今日は年末恒例の大掃除。一年間溜まった汚れを落そうと、朝から霊夢と二人大忙し。
神社の本殿の方はアイツに任せて、俺は母屋の方の掃除を担当している。
流石に霊夢の部屋には手をつけていないが、母屋は色々と移動させないといけない物が多いから、一人で全部やるのは流石に骨が折れる。
こう言う時、衣玖の奴が居てくれれば楽できるんだが……アイツは天界の方の掃除に駆り出されていて、今はこっちに来ていない。
本人は早く辞めたいと何度も愚痴を零しているんだが、雇い主が中々承諾してくれなくて今も向こうで働いている。
あんまりにも酷いようだったら、こっちから襲撃して衣玖を連れ出してしまおうかとも考えている。
…まぁ、流石にコレは最終手段だから、出来る事なら穏便に済ませたいってのが本音だ。
そんなこんなで、母屋の掃除をしていたら……ちょっと困った事態に直面してしまった。
困った事態と言っても、幻想郷の存亡に関わるような事でもないし、ウチの食料が底を尽きたとかそんな事でもない。
ただ余りにもやる事が無かったから、暇潰しも兼ねて俺の部屋の掃除をしていたんだが、誤って使っていた枕を破いてしまっただけだ。
元々神社に置いてあった古い枕を使っていたし、大分前から小さな穴が開いていたからそろそろ限界かなとは思っていたが、まさかこんな形で駄目にしてしまうとはな。
……まぁ、壊してしまった物は仕方が無いし、素直に霊夢に謝って別の枕を用意してもらうとするか。
俺は破れて綿が出てしまっている枕を持って、本殿で掃除をしている筈の霊夢の元へと向かった。
「お~い、霊夢~。ちょっと良いか~」
「ん? 如何したのよリュウ……その破れた枕は」
本殿にいた霊夢に声を掛けると、雑巾掛けをしていた手を止めて俺の方を振り向く。
視線は直ぐに持って来た枕へと向けられるが、その表情は明らかにあきれ返っていた。
「見ての通り破いちまってな。代えの枕は無いか?」
「有るには有るけど……なんで年末のこんな時に壊すのかしらねぇ」
「あははは……すまん」
「別に責めている訳じゃないわよ。…これが終わったら別の枕を用意するから、それまでに他の所を終わらせちゃって」
「嗚呼、頼むな」
霊夢はそれだけ言うと、視線を戻して本殿の掃除を再開する。
俺も掃除が残っているため母屋へと戻り、その途中でゴミに為ってしまった枕をゴミ置き場に放り込む。
こっちに来てからずっと使っていたから名残惜しくは有るが、綿が出てしまっては仕方が無い。
後日霊夢にお祓いでもしてもらおうとか考えつつ、俺は自分の部屋の掃除を再開した。
………
……
…
あれから大分時間も経って夜遅く、念入りに剣の手入れをしていたらすっかり暗くなっていた。
霊夢は既に眠っているらしく、俺もコレ以上起きている意味も無いし、いい加減に眠る事にしよう。
何時もの様に布団を敷いた後、手早く寝巻きに着替えてさっさと床につく。
枕は別のモノに代わった所為か、初めの頃は中々落ち着くことが出来なかったが、暫くすると自然と眠気がやって来た。
その眠気に抗う事無く身を委ねていると、自分の意識が別の所に飛ばされるような不思議な感覚に襲われる。
前にもこんな事があった気がするなって思っていると、直ぐ傍で誰かが俺を呼ぶような声が聞こえてくる。
未だまどろみの中に居るから誰の声なのかはっきりしないが、俺が良く知っている奴の声だと言うのは何となく分かっていた。
もう少し眠らせて欲しい様な気もするが、傍で呼ばれ続けていたら眠れるものも眠れやしない。
俺は若干不機嫌になりながらも、傍から聞こえてくる声に導かれる様な形で目を覚ました。
寝起きでぼやける視界の中、最初に俺の視界に飛び込んできたものは、妙に機嫌の良い霊夢の顔だった。
「お早うリュウ。今日は随分と眠っていたわね」
「……………」
霊夢は何故か嬉しそうに微笑んでいるけど、俺は今目の前で起こっている状況に理解出来ないでいた。
なんでそんなに機嫌が良いのかってのもそうだが、如何して霊夢が俺の隣に居るのかってのも分からない。
何時もは別々の部屋で寝ているんだし、起きたら霊夢が隣に居るなんて事………前にもあったな。
