竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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今回からまた幻想郷での日常を書いていきます。
次の異変は夏ですから、それまではのんびりですね。


第百四十七話 山の巫女の信仰集め

 

月旅行から帰ってきた翌日、俺は衣玖と一緒に人里に買い物に来ていた。

出掛けている間の神社の事は彼女に任せていたんだが、流石に半月近くも神社を空けていたから食材の方が足りなくてな。

まだ食べられそうな奴も幾つか有るけど、そうでない物は衣玖さんが前もって処分してたから貯えが少なくて。

今日食べる分くらいは残っているが、食材が底を着く前に俺と衣玖が買い出しに出たって訳だ。

 

「申し訳ありませんリュウさん。勝手に食材を処分してしまって……」

「別に気にする程の事でもない。寧ろ、俺達が居ない間の留守を預かっていてくれた事に感謝している」

「いえ、主が帰る場所を守るのも従者として当然の勤め。リュウさんが礼を言われるほどの事ではございません」

「だが、本当なら俺も神社に残っている筈だったんだ。それなのに、お前に何も告げずに月へと行っちまった。……悪かったな、衣玖」

「リュウさん……。わたくしは、そのお心遣いだけで十分に御座います。ですから、その様な申し訳なさそうなお顔をしないで下さいまし。貴方様は何も悪くないのですから」

「衣玖……。……そうだな。それじゃ、この話はもう終わりにして、さっさと買い物をすませるか」

「はい、リュウさん」

 

そんな話をしながら里を歩いていると、大通りの外れの方に妙な人混みが出来ているのを見つけた。

俺の記憶が正しければ、その場所には只の民家が建っているだけで、人盛りが出来る様な商売はしていなかった筈だ……と言うのに、その場所には大勢の人が集っていて、ちょっとした騒ぎにまで発展している。

皆家を取り囲む様にして集っている所からすると、集っている人の大半が只の野次馬の様にも見える。

誰かが祝言を挙げたと言う訳でも無さそうだし、アリスがあんな場所で人形劇をしてるとは考えられない。

特別人が集る様な場所でもないのに、なんだってあんなに人が沢山集っているんだ?

 

「リュウさん、あの人の山は一体なんでしょうか?」

「分からないが……ちょっと興味が出て来た。俺達も覗いてみるか」

「あ、待って下さいましリュウさん!」

 

俺は買い物の方を後回しにして、謎の人混みが出来ている場所に向かった。

沢山の人が集っている所為で何をしているのか分からないが、何かの祝い事と言う雰囲気では無さそうだ。

一番最後尾だから前の方は良く見えないけど、建っている民家の様子は見る事が出来た……が、民家の方もおかしな事になっている。

俺の記憶ではそれなりに立派な家が建っていたんだが、今ではボロボロで何時崩れてもおかしくない様な廃屋が残っていた。

月に行っていたのは一月もない筈だが、そんな短時間で此処まで荒れるとは流石に考えられない。

妖怪でも押し入って暴れ回った……にしては、隣りに建っている家が全くの無傷だって言うのも変な話しだな。

この家だけを廃墟にしたんだろうが……そんな事が出来る妖怪なんてこの近辺にいたかな?

 

「随分と荒れていますが、何か遭ったのでしょうか?」

「さぁな。半月かそこ等でなるような荒れ方じゃないよな」

「知らないのかアンタって……リュウじゃないか。久し振りだな」

「豆腐屋のおっちゃん? こんな所で何してんだ?」

「オレは只の野次馬さ。それよりも今まで何してたんだよ、地味に心配してたんだぞ」

「地味な心配ってどんなんだよ」

 

そんな他愛の無い話をしながら、俺は豆腐屋のおっちゃんからこの家の惨状に付いて教えてもらった。

なんでもこの家の住人達は、ロケットが飛び立った翌日辺りから災難に見舞われ始めたそうだ。

最初の頃は財布を失くしたり、小物が紛失したりと小さな不幸だったそうだが、日が経つ内に家の中で小火騒ぎが起こったり、畑が妖怪に荒らされたりと酷くなっていったそうだ。

