竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第百三十二話 里に最も近い天狗

 

目的地の情報を得た俺と霊夢は、山に突然現われた『守谷神社』なる所を目指して飛んでいた。

数百メートル級の山から流れる滝を眺めながら、滝に沿って上へ上へと飛んでいく。

旋那の警告を無視してるから、何時警備の天狗が襲い掛かってくるか分からないが、此処まで来て引く訳にも行かないし、襲い掛かってきても適当に追い払うか。

 

「ところでさぁリュウ。アンタは神社に着いたら如何するの?」

「如何って聞かれてもなぁ……。俺は霊夢について来ただけだから、これと言って目的がないぞ」

「そうなの? リュウの事だから問答無用で喧嘩でも売るのかと思ってた」

「相手の出方にもよるけど、そんな事するつもりはねぇよ」

「私の代わりに神を懲らしめてくれると思ったのに……当てが外れたわね」

「あのなぁ……」

 

霊夢の言葉に呆れていると、俺達の直ぐ傍を一陣の風が吹き抜けていった。

突風とも言える風に煽られて、紅く色づいた葉が舞い踊り、僅かな時間だけ視界を遮られる。

風が止まり、舞い踊る葉も力なくハラハラと地面に落ちていくと、俺達の目の前には射命丸が前を塞ぐように立ちはだかっていた。

誰かは邪魔しに来るだろうとは思っていたが、まさか射命丸が出てくるとは思わなかったな。

本人から聞いた話だと、鴉天狗は山の広報担当だと話していたから、別の天狗が集団で襲い掛かってくるものだと思ってた。

 

「やぁやぁご両人。毎度お馴染み幻想の伝統文屋の射命丸文です」

「何の用よ天狗。私達は忙しいから其処を退きなさいよ」

「相変わらず冷たいですね。それに口で言わなくても察しはついてるんじゃないですか?」

「なら、はっきりと言ってあげるわ。邪魔よ、今すぐ退きなさい」

「ワタシ個人としては、別に通して大丈夫だと思うんですが、上司が追い返せって五月蝿くて」

 

射命丸がやれやれと首を横に振っているところを見ると、その上司とは色々と折り合いが付いかない様だ。

どの位仲が悪いのか知らないが、どんなに嫌な相手でも上からの命令は聞かないといけないのか。

そう考えると、社会を築いて暮らす妖怪ってのも大変そうで思わず同情してしまう。

 

「……天狗って種族も色々と大変なんだな」

「そうなんですよ。ワタシが貴方方の取材に成功してちょっと売り上げを伸ばしたのを嫉んでか、大天狗様ったら小言やら嫌味やらをグチグチと言ってくるんですよ? 正直やってられませんよ」

「そしてその愚痴も大天狗の耳に届いて、また小言を言われるのね」

「…………さぁ~って、はりきって仕事をしますか!」

「誤魔化したな」

「間違いなく誤魔化したわね」

「そんな事は兎も角! コレ以上先へは進ませる訳には行きませんので、此処でお帰り頂きます!」

「アンタに用は無いけど、あの巫女をぶっ飛ばす為の肩慣らしになって貰うわよ!」

「……適当にやり過ごすかな」

 

俺がやる気も無くそう呟くと、射命丸は持って来ていた扇を振るって風を起こしてきた。

扇によって巻き起こった風は、幾つもの旋風となって俺と霊夢に襲い掛かってくる。

俺は何時もの様に霊夢の前に立ち、襲い掛かってくる旋風を握り締めた叢雲で次々と振り払っていく。

そして霊夢が風を切り裂いて出来た道を利用して、幾つもの札を射命丸に向かって投げ付け行く。

投げられた札は、自動的に射命丸へと向かって飛んでいくが、彼女は扇を使って風を巻き起こし、自分に迫って来る札を次々を吹き飛ばして行く。

確かに自分の周囲に風を巻き起こした事で、向かって飛んで来る札は吹き飛ばせるだろうが、そうやっている間は彼女ご自慢の速さは著しく落ちている筈。

そう睨んだ俺は、叢雲に力を込めてから力一杯振り下ろし、彼女に向かって斬撃を飛ばした……が、鞘の封印のお陰で狙ったとおりの技が出せなかった。

 

「……何をしてるんですか、リュウさん」

「あ~…うん、俺にも色々と遭ってな。とりあえずは聞くな」

「ちょっと確りしなさいよリュウ!」

「悪かったよ。…ったく、仕方が無い。ちょいと戦い方を変えるか」

 

