竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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今回は久々にあのキャラが登場します。
そしてサブタイに深い意味は無いです。


百二十六話 雨の巡り会わせ

 

空が何時雨が降り出してもおかしくない位にどんよりとした雲に覆われたある日。

朝早くからやって来た衣玖に神社の掃除を任せ、俺は溜まりに溜まった道具を香霖堂に売りに行く事にした。

普段ならもう少し遅い時間になってから出かけるんだが、何時雨が降り出してくるかも分からないし、酷くなる前にさっさと売り払って来るつもりだ。

特別今すぐ必要な物も無いし、用事を済ませたらさっさと帰ってくる……そう、言っているんだがなぁ。

 

「…何度も説明してるだろ、妖夢。俺は今から香霖堂に行かなくちゃいけないんだ」

「それは何度も聞きました。ですが、私にも用事があって今日はこの時間帯しか来れないんです」

「俺にだって用事があるって言うのに、人の話をきかねぇ野郎だな……」

「私は男ではなく女です!!」

「そう言う事じゃねぇよ」

 

若干ツッコミどころを間違える妖夢に思わず呆れ、俺は頭を抱えて溜息を吐く。

何時もの様に朝早くから妖夢がやって来て勝負を申し込んできたが、今日は用事があるから無理だと言っても素直に引き下がらずに無理を言ってくる。

今は愛刀が手元に無い事も教えたんだが、俺なら剣が無くても大丈夫だとか言って、人の話を聞きやしない。…まぁ、確かに妖夢程度なら愛刀がなくても勝てるけどな。

 

「リュウさん。余りにも煩わしい様でしたら、わたくしが処理しておきますが?」

「いや、その必要はないが……後始末は頼む」

「…後始末なんて言い方は気に入りませんが、やっと戦う気に為ってくれたみたいですね。手元に武器が無いからって手加減はしませんよ!」

「安心しろ。剣を構える間もなく終わらせてやるから」

 

そう言うと妖夢は怪訝そうな顔をするが、俺はそんな事気にせず、彼女に見せる様に掌を突き出す。

 

「ん? 一体何のつもりですか?」

「…催眠『ネムリィ』」

 

呟くように呪文の名を言うと、俺の掌から怪しい光が放たれ妖夢を包み込んだ。

その光は数秒間続いたが、光が消えると同時に気を失ったかのように力なく地面に崩れ落ちる。

地面に倒れている妖夢の表情はとても安らかで、ちょっとの事では起きない位によく眠っている様だった。

久し振りに使う魔法だから成功するか不安だったが、特に問題も無く成功してくれて助かったよ。

 

「…それじゃ、俺は行って来るから後の事は任せたぞ」

「いってらっしゃいまし。雨足は思ったよりも速いみたいですから、なるべくお早くお帰り下さいませ」

「分かった」

 

俺は眠っている妖夢の事を衣玖に任せ、沢山の荷物を入れた籠を背負って香霖堂へと向かった。

今回はそれなりの量を拾い集めはしたが、幾らくらいで売れるのやら。

一ヶ月くらい生活できる金額……ってのは贅沢だろうし、半月分の食料が買えれば御の字かな。

 

 

 

 

 

 

………

……

 

道中特に問題も無く来れたものの、俺が香霖堂に着くくらいに雨が降り出してしまった。

衣玖が忠告していた通り、雨足は思ったよりも早く、直ぐにでも土砂降りになってしまいそうだ。

傘なんて持って来ていないから、帰りは雨に濡れる事に為りそうだが…最悪、籠を被って飛んでいけば良いか。

そんな事を考えながら店の中に入ると、まだ早い時間にも拘らず店の中には珍しく先客が居た。

 

「…? あら、リュウじゃない。こんな所で会うなんて珍しいわね」

「それはこっちの台詞だ、アリス。最近は宴会にも顔を出さないで何をしてたんだよ」

「人形の研究よ。それ以外に一体何があるって言うのよ」

「……お前らしい台詞だが、なんか物悲しくないか?」

「いいえ、別に」

「あっそう」

 

