竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第百三十七話 小さくて騒がしい来訪者

 

「……ねぇリュウ、貴方の血って燃料になったりするのかしら?」

「お前は行き成り何を言っているんだ?」

 

今日の俺は『紅魔館』にお邪魔してフランの遊び相手をしている。

地下の大図書館の机を借りて、二人でチェスをしていたら、いきなりパチュリーが変な事を聞いてきた。

確かにパチュリーには、白い本から出る手助けをして貰ったお礼に少量の血を分けたから、俺の……と言うか竜の血を持っているんだがそんな事を聞いて如何するつもりだ?

 

「今建設中のモノの燃料に、貴方の血が使えないか知りたいのよ」

「建設中のって言うと……あのでっかい小屋みたいなやつか」

「そうよ。あと、小屋じゃなくてロケットだからアレ」

「ロケット…ねぇ」

 

訝しむ様に呟きながら俺は、図書館の真ん中に堂々と建っている三階建ての小屋を見る。

ロケットってのが何なのかイマイチ分からないが、パッと見た感じだと歪な形をした三階建ての木製の小屋。

地下に建てるには余りにも不釣合いで、物凄く邪魔だからさっさと撤去しろよってレミリアに言いたい。

どうせこんなヘンテコな物を建てようって言い出したのはアイツだろう。全く、今度は何を仕出かすつもりなんだか。

 

「それで貴方の血は使えるの? 使えないの?」

「んなの俺が知る訳ないだろ。てか、血液を燃料にするって無茶にも程があるだろ」

「私が調べた限りだと、貴方の血は凄まじいエネルギーを秘めているのよ。その力を得ようとあの薬を作った訳だけど……」

「失敗してフランが暴走しちまったって訳か」

「失敗はしてないわ。ただ、私の身体には合わなかっただけ。それに妹様の場合は、貴方の血の力に触発されたのだと思う」

「いや、そんな細かい事は如何でもいいから。仮に俺の血からエネルギーを取り出せたとして、それを扱える装置を作れる算段は有るのか」

 

そう言われてパチュリーは暫し考え込むが、思いの外早く結論が出たらしく、彼女は小さく首を横に振った。

 

「…………無いわね。全く前例がない物だし、今から作ろうとしたら何年掛かるか分かったものじゃないわ」

「だったら、俺の血を使おうとか考えないで他の方法を探せよ」

「それもそうね。…となると、コレは一体何に使おうかしら?」

「それはお前に任せるが……あまり変な事に使わないでくれよ」

「分かってるわよ」

「はい! リュウの番だよ!」

「了解、了解っと」

 

フランに呼ばれて、漸く俺の番になった訳だが……状況はあんまり良くないかな。

そろそろ終盤に差し掛かって、後二・三手でチェックを掛けられそうなんだが、フランのルークが邪魔で場は膠着状態に入っている。

ルークを退かす為に駒を動かしても良いんだが、それをやると他の駒に一気に攻め込まれかねないから、無関係の駒を動かして向こうの出方を窺うしかないが、フランもフランで俺の出方を窺ってるから全然動きがない。

まぁ、もうちょっとでポーンがプロモーション出来るから、其処まで持っていければ状況も変わるだろうし、其処まで何とかして粘るのも手か?

 

「……………」

 

色々と悩んで末、フランのルークを取りには行かず、自分のポーンを動かす事にした。

攻められる時はドンドン前に出て行きたいが、焦って前に出ても返り討ちに遭うだけ出したな。

今回のチェスはちょっとした賭けをしてるから、簡単に負けてやる訳にも行かないんだよ。

……まぁ、負けたからと言ってお金を失う訳じゃないから、余り気にする程でもないんだけど。

 

「むぅ……また攻めてこなかった」

「攻め込んだら負ける気がしたからな」

「う~んっと、それならねぇ―――」

「妹様、4-dにビショップを動かせば勝てるわよ」

「―――え? 本当?」

「えぇ。其処に動かされたら彼詰むもの」

「……んな事はないと思うが」

 