鞘の封印にウンザリしながら、俺はいつもの様に斬撃を飛ばすのを諦めて、叢雲で大気の壁を叩いて衝撃波を飛ばして戦う事にした。

衝撃波は何にも阻まれる事無く飛んでいくが、射命丸は俺の攻撃が着弾する直前で自慢の速さを使って空高々と飛んで避けてみせる。

俺達の遥か上空へと移動した射命丸は、其処から風を起こそうと扇を構えるが、それよりも先に霊夢の札が彼女へと迫り……それが見事命中した。

霊夢は手を休める事無く、次々と札を投げつけていき、射命丸の動きを封じて行く。

だが射命丸もただやられている訳でもなく、霊夢の札を受けながらもなんとか扇を振るい、巨大な旋風を起こして霊夢の札を吹き飛ばすのと同時に、俺達への反撃をしてきた。

巨大な風がかなりの速さで迫り来る中、俺は目の前の旋風に対抗するように力一杯大気の壁を叩いて強力な衝撃波を飛ばす。

発生した衝撃波と風は激突して拮抗するかに見えたが、射命丸の風を飲み込んで暴風となって吹き抜ける。

阻むものが無くなった衝撃波は、そのまま射命丸へと向かって突き進んで行き、今度こそ命中するかと思ったが……俺の衝撃波では彼女を捉える事は難しく、またしても避けられてしまった。

 

「危ないですねぇ。もうちょっとで叩き落される所でしたよ」

「俺としてはあのタイミングでも避けれるのかと驚いてるんだが」

「アンタも変身すれば似た様な事出来るじゃないの」

「まぁそうなんだけどな」

「変身した時はとんでもないのに、普段の姿ですとこんなもんですか」

「力を極端に抑えてこれなんだよ」

「……そう聞くと、竜の力と言うのは本当にとんでもない物なんですね」

「分かったのなら俺に力を振るわせるな」

「ワタシも怪我はしたくないですが、仕事上このままお通しする訳にも行かないので」

 

射命丸はそう言うと、スカートのポケットから一枚のカードを取り出した。

俺はやれやれと溜息を吐きながらも、叢雲を握り締めて何時なにが来ても良いように構える。

 

「逆風『人間禁制の道』」

 

彼女がスペカを宣言し、扇を上に掲げると、辺りにはたちまち強風が吹き荒れ、何処からとも無く石や岩が飛び交い始めた。

飛んでいる岩や石が直接俺達に襲い掛かる事は無いが、風に弄ばれている所為か軌道が滅茶苦茶なものが多い。

吹き荒れる強風の所為で、思うように行動する事が出来ないが、剣を振る分にはこれと言った支障もない。

思うような行動が出来ないのなら、俺は何時もの様に邪魔なモノを叩き落して耐え切るしかない。

霊夢に攻撃してもらえば楽なんだが、この風の前じゃ射命丸に届く前に札が吹き飛ばされるのがオチだ。

風の抵抗を受けて普段よりも重くなった剣を振るい、飛んで来る石は剣で弾き、当たったら不味そうな岩を砕いていくが、何時まで経っても射命丸が起こした風が止む気配が無い。

風の勢いが強いから呼吸もし辛いし、さっさと終わって欲しいんだが……射命丸は扇を掲げたまま動こうとしない。

段々と岩を処理するのも辛くなって来た俺は、駄目元で射命丸に向かって衝撃波を叩き込んでみる。

すると、避けれる筈の攻撃を射命丸は避けようともせず、扇を掲げたまま無抵抗に攻撃を喰らった。

 

「……今の見てたか霊夢」

「えぇ、ちゃんと見えてたわよ」

「なら、霊符の準備」

「何時でもいけるわ」

「……あの、何をする心算ですか?」

「そんなの―――」

「――――決まってるじゃない」

 

俺は射命丸に答えにならない答えを告げると、ズボンのポケットから一枚のカードを取り出す。

後ろを見てみると、霊夢も既にカードを取り出しており、何時でも宣言出来る様に準備していた。

射命丸も俺達が何をしようとしているのか察したらしく、俺達の邪魔をしようと風の勢いを強めて飛んで来る岩の数も増やしてくる。

俺は迫って来る邪魔な岩を叩き壊しながら、僅かに出来た隙を付いて叢雲を仕舞い、霊夢と同時にカードを宣言した。

 

「霊符『夢想妙珠』!」

「剣舞『双刃乱舞』!」

 

