の勝負じゃ私には勝てないって言ってるのに、諦めの悪い子ねぇ」

「勝つまでは絶対に諦めない!」

 

―――博麗神社に居座って、暢気に霊夢相手にカード勝負を申し込んでいる。

本人が一番重症になっていても良い筈なんだが、どう言う訳か戦闘のあった翌日にはすっかり回復していた。

同じ吸血鬼である筈のレミリアは回復してないのに、フランは紅魔館の住人の中で誰よりも早く動き回れるようになっていた。

戦い終わった後でも普通に動いていたが、それでも多少の痛みや疲れを訴えていたんだが……一体どうなってんだか。

 

「う~む……」

「ん? なに難しい顔をしてるのリュウ。それよりもフランと一緒に遊ぼうよ!」

 

俺なりに色々と考え事をしていると、フランが構って欲しそうな顔で声を掛けてくる。

フランの事を考えているって言うのに、当の本人がこれだけ気楽そうにしていると、アレコレ考えている自分が馬鹿らしくなってくる。

 

「…そうだな。こうして難しい事を考えるのは俺の性に合って無いし、気楽に過ごしてる方が俺らしいか」

「そうそう! だから早くリュウもコッチに来てよ!」

「はいはいっと」

 

適当な返事をしながら俺は誘われるがまま、フランと霊夢が遊んでいる輪の中に加わった。

俺が席に着くとフランは慣れた様子でカードを切り、満遍なく切ったところで俺達に上から順にカードを五枚渡してくる。

 

「あ、先に言っておくけど交換は一回だけね」

「一回って……せめて二回にしてくれないか?」

「駄目! 絶対に一回! そうでもしないと霊夢が勝つ確立が上がっちゃうもん!」

「……おい、霊夢。お前の引きはどうなってるんだよ」

「そんなの私が知るわけ無いじゃない。私は普通に楽しんでるだけよ」

 

シレっと言ってくる霊夢に呆れて小さな溜息を吐くつつ、俺は渡されたカードを手に取って中身を確認する。

俺の手元に来たカードは数字こそバラバラだが、同じ柄で揃っているのが三枚も手札にきていた。

この状態から完成させられる役は……フラッシュ辺りが一番簡単に揃えられるか。

カードが揃えばストレートフラッシュも狙えるけど、流石に揃うとは思えないし捨てるカードは同じだから余り関係ないか。

そう考えた俺は不揃いの柄を二枚捨てて、山札から新たに二枚のカードを手札に加えた。

新たに加えたカードでは数字が合わないけど、なんとかフラッシュの形にまで持ってくることが出来た。

他の二人もカードを交換し終え、後はお互いの手札を見せて役の優劣を決めるだけとなった。

 

「二人とも交換は終わったよね? それじゃ……コール!」

 

フランの掛け声と同時に俺達は自分の手札を相手に見えるように晒した。

俺が出来た役はスペードのフラッシュだが、フランはダイアとクローバーのフルハウス。

この時点で俺の負けが確定したんだが……問題なのは霊夢が完成させた役だ。

俺とフランは当たり障りのない役なのに、コイツだけ何故かハートのストレートフラッシュを完成させていた。

しかも揃っている数字が『9』・『10』・『J』・『Q』・『K』と言う、一枚だけ数字を変えればRストレートフラッシュもいけた組み合わせだ。

 

「……おいこら霊夢。お前の役はどうなってるんだ」

「そんな事を言われてもねぇ~。揃っちゃうんだから仕方が無いんじゃない?」

「確かにそうなんだけどな、いきなりストレートフラッシュを揃えられるとは思わないだろ」

「うぅ~……また霊夢に負けた……。でも、私は諦めない! と言う事でもう一回勝負!!」

 

そう言ってフランが仕切りなおすと、二人してカードを俺に押し付けてくる。

如何やら一番弱い役を作った奴がカードを配るルールらしく、何も言わずカードを押し付けてきたのはその為だろう。

何も聞かされてなかったし、せめて一言くらい言えと文句を言いたかったが、負けた事に代わりは無いし此処は大人しくカードを切る事にした。

カードの束を何度も満遍なく切り、何度か繰り返したところで一番上からカードを配っていく。

そして残ったカードを真ん中辺りにおいて、自分用に配ったカードを手に取って中身を確認する。

今度のカードはツーペアが出来ているが、こんな役じゃ弱すぎて二人に勝てる気がしない。

此処はフルハウス狙いで使い道のない一枚を交換する事にしたが、新しく引いたカードも今捨てたのと大差ないカードだった。

 

