月の砂浜での
切り裂かれて底の見えない大地に、一面を氷で閉ざされた大海原。
桃を沢山実らせていた木々は灰も残らず消失し、その後には焼けた大地が広がっているだけ。
此処まで酷い被害が出たとなると、開き直って月を破壊しなかっただけマシだとさえ思えてくるな。
「やれやれ。これじゃ天照の奴を泣かせずとも、後で小言くらいは言われそうだな」
「小言程度で済むなら良いじゃない。ただ聞き流せば良いだけなんだからさ」
そんな暢気な事を言いながら霊夢は俺の傍にやって来て、気楽そうに肩を叩いてくる。
他人事だと思って簡単に言ってくれる。そんな事を思いながら霊夢の方を振り返ると、彼女の顔にははっきりと喜びと安堵が浮んでいた。
「…なんか、随分と心配を掛けたみたいだな。霊夢」
「し、心配ってなによ、私は別にそんな事してないわよ。アンタは勝つって信じてたんだから」
「そう言う割には、凄く安心したって顔をしてるぞ」
「ッ?! あ、アンタの見間違いよ! そ、そんな事よりもいい加減普段の姿に戻りなさいっての。アッチの連中が落ち着かないじゃない」
「……そう、みたいだな」
霊夢が指を指してきた先にはレミリア達がいたが、彼女達の殆どが恐ろしい物を見るような眼で俺の事を見ている。
アレだけの力を見せ付ければ恐れられるのも仕方が無い。そう自分に言い聞かせて納得する事にした。
唯一普段通りにしているのはレミリアくらいなもんだが、表情こそ変わらないだけで一体何を考えてるのか良く解らん。
しかし、今の姿のままじゃ落ち着いて話も出来ないのも事実と言う事で、俺は変身と解いて普段通りの人間の姿に戻る。
変身と解いた瞬間、全身に漲っていた力が急に消えた所為でバランスを崩し、そのまま大地の中に落ちてしまいそうになる。
慌てて風を操ろうと気流を操作しようとしたが、それよりも先に霊夢に抱きつかれて引き止めてくれた。
「あ、あっぶねぇ~。悪いな、霊夢。助かったよ」
「別に大したことじゃないけど、なんで急に落ちそうに為ってるのよ」
「いや、あの状態からこの姿に戻ったときに力のバランスを崩してだな」
「その位ちゃんと考えて変身を解きなさいよね。ホント、どっか抜けてるのよね」
「ぐぅ……。面目ない」
自分自身を情けなく感じながら、俺は風を操って霊夢の助けを借りずに空に浮き上がる。
さっきの戦いの感覚が残っている所為で、風の加減を間違えそうに為るが、特に何もなくバランスを保つ。
とりあえず、こんな辺鄙な所に無理やり連れて来た馬鹿共に文句でも言おうかと考えていると、焼け爛れた大地から見知らぬ女性とどっかで見た事のあるウサギが此方へとやって来た。
「ゆ、豊かの海が…こんな事に為るなんて……」
「誰だアンタ。依姫の同僚か?」
若干面倒そうなのが来たと思いながら声を掛けると、その女は俺の事を睨み付けながら、威嚇するように何処にでもありそうな扇子を向けてくる。
「貴方ね。この海を滅茶苦茶に破壊した化け物と言うのは」
「間違っちゃいないけど、そんなチンケな扇子を俺に向けて何の真似だ? 遊びがしたいなら他所でやれ」
「なッ! 馬鹿にして……。この扇子は、一振りで森を素粒子にまで浄化する風を起こします。どれだけの力を持った化け物でも、受ければひとたまりもないわ」
そう言って女は勝ち誇ったように粋がるが、俺には何処にでもありそうな扇子にしかみえない。
そもそも、高が扇子を突きつけただけで勝ち誇るなんて、あの扇子を過信してるにも程が有るだろ。
依姫と比べなくても一人前の戦士には見えないし、恐らく本来は前線には出ずに後方支援ばかりしてるんだと思う。
立ち振る舞い以前に、俺と自分の力の差を理解出来ていない辺り、依姫よりも数段劣る相手だな。
勝ち誇る彼女を見ながら冷静に分析していると、傍にいた霊夢が俺の服を引っ張ってきた。
「……ねぇ、リュウ。〝そりゅうし〟って一体なに?」