パチュリーから横槍を入れられて盤上を確認してみるが、その位置に駒を動かされてもチェックが掛かるだけでまだ詰まない。

次の俺の番でキングを動かせばまだ逃げられる………って待てよ、確かにその位置は不味いな。

俺のキングが有るのが1-gだから、逃げられるのが前か横しかない上に、キングの前二つには駒二つが残っている。

2-fはフランのビショップの通り道だし、1-fと1-hに逃げようとしてもフランのルークとナイトがあるから、どちらに動かしても次のフランの番でキングが取られる。

……うん、これは完全に詰んだな、如何動かしても俺に逃げ場は無さそうだ。

 

「あ~……これはもっと早くナイトを取るべきだったな」

「私にしたら、なんで其処を取らなかったのか聞きたい位よ」

「いや、素で忘れてた」

「やれやれ……」

「えっと……つまり如何言う事なの?」

「つまりフランの勝ちって事だ。其処に動かされたら逃げようがない」

「本当?」

「ほんとほんと」

「……やったー! リュウに勝てたー!!」

 

俺が素直に降参すると、フランは両手を挙げて全身で喜びを表してきた。

チェスで俺に勝てたのが嬉しいのか、賭けの内容を実行できるのが嬉しいのか分からないが、フランは普段以上に大はしゃぎしている。

一方で俺はと言うと、負けて悔しいという気持ちもあるが、こんなにも喜んでいるのなら別に負けても良かったかなとも思っている。

 

「それじゃリュウ! 約束どおり神社にお泊りさせてよね!」

「わーってるよ。……それで何時来る心算なんだ?」

「えっとね……折角だから今日いく!」

「今日?! 幾らなんでも急すぎるだろ! ちゃんとレミリアや咲夜に事情を説明してだな……」

「そんな事知らないもん! あ、パチェ、お泊りセット用意するから手伝って」

「小悪魔貸してあげるから、あの子に頼みなさい」

「うん、分かった!」

 

フランは元気良く返事をすると、直ぐに席を立って、図書館の何処かに居る小悪魔を探しに行ってしまった。

なんとかして引き止めようと思ったが、あんなに喜んでいるフランを止めるのも気が引けるし、賭け勝負に負けた時点で俺に拒否権は無いんだよな。

……やっぱり賭けチェスなんてするんじゃなかった。霊夢の奴になんて説明すれば良いんだよ。

 

「あ~……頭が痛い」

「まぁ、頑張りなさいな」

「……他人事だと思って気楽に言いやがって」

「完全に他人事だもの、そりゃ気楽に言うわよ」

「はぁ……」

 

 

 

 

 

………

……

 

フランの準備が終わったところで、レミリアと咲夜に事情を説明して許可を貰っておいた。

何も説明せずに神社に来るとなると、後で面倒な事になりかねないから、ちゃんと説明だけはしておかないと。

許可を貰った後、俺はフランを連れて寄り道せずに真っ直ぐ神社へと帰ると、空は丁度茜色に染まり夕方になっていた。

母屋の玄関を開けて家の中に入ると、其処では霊夢が今晩の夕食の支度をしながら、俺の帰りを待って居てくれた。

 

「おかえりリュウ。遅かったわ…ね……」

 

霊夢は俺がフランと一緒にいるのを見て目を丸くするが、直ぐに何かに勘付いたのか呆れ顔になって溜息を吐いてきた。

 

「霊夢! 今日は泊まりに来たから一晩宜しくね!」

「……リュウ、説明」

「賭けチェスで負けました」

「分かりやすい説明ありがとう。…ったく、泊まりに来るなら前もって連絡いれなさいよね」

「いや~、流石に今日は無いだろうと思ってたんだがな」

「やれやれ、しょうがないわね。早く上がりなさいよ、二人共」

「おじゃましま~す!」

 

元気に返事をしたフランは、そのまま神社の母屋の方に上がり込んでいった。

俺もその後に続いて上がろうとしたところ、霊夢に肩を掴まれて動きを止められてしまう。

 

「如何した霊夢?」

「いや、アンタに一つ言っておこうかと思って」

「ん? なんだ?」

「賭けをするなとは言わないけど……程ほどにネ?」

「わ、分かった……」

「それなら良いわ。さてっと、それじゃ晩御飯でも作りましょうか。今日は何時もより一人多いんだし」

 

そう言って霊夢は台所で料理の準備を始めるが、若干機嫌が悪いのが見て取れる。

あまり気にしていない様に装ってたけど、やっぱり何も知らせずに連れて来たのは不味かったな。

ちょっと軽率な行動だったかなと反省しつつ、台所を通り抜けてフランが待つ居間に向かう。

俺が居間に着くと其処には、持って来た荷物を降ろして、床でうつ伏せになっているフランの姿があった。

 