久し振りに会ったにも拘らず、アリスの態度は何時もとなんら変わらないものだった。

他にすることは無いのだろうかと思ってしまうが、人形に興味をなくしたアリスと言うのも違う気がする。

俺は彼女の返事に呆れつつも、何時もと変わらないアリスにちょっと安心してしまう。

 

「それでリュウは何をしに来たのかしら。随分と大荷物を抱えているみたいだけど」

「別に大した用事じゃねぇよ。持って来た荷物を売りに来ただけだ」

「……それ、全部売るの?」

「嗚呼。どうせ俺等には必要のない物ばかりだからな」

「……………」

 

持って来た荷物を全て売ると知ると、アリスは何処となく呆れた様で同情してる様な視線を俺に向けてくる。

これだけの量を売らないといけない位に切迫していると勘違いされているのか、これだけの量を持って此処まで来た事に呆れているのか判断し辛いところだ。

でも、普段と大差ないくらいの量を持って来たつもりだから、それほど大量って訳でも無いんだよな。

ただ今回は大きめの物が幾つか入っているから、大量に持って来ているように見えてしまうだけだ。

その事をアリスに説明しようかとも思ったが、どうせ興味なんて持っていないだろうし、話す意味も無いからこのまま黙っていよう。

そんな風なことを考えていると、店の奥に引っ込んでいた霖之助さんが大量の布を抱えて店に顔を出した。

 

「アリス、頼まれた物を見繕ってきたよ。それとお早う、リュウ。今日は随分と早いね」

「どうも、霖之助さん。早いと言ってもアリスほどじゃないと思いますよ」

「確かにそのとおりだね。僕も朝食を食べてるときに来るなんて思わなかったな」

「うるさいわね。このお店の営業時間が何時か分からなかったし、今日は天気が悪いから早く出て来たのよ」

「それでも少しは気を使って欲しいものだけどね。…あと、御代は5.300円になるよ」

「分かったわ」

 

アリスはそそくさとポケットから財布を取り出し、代金を支払って霖之助さんから大量の布を買い取った。

そんな大量の布を何に使うのか疑問ではあるが、それ以上に5.000円をぽんと支払えるアリスの財力に思わず嫉妬する。ウチの金銭的収入なんてこうして物を売るくらいしか無いって言うのに……。

 

「代金丁度お預かりしましたっと。それじゃリュウ、次は君の番だ。その持って来たもの全部売るんだろ?」

「っと、そうだった。んじゃ、鑑定宜しくお願いします」

「分かった。鑑定が終わるまで少し待っていてくれ」

 

霖之助さんは大量の荷物が入った籠を受け取ると、そのまま店の奥へと引っ込んでいった。

カウンターで鑑定しても良い様な気もするが、台の上が荷物でゴチャゴチャになるのが多分嫌なんだろう。

でも、売り物の置き方はわりと適当だし、この考えは外れている様な気もするな。

 

「……………」

「ん? どうかしたか、アリス? 俺の顔をジッと見詰めて」

「いえね、私には砕けた口調で話すのに、店主には丁寧な口調で話すのが不思議だったから」

「別にあの人だけそう言う風に話すわけじゃないぞ。上白沢さんにも似たような感じで話すし」

「だとしても、不思議なのだから仕方が無いでしょう。何か特別な意図があってやってる……風には見えないわね」

「初めて会った時からこんな口調で話してたからな。……もしかして、アリスもあんな風に話して欲しいのか? それなら気をつける様にするけど?」

「今更止めてよ気持ち悪い。貴方に丁寧な口調で話し掛けられるなんて、想像しただけで鳥肌が立つわ」

「……其処まで言わなくても良いだろ」

 

容赦の欠片も無いアリスの言葉に流石の俺も凹んでしまう。

初めて会った時から砕けた感じて話していたし、今更になって丁寧な口調で話しても違和感があるが……其処まで言わなくても良いだろ。

普段からそんなきつい事を言われていないもんだから、今の一言は余計に傷付いた。

 

「本当の事だから仕方が無いでしょ。それに貴方だって、霊夢が急にお淑やかに為ったら気持ち悪いでしょ?」

「お淑やかな霊夢か。……それはそれでアリなんじゃないか?」

「……聞いた私が馬鹿だったわ」

 

何故か知らないけどアリスに思いっきり呆れられるが、俺はお淑やかな霊夢と言うのもアリだと思う。

普段のちょっと強気な霊夢も好きだが、大和撫子な感じの霊夢も凄く見てみたい。……今度、永琳の奴に頼んでそう言う薬でも作ってもらうか?

