竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第百三十六話 秋晴れの空の下

 

一羽の鳶が澄み切った青空の高いところを飛ぶ、幻想郷の秋の空。

今日も一日気持ちのいい秋晴れを予感させる空の下で、俺は名もない平原で妖夢と剣戟を興じていた。

妖怪の山に出来た神社に襲撃…もとい、挨拶に出かけた時に叢雲の鞘を壊すヒントを得た俺は、誰の迷惑にも掛からないように朝食を食べて直ぐに出掛けたんだが、向かっている道中で偶然にも妖夢と鉢合わせしてしまった。

面倒な事に為る前に直ぐにでも姿を眩ませたかったんだが、次に会った時に逃げたとか言われて癇癪起こされるほうがもっと面倒だ。

 

「…はぁ。面倒を回避する手段が戦うしかないってのも如何なんだかな……」

「戦いの最中に考え事ですか? 随分と余裕ですね。剣も鞘から抜かないで…私のこと舐めてるんですか!?」

「だから、戦う前に言っただろ。今の叢雲は鞘に封印されていて抜けないんだって」

「剣を封印する鞘なんて眉唾もの信じられるわけないじゃないですか!」

「……ほんっとに頑固だなお前は!」

 

俺の話を信じない妖夢に若干の苛立ちを覚えながら、刀を振り下ろして来た彼女を軽く弾き飛ばす。

弾かれて少々間合いが離れるが、妖夢は直ぐに体勢を立て直して休む間もなく攻め込んでくる。

 

「あぁもう鬱陶しい! ちったぁ落ち着け!」

「止まったら貴方に斬られるじゃないですか! 今日は勝ちに来てるんですから、そんなのゴメンです!」

 

そう叫びながら妖夢は刀を振るい俺の横を走りぬけ、持ち前のフットワークを活かしてすぐさま反転し、また俺に向かって斬り込んでくる。

こうして動き回る事で俺をかく乱させるのが狙いなのか、妖夢は戦いが始まってからずっとこんな調子で走り続けている。

アイツが持っている斬馬刀の能力で、俺に効果的にダメージを与えられる様になり、刀と自分の速さを活かしての短期決戦でも狙っているんだろ。

俺の動きを封じつつ、自分の持ち味を活かして戦う。その発想自体は悪くないんだが……どうやら妖夢は一つ見落としている事に気が付いていない様だ。

 

「如何したんですか、リュウさん! 動こうとせずにジッと立ち止まって、このまま私に斬り伏せられるのがお望みですか!?」

「お前にそれだけの実力があれば、本当にそうなるんじゃないか?」

「……なんかその言い方ですと、今の私では無理みたいに聞こえるんですが」

「そのつもりで言ったからな。ちゃんと言葉が通じているみたいで安心したよ」

「なッ!? さっきから私の事を馬鹿にしてませんか!?」

「馬鹿にはしていない、ただ呆れているだけだ」

「それはそれで物凄く腹が立ちます…よッ!」

 

そう言いながら斬り込んでくる妖夢を軽く弾いて、また距離を空けさせる。

妖夢はまた直ぐに体勢を立て直して向かって来るが、今度は軽く受け流してから押し出す様に一撃叩き込む。

背中に攻撃を受けた反動で、妖夢は前のめりなってに転びそうになるが、前転の要領で転がる事で隙を少なくして体勢を素早く立て直した。

反応のよさは相変わらずだが、さっきの挑発で相当頭にきているのか、無策のまま我武者羅に突っ込んでくる。

この頭の固さと直ぐに熱くなる癖が直れば伸びると思うんだが、性格ってのは簡単に直せるものじゃないし、こればっかりは時間を掛けるしかないんだろうな。

頭の片隅でそんな事を思いながら、妖夢の刀を受け止めてから回転する要領で彼女を軽く吹っ飛ばす。

 

「クッ。…まだまだぁ!」

 