カードを宣言した俺は、冥想斬を作る要領で二つの光剣を作って無数に刃を飛ばし、その横を霊夢の光球が飛んでいく。

斬撃と光球は吹き荒ぶ風を物ともせず、射命丸へと向かって真っ直ぐに突き進んで行く。

途中で風に吹き飛ばされた岩が迫るが、俺の斬撃の妨害をする事は出来なかった。

射命丸もこのままでは不味いと思ったのか、掲げていた扇を下ろして風を止め、俺達の攻撃の回避を優先した。

真っ直ぐに飛ぶことしか出来ない俺の攻撃は避けられてしまうが、追尾性の高い霊夢の攻撃は射命丸の行動に合わせて方向を変え、避けようとする彼女の後を追いかけて行く。

射命丸は、自身の回避能力を最大限に発揮して、霊夢の光球を次々と避けて行くが、最後の一つを避けたところで致命的な隙が生じた。

その隙を見逃さなかった俺は、光剣に力を込めて大きめの斬撃を飛ばし、今度こそ射命丸に攻撃を当てる事が出来た。

流石にあの一撃だけでは落せなかったが、今ので多少はダメージも入った筈だし、少しは楽に戦えるだろう。

 

「つ~~~ッ。噂には聞いてましたが、やっぱりリュウさんの攻撃は痛いですね」

「俺は霊夢みたいに弾幕らしい事は出来ないからな。一撃の破壊力で勝負するしかないんだよ」

「それならちゃんとした弾幕を作りましょうよ」

「苦手なんだから仕方が無いだろ」

「……こんな事言ってますけど、良いんですか発案者さん」

「別に問題は無いわよ。作ったルールに〝攻撃は弾に限定する〟なんて書いた覚えはないし」

「てか、そんな事を言い出したら今の射命丸のスペカもアウトだろ」

「あ、あははははは……。それじゃ次のスペカ行きますよ!」

「また誤魔化したな」

 

射命丸は笑って誤魔化しながらまたカードを取り出し、彼女はそのまま直ぐに宣言してきた。

 

「竜巻『天孫降臨の道しるべ』!」

 

彼女がカードを宣言すると、自身の中心点に巨大な竜巻が発生し始めた。

さっきまでの風は俺達を吹き飛ばそうとしていたが、今度の風は俺達を飲み込もうとして来る。

俺と霊夢は飲み込まれる前に攻撃を試みるけど、巨大な竜巻が邪魔で射命丸に攻撃が届かない。

有りっ丈の力を込めて斬撃を飛ばすが、竜巻の勢いに負けて変な方向へと攻撃が逸れてしまう。

霊夢の霊符なら竜巻を突破出来るかもしれないが、スペカの無駄撃ちはしたくないだろうから使ってくれるか微妙だな。

 

「霊夢、あの竜巻を霊符で突破出来るか?」

「多分出来るでしょうけど、一撃ニ撃喰らった程度で止まるとは思えないけど」

「そうなると……如何やって攻略するかな」

「リュウが竜巻を斬るのが一番手っ取り早いと思うわよ。闇が斬れるなら行けるわよきっと」

「やっぱりそうなるのか。……力を引き出すのも結構疲れるんだけど、仕方が無いか」

 

鞘に封印なんて面倒な事をしてくれたなと思いながら、俺はポケットの中に入っているスペカを一枚取り出す。

竜巻に飲み込まれないように距離を離し、射命丸にもちゃんと聞こえる様にカードを宣言する。

 

「竜剣『ドラゴンブレード』!」

 

二枚目のカードを宣言した俺は、何時もの様に叢雲に力を注ぎこんで刃を形成しようとするが、やっぱり鞘が邪魔をして刃を創る事が出来ない。

俺は今までの様に剣の刀身にだけ力を注いでも無駄と悟り、今度は鞘も包み込むように力を纏わせて刃を形成してみる。

この方法でやってみると意外にも光の刀身を創る事が出来たが、普段の何倍もの力を消費しているのか、かなりの量を注ぎ込まないと維持する事ができない。

射命丸ごと竜巻を斬るには普段の長さだと微妙だが、長過ぎてしまうと後ろにある山も切り裂いちまうから、ある程度は長さを加減をしないといけない。

刃を形成するために大量の力を消費しながら、それを維持しつつ絶妙な長さに調整すると言う凄く神経を使う作業を求められた。

 

「な、何をしてるんですかリュウさん? その物騒なモノを今すぐ仕舞ってください!」

「…わりぃけど、断らせてもらう」

「でしたら、力尽くでどうにかさせてもらいます!」

「そんな事させないわよ!」

 