 

「まぁ、貴方達の仲がどうなろうと私には関係無いけどね。…それにしても雨、全然止まないわね」

「衣玖の話しだと今日は一日中雨らしいから、まだまだ降り続けるだろうな」

「それは困るわ。早く帰って色々と試したい事があるのに」

「試したいことって、新しい人形の試作品か?」

「違うわよ。上海の新しい服の試作品を作りたいの」

「…大して変わらねぇじゃねぇか」

 

溜息混じりにそう呟くと、アリスは俺の反応が気に入らなかったのか、物凄い勢いでまくし立ててくる。

 

「全っ然違うわよ! 良い、今回の試作品はただの服ではなく、上海に送られる余分な魔力を吸収する仕組みを組み込むのよ。そうすれば魔力許容量オーバーであの子の身体が壊れることもないわ」

「でもそれじゃ根本的な解決にはならないだろ。やっぱり、上海の身体を如何にかした方が―――」

「ちょっと待って、今回は貴方の意見は求めていないわ。これは私一人でなんとかするから口出ししないで」

 

アリスが考え付いた解決法に一言いおうとしたが、言っている途中で彼女に言葉を遮られてしまった。

確かに今回は彼女に意見を求められていないが、別に付いていけない話題でもないからつい口が出てしまう。

 

「……それって凄く今更な気もするぞ。俺が意見を出したところで実践するか如何かはアリス次第だろ」

「確かにその通りだけど、何時までも貴方の意見を参考にしていたら私はこれ以上先に進めなくなる。自分で成し遂げると決めた目標だもの、自分の力でなんとかしなくちゃ意味が無いわ」

「その考え方自体を悪いとは言わないが、誰かの意見を参考にすることも悪くはないだろ」

「それでも私は自分の力で何とかしてみせるわ」

「……さいですか。なら好きにしてくれ」

 

そう言って俺はこの会話を打ち切り、黙り込んで霖之助さんが鑑定を終えるのを待つ事にした。

待っている間にアリスの方から話しかけて来る事は無く、雨が降る音と時計の音だけが店の中に響き渡る。

特に会話も無く、ただ雨の音と時計の音に耳を傾けていると、突然店の扉が開き来客を告げるベルが鳴り響く。

こんな雨の中一体誰が来たのかと扉の方に目をやると、其処には人間用の傘を手にした上海の姿があった。

 

「上海? こんな雨の日に一体何しに来たの?」

「家ニ傘ガ置イテアッタカラ、ますたーヲ迎エニ来タノ」

「そう。有り難うね、上海。雨の中大変だったでしょ」

「別ニソンナ事ハ……ン? アレ、りゅうモ居タノ?」

 

店の中に居た俺に上海は不思議そうに小首を傾げるが、特に気にする事無く笑い掛けながら挨拶をする。

 

「よう、久し振り。元気にしてたか」

「ワタシハ元気ダケド、ますたーガ研究ニ没頭シテイテ、チョット心配」

「ちょっと上海。余計な事は言わなくて良いの」

「デモ本当ノ事ダヨ。昨日ダッテ殆ド寝ズニ研究シテタ」

「私は魔法使いだから多少眠らなくても大丈夫よ。前にもそう説明したじゃない」

「ソレデモ心配ナモノハ心配ナノ。ワタシハますたーガ倒レタラ嫌ダ」

「うぅ……」

 

心配そうな様子で見てくる上海に、流石のアリスもたじろいでいる様子だった。

さっきまでの強気だったアリスはなりを潜め、今は我が子相手に苦労している母親にも見える。

そんな二人の様子がおかしくて、アリスに悪いと思いつつも俺は小さく笑ってしまう。

俺の笑い声がアリスの耳に届いたのか、こっちを睨み付けて来るが今のアリスじゃちっとも怖くない。

何食わぬ顔で二人の様子を眺めていると、アリスは何処か疲れた様子で溜息を吐いた。

 