「いや、俺も知らん。浄化するとか言っていたから、なんかの汚れでも落せるんじゃないか?」
「そう聞くと全然大した事なさそうよね。なんで彼女はあんなに勝ち誇ってるのかしら?」
「俺が知るわけないだろ、あんなのに興味もないんだから。気になるなら本人に直接聞けって」
「それじゃ相手が惨めじゃない。興味のない相手でも、もう少しくらい気を遣ってもいいんじゃない?」
「気を遣われるほうがよっぽど惨めです! と言うよりも、貴方たちは自分の置かれている状況がわかってますか!?」
霊夢の言葉が癪に障ったのか、扇子を握り締めて顔を赤くしながら癇癪を起こす。
煽られる事に慣れていないのか、それとも砂浜が悲惨な状況になって余裕がなくなっているのか、どっちなのか分からないけど少し子供っぽい感じがするな。
最初に思ったとおり面倒な奴だなと思いながら、わざとらしく肩を落として大きな溜息を吐いた。
「はぁ~……。その台詞、そっくりそのままアンタに返すよ。そんな玩具一つで俺に勝てると思ってるんだからな」
「この扇子は月の最新兵器です。貴方が思っているようなのとは存在そのものが違う」
「…此処までくると過信と言うよりも慢心だな。其処まで言うんだったら試してみろよ」
彼女を挑発するように言いながら、俺は霊夢の前に出て彼女の事を更に煽る。
後ろに居る霊夢は今度は俺と止めようとせず、ただ呆れた様な溜息をわざとらしく吐いた。
一方彼女は、俺が前に出た事に動揺を見せるが直ぐにそれもなくなり、手にしている扇子を大きく広げる。
「其処まで言うのでしたら試してあげましょう。その傲慢、粒子に還ってから反省しなさい!」
そう言いながら扇子を扇ぐと、とてもチンケな扇子が巻き起こしたモノとは思えない風が吹き始める。
吹き抜ける風は真っ直ぐ俺達へと向かって来るが、風の流れが急に変わり、俺達を掠める事無く逸れて行く。
逸れていった風は海を覆う氷に触れると、その部分だけが突然消滅してしまった。
「へぇ~。〝浄化する〟ってのは〝消滅させる〟って意味合いだったのか。結構物騒な扇子だな」
「結構なんて騒ぎじゃないと思うけど、アンタからしたらその程度よね」
消滅した氷を見ながら霊夢と暢気に感想を述べるが、風を巻き起こした本人は信じられないモノを見るような眼でこっちを見てくる。
そして自棄にでもなったのか、何度も風を俺達に向けて巻き起こしてくるが、全て逸れていき掠めることはなかった。
「…これは何かの冗談でしょ。当たるどころか、掠めることもないなんて……」
「信じたくないみたいだが、コレが現実だ。アンタがどれだけ風を巻き起こしても、こっちで流れを操作すれば如何とでもなる」
「ま、まさか貴方は、気流を操作して扇子の風を逸らしていたというの!?」
「嗚呼。風ってのは留まらず、流れ続けるものだからな。流れさえ変えれば如何と言う事はない。…本当はアンタに向けて流しても良かったんだが、そっちの方が面倒だったんで海に流させてもらったよ」
「……………」
俺の気紛れ一つで自分が消されていた。その事を告げられて彼女は冷や汗を流しながら絶句する。
此処に来て漸く俺と自分の差を理解する事ができたのか、彼女は少しずつ後ずさりをして後退し始めた。
自分一人では勝てないから援軍でも呼ぶつもりなのかもしれないが、彼女はどうも一つ思い違いをしているらしい。
「……おい、アンタ」
「ッ! な、なにかしら……」
「一つ勘違いしてるみたいだから言うけど、俺はこんな星に興味はねぇぞ。てか、もう帰る」
「……へっ?」
俺の当然の〝帰る〟宣言に彼女だけではなく、レミリアたちも驚いたように目を丸くする。
霊夢だけは分かってたと言いたげに一人頷いているけど、他の連中は俺がこんな事を言い出すとは思ってなかったようだ。