不気味に感じた家主はお祓いして貰おうと神社に来たそうだが、会うことが出来ずに今日まで色んな不幸な目に遭ってき続けたそうだ。

 

「……それだと衣玖さんがこの事を知っていても良いよな」

「確かに何度か人がお見えになりましたが、用件も告げずに帰って行きましたので内容までは……」

「池田さんも〝神社に巫女ではなく天女がいた〟ってとか愚痴ってたな。全く、お前さん達は今まで何処で何をしてたんだよ」

「ちょっと厄介な事に巻き込まれててな。昨日漸く帰ってきたばかりなんだよ」

「半月も神社を空けなければならない用って……よっぽどの事だったんだな。オレはてっきり博麗の巫女が仕事を放棄したのかと」

 

おっちゃんが言って来た何気ない一言に、流石の俺もムッとなった。

 

「アイツはそんな奴じゃねぇ。やる気は見せなくても仕事はちゃんとこなしてる」

「分かってるって。そうじゃなかったらお前さんがあの巫女に惚れる訳ないもんな」

「……そう言う理由で納得されるのもちょっとなぁ」

「照るな照れるな」

「いや、呆れてるんだからな?」

「そ、それよりも不幸続きの家の方は如何なったのですか?」

 

話しが思いっきり脱線しようとした所を衣玖が口を出して修正してくれる。

 

「如何なるかは今分かる所だ。数日前に池田さんの元に緑髪の巫女がやって来てな、今はその巫女さんにお祓いをして貰っている最中なんだよ」

「緑髪の巫女って言うと……あぁ、守矢の所の巫女か」

「確か山に新しく出来た神社ですね。空から降りて来るときにお見かけした事があります」

「新しく現われた巫女さんがどれ程の実力なのか皆知りたくてな。こうして集って見物してるって訳さ」

「成る程ねぇ……」

 

おっちゃんからこの人混みの説明を聞いた俺は、お祓いの状況を見るためにその場で浮かび上がる事にした。

軽く浮ぶと廃屋寸前の家の前に小さな祭壇を建て、その前で祝詞を呟きながらお祓いをする守谷の巫女の姿が見えた。

巫女は余程集中しているのか、周りの状況に気が付いている様子も無く、一心不乱に廃屋に憑いたモノを追い払おうとしている。

彼女の直ぐ傍には家主を思われる男と家族がいるが、彼らが着ている服は家と同じく悲惨なものだった。

一月ちょっとで此処まで追い込んだ奴が何か気になり、廃屋同然の家の中を注視してみると確かに何かが居るのが見える。

何が居るのかもっとよく見てみようとしたその時、巫女の祝詞に負けた何かは廃屋から飛び出し、そのまま巫女の中に入ってしまった。

 

「……はい、これでお祓いは終わりました。もう、貴方達に不幸が訪れる事は無いでしょう」

「あ、ありがとうございます。なんとお礼をすればよいか……」

「お礼など結構です……と言いたい所ですが、此方も色々と込み合っておりまして」

「分かっております。今は渡せるものなどありませんが、時間を掛けて必ずお礼をさせて頂きます」

「でしたら守矢信仰に入信しては如何でしょう? 此方としては信者の方が増えてくれるのは嬉しいですし、貴方達にしても少しずつお礼を返す事が出来ると思います」

「そう言う事でしたら幾らでも入信させて頂きます」

「ありがとうございます。……此処にお集まりの皆様も、もし宜しければ守矢信仰に入ってみませんか? きっと麓の神社よりもご利益がありますよ」

 

緑の巫女は周りに出来た人混みに話し掛け始めたところで俺は地面に降り立った。

前の方では巫女が必至に勧誘をしているが、俺にとっては如何でも良い事なのでコレ以上この場に留まる理由が無くなった。

あの神がどうやって信者を集めるのか気になっていたし、その現場を見る事が出来ただけでも今回はよしとするかな。

 