「はぁ~……。もう分かったわよ。これからは上海に心配掛けない様にするから、そう言うのを人前で話すのは止めて頂戴」

「ますたーガ約束シテクレルナラ、人前デ言ワナイ様ニスル」

「うん、良い子ね。それじゃ、私達はもう帰りましょうか」

「了解、ますたー」

「二人共、気をつけて帰れよ」

「マタネ、りゅう」

 

上海は小さな手を振り俺に別れを告げると、店のドアを開けて外で持って来た傘を開く。

アリスは買った布が濡れない様に素早く傘の中に入ると、俺の方を振り向いて小さくお辞儀をして店を後にした。

そのお辞儀が別れの挨拶だったのか、それともさっきの謝罪だったのかは分からない。

でも、さっきの事だったら別に気にしていないし、挨拶だったら一言くらい言えよと言ってやりたい。

 

「…ったく、そんなんだから友人が少ないんだよ」

「まぁ、アレが彼女らしさなのだろうし、あまり言わない方がいいさ」

「あれ、霖之助さん。何時ごろ戻ってきたんですか?」

「ついさっきだよ。君達の剣呑な声は聞こえていたが、その様子だと別に気にしなくても良さそうだね」

「剣呑なままだったとしても、霖之助さんは何もしなかったでしょうに」

「まぁね。僕にはなんの関わりもない事だし」

「……さいですか」

 

変な所でドライな霖之助さんに呆れていると、カウンターの上に預けていた籠を若干分厚い茶封筒を渡される。

店の邪魔に為るであろう籠はすぐに背負うけど、この茶封筒がなんなのか分からず、手に取っても首を傾げてしまう。

ただ、入っているのは貴金属の類では無いらしく、手に取ってもそれ程重さを感じる事は無い。

なんとなく中身が気に為った俺は、その場で茶封筒の封を開けて中身を確認してみると、封筒の中に入っていたのは一万札の束だった。

 

「……あの、霖之助さん。このお金は一体なんでしょうか」

「何って、今回持って来た道具の売却金だよ。四十五万円くらいはある筈だよ」

「四十五万?! 一体なにを如何鑑定したらそんな値段に……」

「いや、今回君が持って来た道具の中の食器セットが中々の物でね。傷一つない上に一式全て揃ってるとなれば、この位の値段でも安いくらいさ」

「……それならもうちょっと位高く買ってくれても良いんじゃないですか?」

「霊夢の溜まっていたツケを差し引いての買い取り額だ。我慢してくれ」

 

もう少し金額を上げれないかと交渉してみるものの、霊夢のツケを持ち出されて合えなく撃沈。

霊夢の奴がツケを溜めていたなんて初耳だが、アイツならやりそうな気がするから否定する事も出来ない。

それに霖之助さんって冗談を言うタイプじゃないし、本当にツケを溜め込んでいるんだろうな……。

 

「…まぁ、これだけ有れば当分は食っていけるし、別に良いか」

「何か必要なときは是非とも僕の店を利用してくれたまえ。値段は物にもよるが、君になら安くしよう」

「え? でも、この店って確か殆どが非売品なんじゃ……」

「〝殆ど〟が非売品であって、〝全部〟が非売品じゃない。この二つの違いが分かるかい?」

「……言いたい事は分かりますけど、なんか納得できねぇ」

「ハハハ。男がそんな細かい事を気にしちゃいけないよ。…それじゃ、また売る物が集ったら持って来てくれ」

「分かりましたよ……」

 

若干の気疲れを感じながら、札束の入った茶封筒をポケットの中に詰め込んで店を後にする。

外はまだ雨が降り続いているけど、飛んで帰れないほどの豪雨と言う訳でもなく、濡れる事を気にしなければ傘を買わなくてもいけそうだ。

雨に濡れても風邪を引かないこの体の有り難味を実感しながら、ずぶ濡れに為る前に急いで家路へとついた。

 




最近、霊夢の出番が少ないと感じているそこの貴方に朗報です。
次回のお話は久し振りの霊夢回です! ……まぁ、視点はリュウなんですけどね。
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