竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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今回は前回の続きと言う事で霊夢視点です。


第百四十三話 神霊の寄り付く月の姫

 

月に広がる海の中、生命の痕跡が一切見受けられない水の中で私は一人、手放してしまったリュウの卵を探している。

息が続くように自分の周囲に結界を張って、何処までも深く暗い水の中を潜っていくけど、何処を探してもあの卵を見つける事が出来ない。

こんな大きな海で小さな卵を探し出すのは至難の業。海に潜る前にレミリアからそう言われたけど、何もせずにただジッと待っているだけなんて絶対にいや。

見つけられる可能性がどの程度とか、そんな事は私の知ったことじゃない。この心が折れない限りは何度だって挑戦し続ける。

…そう、心に決めて海に潜ってはみたものの、流石に何の手掛かりもなしに潜り続けるのは無謀も良いところね。

せめて私達がどの辺りで墜落したのか、それさえ分かればもうちょっと捜索範囲を狭める事ができるのに。

 

私は疲れのあまり深い溜息を吐いて、力なく黒の様に深くて暗い(みず)を眺めてしまう。

太陽の光が届いていないのか、底の方に沈んでいけば行くほど光がなくなって暗くなっていく。

こんな時にアイツが居てくれれば、光源の一つや二つ簡単に作り出してくれるのに……。

そう思うとまた溜息が出てしまい、海の暗さに気が滅入ってきたのか、探索する気力も湧いてこない。

私は気分転換がてら地上に戻る事を決め、前もって張っておいた札を目印に亜空穴で転移する事にした。

空間を飛び越え、海の中から地上へと戻ってくると、太陽の明るさに目が眩んでしまう。

一・二時間くらい海に潜っていた所為だろうけど、まさか此処まで太陽が明るいなんて思いもしなかったな。

 

「お、漸く帰ってきたのか。それで成果は如何だったんだ?」

 

私の気も知らないで白黒が話しかけてくるけど、鬱陶しいのでここは無視する。

光に眩んでいた目も治ってきたのか、周囲の景色も大分見えるようになって来た。

私の目の前に広がっているのは、さっきまで潜っていた大海原と足元に広がっている砂地。そして海との境界線を示すかのように広がる桃の木林。

幻想郷ではまずお目に掛かれない様な光景だけど、ぶっちゃけそれくらいしかない風景よね。

月には珍しいモノが多いって聞いていたけど、正直期待はずれと言うか…拍子抜けな感じがするわ。

 

「おい、霊夢。無視するなって」

「五月蝿い黙れ。私に話しかけるな」

「あ、はい。すみません」

 

鬱陶しい魔理沙をキツイ口調で黙らせて、私は砂地に押し寄せて来る水の傍へと向かう。

海の水が寄せては帰るその場所には、私達が乗ってきたロケットの破片が打ち上げられているけど、リュウの卵の姿は何処にも見当たらない。

底の方に沈んでいったのだから、無いのは当然かもしれないけど……散乱している破片を眼にすると、どうしても嫌な事を想像してしまう。

アイツに限ってそれはない…そう信じたいけど、気が滅入っている所為か、その想像を払拭する事ができない。

私はアイツの無事を願いながら、首に掛けている竜のペンダントを握り締める。

 

「……はぁ。こんな事なら月なんかに来ないで、幻想郷で大人しくしてればよかった」

「人の世界に勝手にやって来た挙句、随分な言いようね」

 

聞きなれない第三者の声。その声が聞こえてきた方に顔を向けると、其処には薄紫っぽい色の髪を後頭部でまとめた女性がいた。

服装も幻想郷では余り見ないものだけど、それ以上に彼女が手にしている長刀(ものほしざお)に目が行く。

 

「…アンタ、一体誰? それにその長物、普通のじゃないでしょ」

「侵入者に名乗る名前はないわ。それよりも住吉三神を呼んだのは…お前ね」

 

薄紫の髪の女は自分の名前を名乗る事はせず、手にした長刀の切先を私の方に向けてくる。

今更刀を向けられて恐れたりしないけど、明らかに普通の刀とは違う気配がするそれに警戒をしてしまう。

 

「お、おい、いきなりやって来てなんだよアンタ! 危ないからその刀を下ろせって!」

「いきなりと言うのは此方の台詞よ。それよりも先程の質問の返答わ」

「…住吉三神を呼んだか如何かだっけ。その事だったら私で間違いないわよ」

「そう……」

 