「か、帰るって…これだけ大地を破壊しておきながら、何も盗らずに月から去ってくれると言うんですか?」
「嗚呼。第一、俺は元々月に興味なんてなかったし、あそこの馬鹿共に薬で無理やり連れて来られただけだからな。この星がどうなろうと知ったことじゃない」
「ですが、綺麗だった豊かの海を破壊したのは事実でしょ。それは如何説明するつもりですか!?」
「この惨状についてはすまなかったと思っているが、戦った相手が
「私に攻撃が届かないように戦う余裕はあったみたいだけどね」
「それは、ほら、優先順位の問題だ。てか、霊夢が揚げ足取るなよ」
俺が呆れながらに言うと、霊夢は何処か楽しそうに笑いかけてくる。
一方で彼女は俺に説明に反論してくるわけでもなく、ただ信じられないと言った感じで呆然としている。
彼女について来たウサギは如何すれば良いのか分からず、攻撃してくるわけでも、彼女を庇おうとするわけでもなくオロオロとしていた。
このまま向こうが納得してくれれば丸く収まったんだが、そう上手く行くわけがない事を俺は知っている。
「ちょっと待ちなさい、リュウ。私はこの月を征服しに来たのよ。このまま帰るつもりはないわ」
「それはお前の都合だろ、レミリア。そんな事に俺達を巻き込むなよ」
「私達を月まで運んでくれたのは霊夢よ。なら、彼女には私達に協力する意志があったって事じゃない?」
「別にそんなのないわよ。私はただ術を試してみたかっただけだし」
「……………」
なんとも霊夢らしい言葉に流石のレミリアも黙り込んでしまう。
確かに〝術を試したい〟とは言っていたが、〝レミリアの計画に協力したい〟とは一言も言っていない。
こうして月に来られたのは、術を試したい霊夢と、月に行きたいレミリアの思惑が一致しただけの事。
既に術を試す事のできた霊夢からしたら、月に来た後までレミリアの思惑に乗ってやる理由なんて何処にもないか。
「ま、まぁなんであろうと、既に乗ってきたロケットはないのだから、幻想郷に帰るには月を征服するしかないと思わない?」
「そう思っているのはお前だけだ。アンフィニの力があれば、お前達を背に乗せて大気圏突破くらい余裕で出来る」
「そんな方法で帰るよりも、月からの戦利品を持って堂々と凱旋を―――」
「……レミリア」
「―――ッ!」
「勘違いしているみたいだが、俺達はお前の部下じゃない。そんなに月に残りたいなら、望みどおり見捨ててやっても良いんだぞ」
「……………」
あんまりにも鬱陶しいもんだから、少しばかり怒気を込めながら口調をきつくして言うと、意外にもあっさりとレミリアは大人しくなる。
さっきの戦いで見たアンフィニの力が効いているのか、あの我が侭娘にしてはあっさりし過ぎているな。
そんな事を思いながら暫しレミリアの動向を見守っていると―――
「リュウ。殺気がもれてるわよ」
―――霊夢から信じがたい事を言われてしまった。
…どうやら俺には怒気として認識していたものが、周りには殺気に感じ取れてしまっていたらしい。
殆ど無意識の内に出していたけど、そりゃいきなり殺気をぶつけられれば誰だって黙るよな。
「……ま、まぁそう言う訳だから、俺達はこの星から出て行く。アンタは好きな様に上に報告しろ」
「其処まで言うんでしたらそうさせて貰いますが、羽衣なしで月から地上に降りるなんて無謀よ」
「あ、そうなのか? だったら……転移魔法で移動すれば良いか。流石に星から星への移動はやった事無いが、なんとかなるだろ」
「そんな無茶苦茶な……」
呆れた様子で呟く彼女を無視して、俺は霊夢を連れてレミリア達の元へと向かう。
俺の事を見る魔理沙たちの眼は何の変化も無いが、あまり気にしたりせず、足元に円形の魔法陣を展開する。
魔法陣は淡い光を放ちながら包み込んでいき、次第に周囲の景色が見えなくなってくる。
「あ、そうだ。アンタに一つ言っておかなくちゃいけない事があった」