「……なにしてんだ、フラン」

「あ、リュウ。暇」

「着いて早々暇とか言うなよ……」

「だって暇なんだも~ん。ねぇ、何か遊べる物はないの?」

「遊べる物ねぇ……」

 

フランに強請られはするものの、簡単に思い出せるほどこの神社にゲームは置いていない。

何かないかと近くにある棚を開けて探してみるが……調べた場所には何も置いてなかった。

他の棚も開けて探してみると、小さなケースに仕舞われているカードの山を見つけた。

俺はそのケースを手に取ってカードを取り出すと、一枚一枚に色取り取りの絵が描かれているのが分かる。

色んな絵があって見る分には面白いが、それだけじゃどうやって遊ぶのか分かりやしない。

ケースの中にも説明書は入ってないし、もしかしたら遊ぶ用のカードじゃなくて、観賞用のカードなのかもしれないな。

 

「ねぇリュウ。何か遊べる物はあった?」

「あ~……すまん、こんなカードの山しか見付からなかった」

「…? どれどれ?」

 

俺が見つけたカードに興味を引かれたのか、フランは立ち上がってカードを受け取ると、そのままカードを柄を観賞し始めた。

 

「……………」

 

洋風建築の屋敷で育ったからか、フランは立ち尽くしたまま手にしたカードを興味深そうに眺め続ける。

俺が傍に居るのも忘れているらしく、時間も忘れて色取り取りの柄のカードに夢中に為っている。

フランが夢中に為ってくれたのは良いんだが、今度は俺が手持ち無沙汰になってしまった。

霊夢は今は料理の準備中だし、フランは謎のカードの束に夢中となると……他にする事も無いし、風呂でも入れるとするかな。

 

「霊夢、ちょっくら風呂を入れてくるから、フランの事頼むな」

「頼むって……フランは今何してるのよ?」

「色んな絵が描かれているカードに夢中に為ってるよ」

「……色んな絵?」

「それじゃ頼んだぞ~」

 

フランの事を霊夢に頼んだ俺は、裏庭に出て輪切りの丸太が山積みになっている場所に向かう。

其処で適当な丸太を何個か手に取って、愛刀を振るって丁度良い大きさの薪に切り揃える。

後は風呂場の浴槽に水を張って、裏手にある炉に薪を放り込んで火を点けて……って、先に浴槽を洗わないとな。

 

 

 

 

………

……

 

そんなこんなで一通り風呂の準備を終えた俺は、自室には戻らずにそのまま居間の方に顔を出す事にした。

いい加減フランもカードに見飽きて暇になってるだろうし、もうちょっとしたら霊夢も夕食の準備を終えるだろう。

そんな事を考えながら居間に行くと、霊夢とフランがちゃぶ台の上で何かをしているのを見かける。

何をしているのか気になって二人に近付くと、さっき俺が見つけたカードを使って何かのゲームをしている様だ。

二人して似た様な柄のカードを取っている様だが……このゲームのルールが全然分からん。

自分の番の時に、手持ちのカードから似た柄のカードを取って行くのは分かるんだが、その意味と勝敗の点け方がさっぱりだ。

 

「はい、これで五光が完成したからこのまま勝負よ」

「こいこい! こいこいしてよ!」

「嫌よ。第一してもしなくても私の勝ちなんだから、するだけ無駄よ」

「霊夢のケチー!」

「……何してんだお前等」

「あ、聞いてよリュウ! 霊夢ったら全然手加減してくれないんだよ!!」

「覚えておきなさいフラン。勝負とは常に非情なものなのよ。……それは置いておくとして、リュウも戻ってきたから晩御飯にしましょうか」

 

霊夢がそう言うと、ちゃぶ台の上に散らばったカードを集めて片付けを始めた。

フランは俺にさっきのゲームの不満をぶつけて来るが、ルールを把握していないから適当な合いの手しか入れることが出来ない。

本人は特に気にしていない様子だけど、良く知らないゲームでの不満を言われても困るんだよな。

霊夢の手札がおかしいだの、自分が山札を切った筈なのに霊夢の所にばっかり良い札が行くだの、そんな事言われても俺はなんて返事をすれば良いんだ?