女は納得した様に小さく頷くと、いきなり順手で握っていた刀を逆手に持ち替えて、地面に突き刺そうとする。

私は咄嗟に林に向けて札を投げて、それを基点に亜空穴で飛んでその場所から離脱した。

すると、数秒の差でさっきまで私が立っていた場所の周りから複数の刃が伸びてきて、まるで刃の檻のように取り囲んでいた。

 

「な、なんだこりゃ!?」

 

刃の檻は私だけではなく、魔理沙も対象にしていたらしく、逃げ遅れた魔理沙は刃の中に閉じ込めれてしまう。

地中から現われた刃は全て本物のようで、下手に触れようものなら指が全てなくなりそうな位に研ぎ澄まされている。

私は亜空穴のお陰で難を逃れたけど、流石に地面から刃が伸びてくるなんてのは予想して無かったわ。

 

「…ふむ。瞬間移動と言うよりも、空間転移か空間跳躍の方が近いのかしら。どちらにせよ、地上の民にしては大したものね」

「随分と上から目線だけど、そう言うアンタはなんなのよ。人に刃を付きつけて来るは、問答無用で閉じ込めようとしてくるわ……。月の民ってのは、人の話を聞かないのかしら」

「そう思われるのは心外だけど、侵入者の話しをいちいち聞く防人なんて普通いないわよ」

「……………」

 

暴言を吐いてどんな反応をするのか試してみたけど、思いの外普通の反応だったわね。

もっと感情的になって冷静さを失うかと期待してたのに、これじゃ当てが外れたわね。

 

「二人同時に捕らえるのは失敗したけど、人質を確保できたし良しとしましょう。今頃他の者達も玉兎が捕らえている頃でしょうし、貴方もおとなしくお縄に付きなさい」

「へっ、なに言ってんだ。この程度なら空から飛び越えれば如何とでも―――」

「そんな事をしたら祇園様の怒りに触れるわよ。此方としては無用な殺しはしたくないし、其処で大人しくしていなさい」

「脅しとは思えないし、大人しくしていた方が身の為みたいよ、魔理沙」

「―――りょ、了解だぜ」

 

あの女の言葉に恐れを為したのか、魔理沙は刃の檻の中で大人しくなる。

アイツが勝手に暴れて状況を悪化させないでくれるのは有り難いけど、あの女が言った〝祇園様の怒りに触れる〟って言うのがどうも気に為る。

祇園様ってのは確かスサノオの事だったと思うけど、流石に神道の神様を全て把握してる訳じゃないから、いまいち確証がないのよね。

まぁ私としては月の民に喧嘩を売りに来たわけじゃないし、大人しく捕まってもいいんだけど……。

 

「……アンタに一つ聞きたい事が有るんだけど良いかしら」

「先程話は聞かないと言ったつもりだけど?」

「私が大人しく捕まった場合、アンタは私達を如何するつもりなの」

「…貴女以外は即刻月より出て行ってもらいます。穢れた地上の民が長く此処に留まるのは好ましくないが、貴女にはやってもらう事があるので、暫く月に留まってもらう」

「ふ~ん……。何をさせるつもりか知らないけど、そう言う事なら捕まってやる訳には行かないわね」

 

私がそう宣言して札を取り出して構えると、彼女は怪訝そうな顔をして此方を見てくる。

 

「分からないわね。貴女は私の力量を理解できたと思ったのに」

「私はアンタ等と違って有限の刻しか生きれないのよ。只でさえ今は探さなくちゃいけない奴がいるのに、アンタの為に使ってやる時間なんてないのよッ!」

 

覚悟を決めるように叫びながら、私は取り出した数枚の札を彼女に向かって投げつける。

投げた札は霊力を纏って弾となり、彼女に向かって真っ直ぐ飛んでいくけど―――

 

「…ッ」

 

―――彼女は地面に刺した長刀を引き抜いて、即座に刃を返して私の弾を全て斬り払った。

長刀が引き抜かれた事で、地面から生えていた刃は全て引っ込み、魔理沙を取り囲んでいた檻はなくなる。

あの力は刀を地面に刺し続けていないと発生しないのか、再び刃が地面から伸びてくる気配は無い。

 

「おっし、自由になった。待ってろよ、霊夢。直ぐにわたしも参戦するぜ」

「アンタは邪魔だから林の中にでも隠れてなさい」

「…ヒデェなおい」

「私もその言い方に如何かと思うけど、彼女の言っている事は正しい。なにせ、八百万(やおよろず)の神に勝てる人間など存在しないのだから」

 