「あの……宜しいのですかリュウさん。彼女、あの様な事を言ってますが」

「別に良いんじゃねぇの? 誰が何を信じるのかはその人の勝手なんだからな」

「それは確かにそうかもしれませんが……」

「それよりもおっちゃん、今日の晩飯は湯豆腐にしたいんだが……豆腐ある?」

「あ~……店に戻ればあると思うが、戻ってみないと何とも言えんな」

「それならさっさと行くとしますか。他にも買わないといけない物があるから、余りのんびりとしてられないんだよ」

「オレも何時までも店を空けておく訳にも行かないし、いい加減戻るとするかね」

「……はぁ」

 

呆れて溜息を吐いている衣玖を置いて、俺とおっちゃんはこの場を後にした。

衣玖も直ぐに後を追いかけてくるが、神社に戻るまでずっと何かを言いたそうにしていた。

ウチの神社を好いてくれている衣玖としては、あの巫女の発言を黙っているのが納得できないんだろう。

だけどウチの神社にご利益の在る神様なんていないし、あながちあの巫女の言葉も間違ってはいないと思うんだがな。

それよりも気になるのは、あの廃屋から出た妖怪(仮)が緑の巫女の中に入ったって事だ。

……正確に言えばあの巫女に憑いたって事だろうが、俺が何かしなくてもあの二柱の神ならきっと何とかするだろう。

 

 

 

 

 

 

………

……

 

緑の巫女の信仰集めを目撃した翌日、俺は冬の山に来て独りのんびりと釣りをしていた。

冬の山は秋の時とは違い、真っ白に彩られていて木々についていた葉っぱも全て枯れ落ちていた。

時折り山から冷たい山風が吹き抜けるが、秋の赤い山とも違って白い山も粋なものではある。

俺は表面だけが凍りついた川に穴を空け、其処から糸をたらして魚が掛かるのをじっと待っていた。

普段のつり方とは大分違う方法ではあるが、慌しく釣竿を動かさなくていい分、楽な釣り方なようにも感じるな。

 

そんな事を考えながらのんびり釣りをしていると、近くの森から誰かが慌てた感じで走ってくる足音が聞こえてきた。

此処からはまだ遠い様だが、足音は確実に俺のほう向かってきているのが分かる。

里の人間が間違って此処にやって来た……と言う訳でもないだろうし、妖怪同士の小競り合いって感じでも無さそうだ。

少々気になりはしたが、ここら辺の揉め事に首を突っ込むわけにもいかないし、とりあえず無視してこのまま釣りを続ける事にした。

川に垂らした釣り糸はピクリとも動かないが、そう簡単に魚がかかる訳でもないし、焦らずのんびりと行こうと頭を切り替えたその時―――

 

「すまん、白竜! ちょっと話があるんだが良いよな?!」

 

―――突然森の中から柄にも無く慌てた様子の八坂が姿を現した。

 

「大声を出すなよ。魚が逃げちまうだろ」

「魚なんて如何だって良い! それよりもウチの早苗を見なかったか?!」

「早苗って…………あぁ、お前のところの巫女か。今日は見てないが如何かしたのか?」

「実は昨日から行方不明になっていて、わたしと諏訪子が探してる最中なんだよ」

「行方不明? ……俺の記憶が確かなら、昨日は里でお祓いをしてたぞ」

「そんな事はわたし等も知ってるさ! でも、帰って来てないのも事実なんだよ!!」

「ふむ……」

 

俺は川に釣り糸を垂らしたまま、昨日みた彼女の様子を思い返してみる。

廃屋の前でお祓いしていた彼女に異変はなかったし、終わった後の信者集めでも思い詰めた様子も無かった。

今の生活に嫌気が差した……か如何かは知らんが、少なくとも俺が目撃した時までは仕事をキッチリこなしていたな。

となると……昨日とり憑かれた妖怪(仮)が原因とみた方が良さそうだな。

 