「こ、これはまた……」

「ん? 如何したのよリュウ? 私もフランは何時でも良いわよ」

「あ~そう。…それじゃコール」

 

俺がやる気なく掛け声を掛けて手札を晒すと、二人も直ぐに自分の手札を晒してきた。

予想通り俺の役が一番低く、霊夢が完成させた役が一番高い役となっていた。

今回霊夢が作った役はフォーカードだが、さっきの役に比べればまだ可愛げのある役だ。

初手がワンペアだけだったとしても、カードを交換したときにフォーカードに出来るからな。

 

「また私の勝ちだけど……アンタも運がないわね。ツーペア止まりなんて」

「フルハウスを狙おうとした結果がコレだよ。これならワンペア残しで賭けに出ればよかった」

「あ、あれ? 二人共フランの役には何の反応もないの?」

「「スリーカードなんて普通すぎてつい……」」

「二人して酷い! これでもなんとか揃ったのに!!」

「霊夢、そろそろ昼食にしないか? 俺は腹が減ってきた」

「そうね……日も高くなって来たし、そろそろお昼にしましょうか」

「二人してスルーしないでよ……」

「あはははは。すまん」

 

スルーされて落ち込んでいるフランを慰めつつ、俺達はお昼休憩を兼ねてゲームを中断する事にした。

席を立ち上がった霊夢は昼食を作るために台所に引っ込み、俺は昼食ができるまでの間フランの相手をする事になった。

無視された事に色々と文句を言ってくるけど、膝の上に座らせてやったら意外と直ぐに機嫌を治してくれた。

膝の上に座っただけで機嫌が治るなんて手軽だなぁっと思いつつ、フランの話し相手をしながら霊夢が昼食を作り終わるのを待つのだった。

 

 

 

 

 

………

……

 

三人で昼食を食べ終わり、食休みを兼ねて居間でノンビリを過ごしていた時、俺は最近フランが血を飲んでいないと言う事を思い出した。

別に一日二日くらいなら飲まなくても平気かもしれないが、フランは神社に居座るようになってからずっと血を飲んでいない。

一応門番からフラン用の血袋を貰っているけど、アレが開封された痕跡が今まで一度もない。

俺達に隠れて飲んでいる……って訳でもないし、そろそろ血を飲まないと不味いんじゃないのか?

 

「なぁ、フラン。最近血を飲んでないみたいだが、身体は大丈夫なのか?」

「ん~……なんかよく分からないけど、血を飲みたいって思わないんだよねぇ~。飲まなくても霊夢のご飯でお腹も満たされるし、別にいっかなぁって思ってた」

「吸血鬼なのに血を飲まないなんて、幾らなんでも変でしょ。私達に気を遣ってるなら別に気にしなくてもいいわよ」

「そう言う事じゃないんだけど……。大体、吸血鬼(わたし)が昼間から活動してるのも変じゃない?」

「「……物凄く今更過ぎて全く気が付かなかった」」

 

フランに言われて思い出したが、確か吸血鬼って日光とかが駄目なんだよな。

姉のレミリアも昼間から活動してる事もあるし、フランは昼間にしか遊びに来ないからすっかり忘れてた。

 

「そう言う事だから、私が吸血鬼らしくないのは今に始まった事じゃないんだよ」

「確かにそうだけど……血を飲まなくなるのはやっぱり変だろ。一度永琳に見てもらったら如何だ?」

「えぇ~私あの人嫌いなんだけどなぁ~」

「嫌いって……変わり者ではあるけど悪い奴じゃないと思うけど?」

「だって診察とか言ってフランの血を抜いてきたんだよ? きっと裏で何かを企んでるんだよ!」

「……自分は他人の血を吸うのに、他人に自分の血を抜かれるのは嫌なんだな」

 

俺はフランの呆れた発言に思わず溜息を吐いてしまった。

レミリアも結構わがままな性格をしているが、フランも変な所で姉と似てるんだな。

 

