竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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注意:この回は霊夢視点です。


第百三十三話 祀られる風の人間

空が茜色に染まる夕暮れ時、緑の巫女をぶっ飛ばしに来た私とリュウは、漸く山を登り切り目的の神社に辿り着く事が出来た。

山に出現した神社は、私の神社と比べて少々広いくらいの敷地があるみたいだけど、人の姿は無く閑散としていた。

まぁ、この山には妖怪と仙人と神々くらいしか住んで無いから、人が居ないのは当然と言えば当然の事よね。

〝外〟から来たから、幻想郷の常識を知らないのかもしれないけど、この山に神社を建てたのは失敗だったわね。

 

「此処が『守谷神社』か……。ウチの神社よりも立派なんじゃないのか?」

「同じ位よ。それよりも、あの巫女は一体何処にいるのかしら」

「霊夢が殺気立ってるから逃げたんじゃないのか」

 

リュウと二人、そんな事を話しながら神社の境内を歩いていると、大きな注連縄が掛けられた本殿から緑の巫女が出て来るのが見えた。

緑の巫女は、私達の姿を見て一瞬だけ驚いたような顔をするけど、直ぐに我に返って、私達の方へと歩み寄ってくる。

彼女以外に人の姿は見えないけど、本殿の方から誰かが私……と言うよりも、リュウの事を注視している様な気がする。

此処も神社なんだし、リュウと因縁のある神様が居ても不思議じゃないけど、今まで会った神様の様に畏れている様子もない。

それだけで、此処の神様がかなりの力を持っている事は分かるけど……一体なんの神様かしら?

如何言った神がいるのか気になった私は、眼を凝らして本殿の中を覗き込もうとするけど、夕暮れ時と言う所為もあってか、本殿の中にいる神の姿を見る事は出来なかった。

 

「……ねぇリュウ。あの神様に何か覚えはある?」

「記憶が無いんだからそんなモンないんだが、それなりに力はありそうだな」

「この神社の神様は、〝それなり〟なんて言葉で片付けられる様なお方ではありません!」

 

本殿に隠れている神様の考察をしようとした所、緑の巫女が私達の会話に割り込んできた。

それに合わせて、本殿の神様は神社の奥へと引っ込んでしまい、境内からでは影すら見る事が出来なくなってしまう。

何を司る神なのか検討を付けておきたかったけど、リュウが傍に居てくれるならどんな神でも負ける事は無いか。

 

「よう、昼間に会って以来だな」

「こんばんわ。……それでこのような時間に何の用ですか。あの神社を明け渡す決心が付いたと?」

「そんな訳が無いでしょ。行き成りやって来て、偉そうな事を言って来たアンタをぶっ飛ばしにきたのよ」

「早苗をぶっ飛ばす? ……なんでそんな目に遭わないといけないのか、皆目検討が付かないのですが?」

「あんな一方的なことを言われて、黙ってられるほど人間出来てないのよ!!」

「まぁ、巫女らしい事をしてないのは事実だけどな」

「……リュウはちょっと黙ってて」

 

変な所で茶々を入れてくるリュウに睨みを利かせて黙らせる。

それで畏縮する……と言う事は無いけど、横から茶々を入れてくる事も無いでしょう。

 

「……それはつまり、あの神社を明け渡す心算は無いと言うことですか?」

「当たり前じゃない。あそこは私の家が先祖代々守ってきた神社よ、何処の誰とも知れないあんた等に譲れる訳ないでしょ」

「そうですか。……ですが、早苗達も悠長にしていられませんので、力付くで明け渡してもらいます」

「なら、私が万が一にでも負けたらあの神社を渡すわ。でも、アンタが負けたら大人しく諦めなさい」

「……分かりました、その条件を呑みましょう」

 

私が提示した条件を呑んだ巫女は、自らの霊力を全身に漲らせて、術を行使する為の準備に入る。

彼女の力は普通の人間と比べ物に為らない程だけど、現人神を名乗るほどの力が有るとは思えない。

〝外〟の世界の基準がどんなのか知らないけど、あの位で名乗れるのなら私でも名乗る事が出来るわ。

 

