竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第百四十ニ話 白い星に広がる蒼い水

深々と雪が降り積もる深夜遅く、既に日付も変わり草木も眠りについた頃に、神社の中にの不審な人影を見つけた。

……いや、その不審者は人間の女性に限りなく近い姿をしているが、その背中には一対の黒い蝙蝠の翼が生えており、人外の者である事を如実に物語っていた。

しかし此処は妖怪が訪れる事で有名な神社、遅い時間ではあるが人外の者がやって来ても何ら不思議ではない。

だが、女性は遅い時間に参拝に来たと言う訳ではなく、賽銭箱のある本殿を素通りし、そのまま家主たちが眠る母屋の裏庭へと向かって歩いていく。

裏庭には降り積もった白い雪で覆われており、彼女以外の生命を感じさせない位に静まり返っていた。

今夜は雪が降ると言う事もあってか、母屋の縁側には雨戸が立て掛けられていて、外からの侵入を拒んでいる様にも見える。

その者は立て掛けられている雨戸を前にして、困り果てたような顔で深い溜息を吐いた。

 

「はぁ~……。幾ら命令だからってこれはやり過ぎですよ」

 

全くやる気を感じさせない声で呟いた女性は、何を思ったのか少しの間雨戸を前に立ち尽くした。

何度か帰る様な素振りを見せたものの、中々その踏ん切りを付ける事ができず、結局は雨戸の前へと戻ってしまう。

帰りたくても帰る事の出来ない事情があるらしく、彼女は憂鬱そうな顔でまた深い溜息を吐いた。

 

「……何時までも立ち尽くしてる訳にもいかないし、さっさと済ませて帰ろう。……出来れば攻撃されませんように」

 

胸の辺りで手を組んで誰かに願った女性は、少しの間瞑目した後、意を決して雨戸に手を掛けた。

一枚の雨戸を外した女性は、そのまま静かに母屋へと侵入しようとした瞬間、暗がりの中から突如として男性の手が伸び、女性の顔を鷲掴みにして侵入を拒んだ。

 

「うわぁ?! いきなりなんなんですか?!」

「それはコッチの台詞だ小悪魔。こんな時間帯に何の用だ」

「り、リュウさん……」

 

女性は自分の頭を掴んでいる人を確認すると、顔を青ざめ恐ろしいものを見たような顔になる。

 

「そろそろ来るとは思っていたが、まさかお前が来るとはな。……で、誰の差し金だ? 白黒か? それとも紫もやしか?」

「え、え~っと…その…………ご、ごめんなさい!!」

 

半ば恐慌状態に陥った女性は一言謝った後、男性目掛けて蹴りを腹目掛けて繰り出して来る。

繰り出された蹴りは大して鋭くもなく、ただ勢いで繰り出してしまった様なお粗末なものだ。

男性は彼女の蹴りを軽々と避けるが……その回避の仕方が物凄く悪かった……。

 

「……ッ?!?!?!」

 

彼は女性の頭を掴んだまま回避しようとした為、その場から碌に動く事も出来なかった。

そんな状態で身体を逸らす程度で避けようとしたから、彼女の足の長さとスカートの長さを見誤ってしまったのだ。

彼女が穿いているスカートの丈は長く、蹴りなんかを繰り出すには少々動き辛い作りだった。

そんなスカートでは腹まで蹴りを繰り出す事は出来ず、どんなに頑張っても腰の辺りまでが精々だろう。

腰に当たっていればまだ救いはあったが、彼は攻撃を回避しようと身体を逸らした結果……彼女の蹴りが腹部ではなく股間に直撃してしまった。

下半身から込み上げて来る激痛に、流石の彼も耐え切れないのか、掴んでいた女性の頭を離してその場で蹲ってしまう。

 

「ぬおぉ~…………」

「ご、ごめんなさい。その……大丈夫ですか?」

「だ、だいじょうぶなわけないだろ……」

「別に狙ってやった訳じゃないですよ? 偶々当たっちゃっただけで……」

「わざとだろうと、ぐうぜんだろうとおなじだから……」

 

激しい痛みに耐えながら彼は呟くが、既に最初の頃の凄みなど何処にもなくなっていた。

痛みに堪える彼を見ていた女性は、何を思ったのかポケットの中に忍ばせていた一本の薬品を取り出した。

薬品の器は普通のガラス瓶なのだが、中に入っている薬の色はなんとも言い辛い色をしている。

女性のおかしな行動を察した彼が顔を上げると、彼女は瓶の蓋を開けて謎の薬を一気に彼に飲ませてしまった。

痛みの所為で碌な抵抗も出来ず薬を飲まされた彼は、勢いよく飲まされた所為で軽くむせ返ってしまう。

彼が薬を飲み込むのとほぼ同時に、何処からか襖が開く音が聞こえ、暗がりの中から白い寝巻きを着た黒髪の女性が姿を表した。

 