「八坂、一つ聞きたいんだが……里の廃屋にとり憑いてた奴の正体を知ってるか?」

「ん? そんな事を聞いてどうなるってんだい?」

「ちょっと気になってな。彼女が行方をくらました原因もそれかも知れんし」

「……わたしも直接見に行ったわけじゃないが、あんな事が出来るのは貧乏神くらいだよ」

「貧乏神って……名前からしてやな神だな」

「まぁ、その名前の通りにとり憑いた人間や家族に貧困を招く神だからね。でも、それと早苗とが如何繋がるんだよ」

「昨日お祓いをしてる時に彼女にとり憑いたのが見えたからな。それが露見するのを恐れたのか、お前達に迷惑を掛けるのが嫌だったのかまでは分からないが、行方を眩ませる理由にはなるんじゃないか?」

 

俺は川に垂らしていた糸を回収しながら言うと、八坂は沈痛な面持ちで頭を抱えた。

 

「……恐らく後者の理由で行方を眩ませたんだろう。真面目で責任感もあるから、わたし等に迷惑を掛けたくないのは勿論の事、里の人間にまた憑かせない為に独りでなんとかしようとしてるんだろ」

「二つ聞きたいんだが、貧乏神ってのは倒す事ができるのか? もう一つはあの巫女独りで如何にか出来る様な相手なのか?」

「仮にも神だから普通の奴じゃ倒す事はまず出来ない。あの子には才と実力はあるが……何の準備も無しに独りで追い払うのは無理だ」

「だとすると、早く見つけ出して手助けしてやら無いと不味いわけか」

「……白竜。恥を忍んで頼みたい事が在るんだが―――」

「あの巫女の救出と、貧乏神を追い払う事か? 別に構わないが、タダじゃ引き受けねぇぞ」

「―――今度美味い酒を持っていくよ。それで頼まれてくれないか?」

「……まぁ、そんなモンで良いか。それじゃ俺も動くからお前もさっさと捜しに行けって」

「すまない。それじゃ頼んだよ!!」

 

神奈子は俺に頼むだけ頼むと、来た時とは別の方向に向かって走り去っていった。

俺は釣り道具を片付けた後、瞑目してここら辺に居る神様の気配を探り始める。

あの巫女にとり憑いたのは厄介な奴らしいが、俺からすれば只の神である事には変わりは無い。

この辺りには色んな神が住んでいるから、絞り込むのは難しいような気もするが……騒ぎを起こしてる奴の所に行けばいいだろ。

そんな安易な事を考えながら意識を集中させて、周囲から聞こえてくる小さな音や気配に意識を巡らせていく。

俺が山に居ると言う事もあってか、殆どの神や妖怪が俺の事を注視している様だが、此処から少し離れた所に一人だけ俺に意識を向けていない奴がいるのを感じた。

そんなに広い範囲に居る奴を調べられる訳じゃないが、誰かを探している様でもなさそうだし、神奈子や諏訪子なんかではなさそうだ。

もしかしたら外れかもしれないが、他に手掛かりになりそうな物もないし、とりあえず其処に向かってみる事にした。

 

雪の積もっている地面を蹴り、葉の枯れ落ちた木々を避けながら目的の場所に向かうと、其処には尋ね人の巫女と痩せこけた体に青ざめた顔の薄汚れた老人がいた。

巫女は老人に向けて何かしらの術を放っているが、老人に効き目は無く不発に終わっている。

あの老人を長い事戦っているのか、巫女の顔色はかなり悪く、疲れと不眠からか目元には隈が出来ていた。

 

《どうした少女よ、もう終わりか? それならば諦めて楽になれ》

「それは絶対にいやです。早苗はこんなところで諦めたりしませんし、貴方くらい独りで追い払ってみせます」

《無駄な事を……。お前一人の力ではワシを追い払うことなど出来やしない》

 

そう言って老人は近付いていくが、巫女は直ぐに別の術を発動させようと手早く陣を描き出す。

描き出された陣は五つの点を結んで星の形に成るが、完全に術が発動する前に霊力が霧散して消え去ってしまう。

 