「…何かしら。此方としては早く帰ってもらいたいのだけど」
「今回の件の報復で幻想郷に攻め入ろうとか考えるなよ。もしそんな事をしたら、お前等の一族を月から消し去ってやる」
「なッ!?」
「忠告はしたぜ。それじゃ、お互いの為にも二度と会わない事を祈ってるよ」
驚き絶句している彼女を他所に、俺は魔法陣を完全に展開し、家の情景を思い浮かべながら魔法を発動させる。
淡い光は完全に俺達を包み込むと、一瞬の浮遊感の後に砂とは違う大地の上に転移した。
光の向こうから獣の鳴く声と、風に揺らされている木々のざわめきが聞こえてくる。
懐かしさすら感じさせる風の音に耳を傾けながら、俺達を包み込んでいた淡い光を解除すると、もはや見慣れた神社が堂々と建っていた。
今の時刻は夜なのか、周囲は夕闇に閉ざされて視界は良くないが、夜空に浮ぶ月の光が大地を照らしていた。
「ほ、本当にわたし等ごと月から転移しやがった……。リュウ、お前こんな魔法を何時覚えたんだよ」
「何時も何も、此処に来る前から覚えてた。流石に月から地球までは無理かと思ったが、案外いけるもんだな」
「……な、なんだか今日はどっと疲れたからわたしはもう帰るな」
疲れた様子の魔理沙は別れを告げると、何処からか取り出した箒に跨ってそのまま帰ろうとする。
「おい、魔理沙」
「あん? なんだよ、リュウ。わたしは疲れてるんだが」
「今日は見逃してやるが、後日お礼参りに行くから紫もやし共々覚悟しておけ」
「あ、あははは……」
俺からの死刑宣告に魔理沙は乾いた笑みを浮かべて、逃げる様な速度を出してこの場から去っていった。
ついでにパチュリーの奴にも伝言を頼もうかと思ったが、既にレミリア達の姿は境内の何処にも見当たらない。
転移するときは確かにいた事を考えると、咲夜の奴が幻想郷に帰還したと同時に時を止めて、魔理沙以外の奴を連れて帰っていったんだろ。
そこまで慌てる必要もないと思うが、苦労するのは咲夜の奴なんだし、別に如何でも良いか。
「くぁ~……。なんだかんだで半月ぶりの我が家ね。暫く留守にしてたけど、埃とかどうなってるかしら?」
「その辺りは衣玖が掃除しておいてくれたと期待するしかないだろ」
「ま、それもそうね。それじゃ、ちゃっちゃと布団を引いて今日はもう寝ますか」
「そうだな。俺も長い事何かに変化してた所為で、なんか身体がダルい」
「アレだけ暴れておいてそれはないでしょ。…それじゃ、寒いから先に家に入ってるわね」
「あ、おい! ……ったく、霊夢のやつ」
俺が引き止める間もなく、霊夢は一人先に母屋へと向かって歩いていった。
一人境内に残った俺は、彼女の後に続いて母屋に向かう訳でもなく、なんとなく夜空を見上げた。
今日は珍しく雲一つ無い綺麗な夜空で、冬の澄んだ空気のお陰で星と月をよく見える。
少しの間こうして月と星を眺めていると、唐突に誰かが音もなく俺の背後に立ったのを感じる。
この幻想郷で音もなく俺の背後を取れる奴なんて数えるほどしか居ない。その内の一人は主を連れて既に帰っていったから、残るはあのスキマ妖怪しかいないだろ。
遅い時間に面倒なのが現れたもんだ。そんな事を思いながら後ろを振り返ると、予想通り八雲の奴がいた。
「…こんな時間に何の用だ、八雲。月から帰って来たのを労ってくれるのか」
「いいえ、別に。ただ、月を眺めている貴方をからかいに来ただけよ」
「よし、今すぐ帰れ。こっちはお前と話しているだけでも疲れるんだ」
「酷い言い草ね。そんな言い方じゃ、私の硝子より脆い心が砕けてしまいそう」
俺の言葉に嘆くような素振りを見せながら、その口調は明らかに俺の事をからかっていた。
その仕草がおちょくる為のフリだと分かっているから、コイツの相手を真面目にするのが余計に面倒に思えて仕方が無い。
さっさと帰ってもらいたいもんだが、八雲の方から顔を出して来たって事は用件が済むまで帰らないんだろうな。