「永琳が何を考えてるのかは置いておくとして、フランは何時頃から血を飲まなくなったのよ」

「う~ん……やっぱり家で大暴れした後からかな? 血を飲まなくなったし、日光も前ほど気に為らなくなったと思う」

「それって十中八九俺の血で出来た薬が原因だよな」

「考えるまでもなくアンタの血が原因でしょうね」

 

霊夢はあっさりと肯定してきたが、俺は考えたくもない出来ごとに思わず頭を抱えてしまった。

俺の血を飲んだ事で吸血鬼の特徴がなくなってるって事は、フランの身体が吸血鬼から別の物に変化し始めているとも考えられる。

小悪魔の話だと、あの薬は数百倍に希釈されているモノらしいから、結構薄まっている筈なんだが……それでも肉体に変化をもたらす程に強力なのか。

単純に力を高めて暴走させるだけの薬かと思っていたが、アレは俺の思っている以上に厄介な薬だったみたいだ。

フランほどの吸血鬼が血に侵食されて竜化してしまったら、最悪の場合幻想郷を滅ぼしかねない邪竜が誕生しちまうじゃねぇか。

そうなってしまったら、俺と霊夢で竜化したフランを倒さなくちゃいけなくなる。

今の状態でさえ八雲の奴が何を言ってくるか分からないんだ、なんとしても完全な竜化だけは阻止しないとな……。

 

「原材料を渡した俺が言うのもなんだが、アイツは一体何を作ってるんだよ……」

「別にアンタが気にする事でもないでしょ。本人だってこんな薬を作りたくて作った訳じゃないでしょうし」

「確かにその通りかもしれないけど、その子の身体が変化し始めた事に関しては別問題よ」

 

霊夢の励ましを無碍にする様な言が聞こえたと思ったら、俺達のいる居間に一つのスキマが開き、其処から八雲の奴が顔を覗かせてきた。

 

「お久し振りね二人とも。私が今日きた理由は……言わなくても分かってるでしょ?」

「今の話の流れで大体の察しは付くが、なんだってお前が出張って来るんだよ。こう言うのは医者の仕事じゃないのか?」

「その医者では対応出来なさそうだから、私が直接出張る事にしたのよ。貴方ほどじゃないけど、その子の能力も結構危険ですからね」

「……あっそう」

 

俺は相変わらずの八雲の対応に呆れるが、本人は俺の事など気にせずフランの事を観察し始める。

八雲の舐め回すような視線が恐かったのか、フランは直ぐ傍にいた霊夢の背中に隠れてしまう。

だが、八雲はフランが霊夢の背中に隠れても、居間に別のスキマを繋いで其処から観察を続ける。

フランは自分の後ろに八雲の顔が現われたことに驚いて、泣きそうになりながら霊夢にしがみ付いた。

幻想郷の事を考えるのなら、俺の血を飲んだフランを見定める必要があるのは分かるが、妹分が恐がっているのをコレ以上黙って見てる事なんて出来ない。

俺は無言のまま愛刀を何処からともなく呼び出し、そのまま鞘から抜き差って八雲に刃を向けた。

 

「其処までにしておけよ八雲。フランが怯えてるだろ」

「貴方が友を大切にするのは知ってるけど、これは少々やり過ぎではなくて?」

「俺がやり過ぎるのは今に始まったことじゃない。それよりもさっさと止めろ」

「言われなくても止めるし、この程度なら貴方の考えている様な事には為らないわよ」

 

そう言うと八雲はフランの身体にスキマを作り、何を考えてるのかその中に手を突っ込んだ。

フランは突然の出来事に悲鳴を挙げる事も出来ずに、身動き一つ出来ないまま気を失ってしまう。

 

「フランッ!?」

「八雲、テメェ!」

 

八雲の行動が頭に来た俺達は、八雲の顔面を穿とうと愛刀を突き出し、霊夢は掌に霊力の塊を作り出して八雲に叩き込もうとする。

しかし、八雲は霊夢だけをスキマに放り込む事で霊夢の攻撃を難なく回避し、俺の愛刀は八雲が作ったスキマの中に入り込んでしまった。

俺は直ぐに剣を引き抜こうと腕を引くが、八雲の奴がそれよりも早くスキマを閉じために、愛刀が真ん中ほどで真っ二つに折れれてしまう。

 

「あ、俺の愛刀に何しやがる!!」

「落ち着きなさいよ、直ぐに終わるから」

 