「うっさいわねぇ。一体何を騒いで……って、アンタ其処で何してるのよ!?」

「ごめんなさい! コレを飲ませないと儀式の生贄にするって脅されてたんです!!」

「そんな事は如何だって良いわよ! ちょっとリュウ、大丈夫なの!?」

 

黒髪の女性が心配そうに彼に駆け寄るが、彼からの返事はなく、ただ呆然と虚空を眺めていた。

そして次の瞬間、彼の身体が大きく痙攣を起こし、内側から発生した白く輝く光に全身を飲み込まれてしまう。

 

「リュウ!?」

「あ、あわわわわわ……」

 

女性の心配そうな声が雪の振る夜に響くが、彼を飲み込んだ光が取り払われる事はなかった。

少しの間輝き続けた光は次第に収束していくが、中にいる筈の彼の姿は何処にもなく、その場には一つの白い卵だけが残されていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊夢Side

 

「あははははははははッ! まさかこんな手に引っ掛かるとは思いもしなかったぜ!!」

「ちょっと魔理沙。気持ちは分かるけど、図書館では静かにして」

「いやだってな………ぷ、ははははははははははッ!!」

「……咲夜、此処に莫迦二人封印するから目を瞑ってくれないかしら? 大丈夫、一瞬で済ますから」

「気持ちは察するけど流石にそれは容認しかねるわね」

 

小悪魔の襲来から半日以上が経った今、私は妖怪ロケットに乗り込むため紅魔館の大図書館に来ている。

勿論リュウも一緒に来ているのだけど……今はちょっとした問題がアイツの身に起こっていた。

それが魔理沙の馬鹿笑いの原因であり、私が怒り心頭している理由でもあったりする。

 

「それにしても凄いよな。まさかあのリュウを卵に変えちまうなんて」

「卵になったのは私も予想外だったけどね」

「……………」

 

……そう魔理沙とパチュリーが言うように、リュウは変な薬の効果で卵に変えられてしまっていた。

昨日の晩に小悪魔が飲ませた薬が原因らしいけど、卵に変えられただけならまだマシだった。

私が一番腹を立てているのは、この薬の解毒薬を作っていない上に、元の姿に戻るのに何日も待たなくちゃ為らないって事よ!

リュウをロケットに乗せるためか何か知らないけど、なんだってこんな突拍子も無い方法を取るのよコイツ等は!!

 

「ちょっとパチュリー。死ぬ前に聞いておきたいんだけど、リュウはどの位で元に戻んのよ」

「さらっと恐い事を言わないで」

「良いから答えなさい。……私は別に力尽くで吐かせても良いと思ってるんだけど?」

「……早くても二週間くらいよ。彼の事だからそれよりも早い可能性もあるけど」

「二週間?! なんだってそんなに長いのよ!?」

「月まで行くのに半月から一月くらい掛かるからよ。この位でないと呪いが解けてしまうわ」

「私はリュウが元に戻って、ロケットが落っこちても構わないわよ」

 

私は怨嗟の念を込めて呟くと、周りに居る三人は引き攣った顔でコッチを見てくる。

三人が引いている理由はなんとなく察しが付くけど、リュウも一緒に来るならロケットが動かなくなっても帰るくらいの事は出来る。

その事を知らないから引いているんでしょうけど、態々その事をこの莫迦どもに教えてやる義理はないわ。

 

「あら、貴女たち何時まで油を売っているのかしら? そろそろ出発するわよ」

「申し訳御座いませんお嬢様。直ぐに準備いたします」

 

遅れてやってきたレミリアが催促したと思ったら、次の瞬間にはパチュリー以外はロケットに搭乗していた。

きっと咲夜が能力を使って私たちを乗せたんでしょうけど、乗せるときは一言告げてからにして欲しいものね。

私は心の中で文句を言いつつ、神棚の道具の並べ方が分からず悪銭苦闘している妖精たちの所へ向かう。

邪魔に為る妖精たちを適当に退かし、滅茶苦茶に置かれている塩やお酒などをきちんと神棚に並べていく。

そうこうしていると、入り口に確りと鍵が掛けられ、窓の外で妖精たちとパチュリーがお参りをしたり小銭を投げて来る。

 

「……なぁ、お賽銭って神社でするもんじゃないのか?」

「神社ってのは何も建物じゃなくても問題ないし、同時に何箇所存在しても問題ない」

「…?? つまり如何言う事だ?」

「神様が宿る器さえあれば、この神棚も飾りでしかない」

 

私は気を引き締める為に額に鉢巻を巻いた後、神棚の前に座り一礼をして意識を切り替える。

 

「―――つまり、このロケットは空飛ぶ神社なのよ」

 

