霊夢と別れた俺は、山に出現した神社から離れて、一緒に現われたと言う湖を探し始めた。
神社で霊夢達の闘いを見てても良かったが、折角だし新しい釣り場(予定)の下見位はしたい。
魚が住んでいるのか疑問だけど、何もしないで呆けているよりは有意義なものになるだろ。
そう考えながら空を飛んでいると、神社から少し離れた所に何本もの柱が突き刺さっている大きな湖の姿を発見した。
『霧の湖』と比べると、一回りくらいは小さい印象を受けるが、あの湖よりも水の透明度が高い様な気がする。
今が夕暮れ時と言う事もあってか、湖全体が綺麗な茜色に染まっていて、中々に神秘的な光景となっていた。
茜色の湖に柄にも無く目を奪われていると、湖の中心点に旋那の奴と、大きな注連縄を背負った見知らぬ青髪の女性の姿を見つけた。
その女性は遠目から見ても威厳に溢れた姿をしており、遠く離れていても解る位に強大な力を秘めているのを感じる。
空から二人の事を見ていた俺は、何をしているのか色々と気に掛かり、湖へと降り立ってあの二人の傍へと歩み寄る事にした。
「ん? おぉ、竜じゃないか。こんな所で何をしているんだ?」
「それはコッチの台詞だ旋那。天魔であるお前が、こんな所で何をしてる」
「いやなに、山にやって来た新参者の神様とちょっと話し合いをな」
旋那からそう説明を聞いて、何してるんだと思わず呆れていると、件の神様から声を掛けてきた。
「久し振りだね白いの。天照を通して龍神から聞いていたけど、まさかこんなにも早く会えるとは思わなかったわ」
「……聞いてるなら知ってると思うが、俺は過去の記憶を失ってるんだ。ソッチは知っていても俺はアンタが何処の誰なのか知らないんだよ」
「そう言えばそうだったね。…わたしの名前は『八坂 神奈子』。この『守谷神社』に祀られている神様だよ」
そう言って八坂は友好的に自己紹介をしてくるが、過去の因縁でもあるのか警戒しているのが見て取れる。
……だが、これと言って敵意を持っている訳でも、俺の事を恐れている訳でも無いような感じだ。
過去に何があったのか覚えてないが、この様子からすると極端に嫌われる様な事をした訳でもなさそうだな。
「ご丁寧にどうも。今の俺の名前は『リュウ』だ。決して『白いの』とかじゃないからな」
「いやいや、わたしはお前さんの名前を知らないからさ、当時の印象で呼ぶしかなかったんだよ」
「印象って言うか、当時の俺の見た目で呼んでるだけだろ」
「ははは、そうとも言うな」
「……はあ」
随分とフランクな物言いに、俺は思わず呆れてしまい小さな溜息を吐いてしまう。
あの緑の髪の巫女は堅物的な印象だったのに、どうしてこの神はこんなにも軽いんだろうか?
……むしろ、自分の神様がこんなんだから、巫女である彼女が確りしようとしてるのか。
「二人の自己紹介が終わった所で話を戻すが……良いだろうか?」
「ああ、構わないわ」
「それじゃ、今回の神社と湖ごと引越して来た言い分を聞かせてもらおう」
「言い分もなにも、長年住み慣れた社を手放すのが惜しいと思ったからだ」
「……そんな理由でアタシの山に神社と湖を持って来られても困るんだが」
「言いたい事は分かるけど、わたし達も手段を選んでいる余裕が無かったものでね」
「神族のアンタが切羽詰るなんて余程の事だぞ? 一体何が遭ったって言うんだ?」
「簡単な話さ、幻想郷の〝外〟の世界では科学技術が発展して、神々は信仰を得るのに苦心していてね。わたしも信仰が足りなくなって消滅しそうに為ったんだよ」
「それでアタシの山に神社ごと引っ越してきたと? それなら人里近くの野原にでもすれば良かったものを」
「幻想郷は人よりも妖怪の方が多いからね。より多くの信仰を得るには、人里よりも多くの妖怪が住むこの山の方が率が良いと思ったのさ」
「……………」
唐突に引越して来た八坂だったが、今回の騒動を引き起こすだけの理由はちゃんとあったらしい。
しかし、何の断りも無く行き成り引っ越してこられた旋那からすれば、どのような理由であれ迷惑な話でしかなく、眉間の辺りを押さえて困り果てている。
「……ところで八坂の、一つ質問なんだが」
「ん? なんだい白竜?」