「そ、そんな……如何して……」

《無駄と言ったであろう。さぁ諦めてワシと一緒に楽になれ》

「い、いや……」

 

巫女は最後まで抵抗しようと姿勢だけは示すが、その表情にははっきりと恐怖が張り付いていた。

老人もコレ以上何もしないと悟り、一気に取り込んでやろうと巫女に襲い掛かろうとする。

俺はそうはさせまいと軽く力を解放してやると、老人は俺の存在に気がつき、元々青い顔を更に蒼くして怯えた表情を見せる。

 

《き、貴様……何故此処に……》

「山の連中に頼まれてな、その子を探しに来ただけだ。別にお前さんを如何にかしようって訳じゃない」

《今までにも多くの神を打ち倒してきた貴様の言など信じれるものか》

「別に信じてくれなくてもいいが、頼まれた以上その子に何かあると困るんだ。お前さんがその子に何かするって言うのなら……俺もそれ相応の事をさせてもらうぜ」

 

殺気を込めて貧乏神を睨み付けると、俺の殺気に気圧されたのか、奴は顔を蒼くさせたまま後ろへとたじろぐ。

 

《く、くぅ~……。貴様が居なくなって里で好き勝手に出来ると思った矢先にコレだ。なんで貴様はワシの邪魔をする》

「邪魔なんかしてねぇよ。テメェが勝手に俺を恐がっているだけだ。……それよりも如何する? 大人しくその子から離れるか、俺に打ち倒されるか……好きな方を選べ」

《だ、誰が貴様なんぞと戦うものか! ワシは貴様の居ない土地へ行かせて貰う!》

「勝手にしろよ」

 

神様に相応しくない捨て台詞を吐いた貧乏神は、一目散にこの場から逃げ出していき姿を眩ませた。

何処に逃げたのか皆目見当もつかないが、少なくともこの幻想郷に寄り付く様な真似はしないだろう。

貧乏神が消え去ったのを見届けた俺は、疲労困憊と言った様子の巫女に駆け寄った。

 

「おい、大丈夫……な訳ないよな」

「……如何して助けてくれたですか? あの位、早苗一人でもなんとか出来ました」

「そりゃ無理だろ。今にも倒れてしまいそうなのに、あれを追い払えたとは到底思えない」

「……そんな事―――」

「あるだろうが。現に一晩掛けても追い払うことが出来なかったんだからな」

「―――……………」

 

俺がそうはっきりと告げてやると、緑の巫女は悔しそうに俯いて下唇と噛んだ。

此処で励ましても意味が無いと思った俺は、彼女が冬の冷たさで凍えないように火球を作り出した。

煌々と燃える火球は俺達の周りの空気を暖めるが、一晩戦い抜いた彼女を暖めるのは難しそうだ。

 

「……一つ聞いてもいいですか」

「ん? なんだ突然?」

「霊夢さんなら貧乏神をお一人で追い払えたと思いますか?」

「アイツ一人で?」

「はい」

 

緑の巫女はいきなり変な質問をしてきたが、俺は彼女の真意を考えずに質問の答えを考え始める。

如何して此処で霊夢の名前が出てくるのか分からないが、質問の答えは熟考しなくても直ぐに導き出すことが出来た。

 

「アイツの事だから、直ぐに俺に頼ってくると思うぞ。早いし簡単だからな」

「霊夢さん程の力があっても貧乏神を追い払うことは出来ないと?」

「そんな事は無いと思うが、追い払う為に小道具を用意するよりも、俺に頼んだ方が確実だってだけの事だ」

「……そんな理由で頼るのって如何かと思うのですが」

「無茶な事をしたって誰も喜ばないからな。……それはあの二人も同じだと思うぞ」

「……………」

「そんな疲れた顔で〝貧乏神を独りで追い払った〟って言われてもきっと怒るだろうな。付き合いの浅い俺でも分かるんだ、付き合いの長いアンタなら言われなくても分かるんじゃないのか?」

 