「ったく、馬鹿やってないでさっさと用件を言えよ。俺はお前の悪ふざけに付き合う気はねぇ」
「あら、つれないわね。……まぁ、夜も遅いし、さっさと用件だけ話させてもらうわね」
「最初からそうしろよ。本当に面倒くさい奴だな」
溜息を零すように嫌味を言うが、八雲は特に気にするような素振りも見せず、淡々としている。
「とりあえずは、月への旅行お疲れ様。貴方が月に行ったお陰で私の計画が破綻しかけたわよ」
「お前の計画なんて知るか。てか、そう言う文句はレミリアの奴に言え」
「破綻しそうになっただけで、本当に破綻した訳じゃないから別に良いのよ。寧ろ、貴方が暴れてくれたお陰であの子も上手く潜伏できるでしょ」
「だったら、何しに来たんだよ。態々小言を言いに来たわけじゃないんだろ」
「…今回の件で月の民は貴方を警戒する様になるでしょう。日の本には神を滅ぼす化け物がいると。もし彼らが貴方を滅ぼす為に兵を差し向けてきたら、貴方はどう対処する」
八雲がしてきたのは、月の民が攻めてくるかもしれないと言う仮定の話。
向こうの連中が如何動くか分からない中での、最悪の場合を想定した上で俺に決断を迫っている。
さっきまでのふざけた様な雰囲気は消え、今の八雲は真剣な面持ちで俺の事を真っ直ぐ見据えていた。
「さぁ答えを聞かせなさい、異世界の竜神。貴方は一体どうするつもりなの」
俺の事を真っ直ぐ見てくる八雲の眼は何時になく真剣そのものだ。
もし自分の意にそぐわない場合は、即座にこの世界から追放すると言う決意を感じさせる。
何を考えてこんな事を言って来たのか知らないが、敵が現れたら如何するかなんて分かりきってるだろ。
コイツに打ち明けるのは少々癪ではあるが、俺は誰にも打ち明けていない心の内を八雲に話す事にした。
「……俺はな、八雲。お前が思っている以上にこの幻想郷が好きだ」
「…? 突然なにを言い出すの?」
「箱庭の様な世界だが、人と幻想が暮すこの世界が好きだ。此処には古い友と、新しく出来た友が居て、何よりもアイツが此処にいる。此処に辿り着いて良い事ばかりじゃなかったけど、俺にとっては何よりも大切な
「……………」
「だから、この世界を壊そうとする輩は誰だろうと容赦はしない。それが俺が所為だと言うのなら責任は取る。俺を討ち取ろうと攻め込んでくるのなら、その全てを滅ぼしてやるだけだ」
大切な人と、大切な思い出をくれたこの世界を守りきる。それが俺の答え。
自分が何処から来て、何処へ向かおうとしていたのかなんてもう思い出せないけど、この決意だけは必ず貫き通してみせる。
それが永劫を生きることになる俺にとって〝今〟出来る事なんだろうからな。
「それなら貴方は幻想郷の為に命を捨てるというの」
「そんなつもりは毛頭ないな。俺は生きてこの世界を守り抜く。……勿論、アイツと一緒にな」
「……それが貴方の答えね」
「嗚呼。月の民が大軍で攻め寄せてこようとも、この地には指一本触れさせねぇ。俺を敵にすると言う事が如何言う事なのか、その魂にまで思い知らせてやるさ」
俺は真剣な面持ちの八雲を見据えて、はっきりと宣言する。
俺の宣言を聞いて八雲は笑ったり、馬鹿にしたりせず真っ直ぐ俺の眼を見据えてくる。
神社の境内に緊迫した空気が立ちこめ、少しの間、二人してにらみ合いを続けていたが……急に八雲が微笑を浮かべ、その空気を和らげてきた。
「…十分ね。それだけの決意があれば大丈夫でしょう」
「大丈夫って何の話だよ」
「此方の話よ。貴方には……十分に関係の有る話だけど、気にする必要はないわ。私達が勝手にやるだけだから」
「ちょっと待て。俺に関係あるのに俺抜きで話を進めるな。てか、〝私達〟ってなんだよ、〝達〟って!」
「既に日付も変わっているのにそんな大声出したら近所迷惑よ。貴方はもう少し周囲に気を遣うべきね」