確か一昨年の春頃だったかに、知らないうちに霊夢が俺の布団に潜り込んでいた事があった。
その時と同じで今回も潜り込んだんだろう、そう決め付けた俺は隣に居る霊夢に声を掛けることにした。
「……一つ聞きたいんだが、お前また俺の布団に潜り込んだのか?」
「…? 何いってるのリュウ。私達は前から一緒の布団で眠ってるじゃない」
「…………はい?」
霊夢は不思議そうな顔をして言ってくるが、俺のには彼女と一緒に眠る様になった覚えはない。
俺が忘れている……なんて事も無いだろうけど、霊夢が冗談を言っているとも思えない。
何かがおかしな事に為っているみたいだが、俺が変なのか霊夢が変なのかイマイチ判らないんだよな。
「…もしかして、あの白い本みたいに変な世界に迷い込んだのか?」
「さっきから何を言っているのよ。今日は朝早くから出掛けるんだからシャキっとしてよね」
「出掛ける? そんな約束してたか?」
「あ、酷い! 昨日の夜に〝一緒に海に行こう〟って約束したじゃない!!」
「……幻想郷に海なんて在ったっけか?」
「在るわよ! 全く、寝惚けるのも大概にしてよね」
霊夢は頬を膨らませて妙に可愛らしく怒るが、俺はいよいよこの状況に理解できなくなっていた。
幻想郷に海は無いのは間違いない筈だし、紅魔館の近くに在るのはただの大きな湖だ。
そんな所に霊夢が行きたがる訳も無いんだが、この様子からすると霊夢は本気で海に行くつもりのようだ。
無い筈の場所に如何やって行くつもりなのか分からないけど、こんな所で押し問答をしていても埒が明かなさそうだな。
霊夢がおかしくなった……か如何かは判らないが、暫くは成り行きに身を任せて様子を見るとしますか。
「……あ~すまん、霊夢。起き抜けでお前の顔を見て気が動転していたみたいだ」
「む、何よそれ。朝一番に私が居るのが不満だって言うの」
「そうじゃなくて、朝からお前の顔を見れるのが嬉しくて、少しでも長くその顔を見ていたかったんだよ」
「……バカ、そんな恥かしい事はっきり言わないでよ」
霊夢は怒っていた顔が一変して、恥かしそうに顔を赤くして俯くが、俺は何時もとの反応の違いに若干戸惑っている。
何時もなら声を荒げて反発してくるのに、如何して今日に限ってこんなにも初々しい反応なんだ?
霊夢に戸惑いを悟られない様に隠しているけど、今日一日ずっとこんな調子じゃ何時まで隠し通せるか分からんな。
「そ、それじゃ私朝食作ってくるから、早く起きてきてね」
「あ、あぁ、分かった」
恥かしさに耐えかねたのか、霊夢は顔を赤くしたまま逃げる様に布団から出て行った。
俺はそんな彼女の後姿を見送った後、布団から起きて手早く着替える事にした。
その序でに部屋の中を見渡してみると、確かに一人で使うには少々広い上に、部屋の中には霊夢の衣装棚なんかも置かれていた。
なんでこんな事に為ったのか分からないが、分からないものを一々考え込んでも仕方が無いし、今は頭を切り替えておくか。
………
……
…
朝食を食べ終わった俺達は、神社の仕事を軽く片付けて、正午を回る前に神社を出てに海へと向かう事に為った。
今の季節は冬だから寒いと思っていたが、その様な事も無く外は雪一つ無く、春の様に穏やかな陽気だった。
部屋だけではなく季節も違うのは流石に驚いたが、此処まで来ると本当に海が在る様な気がしてくる。
俺の知っている幻想郷じゃないみたいだし、海の一つや二つが在ってもおかしくはないな。
そんな事を考えながら、神社の本殿前で霊夢がやって来るのを待っていると―――
「リュウ、お待たせ!」
―――赤い半袖の上着に白いワンピースを着た霊夢が、満面の笑みを浮かべながら手提げの籠を持ってコッチにやって来た。
「別に待ってないけど……その服何時の間に買ったんだ?」
「リュウに内緒でこっそりとね。……ねぇこの服、似合ってるかな?」
霊夢は自分の服装に自信が無いのか、少し顔を赤らめて俺に尋ねてくる。
俺は尋ねられて上から下まで一通り見てみるが、コレと言っておかしな所を見つけなかった。
