竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第百四十話 二人の蓬莱人

 

霊夢が修行中の為、神社に居られない俺は暇潰しに永遠亭に遊びに行く事にした。

今のままでも神を降ろす事は出来るが、月へ行くためには三柱の神を降ろさなくては為らないそうだ。

その所為なのか、今まで通りの修行では出発までに間に合わないんだとか。

だから今頃は通常の三倍もの修行を行っている筈だが、忙しい霊夢とは反対に俺は物凄く暇になってしまった。

真剣に修行をしている霊夢に文句を言うつもりはないけど、その間神社を放れなければならない俺は退屈と一抹の寂しさを感じている。

……まぁ、そんな理由でアイツの邪魔をする訳にはいかないし、特に理由もなく永遠亭に行く事にしたのだ。

 

アイツ等の家がある竹林は何時もと変わらず高く伸びていて、ちょっとでも逸れたら道に迷ってしまいそうになる。

だったら最初から空を飛んでいけば良いのだが、散歩代わりにノンビリと歩くのも悪くないと思っている。

空から見下ろす鬱蒼と生い茂った竹林よりも、こうして空を見上げながら竹林を散策するほうが風情があって好きだ。

そんな事を思いながら竹林の中を歩いていると、奥の方から此処に似つかわしくない戦闘音が聞こえてきた。

 

「……アイツ等またやってるのか」

 

静かな竹林で馬鹿騒ぎをしている二人に呆れつつ、俺は音の聞こえてくる方へと向かって歩いていく。

慌てる事無く歩みを進めるていくと、奥から聞こえてくる音も段々と五月蝿くなってくる。

更に進んで行くと流れ弾も飛んで来るが、手の中に叢雲を取り出して流れ弾を振り払っていく。

二人の攻撃が当たって倒れたと思われる竹が所々にあり、それが歩くのに邪魔になってしょうがない。

今回は何時も以上に派手にやっている様だが、やり過ぎて竹林を崩壊させるんじゃないのかと不安にもなってくる。

流石に自分達の住処を壊すような真似はしないだろうが、もう少し加減ってものを考えて戦って欲しいものだな。

普段の自分の行動を棚に上げつつ、そこ等中に倒れている竹を通り抜けて、空中で馬鹿騒ぎしている二人の元へと辿り着いた。

 

「ふふん。如何したのよ紅妹、今日はまだ五回しかわたしを倒せてないわよ」

「それと同じ位自爆してる奴が偉そうに言うな!」

「自爆じゃないわよ! 貴女が変な所に逃げるから、操作を誤るんじゃない!」

「そう言うのを自爆って言うんだよ! もういっぺん言語を習って来い!」

「言ってくれるじゃないの!!」

 

月の姫(輝夜)不死鳥(妹紅)はお互いに罵倒し合い、その流れと勢いのままに弾幕を展開してぶつけ合う。

二人の弾幕は以前戦った時のままだが、弾幕に込められた殺気はあの時以上の物だ。

お互いに相手を殺そうと弾幕を放っているが、どちらも蓬莱人だから本当に死ぬ事はまずありえない。

どちらもその事を理解してるからか、放つ弾幕に手加減と言うものが一切ないんだが……その所為で周囲が滅茶苦茶になっている。

止めたところで変に恨みを買うだけだろうし、面倒なんで止める気も無いがもう少し考えて戦ってくれよ。

この竹林で取れる筍はかなりの美味だから、ここいら一帯が焼け野原になるのだけは勘弁してもらいたい。

俺は流れ弾で飛んで来る二人の弾幕を避けたり、叢雲で振り払ったりしながら、あの二人の事よりも竹林全体の事を心配していた。

 

「さっさとやられろよ蓬莱ニート!」

「それはこっちの台詞よ竹林ホームレス!」

「……その煽り文句だけ聞くと似た者同士にしか聞こえないな」

「なんだと!? って、リュウ?」

「(チャンス!) 喰らいなさい『永夜返しー明けの明星ー』!」

 

妹紅が俺に気を取られた一瞬の隙をついて、輝夜が切り札のスペカを宣言して発動させた。

ほんの僅かな隙をつかれた妹紅は、自身に迫り来る弾幕の対応に遅れてしまい、そのまま輝夜のスペカに飲み込まれてしまった。

圧倒的な量で押し潰してくる弾幕の前になす術も無く、妹紅は抵抗出来ずに押し潰されてしまう。

スペカの名通りに眩い光が周囲を照らし出し、光が収まった大地には小さなクレーターが出来ていて、その中には力なく倒れている妹紅の姿があった。

 