吹き飛ばされてもめげずに向かって来る彼女に、俺は軽く弾き、受け流し、反撃して捌いていく。

客観的に見れば、これは戦っていると言うよりも、戯れていると言った方が近いのかもしれない。

真剣に為って戦っていると言うには迫力が感じられず、妖夢が俺の周りをウロチョロしているだけにも見える。

その事を妖夢も感じているのか、俺に向かって来る彼女の表情は憤っているようにも見えた。

自分は真面目に戦っているのに対して、俺が碌に相手をしてくれない事に憤っているんだろうが、今のコイツ相手に真面目に戦う気には為れないな。

 

「さっきからのらりくらりと……。貴方が真面目に戦わないのでしたら、もう勝負を付けさせて貰います!」

 

今の状況からでも勝てる気でいるのか、妖夢は走る速度を上げて草原を縦横無尽に駆け抜ける。

素早く移動する事で俺の隙を付いて一気に決めるつもりなんだろうけど、はっきり言って浅はかとしか言いようがない。

草原を駆け抜ける妖夢は中々の速度を出してるが、射命丸に比べれば大した事もないし、眼で追いかける事が出来る。

その事は妖夢も理解していると思っていたけど、一撃さえ当てられればそれで良いと思っているのか、彼女らしくもなく無駄な動きが多い。

 

「…ったく、仕方のない奴だ」

 

俺は呆れて小さな溜息を零し、すぐさま移動して走り回っている妖夢の前に立ち塞がる。

俺が立ち塞がるとは思っていなかったのか、妖夢は驚きを顕わにして立ち止まろうとするが、速く走りすぎた為に直ぐに立ち止まる事ができず、俺に大きな隙を見せてしまう。

立ち止まって再び動き出すよりも早く間合いを詰めた俺は、袈裟斬り、右薙ぎ、切り上げの三連撃を叩き込んだ後、後ろに押し出す様に蹴りこんで態と間合いを離す。

妖夢は蹴り込まれて体勢を崩してよろめくが、俺はその隙を付いて十字に斬りながら彼女の横を走り抜けた。

斬り抜けた時に確かな手応えを感じた俺は、コレで勝負は決まったと思い剣を軽く振るうが―――

 

「断…迷剣『迷津慈航斬』ッ!」

 

―――悪あがきのつもりなのか、妖夢は刀に自身の妖力を纏わせて作った剣で斬りかかって来た。

心の中で、あの連撃で気絶しなかった事には褒めてやるが、今の自分の状態に気づいていない事には呆れてしまう。

俺は小さく溜息を吐いてから後ろを振り返り、その序でに振り下ろして来た剣を叩き折ってやった。

妖夢が作った剣は拮抗する事もなく簡単に砕け散り、粉々になった刀身は霧の様に霧散して消えていった。

 

「わ、私の断迷剣が……」

「別に驚く事じゃねぇだろ。今のお前ならこんなもんだ」

「なんですか、その言い方は! まるで私じゃまともに使えていないみたいに聞こえるじゃないですか!」

「あのなぁ……。あれだけ走り回って体力をすり減らした奴が、まともに剣を振るえる訳ねぇだろ」

「…………あ」

「あ、じゃねぇだろ……」

 

言われて今気が付いたみたいな反応の妖夢に、俺は呆れるのを通り越して哀れみすら感じてしまった。

今回の戦いで妖夢は終始走りっぱなしで、立ち止まって呼吸を整える事すら碌にしていない。

どれだけ体力が有ろうとも、斬馬刀は普通の刀よりもずっと重く、それを抱えて走り続けるのはかなり体力がいる。

それなのにあれだけ走り回っていれば、体力も限界近くまで使ってしまうし、集中力が乱れてまともに力を練れるわけないだろ。

 

「俺に効果的なその刀の特性を活かして短期決戦を挑むのはいいが、もう少し戦い方を考えろこの馬鹿」

「……もしかして、最初からその事に気付いてましたか?」

「まぁな。…お前を追いかけて走り回るのが面倒だったってのもあるけど」

 