最後がそう呟いて締め括ると、私の霊力に反応したのかロケットが大きくグラつく。

一緒に乗っている魔理沙は驚いて壁に捕まり、レミリアは机の下に隠れて避難している。

咲夜は平然と突っ立っているけど、ロケットに残っている三匹の妖精は狼狽していた。

アイツ等に気遣わずに祝詞を読み上げようとすると、リュウの卵が私の足元にまで転がってきた。

私はそれを手に取り皹がない事を確認すると、割れない様に気をつけながらそっと懐の中に仕舞いこむ。

そして今後こそ祝詞を読み上げ、この身に住吉三神を降ろし、月へと向けてロケットを発射させた。

 

 

 

………

……

 

レミリア提案のロケットを飛ばして早12日目となった。

同乗している莫迦どもが時折り騒ぎを起こすものの、月へ旅は一応順調に進んでいた。

途中でリュウが目を覚まさないかと期待してたけど、目覚める兆候など一切なく今も卵のまま私の懐の中にいる。

そろそろ目覚めても良い頃だって言うのに、何時まで眠り続けている心算なのかしらね。

 

「…………ッ!」

「イデッ。おいこら暴れるなよ、レミリア!!」

「こんな狭い所に押し込められて早12日目、運動不足にもなるわ!」

「お前なんか何百年も生きてるんだから、二週間かそこらじゃ大して変わらないだろ」

 

如何やら二人は体力が有り余っているらしく、周りの迷惑も考えずに喧嘩を始めた。

集中出来ないから静かにして欲しいのに、私の直ぐ後ろで取っ組み合いまでし始める。

私の中で暇を持て余しているは底筒男命(そこつつのおのみこと)中筒男命(なかつつのおのみこと)は、レミリアと魔理沙の喧嘩に面白半分に野次を飛ばして観戦を決め込む。

現在ロケットを操縦している上筒男命(うわつつのおのみこと)と私は、ちゃんと目的地に向かうため中と外の騒ぎに迷惑がるしかなかった。

一々莫迦どもの喧嘩を仲裁なんてしてられないし、日程的にはそろそろ着いてもおかしくない頃だから、此処で集中力を切らすのは非常にまずい。

咲夜が止めに入るのを期待しながら集中しようとすると、下筒男神から目的地到着の知らせを受ける。

 

「アンタ達、最後の仕上げよ。何かが起こるから気を引き締めなさい」

 

私が全員に注意を呼びかけた途端、何かに引き寄せられるように突然ロケットが上下逆さまになる。

余りにも突然の出来事に私も含めた全員が対処できず、引き寄せられるままに私達は月へと落下して行く。

私はこの突拍子もない状況を確認しようと、なんとか窓まで近付いて辺りの様子を確認する。

なんとか窓にまで近付けたのは良いけど、下へ落下している影響で懐に入れていた卵がすり抜けてしまう。

私は卵が天井にぶつかる前に回収し、ほっと一息付いてから窓の外を確認すると、外には蒼くて大きな水溜りが広がっていた。

その大きさと蒼さに目を奪われた次の瞬間、ロケットは水溜りと激突して粉々に砕けてしまう。

咄嗟に卵を胸元で抱き締めるけど、激突時の衝撃と水の勢いに呑まれてしまい、大切な卵(リュウ)を手放してしまう。

私は直ぐに卵を追い掛ける為に潜るけど、普段とは勝手の違う環境に如何する事も出来ず、卵はドンドンと水溜りの底へと沈んで行く。

呼吸も段々と苦しくなっていくが、それでも私は諦めずに追い掛けようとする……けど、突然誰かに腕を掴まれてしまい、そのまま水面へと引っ張り上げられてしまう。

 

「……ぷはッ! はぁ…はぁ………ちょっと魔理沙! アンタなんで止めるのよ!!」

「止めるに決まってるだろがバカ! あのままだったら溺れてたぞ!!」

「そうなる前に助けれてた!! 邪魔しないでよバカ!!」

「あのなぁ……よく落ち着いて考えろ霊夢。アレは誰が変身した卵だと思ってるんだ? あのリュウだぞ? 色々と常識外れな力を持ったリュウが、水底に沈んだくらいで死ぬわけねぇだろ」

「確かにそうかも知れないけど……そんなんで納得出来るわけ無いじゃない!!」

「まぁ、お前ならそうだろうが、このままお前が潜って溺れ死んだら如何するんだよ。そっちの方が色々と大問題だろうが」

「………………」

「アイツの事を心配するのも分かるが、今はアイツの事を信じてやれよ、な?」

「……アンタの言いたい事は分かった。でもね、元凶の一人であるアンタに慰められるのだけは、納得がいかない!!」

「なんだそりゃ?! て言うか、わたしの話をちゃんと聞いていたのか!?」

「うっさい! 神霊『夢想封印』!!」

「ちょま?! この至近距離で……ってギャアァァァァァァァァァァァッ!!」

 

霊夢Side out

 

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