射命丸が風の勢いを強めて物凄い速さで竜巻をぶつけようとしてくるが、霊夢がその行く手を阻むように結界を張ってその進行を食い止める。

霊夢が張った結界は直ぐに壊されてしまうけど、スペカを完成させるには十分な時間を稼ぐ事ができた。

完成した刀身は通常の倍近くの長さがあり、普段では感じられないような強大な力を放っている。

その影響なのかどうか知らないが、あの忌々しい封印から何かが割れるような小さな音が聞こえてくる。

内側から込められる力には対策をしてあっても、鞘全体に力を纏わせた場合の対策はしていなかったんだろうか? …まぁ、今は戦闘中だし、気にする事でもないか。

 

「…それじゃ、覚悟を決めろよ射命丸」

「こ、来ないでくださーいッ!」

 

俺の力を感じて怖気づいたのか、射命丸は涙目になりながら大きな声で叫ぶ。

だが、竜巻の勢いが増した事で吸い込む力も強くなっている所為で、近付きたくなくても向こうに近付いてしまう。

俺は叢雲を握り締めて、竜巻の勢いも利用しながら一気に射命丸との間合いを詰めて行く。

風の勢いに押されて吹き飛ばされそうになるが、それでも創り上げた光剣だけは崩壊させずに維持し続ける。

十分に間合いを詰めた俺は、風の勢いにも負けず光剣を振り下ろして竜巻を両断した……が、少しばかり力の加減を間違ったみたいだ。

 

「やっべ、やり過ぎた」

 

そう呟く俺の眼前には両断された竜巻だけではなく、滝が縦に割れて奥の山肌が切り裂かれているのが写った。

山を切り裂かないように刀身の長さは調整したが、形成する時に使った力の加減を見誤ったらしく、滝とその奥にある山肌を切り裂いてしまったみたいだ。

しかもよく見てみると、さっき使った『双刃乱舞』で放った斬撃の一部が山に幾つもの爪跡を残してしまっている。

旋那の奴にばれたら面倒だが……まぁ、山を両断した訳じゃないし、滝の裏側の部分なら目立たないと思うから多分大丈夫だろ。

心の中でそう自分に言い聞かせつつ、俺は『ドラゴンブレード』を解除しながらも、射命丸が次に如何出るのか警戒をしていた。

すると、射命丸はスカートのポケットから白いハンカチを取り出し、パタパタと力なく振った。

 

「……何の真似だそりゃ?」

「降参するって意味ですよ。まさかあのスペカまで斬られるとは思いませんでしたよ」

「俺は前に闇を斬った事があるからな。それに比べれば幾分か楽だったぞ」

「……なんの慰めにもなりませんよそれ」

 

俺は苦笑いを浮かべつつ愛刀を仕舞うと、避難していた霊夢が俺の隣りにやってきた。

霊夢にこれと言った怪我は無い様だが、何故だか知らないけど滝を見ながら納得した様な顔をしている。

勝利をイチイチ喜ぶタイプじゃないのは知ってるけど、こんな顔をしている霊夢と言うのもかなり珍しいな。

 

「如何した霊夢? 何か変な事でも遭ったか?」

「いやね、なんでたっちゃんがアンタに剣を創ったのかなんとなく理解できたから」

「理解できたって……今の戦闘で何が分かったんだよ」

「手加減しているはずの人間の姿でコレって事は、アンフェニの状態での竜人の姿だったら間違いなく山を両断してるわよね」

「……まぁ、多分そうなんだろうな」

「だとしたらよ。もし、たっちゃんの剣を持たずに戦い続けていたら、この国が消滅してたんじゃないかしら?」

「あ、あははははは。さ、流石にそれはねぇだろ」

 

笑いながら誤魔化すものの、そう言われると自分でもそんな気がしてくるから怖い。

古い友人の話だと、あの頃は本当に手加減せずに暴れまわっていたそうだから、龍神の剣を使わずに戦い続けていたら、普通に天災クラスの攻撃を使い続けていたと思う。

もしそんな事になったら…………いや、これ以上考えるは止そう。なんだか空しくなってくる……。

 

「……ワタシに色々と言ってたくせに、ご自身も笑って誤魔化すんですね」

「うっさい! それよりも、俺達が勝ったから先に行かせてもらうぞ」

「あれ? そんな約束してましたっけ?」

「……まだ邪魔するなら押し通るだけだが?」

「コレ以上は勘弁して欲しいので、どうぞご自由にお通り下さい」

 

軽く脅してやると、疲れ切った射命丸はコレ以上戦いたくないらしく、素直に道を譲ってくれた。

俺は霊夢の手を取って、この場から逃げる様に山に出来たと言う神社を目指して飛んだ。

 

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