「いや、大丈夫だ。良く似合ってるよ」
「ほんと! あ~良かった、もし似合ってないとか言われた如何しようかと思ったわ」
「服装一つで心配しすぎだろ」
「女の子にとっては服装一つでも悩むものなの」
「そう言うものなのかねぇ? 俺にはよく分からねぇな」
「それはリュウが男だからよ。……それじゃ、何時までも喋ってないで早く行きましょう」
そう言うと霊夢は俺の腕に自分の腕を絡めて、そのまま空に飛び上がろうとする。
突然腕を絡めてきたのは驚いたが、俺はされるがまま霊夢と一緒に空へと飛び上がった。
幻想郷の自然豊かな景色を眼下に納めつつ、俺達は何時もより遅い速度で飛びながら、何時もと変わらない他愛の無い話で盛り上がる。
霊夢は飛んでいる間もずっと腕を放そうとはせず、本当に幸せそうな笑顔を俺に見せてくれた。
慣れない飛び方に若干の飛び辛さを感じるが、霊夢の幸せそうな顔を見ると今回は我慢するかと思ってしまう。
自分でも甘いとは思うのだが、全く飛べなくなると言う訳でもないし、この程度の事で霊夢の笑顔を曇らせるのも気が引ける。
そんな事を思いながら霊夢と空を飛んでいると、人里の越えたその向こう側に蒼く光る海が見えてきた。
人里と海の間にはまるで境界を現すように林が広がり、横に広がる木々には沢山の桃の実がなっていた。
まるで月の海と同じ浜辺に少し驚いていると、霊夢は俺の腕を引っ張って目の前に見える浜辺へと向かう。
俺は霊夢に引っ張られるまま浜辺に降り立ち、改めて目の前に広がる海とその周囲を眺めてみる。
浜辺はあの月と同じ様に生き物の気配は感じられず、時折り吹き抜ける風で揺られる葉の音と、寄せては返す小波の音だけが静かに響いていた。
あの場所と全く同じ環境に驚いていると、霊夢は持って来ていた手提げの籠を砂の上に置いた後、履いていた靴と靴下を脱いでそのまま波打ち際へと歩いていった。
「ひゃッ! 空気は春の陽気でも、海は思ったよりも冷たいのね」
「夏の陽気に為れば少しは水温も上がるだろうが、今くらいの陽気ならそんなもんだろ」
「へぇ~。海の水って季節によって左右されるのね」
「多少変動するってだけで、木々の様に劇的な変化がある訳じゃないぞ?」
「それでも変わることは変わるんでしょ」
そう言って霊夢は波打ち際を歩き始め、俺も彼女の後を追う形で歩き始めた。
霊夢は足元の砂と寄せてくる波の感触を楽しんでいるのか、楽しそうな笑みを浮かべて一歩一歩確かめるようにゆっくりと歩いていく。
俺も彼女の歩くペースに合わせて歩き、ふと横を見てみると……陽光に照らされてキラキラと光る海と、楽しそうに砂浜を歩く霊夢の姿が凄く絵になっている様に感じた。
俺は柄にも無く彼女の姿に見惚れていると、俺の視線に気が付いたのか霊夢が不思議そうな顔をしてこっちを見てくる。
「如何したのリュウ? 私の服装、やっぱり変?」
「あ、いや…そう言う訳じゃないが……」
「なんか要領を得ない返事ね。……そうだ!」
なんて言えば良いのか分からず言葉に詰まっていると、何を思ったのか霊夢は俺の腕を掴んで海まで引っ張ってきた。
一体何をする心算なのか見当が付かず、俺は首を傾げていると―――
「それっと!」
「ぬぉ?!」
―――霊夢は俺を振り回すような形で海に向かって放り込んできた。
抵抗できなかった俺は、そのまま放り込まれた勢いに負けて、顔から海に飛び込んでしまった。
「……ぶはッ! いきなり何すんだよ霊夢!!」
「折角のデートなのに余計な事を考えてたリュウが悪い」
「余計な事ってなんだよ! 余計な事って!」
「うっさい! 自分の胸に手を当てて考えてみなさいよ!」
霊夢は俺の言い分など聞こうともせず、不機嫌そうにそっぽを向いてしまった。
俺は何とか話しを聞いて貰おうとするが、霊夢は聞く耳を持ってもくれず無視をし続ける。
流石にその態度に腹が立った俺は、そっぽを向いたままの霊夢の腕を引っ張り、さっきのお返しに海へと放り込んでやった。
「ぷはッ! 何するのよリュウ、服が濡れちゃったじゃない!」
「人の話を聞こうともせず、無視し続ける奴には丁度いいお仕置きだろ」