「お前の所の巫女がウチに来て、神社を寄越せって言って来たんだが……その真意は?」
「なに、幻想郷の信仰をわたし等で独占しようと思ってね。他所の神社が邪魔なんだよ」
八坂のは悪びれる感じもなく言い切るが、その態度を見て流石に呆れる他なかった。
さっきの話からすると、誰かの信仰がないと神々は存在出来ないようだが、独占する為に他所の神社を取り込もうとするのはどうかと思う。
本人にそう言ったところで、この様子と態度から察するに言うだけ無駄なんだろうけどな……。
「どんな理由があるかと思ったら、そう言う事かよ……」
「なぁ竜。もう色々とめんどくさいからお前さんがぶっ飛ばしてくれないか?」
「なんで俺に頼むんだよ。此処はお前の山だろうが」
「神々と戦うのにお前さん以上に適任な奴がいないからね。…それじゃ宜しく頼んだよ」
旋那は言いたい事だけをいうと、俺と八坂を残して一目散にこの場から避難していった。
正直な話、あんまり闘う気は無かったんだが……コイツには一度キツイお灸を据えた方が良いのかもしれないな。
そう考えた俺は、深い溜息を吐きながらも叢雲を取り出して何時ものように構えた。
「なんだ戦うのかい? わたしとしては勘弁願いたいんだが?」
「俺が居候している神社を乗っ取ろうとしたんだ、ぶっ飛ばされても文句は言えんだろ」
「随分と酷い理由だが、わたしが勝ったら神社を明け渡してもらうか」
「そう言うのは霊夢の奴に言ってくれ」
俺が呆れた風に呟くと、八坂は俺から大きく距離を取り、何処からとも無く四本の柱を呼び寄せた。
四本の柱を背中に装着した八坂は、今まで押さえていた力を解放し始め、それに合わせて周辺の大気が震え出した。
「お前さん相手に手加減なんて出来そうに無いんだ。…だから死んでも怨まないでくれよ」
「俺は死なないそうだし、戦う以上は負けるつもりもねぇから、アンタを怨むつもりもねぇって」
「言ってくれるじゃないか。数千年前は負けてしまったが、今回はわたしが勝たせてもらう!」
「俺だって家を奪われる訳にはいかないんだ。……悪いが本気でやらせてもらうぞ」
そう宣言して力を漲らせた俺は、大気を蹴って離れた所にいる八坂へと向かって駆け出す。
俺が動いたのに合わせて、八坂は背中に背負った四歩の柱から無数の弾を発射し迎撃して来る。
発射される弾は速度・数ともに中々だが、進行の邪魔に為る弾を次々を叩き落していく俺に関係の無い事だ。
十分に間合いを詰めた俺は、八坂に向かって剣を振るい、躊躇う事無く斬り掛かって行く。
間合いを詰められては分が悪いと判断したのか、剣を振り被っている時の僅かな隙を付いて、俺から距離を取ろうとする。
後ろに後退してまた距離を取られてしまうが、移動して若干体勢が崩れている隙に、大気を叩いて衝撃波を八坂に向けて飛ばした。
衝撃波をまともに受けた八坂はその場でよろめくが、距離を取った事で背中の柱からまた弾幕が展開される。
俺はもう一度間合いを詰めようとするが、流石に二度三度と詰めさせてくれるほど向こうも甘くは無く、四本の柱から展開される弾幕に押し切られそうになる。
弾幕を叢雲で処理するには限界があると感じ、俺は左手の中に光剣を作り出して、二つの剣を使って八坂の弾幕を斬り裂いて行く事にした。
単純な手数が増えて捌くのが多少楽になったものの、向こうに隙がない所為で中々間合いを詰めることが出来ないでいる。
二つの剣から斬撃を飛ばしても良いが、さっきみたいな不意打ち紛いでもない限り当たらないだろうし、このタイミングで飛ばすと残っている弾の処理が間に合わなくなる。
已むを得ずスペカを使う事にした俺は、前準備として足元の湖を思いっきり斬り上げ、俺と八坂の間に巨大な水柱を起こした。
視界が遮られている一瞬の隙に上空へと飛び上がった俺は、光剣を消し去ってポケットの中に入っているスペカを取り出し宣言した。
「竜剣『ドラゴンブレード』!」
宣言すると同時に射命丸と戦った時と同じ要領で叢雲に力を纏わせ、巨大な赤い刀身を作って真下にいる八坂に向かって斬り込んで行く。
作るのに掛かる時間は水柱を立ち昇らせた事で十分に埋めることができ、あの時の様に余計な神経を使わなくて済むから今回の方が早く済んだ。
