竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

130 / 212
前回後書きで予告したとおり、今回から風神録の話に為りますが……あんまり期待しないでください。


第百三十話 〝外〟からやって来た者

 

山が紅く色づいて秋も本番を迎えた今日この頃、最近になって霊夢の奴が珍しく真剣に修行に励んでいる。

修行嫌いのアイツが真面目に取り組むのは良いんだが、やっている修行ってのが〝神降ろし〟の秘術なんだそうだ。

神をその身に宿して、神の力を行使する事が出来る様に為る術らしいんだが、なんだってそんな術を身に付ける必要があるのかが分からん。

別にそんな術を身に付けなくても霊夢は強いし、俺が傍に居たらその術も上手く発動出来ない。

随分と昔に大暴れしたのが原因だろうが、俺が近くで見ているだけで、霊夢の〝神降ろし〟は確実と言って良いほどに失敗する。

霊夢に宿ろうとした神霊が、俺の姿を確認しただけで次々と逃げ帰っていくんだよな。

龍神から日の本中の神と戦ったって聞いてたが、まさかこんな所で影響が出てくるとは思わなかった。

俺の姿を見て逃げ出す神は多いだろうし、アイツの修行が終わるまでは、なるべく神社に居ない方が良いのかもしれないな。

 

そんな事を考えながら、荷物の入った籠を抱えて神社へと繋がる山道に出ると、色違いだが霊夢と似たような格好の緑色の髪の少女の後姿を見つけた。

少女は俺の存在に気付いたような素振りを見せるが、直ぐに興味をなくしたのか、そのまま話しかけて来る事も無く神社へと続く山道を歩き始めた。

里の人間……と言うには初めて見る顔だし、妖怪や妖精と言う訳でも無さそうだな。

俺と同じ様に外から来たのかもしれないが、こんな辺鄙なところに一体なんのようで来たんだ?

彼女が何しに来たのか気に為った俺は、荷物を抱えたまま空へと飛び上がり、少女よりも先に神社へと向かう事にした。

 

俺が神社の上空に辿り着くと、境内にさっきの少女の姿は無く、霊夢が境内に独り〝神降ろし〟の修行を行っていた。

霊夢の身体には既に神霊が降りているのか、何時もの霊夢とは違う気配を感じる。

何の神を降ろしたのか知らないが、俺が境内に降り立った途端、霊夢に降りていた神霊は慌てた様子で霊夢から出て行ってしまった。

そんなに慌てて出る事も無いだろうとは思うが、コレに関しては過去の自分の所業の所為だし、あーだこ-だ言っても仕方が無いか。

 

「お帰りなさいリュウ。アンタが帰ってくるには少し早いけど、何かあったの?」

「ただいま霊夢。何かあったと聞かれたら……客らしい奴を見たくらいかな」

「客らしい奴?」

 

霊夢に山道で見かけた少女の事を話そうとした時、鳥居の下にある石造りの階段を上って来る足音が聞こえてきた。

その足音に釣られて、俺と霊夢が鳥居の方に眼を向けると、さっき見かけた緑の髪の少女が上がってくるを確認出来た。

 

「……リュウが言ってた客らしい奴ってあの子?」

「嗚呼。里じゃ見ない顔だからちょっと気になってな」

 

霊夢とそんな事を話ながら、俺は客に失礼が無いように背負っていた籠を地面に置いた。

階段を上りきった少女は、俺達の近くにまでやって来ると、挨拶代わりなのか深々と一礼をしてきた。

俺はそれに釣られて一礼をするが、霊夢は何時も通りと言うか、興味無さそうな顔をしている。

 

「アンタ、何処の誰よ。幻想郷の住人じゃないんでしょ」

「お初にお目にかかります、『東風谷 早苗』と申す者です。この神社の神主さんはどちらに居られますか」

「ウチに神主はいないわ。何かの依頼なら巫女の私に話して頂戴」

「そうですか。……では早速ですが、我々『守谷一家』はこの神社の譲渡を要求します」

「……はあ?!」

「いきなりとんでもない事を言って来たな」

 

やって来た少女のとんでもない要求に、霊夢は眼を丸くして驚き、俺は思わず関心してしまった。

驚いている霊夢を他所に、緑の髪の少女は特に関心も無く淡々と話を続ける。

 

「これほど立派な神社を持っていながら、参拝客は誰も居らず神社としての役割を果たせているとは思えません。なんの対策も立てずに放置しているのでしたら、我々が有効利用させて頂きます」