八雲は俺を宥めるように言うと、フランの身体に出来たスキマから手を抜いて、作っていたスキマを綺麗に消し去った。

やっと解放されたフランはその場に倒れこみ、俺はフランに駆け寄ろうとするが八雲から何かを投げられ、反射的にそれを掴んでしまう。

投げられた物を確認してみると、俺の掌の中にあったものはオレンジ色の宝石の様な物だった。

 

「……これは?」

「その子の身体に溶け込んでいた貴方の力の結晶よ。それが何に使えるかまでは分からないけど」

「なんでそんな物を取り出さなくちゃいけなかったんだよ」

「貴方も知っての通り、その子は竜の血で作られた薬を飲んで暴走した。それだけで済めば良かったんだけど、血を飲んだことで身体が変異し始めているわ」

「…フランが血を飲まなくなったり、苦手だった日光を克服した事か」

「えぇ。このまま変異し続ければ吸血鬼ではない別のモノに為る。だからそうなる前に手を打ったのよ」

「そうかい。でも、そう言うのは医者の仕事じゃないのか?」

「あら、貴方は水に溶けた砂糖を取り出す方法を知っているというの?」

「……俺の血は砂糖と一緒かよ」

「物の例えよ。…さて、五月蝿い子も帰ってきたし、私はもう帰るわ」

 

八雲がそう言ってスキマに潜って姿を消すと、勢いよく居間の障子が開いて、青筋を浮かべた霊夢が外から戻ってきた。

 

「こぉら紫! 今回は一体何をしようって言うのよ!!」

「……八雲の奴ならもう帰ったぞ」

「チッ! 紫の奴、今度会った時はボコボコに叩きのめしてやる」

 

霊夢が至極全うな反応をしてる横で、俺はフランに近付いて身体に変なところがないか見てみる。

フランの身体に開いていたスキマの痕は何処にもなく、本当にスキマが開いていたのかも分からない位だ。

無事な様子のフランにほっと胸を撫で下ろすと、気が付いたフランが俺の服の袖を掴んで引っ張ってきた。

 

「ねぇリュウ。なんだか凄く喉が渇いてきたんだけど…」

「喉が渇いた? それなら水かお茶でも持って来るか?」

「うんん、そう言うのじゃなくて……血が飲みたい、かな」

 

フランは自分自身の突然の変化に驚いているのか、何処となく不安そうに言ってくる。

俺はそんなフランの不安を拭い去るように、彼女に笑い掛けながら頭を撫でて安心させてやる。

 

「それなら直ぐに用意するからちょっと待ってろ」

「あ、うん! 出来るだけ早くお願いねリュウ!」

「氷付けにしてるんだから無茶を言うなよ……」

「それでもリュウなら何とかしてくれるって信じてるよ!」

「……はぁ~。一応努力はするが期待はするな」

「うん!」

 

元気よく返事をしてきたフランの頭をもう一度撫でた俺は、その場から立ち上がって預かっていた血を保管している納屋に向かう事にした。

その前に八雲から渡された宝石を見てみると、何故か色がオレンジから黄緑へと変化していた。

色が変化した事を不思議に思い眺めていたら、今度は黄緑から元のオレンジへと戻ってしまった。

 

「ありゃ? 今度はオレンジに戻っちまった」

「如何したのよリュウ。そんな石ころなんか眺めちゃって」

「いやな、八雲の奴から変な石を渡されちまってな」

 

そう言いながら霊夢に宝石を見せてやると、今度は黄緑ではなく虹色に輝きだした。

 

「今度は虹色に変化した? ……本当に何なんだこれ?」

「そんなの私が知るわけ無いでしょ。でも、こうして見ると結構綺麗ね」

「ねぇ~リュウ~。血はまだ~」

「直ぐに用意するからもうちょい待ってろ。悪いけど霊夢、フランの相手を頼むわ」

「はいはい分かってるわよ。…でも、たまには私の頼みも聞いてよね」

「それは今度にしてくれ」

 

苦笑いを浮かべるしかなかった俺は、謎の宝石をポケットに入れて急ぎ納屋へと向かう。

その道中で折られた愛刀の刀身を見つけたが、コレに関しては後で龍神の奴に相談するしかないな。

 




いや~、ストックしていた回だと更新が楽で良いわ~。
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