彼女は私に向けて刀を構えながら、私が魔理沙に言った事を肯定してくる。

普段なら適当に茶々をいれるところだけど、刀を構える彼女から感じられる力は間違いなく神々のもの。

彼女自身が本物の神…とは考えられない以上、導き出される結論は唯一つ。……彼女は私と同じ様に神降ろしの術を身に付けていると言う事。

癪な話しだけど、その実力は最近になって身に付けた私よりも数段上なんでしょうね。

 

「はぁ…。私はこんな事をする為に術を修めた訳じゃないってのに……」

「それなら大人しく投降してもらいたいものね。此方としても無駄な血を流すのは好ましくないのよ」

「だから言ったでしょ。私には探さなくちゃいけない奴がいるって。こんな所でジッとしてる訳には行かない!」

 

その言葉と共に霊力の弾を無数に作り出し、その全てをあの女に向けて撃ち放つ。

私が作った弾幕を前に彼女は怯んだ様子も見せず、リュウみたいに自分に当たりそうな弾だけを斬り裂く。

弾を斬り裂かれた事に舌打ちをしながらも、再び弾幕を展開しながら今度はホーミング弾も織り交ぜる。

真っ直ぐ飛んでいく弾と、大きく迂回しながらも飛んでいく弾の二種類。

そして弾が斬り裂かれてもいいように、霊力を惜しまず使ってどんどん弾を撃ち放っていく。

これだけの弾幕の密度なら、神々を呼ぶ時間なんてある筈が無い。…そう思っていたのだけど―――

 

「『炎雷神(ほのいかずちのかみ)』よ。七柱の兄妹を従えて、あの愚か者を後悔させよ」

 

―――彼女は祝詞を読まず、誰かに語り掛けるように頼むと突如として雨が降り始め、落雷と共に八体の雷蛇がこの地に光臨した。

雷蛇が光臨した時の影響で私の弾幕が消し飛び、新たに放っていた弾幕は雷に触れて消滅した。

私はこれ以上弾幕を放っても無駄と悟り、弾を作るのを止めるけど……状況は最悪ね。

 

「…詩を読むような形で神様を呼び出すって、一体どんな裏技を使ってるのよ」

「別にそんな事はしていないわ。ただ、貴女の修行が足りないだけ…ねッ!」

 

彼女が私に向けて手をかざすと、八体の雷蛇は私に向かって一斉に襲い掛かってくる。

私は素早く空に飛んで雷蛇を避けようとするけど、直ぐに追いついてきて逃がさないとばかりに取り囲んできた。

流石に雷が神格化した存在ってだけのことあるわね。天狗なんかよりもずっと速いわ。

私は雷蛇の隙間を目掛けて一枚の札を飛ばし、間を通り過ぎたのを見計らって亜空穴で移動して難を逃れる。

標的を見失った雷蛇はそのまま激突して、自滅した……かのように見えたけど、流石にその程度で倒れてくれるほど甘い相手じゃない。

激突しあって一つの塊になったかと思うと、直ぐにまた分裂して八体の雷蛇に分かれて、また私に襲い掛かってきた。

 

「あ~…もう! 鬱陶しいわね!」

 

悪態をつきながら炎雷神を避けるけど、相手は追尾してくる光線弾の様なもんだから、回避し続けるのも大変な上に鬱陶しい事この上ない。

こっちから弾幕を張って迎撃しようにも、相手は雷そのものだから幾ら攻撃しても燃やし尽くされるだけ。

龍殺陣で一掃するって言う手もあるけど、結界を展開させてくれるような隙なんて全く無いのが現状。……となると、残された手はあと一つくらいしかないっか。

 

私は取り出した一枚の札を雷蛇たちにも分かる様に遠くに向かって投げる。

すると雷蛇たちの半分が投げた札へと飛んでいき、残りの半分は向きを変えずに私に襲い掛かってくる。

さっき札を目印にして転移したのを危惧してか、四体の雷蛇が札に向かって飛び掛った。

…本音を言えば、八体全てが札に向かっていって欲しかったのだけど、流石に其処まで上手くは行かないか。

心の中でそう思いながらも私は亜空穴で転移するけど、転移する先は札ではなく、炎雷神(ほのいかづちのかみ)を呼び出した女の元に飛んだ。

 

「ッ?! 貴女、何時の間に札を此処に貼ったの!?」

「おあいにく様。私は札の在る所にしか跳べないって訳でもないのよ!」

 