「よっし! わたしの勝ち! 残念だったわねもこたん」

「……声掛けておいてなんだけど、今の勝ち方はセコイだろ」

「リュウに気を取られた彼女が悪いのよ。……それでリュウ。貴方は其処で何をしているの?」

「竹林を散歩していたら戦闘音が聞こえてな。ちょっと様子を見に来ただけだ」

「相変わらずそう言うのは耳ざとく聞こえるのね」

「何だかんだで一番耳に馴染んでる音なのかもしれないな」

「……さらりと寂しい事を言わないでよ」

 

そう言って輝夜は悲しそうな顔をするが、本当にそう思えるのだから仕方が無い。

記憶を失う前や今でも戦いの中にいるんだ、自然と耳が馴染んでしまっても不思議じゃない。

恐らくコレからも俺は戦い続けるだろうが、少なくとも今は昔よりもマシな環境に居るからな、辛いと感じる様な事も無いだろうさ。

 

「まぁ、お前さんが俺を哀れむ必要は無いさ。それよりも妹紅を放っておいて良いのか?」

「それは大丈夫でしょう。コッチが何かしなくても自然と復活するでしょうし」

「……相変わらず不便なのか便利なのか解らん身体してるな」

「慣れればコレはこれで便利な身体よ?」

「……さいですか」

 

俺が呆れながら呟くと、浮んでいた輝夜は地面に降りてコッチに近付いてきた。

ついさっきまで妹紅と戦っていた所為か、彼女の服は所々ボロボロになっていて、血糊が付いている箇所まである。

傷自体は既に塞がっているが、服がボロボロの所為で痛々しい姿になってしまっている。

そんな輝夜を見るに見かねた俺は、今着ている長袖の上着を脱いで彼女に向かって放り投げた。

投げた服を受け取った彼女は、なんで渡されたのか理解出来ないと言った顔で俺の方を見てくるが、今の自分の服装がどうなっているのか気が付き、何も言わずにそそくさと俺の上着を羽織った。

 

「悪いわねリュウ。貴方の服を汚す事になるわ」

「別に気にするなって。人気が無いとは言え、あんな格好で竹林を歩かせるのも問題だからな」

「確かにあのまま家に帰ったら永琳になんて言われるか……」

「姫として品格がどうたらこうたらって言ってくるんだろう」

「永琳の小言なんて聞きたくも無いわよ。話が長い上に正座させられるから足が痺れちゃうもの」

「その程度で済むならマシな気がするけどな」

 

他人事と言う事もあって茶化していると、輝夜は恨めしそうに俺の事を睨んでくる。

変に噛み付かれる前に肩をすくめて誤魔化し、そのまま輝夜の横を通り過ぎて、クレーターの中で気絶している妹紅の元へと向かう。

こっちも傷は既に塞がっているが、服がボロボロになっていて未だに目を覚ます気配も無い。

何か掛ける物でも有れば良かったんだが、俺の上着は既に輝夜に貸していて替えを持って来ていない。

だからと言って此処に放置する訳にも行かないし、仕方が無く俺は彼女を背負って永遠亭に向かう事にした。

妹紅は見た目よりも軽いらしく、背負うのに大した苦労はしなくても良さそうだ。

……その代わりといったら何だが、輝夜の奴が嫌な笑みを浮かべてコッチを見てくるのが無性に腹が立つ。

 

「なんだよ輝夜。何か面白い事でもあったのか」

「いいえ別に。……ただ、そうやって霊夢も落としのかと思ってね」

「何を訳の分からない事を言ってるんだよお前は」

「やれやれ、無自覚なのって本当に罪な事なのね。わたし良く理解したわ」

「……言っておくけど、俺はコイツをお前の家に運ぶつもりだからな」

「なんでよ?!」

「此処からだと上白沢さんの家に運ぶよりも近いからだ。妹紅の家は知らないしな」

「……仕方が無いわね。コレは一つ貸しだからね」

「なら俺の服を貸したって事で帳消しにさせてもらおうか」

「あ、ズルイ! その位タダで貸してくれても良いじゃない!」

「はいはい、文句言ってないでさっさと行くぞ」

 