「……アンタがそのつもりなら私にも考えがあるわよ」
そう言うと霊夢は腕を思いっきり振り上げて、海水を俺に向かって振り掛けて来た。
海水を避ける事のできなかった俺は、頭から水を被って全身がずぶ濡れになってしまう。
そんな状態のまま霊夢の方を見てみると、彼女は如何にも〝してやったり〟と言った笑みを浮かべていた。
霊夢のその笑みを見た瞬間、俺の中で何かがプッツリと切れる様な音が聞こえた。
「……上等だ。その喧嘩、買った!!」
「良いわよ、全部リュウが悪いって事を思い知らせてあげる!」
「ぬかせこの!!」
こうして喧嘩の様なモノにまで発展し、お互いに相手に向かって足元にある海水を掛け合った。
最初の頃は微妙に険悪な雰囲気だったが、次第に空気も和らいで行き、気が付くと子供の水遊びみたいになっていた。
霊夢もムスッとしかめっ面を浮かべていたが、水を掛け合っていると楽しげな笑みを浮かべ、俺もそれに釣られて笑顔になってしまう。
何が楽しいのか良く分からないのに、こうして遊んでいると自然と笑顔になっていき、険悪な雰囲気は既に何処かへと行ってしまっていた。
どのくらい霊夢と水遊びをしていたのか分からないが、いい加減お互いに疲れたと言う事もあって水遊びを切り上げる事になった。
海水から上がった俺達は、霊夢が持って来た籠の所にまで戻り、其処で一息つく事にした。
俺は濡れた服のまま砂場に座り込み、その場で上着を脱いでずぶ濡れの服を思いっきり絞る。
キツメに絞ると大量の水が服から溢れ出て、さっきの遊びでどれだけの水を含んだのかが良く分かる。
我ながら随分とハッチャケタものだと呆れていると、霊夢が籠の中から白いタオルを取り出して俺に渡してきた。
「お、悪いな」
「気にしないで」
そう言うと霊夢は、赤い上着を脱いで顔や腕を軽く拭いた後、俺の隣りに腰を下ろした。
「服、着替えなくていいのか」
「代えの服なんて持って来てないわよ」
「そんなんじゃ風邪を引くだろ」
「そうなったらまたリュウが看病してくれるじゃない」
「最初からそれを期待するなよな……」
「あら、看病してくれないの?」
「……誰もしないとは言ってないだろ」
俺がぶっきら棒に言うと、霊夢は何処か楽しげに小さく微笑んだ。
何となく負けた様な気がした俺は、小さな溜息を吐いた後、渡されたタオルで濡れた身体を拭き始めた。
腕や胸とかを軽く拭いた俺は、そのまま背中を拭こうとするが、流石に上手く拭く事が出来ず悪戦苦闘する。
見えない箇所だから感覚だけを頼りに拭いていると、見かねたのか霊夢が俺の代わりに背中を拭いてくれる。
「お前も濡れてるってのに悪いな」
「さっきも言ったでしょ。気にしないでって」
霊夢はそれだけ言うと、無言になって俺の背中を拭き始めてくれた。
少しずつ背中を伝う水滴が綺麗に拭かれていくと、突然霊夢が背中から俺を抱き締めてきた。
「……霊夢、冷たい」
「なら、リュウが私を暖めてよ」
「寒いんなら火でも起こそうか? きっと温まるぞ」
「……そうじゃないでしょ、バカ」
霊夢は小声で文句を言ってくるが、俺の背中に顔を押し当てたまま動こうとしない。
無理矢理引き剥がす……って気にも為れず、霊夢も背中から抱きついたまま動く気配も無い。
抱き付かれたまま何も出来ず、ただ時間だけが静かに流れていくのを感じていると、霊夢が顔を上げて身体をより密着させてくる。
「ねぇ、リュウ。如何して何もしてくれないの?」
「……お前は俺に何かして欲しいのか」
「私はリュウが相手なら何をされたって構わない……だから……」
「……………」
俺は無言のまま霊夢を引き剥がし、そのまま後ろを振り返って彼女と顔を見合わせた。
霊夢は顔を赤く上記させて、何かを訴えるような瞳でジッと俺の事を見つめてくる。
その眼を見て、霊夢が一体なにを俺に求めているのかなんて、幾ら鈍い俺でも察する事は出来る。
このまま拒絶する事は簡単だが、霊夢が恥かしさを押し殺して求めてきたのに、それを拒絶するなんて出来るわけがない。
俺も霊夢の事を憎からず想っているし、彼女も本気なんだと察して俺も覚悟を決めた。