下を見て俯いてままの少女に、俺は出来るだけ優しい声音で話しかけて諭してやる。

正直柄じゃないとは思うんだが、こう言うのは誰かがやらないといけない事だし、もっと大事になってからじゃ遅すぎる。

本当ならこの子の保護者のどっちかが良かったんだが、タイミング悪く居ないんだし仕方が無いか。

 

「……確かに貴方の言う通りですね。こんな無茶をして、お二人が喜んでくれる筈ないですよね」

「分かってるならなんで無茶をしたんだよ。八坂の奴、本気で心配してたぞ」

「早苗達は此処に来てまだ日が浅いですから、まだ力が戻っていないお二人の手を煩わせたくなかったんです。お二人も信仰を得ようと影で苦心していますから、この程度の事は早苗一人でなんとか乗り切ろうと……」

「それで心配掛けてたら本末転倒だろうに。独りでこなそうとするのは良いが、分からない事や出来そうにない事は素直に頼った方がいいぞ」

「……ですね。お二人にもご迷惑を掛けてしまいましたし、貴方にも迷惑を掛けてしまいました」

「俺の事は気にするな。……そろそろお前さんの神社に行きたいんだが…飛べそうか?」

「ちょっと無理そうですが、歩くくらいの事は出来ると思います」

「此処からあの神社までどれだけ距離があると思ってるんだよ。……仕方が無い、運んでやるか」

「い、いいですよそんなの! 歩いて帰るくらいの体力は残してる心算ですから」

「信じられないから言ってるんだよ。グダグダ文句言ってないで、素直に運ばれておけって」

「……………」

 

俺が強気な口調で押し切ると、巫女はそれ以上言ってくる事は無く、素直に背中に凭れ掛かった。

彼女をおんぶした俺は、そのまま足元の地面を蹴って空へと飛び上がり、山にある神社へと向かう。

その道中で何かしらの事を言ってくると思ったが、彼女は神社に着くまで終始無言を貫いた。

特に問題も無く神社に辿り着くと、丁度戻ってきていた諏訪子と出くわす事ができた。

 

「竜と……早苗?! 如何して二人が一緒に居るのさ!?」

「八坂の奴に頼まれて彼女を探して連れて来ただけだ。別に他意はない」

 

変な勘ぐりをされる前に釘を刺しておいた後、背中に背負ったままの彼女を降ろしてやった。

彼女はふら付きながらも立ち上がると、そのまま諏訪子の方を向いて深々と頭を下げた。

 

「諏訪子様……ご心配をお掛けしました」

「ホントだよ! 何も告げないで居なくなるから、わたしも神奈子も本気で心配してたんだから! ……あ~ぁ、そんな疲れきった顔をしちゃって。そんな顔をして帰ってくるなら素直に話してよね!」

「はい、本当に申し訳御座いませんでした……」

「色々と話を聞きたいところだけど……まずは早苗を休ませてからだね。フラフラだけど歩ける?」

「彼が運んでくれましたから、それくらいなら大丈夫です」

「そう。……色々とありがとね竜、見つけただけじゃなく連れて来てくれて」

「俺は八坂の奴に頼まれただけだよ。……それじゃ、俺はもう帰るからアイツに宜しく言っといてくれ」

 

洩矢の奴にそう告げた後、用も済んだからさっさと帰ろうと轡を返すと―――

 

「リュウさん! 今日はその……た、助けてくれて有り難う御座いました!!」

 

―――緑の巫女が俺に向かって深々とお辞儀をして、感謝の言葉を述べてきた。

 

「……さっきも言ったが別に気にするんじゃねぇよ。それよりも余り無茶はするなよ」

 

面と向かって言うのも気恥ずかしかった俺は、彼女に背中を向けたまま言った後、直ぐに飛び立って守矢神社を後にした。

今回の件で彼女も考え方を改めると思うが、後の事はアイツ等に任せておけば大丈夫だろう……多分。

 




これで早苗フラグが立ったと思うでしょうが、はっきり言ってそれはないです。
霊夢と衣玖がいるのに、三人目となると確実に持て余すのでやりません。
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