「そう言う訳だから、リュウは―――」

「―――適当なところで時間を潰してるさ。怪我はするなよ霊夢」

「そんな事言われなくても分かってるわよ」

 

悪態を付きながら返事をすると、リュウは小さく微笑んだ後、直ぐにこの場から姿を消した。

私はアイツが飛んで行くのを見送った後、懐から何枚かの札を取り出し、何時でも戦えるように体勢を整える。

 

「……一つ聞いておくけど、アンタは弾幕ごっこのルールを知ってんの?」

「えぇ。この間襲撃に来た天狗から教えてもらいました」

「ふ~ん……。それなら細かい事を言わなくても大丈夫そうね」

「ところで枚数は如何するんですか? 早苗は何枚でも構いませんけど」

「三枚。それだけあれば十分でしょ」

「分かりました。……それでは行きます!」

 

そう宣言すると、彼女は自らの霊力を無数の弾へと変化させて、私に向かって一斉に放って来た。

飛んで来る速度もそれなりに速いし、弾の数もそこそこに多いのだけど、私からしたらそれなりに速いだけの弾幕でしかない。

私は飛んで来る弾を次々と躱して行き、彼女の弾が途切れた一瞬の隙を付いて、お返しと言わんばかりに大量の札とアミュレットを投げつける。

緑の巫女は、私の札を回避するために上空へと飛んで逃げるけど、投げたアミュレットは跳んだのに反応して反転し、彼女の背後に向かって飛んでいく。

私の弾が追尾するとは思っていなかったのか、彼女は何もできずに棒立ちのまま被弾した。

緑の巫女は被弾した時の衝撃で顔を顰めるけど、直ぐに私の方に向き直って霊力の弾幕を展開してくる。

私は彼女の弾の軌道を読みつつ、隙を見つけては札とアミュレットを放ち、彼女に着実にダメージを与えて行く。

自分の弾が私に当たらないのが悔しいのか、彼女は自分の唇を噛んで悔しそうな顔をしだす。

ある程度ダメージを与えると、緑の巫女は弾幕を張るのを止め、スカートのポケットから一枚のカードを取り出した。

 

「秘術『一子相伝の弾幕』!」

 

カードを宣言した彼女は、空中に五つの点で結んだ星を何重にも重ねて作り出した。

その星々は彼女を中心に周囲に展開すると、一斉に結んだ線が解け出し、大量の弾幕となって襲いかかってきた。

一度に放たれた弾の数は、さっきまで放って来ていた弾幕の比じゃないけど、飛んで来る速度はさっきのと比べてかなり遅い。

私は飛んで来る弾幕の隙間を縫うようにして飛び、迫り来る弾を次々と回避しながら札を飛ばして行く。

術を発動する為に集中しなければ為らないのか、彼女は私の札を躱す様な素振りは見せず、星を作り出すのに集中している。

だけど、彼女がどんなに集中して弾幕を作り出そうとも、私の服を掠する事しか出来なかった。

 

「止めときなさい。この弾幕は既に見切ったから、コレ以上はやるだけ無駄よ」

「くッ! ですが、勝負はまだまだこれからです!」

 

そう言って彼女は通常弾幕を展開して、めげずに私に向かって攻撃を仕掛けてきた。

さっきの弾幕よりは多少速くなっているけど、脅威と感じるほどの速度でもない。

私は迫り来る弾幕を次々と躱し、ホーミングアミュレットを何枚も投げて攻撃して行く。

今度はアミュレットを避けるものの、全ての弾を回避される事はなく、何枚かのアミュレットは避け切れずに当たっている。

 

「天狗には問題なく勝てたのに……如何して彼女は倒せないの!?」

「そんなのこれが私とアンタの力の差だからに決まってるじゃない」

「ふざけないで下さい!」

 

彼女は私の攻撃を受けながらも、負けじと弾幕を放って応戦してくる。

私は彼女が放ってくる弾幕を躱しつつ、アミュレットを投げる手を決して止めたりはしない。

 