立ち昇る水柱が雨となって湖に降り注ぐ中、俺は一気に八坂との間合いを詰めて躊躇う事無く剣を振り下ろした。
奇襲紛いの方法で攻撃され、碌な対応が出来なかった八坂は、俺の斬撃をまともに受けて斬り伏せられ、そのまま湖の中へと沈んでいく。
今の攻撃の影響で再度水柱が立ち昇るが、直ぐに重力に従って湖に降り注ぎ、斬り伏せられて落下した八坂が水面に顔を出してくる。
「げっほげほ……なんだ今の斬撃は? 以前の白竜には無い攻撃だったと思ったけど」
「何時までも昔の俺と一緒だと思うな。コレまでに色んな奴の技をラーニングして来たから、以前よりも多芸に為ってるぞ」
「……昔は昔でやり難かったけど、今も今でやり難い奴だよ全く」
八坂は呆れた風に呟きながら、手の中にカードを一枚取り出し、それを声高々に宣言してきた。
「神秘『ヤマトトーラス』!」
八坂がスペカを宣言すると、ここら一帯に突如として風が吹き始め、幾つもの小さな刃の弾幕に変化した。
風の刃の弾幕は縦横無尽に舞い続け、俺を打ち倒さんと多方向から襲い掛かってくる。
俺は素早く光剣を手の中に作り出して、二つの剣を振るって風の刃を次々と斬り裂いて行くが……風が止む気配が一向に無い。
何時まで風が吹くのか分からないが、その分風を操っている八坂にも動く気配が見られない。
俺は風の刃を斬りながら、隙を見ては八坂に向かって斬撃を飛ばして攻撃を試みた。
すると、多少は俺の攻撃を避けようとはするものの、風を操るのに集中している分動きが緩慢で、さっきよりも攻撃が当てやすくなっている。
この機に一気に攻め込もうとも思ったが、攻撃に集中し過ぎていると風の刃に襲われる為、下手に思い切った行動に出ることが出来ない。
俺はこの状況に歯がゆく思いながら、二つの剣を巧みに振るって刃を斬り捨てながら、隙を見つけては八坂に攻撃を仕掛けて行く事にした。
柄にも無く風と戯れていると、今まで吹き続けていた風が唐突に止まり、小さな刃たちが一斉に消滅した。
「ちっ。やっぱりコレでも落せないか」
「風を操るのは結構な事だが、そんなトロい動きじゃ的にしかならねぇよ」
「…昔のアンタにも同じ様なことを言われたのを思い出したよ」
「それなら昔と何にも変わってないって事か。……芸の無い奴だ」
「なッ!? ……そんなに言うんだったらコイツをくらいな! 奇祭『目処梃子乱舞』!」
風が止んで即座に二枚目を宣言してくると、八坂の背中にある四本の柱が突然動き出し、何の前触れもなく俺に向かって飛んで来た。
余りにも突然の出来事に慌てて回避したら、それを狙っていたかのように八坂から無数の弾が撃ち込まれる。
俺は体勢を立て直してから斬撃を飛ばし迎撃するが、八坂の弾に気を取られていると、今度は四本の柱に当たりそうになる。
仕方が無く急降下してやり過ごそうとしたが、柱は霊夢のアミュレットの様に俺の事を追尾して来た。
剣で湖を叩き付けて、立ち昇った水柱と激突させてみるけど、四本の柱はそんな事お構い無しに俺に向かって飛んで来る。
あの柱を如何にかしようと躍起になっていると、今度は正面から八坂の弾幕に襲われそうになる。
俺は直ぐに横に退避しようとするが、左右からは既に四本の柱が俺に向かって迫っていた。
前と横の退路が封じられていて、今から上に退避してもまた追い掛け回されるだけと判断した俺は、その場に留まり四本の柱と弾幕を引き付ける事にした。
叢雲を素早く片付けてポケットから新たなスペカを取り出し、光剣を逆手に構えながら弾幕と柱が間合いに入るのを待つ。
刻一刻と弾幕と柱が迫って来る中、俺の間合いに入ったのを見計らってスペカを宣言した。
「真円『円舞陣』」
カードを宣言して直ぐにスペカを持っていた手に光剣を作りだして、その場で回転して円形の刃を作り出して周囲に飛ばした。
俺の間合いに入っていた四本の柱は、回避される事無く真っ二つに切り裂かれ、正面から迫って来ていた弾幕の大半が消滅した。
残っていた弾幕はそのまま俺に向かって来るが、大半が消滅しているため大した数は残っておらず、斬撃一つ飛ばすだけで問題なく片が付いた。
斬撃を飛ばしたことで二つの光剣は消滅したものの、封印されている叢雲での戦い方もそれなりに分かってきたから特に問題はない。