「随分と言ってくれるじゃない。でもね、何処の馬の骨とも知れない連中にこの神社を明け渡す訳ないじゃないの」

「馬の骨は貴女の方です。早苗がお仕えしている神様は大変強大な力を持つお方で、早苗自身も〝外〟の世界で現人神として祀られていました。ただの巫女の貴女とは格が違うんですよ」

「……私がただの巫女ですって」

「お仕えする神もなく、ただ神社に居座っているだけで巫女と名乗れるなら、そこらに居る赤ん坊でも巫女と名乗れます。それが分からない貴女に此処にいる資格は有りません」

 

緑の髪の少女は随分と偉そうな事を言っているが、俺は隣に居る霊夢の様子が気になって仕方が無かった。

俺もこの幻想郷に来てそれなりになるけど、今まで霊夢の事をこんな風に言ってくる輩は誰一人としていなかった。

それは幻想郷に取って霊夢……と言うか、〝博麗の巫女〟の存在が必要不可欠だと誰もが知っているからなんだろう。

霊夢の暮らしぶりや態度に文句を言われる事はあっても、今回みたいに一方的に言われたのは今回が初めてなんだろうな。

だからこそ、霊夢の怒りがどのタイミングで爆発するのか、それが本当に気掛かりでならない。

 

「…幻想郷を何も知らない異邦人の癖に、随分と偉そうな事を言ってくれるじゃない」

「例え異邦人と言われようとも、貴女よりはこの神社を立派にする事ができると自負しています」

「アンタみたいな奴にこの幻想郷を守る事なんで出来やしないわ」

「巫女の仕事は守る事ではなく、神にお仕えする事にあります。……貴女は何か勘違いしてるんじゃないですか?」

「お~け~……。とりあえずアンタは、幻想郷の〝外〟にまでふっ飛ばしてやるわ!!」

「落ち着け霊夢!!」

 

とうとう我慢の限界を超えた霊夢は、懐から何枚かの札を取り出して少女に攻撃しようとしてきた。

流石にこのまま戦闘に入るのは不味いと思った俺は、霊夢を後ろから羽交い絞めにして動きを止める。

霊夢は駄々っ子の様にジタバタと暴れるが、何も分からないまま〝外〟に追い出すのは不味いと思う。

 

「ちょっと離しなさいよリュウ! この女を叩きのめさないと私の気が済まないわ!!」

「気持ちは分からんでもないが、何も分からないまま吹っ飛ばすのは不味い!!」

「そんな事知らないし、知りたくも無いわよ!!」

「だ~ッ! 少しは落ち着けっての!!」

「……どうも慌しくなってきましたし、早苗はこれで失礼させて頂きます。譲渡する決心が付いたら『守谷神社』にまで来て下さい」

 

言いたい事だけいうと、少女は何事も無かったかのように博麗神社から飛び去っていった。

飛べるなら最初からそうすれば良かったのに……と思いつつ、それだと俺が此処に来るのが間に合わなかっただろうから、確実にあの少女は幻想郷から追い出されていたんだろうな……と思う俺であった。

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

暴れる霊夢をなんとか落ち着かせたが、この程度で彼女の怒りが収まるわけも無く、俺は霊夢に連れられて少女が言っていた『守谷神社』なる場所を目指して空を飛んでいた。

隣を飛ぶ霊夢は未だに気が立っているのか、妖精が怯えて逃げ出すほどの怒気を全身から顕わにしている。

霊夢がこんな調子なもんだから、隣を飛んでいる俺も生きた心地が全くと言って良いほどしない。

……だからと言って、今の霊夢を一人にしたら如何なるか分かったもんじゃないし、一緒についていくしかないんだよなぁ。

まぁ、空を飛んでいればその内頭も冷えるだろうし、それまでは我慢するとしますか。

 

「それにしても、あの女は一体何処に行ったのかしらね」

「『守谷神社』なんて聞いた事も無いが、神社なんだし神様の居るところだろう」

「だとすると……一番怪しいのは『妖怪の山』かしら?」

「お? 思ってたよりも早く冷静さを取り戻したな」

「何言ってるのよ、私は何時でも冷静よ」

「うん、ちょっと前の自分を思い返してみようか」

「何を言ってるのか分からないわね」

 

都合が悪いと思っているのか、霊夢はとぼけながら思いっきり顔を逸らしてきた。

そんな霊夢の様子に呆れれば良いのか、頭を抱えれば良いのか分からず、俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。