そう言いながら俺は妖夢に歩いて詰め寄るが、彼女はまだ戦いが続いていると思っているのか、重そうに刀を構えようとする。

だけど、刀を構える妖夢の姿は誰の眼から見ても解るくらいに無理をしている。

俺は肩に担ぐように剣を持ち、妖夢の目の前で呆れたように深い溜息を吐き―――

 

「…とりあえず、今の自分の何が悪いのか考えてから出直して来い」

 

―――そう言いながら叢雲で彼女の頭を叩いて黙らせる。

多少力加減をしていたとは言え、体力が限界にまで来ていた妖夢はそのまま気を失って倒れた。

こうして倒れている妖夢と、初めて会った頃の妖夢を比べるとなんだか今のコイツにはがっかりさせられる。

初めて会った頃は愚直なまでに自分の剣を信じていたが、俺に勝ってからは刀の性能に頼りきった戦い方ばかり仕掛けてくる。

刀の性能に頼ること事態に文句を言うつもりはないが、あの頃を比べると今の妖夢は慢心している様な気がして為らない。

高威力の技を一撃入れられれば俺に勝てる。その考えから短期決戦を挑むようになったんだろうが、そんな単純な考えで勝てるほど俺は甘かねぇ。

あんなに走り回るなんて体力の無駄遣いだし、一撃に賭けるにしても他に方法があっただろう……。

全く、強くなった今よりも、弱かった頃の方がマシだなんておかしな話だよな。

 

「…まぁ、俺の苦言を聞いてどう受け止めるかはコイツ次第だし、それでも変わらなかったら其処までの奴だったって事か」

 

吐き捨てるように呟いた俺は、気絶したままの妖夢を放置して彼女から遠ざかる。

目視で大体数十mほどの距離を離した俺は、出したままにしていた叢雲の鞘の状態を調べる。

妖夢の攻撃だったとは言え、斬馬刀の一撃を何度も喰らっていたにも拘らず、鞘には傷一つ付いていない。

石や鉄で出来ているのならまだ分かるが、この鞘は注連縄なんかと同じで紐の様な繊維で出来ている。

そんな材質で切り傷一つ付いていないのはおかしい。そう思い、入念に鞘を調べてみると……一箇所だけ小さな皹が出来ているのを発見した。

その傷は表面が軽く裂けたようなもので、今回の戦いで出来た傷と言う訳でもなさそうだ。

恐らく、射命丸との戦いで聞こえてきた音の正体がコレなんだろうけど、傷の浅さから言って封印そのものに影響は出ていないだろうな。

 

「……一度どの程度の力で覆えば傷付くのか、試してみるのも良いかもしれないな」

 

なんとなくそう思った俺は、直ぐ傍に誰も居ない事を確認してから、あの時の戦いみたいに鞘ごと剣に俺の力を纏わせてみた。

普段のこの姿で戦っているときと同じ量では封印に負けてしまい、傷を付けるどころか、剣に力を纏わせる事すらできない。

更に倍の量に増やして試してみるが、その程度では薄い膜に覆われているような感じになる。

その状態で暫く観察してみたけど、どれだけ待っても傷が出来る気配もなく、更に倍にしてみても変わらなかった。

あの時のは只の偶然だったのか。若干の疑心暗鬼になりながら更に力を纏わせていったところで、漸く鞘に小さな傷が出来る。

今の状態は普段の十倍近くの力を纏わせているが、その状態で出来る傷が表面が軽く裂けた様な小さな傷。

この状態を維持したまま、叢雲を地面にそっと近付けてみると、切っ先に触れた草が消滅し、触れてもいない地面が軽く陥没する。

とてもじゃないが、この状態で誰かと戦おうものなら確実に死人が出るし、周りの景色も大きく変わっちまう。

射命丸の奴はよく躱せたなと関心しながら、叢雲に纏わせた力を霧散させておく。

 