私の奇襲に彼女が驚いている隙に、彼女を中心とした八角形の結界を素早く展開する。

炎雷神が来る前に結界を張る事に成功すると、足元から出現した陣から霊力の鎖が伸びて彼女の身体を拘束した。

 

「八方捕縛陣。……名前としては普通すぎるかしらね」

「こ…の……ッ!」

 

女は身体に絡みついた鎖を引き千切ろうともがくけど、霊力で出来た鎖は砕ける気配をみせない。

 

「無駄よ。これはリュウの馬鹿力を想定して作った結界。月の民だろうと人間の力で壊せる物じゃない」

「……そう、みたいね。なら、人間以上の力で壊せばいいだけのこと」

「そんな事させる訳ないじゃない!」

 

そう言って私は鎖をもう一つ増やして、彼女の口に咬ませて喋れなくしようとするけど、結界の外に取り残された炎雷神が結界に突撃してきて鎖がずれてしまう。

外に居る雷蛇も鎖で封じ込めれば良いのだけど、この結果は内側にしか効果が無いから外からの攻撃には対処出来ない。

 

「あぁ、もう! 本当に鬱陶しいわね! 後でリュウに告げ口するわよ、あんた等!」

 

炎雷神(ほのいかづちのかみ)に向かって脅しを掛けると、雷蛇たちの動きがピタリと止まった。

今この場に居ないとは言え、流石の彼らも後でリュウからの報復を受けるのは嫌なんでしょう。

…でも、苛立っていたとは言え、アイツの名前をこんな事に持ち出すのは流石に本人に申し訳ない。

軽く自己嫌悪に陥りながらも、私はもう一度彼女に鎖を咬ませようとするが―――

 

天手力雄神(あめのたぢからをのかみ)よ。我が身に降りて、岩戸を開けし力を貸し与えたまえ」

 

―――時既に遅く、彼女は新たな神を呼び出してしまっていた。

彼女が呼び出したのは筋力の神と呼ばれる天手力雄神(あめのたぢからをのかみ)。天照が岩戸に引き篭もった時に岩戸を開け放ったとされる怪力の持ち主。

そんな神を自分の身に降ろしたと為れば、私が作った霊力の鎖なんて簡単に引き千切ってしまう。

壊されるよりも早く鎖を強化しても焼け石に水だろうし、此処は一端距離を空けて体勢を整えるしかない。

そう判断した私は、亜空穴を通って結界の中から離脱して炎雷神(ほのいかずちのかみ)と彼女から離れると、それと同時に彼女は霊力の鎖を簡単に引き千切って結界を破壊してみせた。

私が呼んだ時は殆ど力を貸してくれなかったくせに、アイツが居ない時に全力を出すんじゃないわよ!

…まぁ、力を貸さない理由が昔のリュウにあるんだし、天手力雄神(あめのたぢからをのかみ)に怒るのは筋違いなのかもしれないけど、やっぱり納得がいかない。

 

金山彦神(かなやまひこのかみ)よ。地中に眠る金属を用いて、眼前の敵に鉄槌を下せ」

天手力雄神(あめのたぢからをのかみ)の次は金山彦神(かなやまひこのかみ)って、幾らなんでも神様を呼び出しすぎでしょうが!」

 

そんな私の叫びを他所に、彼女に頼まれるがまま金山彦神(かなやまひこのかみ)は砂の中に眠っていた砂鉄を使って私に攻撃を仕掛けてくる。

砂鉄によって作られた鉄の塊が、咲夜の弾幕みたいになって大量に降り注いでくる。

時を止められないだけ多少はマシだけど、一度に展開される弾幕の量が多いから避け難い事この上ない。

私も弾幕を展開して応戦するものの、私の弾幕よりも量が多いから全てを相殺し切る事は出来そうにない。

相殺し切れなかった弾は私目掛けて次々に飛んで来るけど、狙いが荒すぎるのか、元々当てる気が無いのか、どちらにせよ直接被弾する事はなかった。

 

だけど、このまま敵の攻撃にさらされ続けるわけにもいかないと判断した私は、相手の弾幕を相殺しながら鉄の雨の中を掻い潜って空へと飛び上がる。

上空から彼女の事を見下ろしながら範囲を定め、大掛かりな結界を展開しようとするけど、未だに残っていた炎雷神(ほのいかずちのかみ)に襲われてしまう。

さっきの脅しが効いて黙って静観してるかと思えば、この場にリュウが居ない事を察知したのか、今度は遠慮無しに襲い掛かってくる。

八体の雷蛇を回避しながら結界を張ろうとするけど、砂浜から鉄の弾幕を展開されて結界を準備するどころじゃない。

 