適当に談笑しながら山に向かって飛んでいると、何処からとも無く芋の甘い香りが漂ってきた。

しかし、俺達が今居るのは『妖怪の山』の麓に位置する場所だ。

こんな所に畑を作る人間なんて居ないし、レミリアの奴が作物を育てていた……とは考えにくい。

そんな事を考えながら辺りを見てみると、紅葉した葉の様に紅い服を着た少女と、稲穂の刺繍が施された服にブドウが付いた帽子を被った少女が焚き火をしている姿があった。

こんな所に居るんだから、あの二人が人間じゃないのは確定してるが、きっと妖怪でもないんだろうな。

まだそれなりの距離はあるが、俺の勘みたいなものがアイツ等は神族であると告げてきている。

あの山には天狗以外にも、神々や仙人なんかが住んでいるって聞くから、ここら辺に神様が居ても不思議じゃないな。

 

「ねぇリュウ、アイツ等って神様かなにか?」

「多分そうだろうけど……それが如何かしたのか?」

「神様だってんなら、私たちが探してる『守谷神社』について何か知ってるでしょ」

「まぁ、確かにそうかもしれないな」

「って事で、ちょっくらアイツ等に道でも聞いてみるとしますか」

「へっ?」

 

俺が呆けた声を出していると、霊夢は何を考えているのか二人の神の元へと向かった。

俺も慌ててその後を追うが、二人の神は俺の姿を見た途端、顔面蒼白となって固まってしまった。

 

「ちょっとアンタ等に聞きたい事があるんだけど良いかしら?」

「ど、どどど如何しようお姉ちゃん! あの白い竜が来ちゃったよ!?」

「おおおお落ち着くのよ穣子! 風の噂だと大分丸くなったって聞くし、下手な事しなければきっと大丈夫よ!」

「ちょっと~もっしも~し……」

「でも、多くの神々を倒してきた白い竜だよ?! きっとわたし達を有無言わさずに倒しに来たんだよ!!」

「だけど、龍神の話だと昔みたいに暴れる事は無いって言っていたから、落ち着いてちゃんと話し合えば大丈夫な筈!! ……多分だけどね」

「多分とか言わないでよ! 物凄く不安になるじゃない!!」

「……ねぇリュウ。アンタ本当に何してたのよ」

「それは昔の俺に聞いてくれ……」

 

慌てふためく二人の神を見て、昔の自分を思いっきりぶっ飛ばしたいと心の底から思った……。

まさか此処まで畏れられているとは思わなかったし、こんな反応をされると流石に泣きたくも為ってくる。

この反応は過剰過ぎるとは思うけど、龍神たちの話を聞いているから妙に納得も出来るから、余計に悲しくなってくるな……。

……その後、なんとかして二人の神を落ち着かせた俺と霊夢は、あの少女が言っていた『守谷神社』に付いて尋ねてみる事にした。

 

「「守谷神社?」」

「そうよ。里にこんなのが出来たなんて聞いた事無いし、神様同士の繋がりで聞いた事無い?」

「私は特に聞いた事無いけど……穣子は何か知ってる?」

「う~ん……神社については知らないけど、山に不審な神が現われたって天狗達が騒いでたっけ」

「……神様なのに不審者扱いするとか天狗もスゲェ事言うな」

「わたし達はこの時期は山に居る事が少ないから、何が起こってるのか知らないけど……探してる神社があるとするなら、その神様の所なんじゃないかな?」

「成る程ねぇ……。やっぱり山に登るしかなさそうね」

「旋那の奴から山に登るなって警告されてるんだが……仕方がないか」

 

心の中で面倒な事になりそうだと思いつつ、俺と霊夢は空へと飛び上がり山へ向かおうとした。

二人の神はあまり関わりたくないのか、俺達の事を止めようとはせず、何事も無かったかのように焚き火の続きを始めた。

俺達は二人の神をその場に残し、当初の予定通り一路『妖怪の山』へと向かって飛んで行く事にした。

 

「……ところでさ、霊夢」

「ん? なによ」

「博麗神社の神って一体何処にいるんだ? 俺、一度も見た事が無いんだけど」

「私も知らないわよ。ここ数年は見た覚えもないし」

「……ちょっと待て、本当にそれで良いのか?!」

「別に良いんじゃないの? 私は気にした事無いしね」

「色んな意味ですげぇ奴だよホントに……」

「褒めても何も出ないわよ」

「いや、褒めてねぇから」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。