 

「ね! 酷いと思わないリュウ!」

「え、え~っと……霊夢だから仕方が無いんじゃないか?」

「そんなので納得できない! 後で絶対リベンジしてやるんだから!」

「はいはい、それは後でね。それよりも料理を並べるの手伝いなさいよ」

「あ、悪い、今やるよ」

 

そう言って俺はフランから離れて、台所に置いてある料理を居間に運んでいく。

今日はフランが泊まりに着ているからか、何時もよりも手の込んだ料理が目に付く。

別に普段から手を抜いていると言う訳じゃないが、食べるのが二人しかいないから料理が中途半端に残らない様な物ばかり作るんだよ。

料理を残して駄目にするよりは良いんだけど、偶にはこの位手の込んだ料理を食べたいもんだ。

 

「……リュウ、今何か言った?」

「いや、別に」

「……まぁ良いけど。それじゃいただきます」

「いただきます」「いただきま~す」

 

ちゃぶ台に料理が出揃い、俺達はちゃぶ台を囲んで食事を取る事にした。

霊夢の料理は何時もと変わらず美味しいのだが、フランは使い慣れていない箸に悪戦苦闘している。

あの屋敷で和食が出るとは思えないし、フランが箸を使えないのは仕方が無い事だが、このまま静観しているのも可哀相だ。

そう思った俺は、席を立ち上がって代わりになりそうな物を探そうとしたが、俺が立ち上がるよりも早く霊夢がフランに木製のスプーンとフォークを渡した。

 

「ほら、コレを使いなさい」

「あ、ありがとう霊夢」

 

霊夢からスプーンとフォークを受け取ったフランは、それ等を使って食事を再開する。

箸と違って使い慣れている物だからか、今度は特に苦もなく料理を食べることが出来た。

その姿にホッとした俺は、浮かせたままの腰を下ろして食事を再開する事にした。

 

「ちょっとフラン、口周りが汚れてるわよ。拭いてあげるからコッチに顔を向けなさい」

「うん、分かった」

 

霊夢の方に顔を向けたフランは、そのまま霊夢が手にしている手拭いで顔を綺麗にして貰った。

フランの顔を拭いている時の霊夢の眼は、普段よりも優しい目をしている様な気がした。

あの眼差しは、何かを愛しむような……そんな感じの眼差しだったな。

 

「…………」

「ん? 如何かしたリュウ?」

「いや、そうしていると二人が親子に見えると思ってな」

「アンタねぇ……いきなり何を言ってるのよ」

「なんとなくそう見えてな。他意はないよ」

「ん~……霊夢がお母さんなら、リュウはお父さんになるのかな?」

「ったく、フランも何を言ってるのよ。変な事言ってないで、早くご飯を食べちゃってよね」

「お父さんか……」

 

食事を急かす霊夢の言葉が耳に入らないくらい、俺はフランが言って来た言葉が耳に残っていた。

俺には過去の大半を失っているから、父親が居たのかどうかも分からないし、親子と言うのも旅先や里で見かけた光景くらいしか知らない。

それが一体如何言うものなのか分からないけど、そう言う関係に少なからず心惹かれるものがある。

 

「……うん、そう言うのも悪くないのかもな」

「ちょっと本当に如何しちゃったのよ?」

「いや、ただ子供がいるても良いかもしれないと思っただけだ」

「ブッ?! アンタ本気で何を言ってるのよ?!」

「だから他意はねぇって言ってるだろ」

「有っても無くても困るわよ!!」

「……ねぇリュウ、霊夢はなんで怒ってるの?」

「さぁな。お母さんに聞いてみれば分かるんじゃないか?」

「お母さんって言うなー!!」

 

顔を真っ赤にして霊夢が怒鳴ってくるけど、その姿が面白くて俺は思わず笑ってしまう。

そしたらまた霊夢が怒り出すし、フランも悪乗りなんかして来たりして、普段よりも騒がしくも楽しい食事を取る事ができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

その後、沸かした風呂に順番に入り、三人でトランプやらスゴロクなんかをしていたら、気が付いた時には外はすっかり暗くなりもう寝る時間となっていた。

吸血鬼であるフランはまだ平気かと思ったら、今日ははしゃぎ過ぎた所為か、目が半分ほど閉じて眠たそうにしていた。

 