俺は向き合ったまま押し倒すと、霊夢も驚いて目を丸くするが直ぐに理解すると、嬉しそうに微笑み俺の首に両腕を回してきた。
霊夢をコレ以上驚かせない様に注意して、ゆっくりと彼女の顔に自分の顔を近づけていく。
心臓の鼓動がドンドン速くなるのを感じながら、そのまま霊夢の顔に近付けていき……そっと口付けを交わした。
………
……
…
「…………なんかすげぇ夢を見た気がする」
夢の中で霊夢と口付けを交わした俺は、何かに弾き飛ばされる様にして眼を覚ました。
寝ている間は今までの事が夢だとは気が付かなかったが、起きてよく考えてみるとさっきまでの事が夢なんだと自覚できる。
あの恥かしがり屋の霊夢が一緒に寝る訳ないし、幻想郷に『豊かの海』が在るのも不自然過ぎる。
なんだってあんな夢を見たのか分からないが、現実じゃまず在り得ない事が多々在ったのがよく分かった。
冷静にさっきの夢を分析してみるが、どれだけ考えても夢は夢だって結論しか出てこない。
いい加減深く考えるのも馬鹿らしくなって来たし、考えるのはこの位にして少し早いがもう起きるとしよう。
引いていた布団を箪笥の中に仕舞いこみ、何時もの服に手早く着替えて居間に向かうと、台所では妙に機嫌のいい霊夢が朝食の準備をしていた。
アイツが早起きなのは何時もの事だけど、朝から鼻歌混じりで調理するくらいに機嫌がいいなんて珍しいな。
何か良い夢でも見たんだろうか。そんな事を思いながら台所に向かって霊夢に声を掛ける。
「おはよう、霊夢。今日は随分と機嫌がいいな」
「あ、リュウ、おはよう。ちょっと良い夢が見れてね。それで気分が良いのよ」
「ふ~ん……。俺は逆に変な夢を見たけどな」
「変な夢? アンタにしては珍しいけど、一体どんな夢を見たのよ」
「いやな、俺と霊夢が幻想郷に在る筈のない海に出かけるって夢だ」
俺が夢の事を端的にまとめて話すと、野菜を切っていた霊夢の手が突然とまる。
「そ、その夢ってさ、もしかして赤い上着に白のワンピースを着た私が出てくる?」
「そうだけど……なんで分かったんだ? もしかして同じ服を持ってるのか?」
「~~~ッ!!」
夢の中の自分の服装をしった霊夢は、何故か顔を赤くして俺の質問に答えずに台所を出て行く。
何をそんなに恥かしがっているのか分からないが、もしかしたらアイツも俺と同じ夢を見たんだろうか?
俺の見る夢は近くの奴に見せてしまう事もあるけど、今回の夢はそう言うのとはなんか違う様な気がする。
どちらかと言うと、俺が見た夢じゃなくて他人の夢に介入した。そんな感じだったけど……俺にそんな能力はないし、やっぱり気のせいか?
そんな事を考えながら火に掛けたまま鍋の様子を見ていると、ドタドタと誰かがこっちに向かって駆け寄ってくる音が聞こえてくる。
何をそんなに騒いでいるのやら……。そんな事を思いながら居間の方に眼を向けると、顔を赤くして涙目に為っている霊夢が何故か昨日貰った枕を持ち出していた。
「如何したんだよ、霊夢。俺の枕なんか持ち出したりして」
「…お願い、リュウ。別の枕を用意するから、この枕だけは使わないで」
「用意するって、既にそれが有るんだから新しく用意しなくても―――」
「お願いだから、コレだけは使わないで!」
「―――お、おう。分かった」
「ありがとう、リュウ! それじゃ、これを封印してくるから、鍋は任せたわよ!」
言いたい事をいい終えると、霊夢はまた大急ぎで何処かへと向かっていった。
一体何をそんなに慌てているのか理解できないが、とりあえず朝食の準備だけは進めておこう。
……それにしても、アレがただの夢だったってのはちょっと残念だったかな。
え~、活動報告の方には既に載せていたのですが、五月七日から諸事情により更新速度が落ちます。
今までは多い時に週二・三回のペースで更新していましたが、今後は週一更新を目標に更新していこうかと。
ストックはまだ少しだけありますが、それも大して残っていないので恐らく二月も掛からず尽きると思います。
ですので、五月七日からは少しのんびりな週一更新になりますので、ご理解の程宜しくお願いします。