膨れっ面になっている輝夜を無視して、俺は永遠亭へと向かって歩き始めた。

輝夜は直ぐに俺の隣りにまでやって来るが、今も微妙にご機嫌斜めのようだ。

まぁ、コイツのご機嫌なんて取る必要もないし、何気に面倒なんで余り気にしない様にしよう。

そんな事を考えながら竹林の中を二人で歩いていると、隣りにいる輝夜が話しかけてきた。

 

「ねぇリュウ、一つ聞きたい事があるのだけど……吸血鬼たちがロケットを造ってると言うのは本当?」

「そうらしいが……そんな事何処で聞いたんだ?」

「ウチのウサギ達が話してるのを聞いたのよ。態々あんな所に行こうだなんて、あそこの連中は何を考えてるのかしら?」

「何も考えてねぇと思うぞ。どうせレミリアの我が侭だろうからな」

「上が我が侭だと振り回される下の人達は何かと大変でしょうに……」

「振り回されると分かっていて付いて行ってるのかもしれないぞ」

「……根本的に物好きしか居ないのね」

 

輝夜は何処と無く納得したかのように呟くが、その表情は思いっきり呆れている様にしか見えなかった。

彼女の言い分には俺も納得出来るところがあるが、振り回されても付いて来てくれるのは非情にありがたいと思うぞ。

俺もかつては一国を治めていたが、周りに居たのは『オンクー』と『アーター』位なもんだったからな。

…………いや、俺の場合は自分でなんでも出来ていたから、周りに居た人間たちを信用してなかっただけか。

 

「ところでリュウ。貴方は吸血鬼みたいに月に行こうとか考えているの?」

「いや別に。そもそも興味自体が無いから行く気自体起きてないよ」

「貴方って確か月を眺めるのは好きじゃなかった?」

「眺めるのと直接行くのは全くの別物だろ。月がどんな場所か知らないけど、俺は地球(ここ)の方が好きだ」

「わたしも(あそこ)よりも地球(こっち)の方が好きよ。あそこじゃする事が無くて退屈だったもの」

「する事が無いって……お前は一応月の姫だろう? 少しくらいは仕事があったんじゃないのか?」

「全っ然。あそこじゃ監禁されていたのと大差ない様な生活を送っていたわよ」

 

その言葉を皮切りにして、輝夜は月に住んでいた頃の話を俺に語り始めた。

月での生活は何不自由ない物だったそうだが、逆に何かを行う必要も無い生活だったという。

輝夜の話だと教育係だった永琳に閉じ込められていたそうだが、恐らく彼女には輝夜を閉じ込めていたという自覚はないのだろう。

そんな何もする事の無い生活に退屈を感じた輝夜は、日々の生活に刺激を求めてからなのか、次第に地球へ憧れに似た気持ちを懐くようになったそうだ。

だが、彼女の立場上どんなに地球に憧れても降る事を許される訳も無く、退屈な日常を送り続けるしかなかった。

そんな生活が何年も続いたある日、とうとう我慢の限界に来た輝夜は永琳が静止するのを無視して『蓬莱の薬』に手を出した。

禁薬である薬を服用したと言う罪により、輝夜は今から1300年ほど前に自ら望んで地上へと追放されたそうだ。

 

「……自ら望んで追放されるとか、お前も相当な物好きだな」

「仕方が無いじゃない。ああでもしないと地上に降りれなかったんだから」

「でも、二度と故郷に帰れないのによく飲む気になったな」

「一応罪が許されて戻る機会を与えられたんだけど、連れ戻しに来た永琳と共謀して逃走したのよ」

「逃走したって……そんなにも地上での生活に未練があったのか」

「それもあるけど、あの薬を飲んでしまったからには月でまともな生活も送れないし、お世話になった人への恩もあったからね。月へ帰ろうと言う気すら起きなかったのよ」

「それで永琳と各地を彷徨った後、此処に流れ着いてこの竹林で隠れ住むようになったと」

「えぇ。でも、あの時の事は今でも後悔してないわよ。月では経験出来なかった事が沢山あったしね」

「……その結果が妹紅との殺し合いの日常ってのも色々とアレだけどな」

「その事に関しては完全に誤算よ。まさかアレを服用する奴がいるとは思わなかったし」

「俺としてはなんでそうしたのかが物凄く謎なんだが」

「それは本人に直接聞くしかないんじゃない? ねぇもこたん?」

「……もこたんって言うな」

 