「気を遣うも何も、この神社の周囲に人間は住んでねぇだろうが」
「人間はいなくても、動物や妖精は住んでいるわよ? それじゃ、私はもう帰るから貴方も早く寝なさい」
夜更かしする子供を叱るような口調で言うと、八雲は足元に出来たスキマに潜って姿を消した。
こうして境内には俺一人が取り残され、何時もの静かな夜へと戻っていた。
相変わらず何をしたいのか良く分からん奴だが、あんな風に聞いてきたって事は何かしらの意図があるんだろ。
考えても仕方がない事だってのは分かるけど、アイツが何かを企んでいるってのは嫌な予感しかしないな。
そんな事を思いながら溜息を零すが、いい加減身体も冷えてきたし考えるのを止めて、家に入る事にした。
月の連中が如何動くのか分からないけど、今は久し振りに帰ってきた我が家の布団で泥の様に眠ろう。
そう思いながら俺は境内を後にし、霊夢が待つ母屋へと向かった……。
これにて儚月抄?編、完結となります。
今回の話について、とくに百四十六話については色々と言いたい事が有ると思いますが、俺の文才なんてこんなもんですよ。
しかし、今回の話は色々と大変でした。特に月に行った後の展開を如何するかで悩みました。
リュウと
それに、叢雲の開放もねじ込みたかったので、風神録編の戦いは手直しが多くて大変でした。
色々と苦労を重ねた結果、なんとか今回の話まで漕ぎ着けたので一安心してます。
次回からはまたリュウと霊夢の日常が帰ってきますが、そろそろ久し振りに竜×霊な話を書いたいなぁ~。
次回はどんな話になるのか未定ですが、今後ともお付き合いの程宜しくお願いします。
この後は新しくなった叢雲の設定なので、興味ない方は戻るか飛ばすかして下さい。
新生・
龍神と天照に加えて刀剣の神である
本来はリュウの剣と合成するつもりはなかったが、材料の金属が不足していた為、泣く泣く合成する事になった経緯がある。
神剣として既に完成している剣を材料に使う為、二人だけでは少々力不足を感じ、刀剣の神である羽々斬の手を借りた。
羽々斬もリュウの事は好いてはいなかったが、龍神と天照に頭を下げられたのと、リュウが剣を大切にしていると言う事から、〝自分が手を貸した事を明かさない〟と言う条件で協力することを決意する。
二つの剣を合成させた剣ではあるが、既にどちらの原形もとどめておらず、辛うじて刀身に纏う雲だけが残った。
しかし、二つの剣の能力はしっかり受け継いでいる為、三柱の神達は原型を留めていない事はあまり気にしていない。
外見は片刃の大剣だが、一切装飾を施していない為かなり地味な剣となっている。
しかし、その刃は多の追随を許さないほどに素晴しく、一目見ただけで剣に興味のない者でも心を奪ってしまう。
これは龍神が〝どうせなら究極の剣を目指そう〟と言う言葉に、羽々斬が同意し、二人に押されて天照が不肖不肖ながら承諾した事で完成したものである。
究極の剣とは何かと言う話し合いで、羽々斬が〝剣は斬れてこそ意味がある〟と言う発言を元に、ただ〝斬る〟事だけを追究していった。
斬り易くするために形状は片刃の剣となり、究極にまで追究した結果、想定外の機能美が備わってしまい、一切の装飾を施せなくなってしまった。
彼女達の当初の予定では、剣の腹に龍の掘り込みを入れたり、柄頭に太陽の刻印を入れようと考えていたが、泣く泣く没となった。
斬る事だけを追究された剣は恐ろしいほどの切れ味を誇るが、この剣を使うのはリュウだから問題ないと思い、武器としての危険性を完全に度外視している。
実際にリュウ以外が使う事を想定していない為、リュウの為の神剣と言う事で〝竜神剣・天叢雲剣〟と彼女たちは勝手に呼称している。
この剣に究極の力を纏わせて振るう事で世界を両断できてしまうなどと、叢雲を創っていた彼女たちは夢にも思わなかったであろう。