「別にふざけてないわよ。ただコレが現実ってだけ」

「貴女みたいに巫女の責務を放り投げてる様な人に、早苗が負ける訳無いじゃないですか!」

「責務を放り投げてるつもりはないわよ。人聞きが悪いわね」

「神社をあんな状態にしてる人が何を言うんです!」

 

彼女は私の態度が気に入らないのか、大声を出しながら感情のままに弾幕を展開し続ける。

さっきよりも弾幕の量は増えたけど、感情のままに攻撃しているからか、イマイチ弾幕の精度が落ちてしまっている。

私はその事を指摘する気も無く、ただ迫り来る弾幕を躰しながら反撃を続けて行く。

 

「一つ勘違いしてるみたいだから言わせて貰うけど、『博麗の巫女(わたし)』はアンタが考えているのとは違うのよ」

「……何が言いたいんですか」

「『博麗の巫女』ってのは、妖怪退治や異変解決が主な生業なの。神様からの信託を受ける様な巫女とは違うから、アンタの物差しで計られても困るのよ」

「ですが、神社の管理をおざなりにしているの事実なんじゃないですか!」

「一応決まりごとは守ってるんだし、結果は如何であれ問題は無いわよ」

「問題があるに決まってるじゃないですか! ちゃんとした結果を出さないなら守れてないのと一緒です!」

「私はこの有り方で今まで過ごして来たの。〝外〟から来たばかりのアンタが偉そうに言うな」

「……其処まで言うのでしたら証明して下さい。貴女がどれだけ凄いのかを!」

「私もアンタの御託は聞き飽きてるの。…分かったらさっさと本気で来なさいよ」

 

私の挑発に乗って、怒りの感情を顕わにした彼女は、ポケットから新しいカードを取り出した。

 

「準備『サモンタケミナカタ』!」

 

彼女がカードを宣言すると、今度は赤と青の星が幾つも現れ、それがさっきのスペカみたいに解けて無数の弾になって私に降り注いできた。

青い弾は線の様に連なり、赤い弾はバラバラになって降り注いでくる。

今までと同じくそれほど速い弾じゃないけど、今回のスペルは今までの中で一番弾の数が多い。

軌道さえ読み間違えなければ、何の問題も無く躱せるけど……流石にこの数は少々骨が折れる。

リュウみたいに剣で弾幕を掻き消せれば楽なんだけど、コイツにはそう言う勝ち方じゃなくて、ちゃんと実力を分からせて勝っておきたい。

あそこまで言った手前、中途半端な勝ち方をしても向こうが納得しないでしょうし、何よりも私が気に入らない。

リュウの戦い方を否定する心算はないけど、ああ言う奴にはちゃんと私の実力を分からせないと気が済まないのよ。

何よりも此処に来た理由が、アイツをぶっ飛ばすことなんだし、確りと見せ付けてやらないと。

そう思いながら、私は彼女の弾幕に掻き消されない様に注意しつつ、各ポイントに札を投げて設置していく。

必要な場所に札を設置し終わり、後はタイミングを見計らって発動するだけと為った時、彼女が放っていた赤と青の弾幕が急に途切れた。

何事かと思い彼女の方を見てみると、彼女の手には三枚目のスペルカードが握られていた。

 

「大奇跡『八坂の神風』!」

 

彼女がスペカを宣言すると、彼女を中心に風の渦が出来、集った風が弾幕となって周囲に拡散する。

能力で集められた風は、止む事無く断続的に吹き抜けていき、私を倒そうと襲い掛かってくる。

風の向きは交互に入れ替わったりするけれど、あの鴉天狗の方がもっと凄い風を起こしてきたわよ。

私は吹き抜ける風など物ともせず、懐から一枚のスペルカードを取り出して、迷う事無く宣言する。

 

「神技『八方鬼縛陣』!」

 

宣言したカードを地面に置くと、このカードから霊力の線が伸びていき、前もって準備しておいた札たちを繋がって行く。

全ての札と線で結ばれるのと同時に結界が張られ、彼女を中に閉じ込める事に成功する。

彼女は私の結界を破壊しようと風を操るけど、力不足で破壊どころか皹一つ入れる事が出来ない。

私は『鬼縛陣』のスペカに霊力を更に込め、結界の内部を霊力の光で満たし、光はそのまま中に居る彼女を飲み込んだ。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