「フラン、眠るなら布団を用意するわよ?」

「まだ…へいき……。もうすこしおきてる……」

「平気って……見るからに眠たそうにしてるぞ」

「せっかくのおとまりなのに、ここでねむるなんてやだ。まだふたりとあそんでいたい……」

「そんな眠そうな顔で言われても嬉しくないし、今日しか遊べない訳じゃないし無理するな。明日に為ったまた遊んでやるから」

「ほんとう……?」

「嗚呼、本当だとも。なぁ霊夢」

「えっ? …………はぁ、仕方が無いわね、付き合ってあげるわよ」

「ほら、霊夢もこう言ってるんだし、今日はもう無理するな」

 

俺達の返事にフランは何処か安堵の表情を見せると、今度は申し訳無さそうに顔を伏せた。

 

「……それならひとつおねがいがあるの」

「ん? なんだ?」

「さんにんでいっしょにねよ?」

「なッ?! ちょっと待って、流石にそれは困る―――」

「別に構わないぞ」

「―――ちょっとリュウ?!」

 

何故か霊夢は顔を赤くして拒もうとしてくるが、俺がそれを黙殺してフランに頷いて了承をした。

霊夢は顔を赤くしたまま睨んでくるけど、それすらも無視してさっさと寝床の準備をする事に。

俺か霊夢の部屋で寝る……と言う訳にも行かないので、今回は居間に布団を二つ敷いて眠る事にした。

邪魔に為るちゃぶ台さえ片付ければ、布団二つくらいはなんとか敷けるスペースはある。

今にも寝てしまいそうなフランを霊夢に任せ、俺は使っていない部屋にある布団を引っ張り出してくる。

俺が作業をしている横で、霊夢が恨めしそうにこっちを睨んでくるが、それも次第になくなり……布団を敷き終わった頃には、何かを諦めたような溜息を吐いていた。

 

「それじゃ灯りを消すぞ」

「うん、わかった……」

「はぁ……なんでこうなったのかしらね……」

「愚痴るな愚痴るな。…それじゃお休み」

「おやすみなさ~い」「お休み」

 

フランを真ん中に寝かせて、その両隣に俺と霊夢が眠る事に為った。

居間を照らす灯りを消すと、よほど眠たかったのかフランは直ぐに寝付いてしまう。

規則正しい寝息が直ぐ傍から聞こえてくる中、フランの左側にいる霊夢が小声で話しかけて来た。

 

「ねぇリュウ、如何してフランのお願いを聞いてあげたの?」

「……なんとなくかな」

「はい嘘。アンタがその程度の理由でこんな事をするとは思えないわ」

「酷いな、俺だって偶には意味も無く誰かのお願いを聞いてやるぞ」

「……今までそんな経験をした事無い子が、アンタの直ぐ傍に居るんだけどなぁ~」

「それは時期とタイミングが悪いんだよ。日を改めて出直すように言っておいてくれ」

「あんまり冗談を言っていると張り倒すわよ」

「ごめんなさい、調子に乗ってました」

「うむ、素直で宜しい」

「「……ぷ、くくくくくくく」」

 

今のやり取りの何が面白かったと言う訳じゃないけど、俺と霊夢は小さな声で笑い合った。

こんな会話を今までにもやって来たけど、毎度良く分からない理由で笑ってしまうな。

 

「……それで? 一体如何いう心算なのかしら?」

「なんとなくってのは本当だ。只の気紛れでこうして寝てみたくなっただけだ」

「気紛れねぇ……。私の勘だと、食事の時の親子が如何こうってのが原因だと思うんだけど?」

「確かにそれもあるな。親子がどんなモノなのか知らない俺には、興味を惹かれるものだからな」

「だからって私を巻き込まないで欲しいんだけど……」

「それなら俺が他の誰かと一緒に寝ても良いって言うのか?」

「そんなの駄目に決まってるでしょ!!」

 

冗談で言ってみた所、霊夢が過剰に反応してしまい、フランが居るにも拘らず大声を出していた。

幸いな事にフランが起きた様子はないが、余りの声の大きさに俺の方が驚いてしまったよ。

 

「寝てる…か……。あ~良かった」

「ごめんリュウ。…でも、さっきのは冗談でも許さないわよ」

「分かってるって。俺も霊夢以外の奴を一緒に寝る心算はないよ」

「……その言葉、信じてるからね」

「嗚呼、分かってる」

 