「俺の力が物騒なのは今に始まった事じゃないが、これだけやっても小さな傷しか付けられないのは軽く凹むな」

 

肩を落としながら小さくぼやき、今は使わないであろう叢雲を何時もの様に仕舞っておく。

あれだけやってもあの程度しか傷付かないとなると、人の姿のままじゃ完全に壊れるまでに何年掛かるか分かりゃしない。

アンフェニの状態で同じ事をやろうとしても、結界が壊れるとか言って八雲の奴が邪魔してくるだろうし、少なくとも幻想郷じゃやれない方法だな。

……やっぱり此処は、龍神の奴が何か良い方法を閃いてくれるか、霊夢の修行次第ってところだな。

他力本願みたいで申し訳ないが、あの二人には頑張ってもわらないと。

そんな事を思いながら空を見上げてみると、気持ちの良い秋晴れの空を衣玖が飛んでいる事に気が付いた。

無効も俺の事に気が付いたのか、衣玖は一直線に俺の元へとやって来る。

 

「此処に居ましたかリュウさん。探しましたよ」

「何か遭ったのか衣玖。慌てている……様には見えないな」

「いえ、別に大した事ではないのですが、霊夢さんが〝今日は妖夢が来てないし、何処かで戦ってないか様子を見てきて〟っと頼まれまして」

「…流石は霊夢だな。よく分かってる」

「と言う事はやはり……」

「嗚呼。あそこで倒れてるのがそうだよ」

 

俺が指をさして妖夢の場所を教えてやると、衣玖は哀れむような呆れるような複雑な表情を浮かべる。

 

「…何時もの事ですが、もう少し手加減をしてあげられませんか? 相手は女の子ですし」

「そんな事したら癇癪を起こすに決まってる。第一、俺が全力で戦おうものならとっくの昔に死んでるぞ」

「確かにその通りですね。…ところで、妖夢さんは如何(いかが)いたしましょう?」

「面倒だから放置……して妖怪に襲われたら目覚めが悪いな。とりあえず、妖怪が余り寄り付かない場所に運んでやるか」

「でしたら、香霖堂にお運びすれば宜しいのですね。畏まりました」

 

そう言って衣玖は妖夢の元へ向かい、彼女を運ぼうとするが……俺はその行為を止めようかと思ってしまう。

衣玖を引き止める為に腕を伸ばしかけるが、思いとどまり声を掛けずに伸ばした手を引っ込める。

従者として接すると決めたのに、此処で呼び止めて代わりに俺が運ぶってのは間違いだ。

もう衣玖とは友人と言う関係ではない以上、彼女から仕事を奪うような真似をするもんじゃない。

 

「ん? 如何かしましたかリュウさん?」

「…いや、なんでもない。さっさと妖夢を運んじまおう」

「はい、畏まりました」

 

礼儀正しく一礼をした衣玖は、抜き身の刀を鞘に仕舞ってから倒れている妖夢を背負う。

衣玖に刀を仕舞われている間も妖夢は眼を覚ます事無く、彼女にされるがままと言った様子だった。

こうして俺と衣玖は、面倒ではあるが気絶したままの妖夢を比較的安全な場所に運んで行った。

店に着いたら霖之助に小言を言われそうだが、店の商品を買えば見逃してくれるだろ。…たぶん。

 




妖夢がリュウとの戦いに使っている刀『斬馬刀』。これはBOFⅣの武器から取っているのですが、この刀は剣のカテゴリーで二番目に重い武器だったりします。
BOFは装備品に〝重さ〟が設定されていて、これがキャラクターの素早さに影響を与えています。ただコレは速さにだけ影響を与えるので、重い装備ほど強いと言う訳じゃないです。
でも斬馬刀はサイアスの最強装備なんですよね。正直、もうちょい軽い武器だったらよかったのにって今でも思ってる。
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