背負っていた妹紅は何時の間にか目を覚ましており、輝夜の悪口(?)に力なく反応してきた。

目を覚ましたとは言え、さっきの戦いの疲れが残っているのか、まだ立ち上がるだけの力は回復していない様子だった。

 

「よう、目が覚めたみたいだが……大丈夫か?」

「大丈夫だったら何時までもお前の背にいないっての」

「……そらそうだ」

「ところで妹紅、如何して貴女はあの薬を飲んだのよ。わたしもその辺りは聞いてないんだけど」

「別に大した理由じゃないよ。ただお前に嫌がらせしようとあの薬を奪ったんだが、ちょっと魔が差して服用しちまったんだよ」

「うわぁ~……本当にしょうもない理由ね」

「ウッサイ黙れ燃やすぞ」

「リュウに背負ってもらってる分際で偉そうな事を言うのね。もう一回叩きのめして上げようかしら?」

「……こんな所で喧嘩する様なら俺がお前等をぶちのめすぞ」

「「ごめんなさい、調子に乗ってました」」

 

険悪な雰囲気に成りそうなの所を軽く脅すと、二人して直ぐに謝罪してきた。

それだけ俺と喧嘩したくないんだろうが、こんなにも早く頭を下げてくるとは思いもしなかった。

二人に変なトラウマでも植え付けたのかと勘繰るが、只単に俺と戦いたくないだけな気もしてくる。

余り考えていても仕方がない事と割り切り、俺は溜息一つ吐いて止めていた歩みを戻した。

輝夜も俺の後に続いて歩き出し、妹紅はコレ以上彼女に喧嘩を売るような真似はしなくなった。

 

「それにしてもリュウも物好きよね。放っておいても平気な蓬莱人(わたしたち)を気遣うなんて」

「別に誰にでも優しいって訳でもないが、知り合いが倒れてるのを放っておく訳ねぇだろ」

「……私は輝夜ほど親しくは無いと思うんだがな」

「確かにその通りだが、全く知らないって訳でも無いからな。助ける理由としてはそれで十分だ」

「八方美人……って言うには手厳しい所が多いのよね。本当に大切にしてるのは霊夢だけだし」

「詰まる所、見てみぬふりが出来ない訳か。本当に物好きな性格してるな」

「……お前等にだけはその言葉を言われたくねぇ」

 

人の性格を好き勝手に言ってくる二人に呆れるが、実際のところ物好きであるのは確かな事だ。

そうでなかったら輝夜に上着を貸したり、妹紅を背負って永遠亭に運ぼうとか思ったりしない。

どちらも大した理由もないんだが、端から見れば物好きの善人にしか見えないんだろうな。

 

「言われたくねぇとか言うけど、実際にそう感じるのだから仕方が無いと思うけど?」

「俺は自分の心の赴くままに生きてるだけなんだけどなぁ~」

「それはそれで凄い生き方だと思うぞ。普通はそうやって生きようとしても出来ないからな」

「あら? 妹紅もそう言うのに憧れたりするのね。ものすんごく意外だわ」

「まぁ、どっかの誰かさんのお陰で何かと苦労の多い生き方をしてるがな」

「そんな風に生きているのは貴女自身の所為だと思うのだけどね」

「だから喧嘩するなって言ってるだろ。……ったく、仲が良いのか悪いのかはっきりしろよ」

「「輝夜/妹紅と仲が良いわけないでしょ! 何処を如何見たらそうなるのよ!」」

「……息ピッタリじゃねぇかよお前等」

 

今のやり取りを切欠に、輝夜と妹紅の二人は口喧嘩を始めてしまった。

直接手を出したりしないから止めやしないが、此処までくると相思相愛な気がしてくる。

喧嘩するほど仲が良いとも言うけど、この二人に関しては〝仲が良い〟ってレベルじゃないな。

俺は喧々と五月蝿い二人に適当な相槌を打ちつつ、ノンビリと輝夜の家に向かって歩いていった。

 




儚月抄が終わっていないのに、気がつけばもう百四十話。
……このペースだと完結するまでに百話くらい必要な気がして為らない。
こうなったら、地霊殿と星蓮船の話しは書かないのも一つの手か。でも、それはそれでなんかなぁ……。
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