「……まさかあんな方法で突破するとは、本当に昔よりも厄介に為ってるね」
「色々と覚えられる環境だったからな。使えそうな物はラーニングさせて貰ってる」
「その結果がコレって訳ね。……くそ、一体何処のどいつだ。コイツをこんなにも倒しにくい奴にしたのは」
「さて、一体何処の誰だったかな。少なくとも一人や二人じゃねぇから、個人を特定するのは不可能だと思うぞ」
「昔は鉄仮面を付けているみたいに無表情な奴だったけど、喋るようになったらこんなにも人の揚げ足を取るような奴だったなんて…ッ」
「別にそんな性格でもねぇよ。ただ、お前さんが異様に取り易いだけだ」
「本性はトカゲの癖にああ言えばこう言う……ッ」
「……おい、コラ。誰がトカゲだ、誰が。そんなに言うんだったら力を解放して全力で潰しに行くぞ」
「あ、その…………ごめんなさい」
叢雲を取り出しながらキツく睨み付けて脅してやると、若干の間があったものの八坂は頭を下げて謝罪してきた。
流石に力を解放した俺の怖さを知っているのか、あの姿の俺と戦うのは避けたいんだろう。
俺としてもあんまり力を使いたくはないから好都合だが、コイツには一度くらい徹底的に思い知らせてやった方が良い様な気がする。
そんな事を考えながらカイザーの力を使おうか思案していると、八坂は自身のポケットから一枚のカードを取り出してきた。
「全力で来られるのは困るし、コレで決めさせてもらう! くらいな、『風神様の神徳』!」
八坂が手にしたカードを宣言すると、何の前触れもなく彼女自身から風が巻き起こり始めた。
巻き起こった風は彼女を中心に渦巻き始め、無数の風の弾丸となって周囲に撒き散らし始める。
放たれる弾幕の速度は、彼女が使ってきた弾幕の中で最速を誇り、少しでも回避が遅れると用意に撃ち抜かれてしまいそうになる。
俺は暴風が吹き荒れるなら意識を集中させ、風の通り道を予測してなんとか弾幕を避け続ける。
隙を見つけて光剣を創って斬撃を飛ばそうとも思うんだが、弾幕の速度が速い所為もあって斬撃を飛ばすのも一苦労だ。
俺はなんとか隙を見つけては光剣を創って攻撃しつつ、飛んで来る風の弾幕を叢雲で次々と振り払っていく。
コッチの攻撃も一応通っている様だが、このままチマチマ攻撃し続けているのも性に合わない。
そう考えた俺は、あの風の弾幕の隙を付いて空へと飛び上がり、二つの剣を片付ける代わりに一枚のカードを取り出し宣言する。
「竜砲『ドラゴンブレス』!」
カードを宣言した俺は、やり過ぎない様に多少手加減をしながら、内側に眠っている竜の力を両手に集め、砲撃として下に居る八坂に向かって撃ち込んだ。
多少は手加減をしているからか、撃ち出された『アンフィニ』の〝白〟ではなく、普段の〝赤〟く輝く砲撃となっていた。
俺の声と力に勘付いた八坂は、俺の砲撃を打ち消そうと風の弾を撃ちこんで来るが……そんなモノ物ともせず、俺の砲撃は下にいる八坂を飲み込んだ。
八坂を飲み込んだ赤い砲撃は、そのまま下に広がる湖を撃ち抜き、耳を劈くような轟音と先程よりも大きな水柱を作り出した。
出来上がった水柱は重力に従って湖へと降り注ぎ、一時だけこの辺りに豪雨が降り注いだ。
今の一撃に確かな手応えを感じた俺は、身体の緊張を解いて湖の方に目を向ける。
湖は水柱から降り注ぐ水滴で幾つモノ波紋が出来ており、周囲に刺さっていた柱も砲撃の余波で何本か傾いていた。
……そんな中、力なく水面に浮ぶ青髪の女性の姿を見つけて、俺は慌てて湖から引き上げ彼女を救出した。
「あ~……一応聞くけど大丈夫か?」
「……これがだいじょうぶにみえるのか?」
「これでも手加減はしたんだが……」
「やっぱりおまえは、わたしらのてんてきだよ……」
最後に恨めしそうに呟くと、八坂はそのまま気を失ってしまった。
恨まれる筋合いはないんだが、このまま放り出すわけにも行かないし、あの神社に連れて行くとしよう。
そう考えた俺は、気を失っている彼女を担ぎながら来た道を戻る事にした。
……それにしても、手加減してこの威力って事を考えると、今後はこの技を神々相手に使わない方が良いかもしれないな。
殺しても良い相手なら気にしないが、流石にごっこ遊びであの威力は色々と問題がありそうだしな。