短い言葉でちょっとした約束を交わすと、今度は二人して微笑み合ってしまう。

ほんの些細なやり取りではあるけど、その間に有るお互いの想い受け取る事が出来る。

たったそれだけの事なのに、顔が自然と綻んでしまうくらいに嬉しく思ってしまう。

……この世界に来て何年経ったのかも覚えてないが、俺も霊夢も本当に変わったもんだな。

最初に来た頃は、こんな風に微笑んだりしなかったって言うのにな……でも、悪くないか。

 

「ねぇリュウ。明日はフランを連れて何処か別の場所に行かない?」

「それは良いけど……別の場所って何処だよ」

「場所に関してはアンタが考えるのよ。私はお弁当を作るので手一杯になりそうだし」

「なんだよそれ。少しは考えてくれても良いだろ」

「期待してるから頑張りなさいよ」

「……精々ご期待に添えれる様に頑張りますよ」

「ふふ、宜しい。……それじゃお休みリュウ、明日は楽しみにしてるからね」

「嗚呼、お休み霊夢」

 

俺が返事をすると、霊夢はもう一度微笑んでくれた後、瞼を閉じてそのまま眠ってしまった。

霊夢が眠ったのを見た俺は、同じ様に瞼を閉じて、明日何処に連れて行こうか考えながら眠る事にした。

 

 

 

 

 

………

……

 

「あっさだ~! おっきろ~!!」

「がはッ?!」

 

何時の間に熟睡していた俺は、腹部に強烈な何かを喰らって、その痛みに無理矢理起こされた。

痛むお腹を押さえながら眼を開けると、フランが俺に跨っているのが眼に入ってくる。

なんでフランが跨っているのか知らないけど、今の痛みが誰の所為なのかだけは分かった。

 

「……とりあえずフラン、俺に言うべき事があるよな?」

「お早うリュウ! 今日は何処かに連れて行ってくれるんでしょ? 早く起きて行こうよ!」

「確かに連れて行くが、その前に俺を殴り起こした事を謝れ!!」

「幾ら呼んでも起きなかったのはリュウの方だよ。フランは霊夢に言われた通りに起こしただけだもん」

「おい、霊夢! ちょっと話があるんだが良いだろうか!?」

「ごめん、今手が離せない! それよりも起きたなら布団を片付けちゃって! それがあると朝食も食べれやしない」

 

一言文句を言ってやろうかと思ったら、霊夢に上手くかわされた上に、仕事も押し付けられてしまった。

まぁ、確かに何時までも布団があるのは邪魔だが、あんな方法で起さなくたって良いじゃないか!

寝るちょっと前までは良い雰囲気だったのに、朝起きたらこの扱いとか……泣けてくるな。

 

「はぁ~……」

「落ち込まないでリュウ。早く片付けないと霊夢が本気で怒るよ」

「わーってるよ」

 

フランに励ましなのか、ただ急かされているのか良く分からない言葉を貰い、俺は布団から起き上がって背筋を伸ばした。

固まっていた身体を解した後、使っていた布団をさっさと畳み、そのまま引っ張り出した部屋へと持って行く。

フランは暇なのか俺の後について来るけど、一緒に来たって面白い事なんかないんだがな。

 

「ねぇリュウ。今日は一体何処に連れて行ってくれるの?」

「そーだな……俺らもあまり行った事の無い山にでも行ってみるか」

「其処って何か面白いモノはあるの?」

「少なくとも屋敷に居たら見られないモノが見られるな」

「ほんと?! それなら直ぐに行ってみたい!!」

「落ち着けフラン、まずはご飯と食べてからだ。あと、暇なら霊夢の手伝いでもしてこい」

「うん、分かった!!」

 

元気良く返事をしたフランは、駆け足で霊夢のいる台所へと向かって走っていった。

俺はその後姿を見送った後、抱き抱えている布団を持ち直して、そのまま部屋へと向かって歩き出した。

昨日と同じで何時もより少々騒がしいけど、偶にはこういう朝も悪くは無いもんだな。

 




……やっぱりフランは、こう言う無邪気なキャラの方が良いな。
発狂してるときのフランは、正直扱いにくいっす。
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