断末魔の悲鳴が聞こえ、それが収まったところで私は展開していた結界を解除した。

張っていた結界が消えると、さっきまで吹き抜けていた風が止み、内部に居た彼女は力なく地面に倒れていた。

手加減を間違えて殺してはないと思うけど、念のために彼女に近付いて容態を見てみる。

パッと見た所、これと言った外傷は無く、力を使い果たして疲れているだけの様にも見える。

能力を使ったのか、結界を張って身を守ったのか知らないけど、簡単に力を使い果たす様じゃまだまだって所ね。

心の中で辛口な評価を下していると、彼女は目を覚まして気だるそうに体を起してきた。

 

「起きたわね。分かってると思うけど、この勝負私の勝ちよ」

「……そうですね、早苗の完敗です」

「あら? 意外とあっさりと負けを認めるのね。駄々捏ねると思ってたのに」

「三枚勝負なのに、一枚しか使われなかったら負けを認めるしかないじゃないですか」

「最後のは使わなくても勝てたけど、実力を分からせるには丁度良かったから」

「其処まで言われたらぐぅの音も出ませんよ……」

 

私に負けて悔しいのか、彼女は下を見て俯いたまま一言呟いた。

 

「悔しがってるところ悪いけど、約束通り私の神社から手を引きなさいよ」

「それでしたら加奈子様に……」

 

彼女が力なく立ち上がろうとした瞬間、直ぐ傍から何かを吹き飛ばすような轟音が響いてきた。

その余りの五月蝿さに、瞬時に耳を塞ぐけどコレと言った効果は無く、耳の奥でキーンっと言う甲高い音が聞こえてきた。

今の轟音で耳の感覚が麻痺らしく、この甲高い音だけを残して周りの音が聞こえなくなる。

多分一過性の物だろうから、放っておけば治ると思うけど……今の轟音は何だったのかしら?

あの轟音の正体が分からず、あれやこれやと悩んでいると、次第に耳の調子が治り出してきた。

 

「あ、あー。……よし、ちゃんと聞こえるわね」

「今の轟音は一体なんだったんでしょうか?」

「……幾つか考えられるのはあるけど、特に問題は無いわよ」

「は、はあ……」

 

緑の巫女はイマイチ理解出来ないのか、なんともハッキリしない返事を返してきた。

私はその返事を気にする事無く、音が聞こえてきた方に耳を傾けてみると、風に乗って誰かが戦いを繰り広げている様な戦闘音が聞こえてきた。

その音が聞こえてきた方角は、リュウが暇を潰しに行くといって飛んでいった方角と一致する。

恐らくは飛んでいった先で誰かと出会い、そのまま仕方が無く戦闘に突入したって所かしらね。

私達もついさっきまで戦っていたから、こんな直ぐ傍で別の誰かが戦っているだなんて思いもしなかったわ。

 

「やれやれ、何してるんだか」

 

私は呆れたように呟きながら、向こうの闘いがどうなっているのか見に行く事にした。

リュウの事だから負けはしないでしょうけど、このまま此処に居ても仕方が無いものね。

そんな事を考えながら飛ぼうとしたところ―――

 

「あの、ちょっと待って下さい」

 

―――何故だか知らないけど緑の巫女に呼び止められてしまった。

 

「なによ。私はもうアンタに用は無いんだけど?」

「一つだけ質問させて下さい。…貴女は如何してそんなにも強いんですか?」

「如何してって言われても……強くないと仕事に為らないからよ」

「そ、それだけなんですか? 能力を高めて信仰を集めようとは思わないんですか?」

「別に考えたこともないし、そう言うのはめんどくさそうだからやりたくないわね」

「……如何してこんな人に負けてしまったんだろう」

「言ったでしょ、これが私とアンタの差だって。……それじゃ、私はもう行くから呼び止めるんじゃないわよ」

 

彼女が力なく頷くのを確認した私は、今度こそリュウの居る所に向かって飛んでいく。

一体誰と戦ってるのか知らないけど、もうちょっと静かに戦ってもらいたいものね。

 

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