「…流石に炎雷神(ほのいかずちのかみ)金山彦神(かなやまひこのかみ)を同時に相手にするのはきついか」

 

鋼鉄の弾幕と雷蛇たちの猛攻。この二つを捌き続けるのは今の私じゃ限界がある。

能力を使って無敵になっても攻撃が効かなくなるだけで、こっちが有効打を打てるようになる訳じゃない。

無想封印で彼女の能力を封じ込めるって手も有るけど、神様を宿している今の彼女に効く保障は無い。

亜空穴で近付いて無想転生を叩き込む……最後の手段ね。アレが効かなかったら本当に打つ手がなくなるし。

相手の猛攻を回避し続けながら打開策を考え続けるけど、考えれば考えるほど打つ手がなくなってくる。

リュウが居てくれたら恐れるものなんて何もないのに……。負けてしまうかもしれない不安から心の中でつい弱音を吐いてしまう。

その不安を拭いさりたくて、アイツがくれたペンダントを握り締めたその時、一瞬の隙をついて炎雷神(ほのいかずちのかみ)が巨大な雷となって私に落ちてくる。

八体の雷蛇が寄り集まって出来た雷は、衣玖が使うような雷とは規模が違い、妖怪であろうともまともに受けたら一たまりもない事を悟らせる。

私は咄嗟に結界を張って落雷を防ごうとするものの、落下してくる勢いまでは如何する事も出来ず、抵抗も出来ずに地面に叩きつけられてしまう。

 

「くぁッ」

 

下が砂地だったお陰で落下の衝撃は大した事無いけど、結界で防いでいても炎雷神(ほのいかずちのかみ)の力は凄まじく、軽く感電したのか身体が痺れて上手く動かせない。

痺れている身体に無理をさせて、なんとか立ち上がろうとするけど上手く立てず、また砂地に倒れてしまう。

それでも諦めずに立ち上がろうともがいていると、空から降ってきた雷撃の檻に捕らえられてしまった。

 

「これで詰みね。私相手によく戦ったと言いたいけど、これ以上は無駄よ。…それでもまだ足掻くというのなら―――」

 

―――鋼鉄の雨を降り注がせる。彼女はそう言いたげに空中に無数の鋼鉄の塊を展開させた。

彼女が振り上げた手が降ろされる様な事があれば、あの鋼鉄は容赦なく私に降り注ぐんでしょうね。

能力を使って無敵に為れば済む話しだけど、そんな事をしたってこのままじゃジリ貧なるだけ。

かと言って、このまま大人しく捕まっても彼女の言う用事とやらが済めば、直ぐにでも幻想郷に送り返されるのは眼に見えている。

この月の海でリュウが眠ったままだって言うのに、アイツを助け出せずに送り返されるなんてゴメンよ!

私は心の中でそう叫びながら、余り言う事を聞いてくれない身体を奮い立たせる。

 

「…理解できないわね。勝ち目もないのにまだ立ち上がろうとするなんて」

「あんたには、いっしょうかかってもりかいできないでしょうね」

地上の民(あなた)の気持ちなんて理解する気は無い。それにこれ以上は痛々しいだけだから、もう眠りなさい」

 

そう言って彼女が手を振り下ろそうとしたその時だった、海の方から何かの鼓動の様な音を聞いたのわ。

最初は私の幻聴かとも思ったけど、彼女もその音が聞こえたのか、手を振り下ろさずに海の方を眺めていた。

鼓動の様な音は段々早くなっていき、それに伴って人でも妖怪でも神でもない力が近付いてくるのを感じる。

 

「……この気配はなに? 豊かの海に生き物は存在しない筈だけど……」

 

ずっと月で暮していた彼女には解らないでしょうけど、私にはこの力が何で有るのか直ぐに理解できた。

数多の神々が恐れて、幻想に住む妖怪の賢者が危惧していた力。

他の追随を許さないその圧倒的な力は、何時も私の傍にいてくれる大好きなアイツの(もの)

 

「…ったく、寝すぎなのよ。あのバカ」

 

悪態をつきながら海の方を眺めると、沖の方から巨大な水柱を上げて純白の鱗を持つ竜が姿を現した。

 

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