第百五十四話 復興へ向けて
邪神の襲来から早数日、里の完全復興にはまだ程遠いが、里の人達は復興に向けて力を合わせている。
家屋の大半が焼け落ちてしまっているものの、修繕すればまだ使える家も多数残っており、今はそう言った家の修復作業に総出で取り掛かっていた。
壊れた家の破片を再利用する為に加工したり、吹き飛んだ土壁を再び塗ったり、近くの森から新しい材木を切り出したりと大忙しだ。
里の人達だけでは何時まで掛かるのか分からない状態だが、山から降りて来た守矢一派が無償で協力してくれると申し出た。
まぁアイツ等からしたら、手伝う事で信仰を得られないかと考えてるんだろうけど、先日の天照の演説の影響でそれは厳しいだろうな。
だけど守矢一派はそんな事など露知らず、大地を隆起させて岩で出来た仮家を作ったり、天候を操ってここ数日晴れにしたりと何かと頑張っている。
守矢の巫女は炊き出し班として里の人達の食事を作っているが、結構な量を作らないといけないから何かと苦戦している様だ。
そんな中で俺達はと言うと―――
「妹紅、王手だ」
「待った!」
「待ったなし」
「ぐぅ……」
―――里の入り口だった場所で暢気に将棋などを指していた。
まぁ正確に言えば、妹紅と将棋を差しているのは俺だけで、霊夢と衣玖は炊き出しの方を手伝っている。
更に正確にいうと、初めに炊き出しなんかをしていたのは霊夢たちで、守矢の巫女は後から合流してきたってのが正しいんだが、細かい事は別に良いか。
「くっそ。これじゃ王を守るしか手がないだろ」
「……此処で王を守らずに攻めて来るのは蛮勇だろうに」
他の皆が働いている中、俺達だけがこうしてのんびりと将棋をしているには、ちょっとした訳がある。
はっきり言ってしまえば暇なだけなんだが、何も俺達に仕事がないってわけじゃない。
「…妹紅、頭を下げろ」
「あいよ」
妹紅が俺の指示通りに頭を下げたのを見計らって、叢雲を取り出して雪原に向かって斬撃形の弾を飛ばす。
早く鋭く飛んでいく弾は雪原に着弾し、雪を吹き飛ばしながら隠れて様子を窺っていた妖怪も吹き飛ばした。
雪原から姿を現した妖怪は隠れるのを止めると、真っ直ぐ此方へと向かって来るが、顔を上げた妹紅の弾幕によって軽く蹴散らされる。
火の鳥の様な弾幕を無数に叩き込まれて流石に参ったのか、妖怪は悔しそうな顔をしながら一目散に逃げて行った。
「やれやれ、また三下か。仕事が楽で良いんだが、あの程度なら最初から来ないで欲しいもんだ」
「気持ちは分からないでもないけど、偶にやって来てもらわないと私らがサボってるみたい見えるだろ」
「俺は別にソレでかまわないんだけどな」
「私が慧音に文句を言われるんだよ。私達が必至に働いているのに、お前と来たら……って」
「そりゃご愁傷様だな」
「……他人事だと思って気楽に言いやがって」
「実際に他人事だから、仕方が無いだろ」
握り拳を作る妹紅を他所に、俺は叢雲を片付けながら将棋の駒を動かす。
妹紅は何かを言いたそうな顔をするが、ソレを口にする事はなく将棋を続ける。
これが此処最近の俺と妹紅の仕事。里にやって来る妖怪を追い払うだけの単純作業だ。
基本的に妖怪が遊びに来るのを拒みはしない里だが、滅茶苦茶に為った隙を付いて悪さをしようとする輩も数多くいる。
そう言った連中が里に入り込まないようにと、こうして俺と妹紅が里の入り口だった場所で番をしてる訳だ。
本当は先代も一緒に番をする予定だったんだが、永琳の奴が〝精密検査したいから暫く入院して欲しい〟と言い出したため、今のところは永遠亭に半ば強制的に検査入院させられている。
まぁ、彼女の本音からしたら心肺停止状態からどうやって蘇ったのか、その辺りを色々と調べたいんだろう。
「そう言えばリュウ。あの神様が幻想郷に現れた理由について、何か分かった事はないか?」
「いいや、全然。と言うか、全く調べてもいない」
「おいおい、その辺りの原因を究明するのもお前等の仕事じゃないのかよ」
「既に滅ぼした者の事をどうやって調べろって言うんだ。過去に遡れとでも? 流石にそれは無理だ」
「それじゃ何か? 原因も分からないまま、あんな化け物がまた来るかも知れないと?」
「流石にそう何度もあやつに来られても困るが、対策をコヤツに期待するだけ無駄じゃ、無駄」
「随分とはっきり言ってくれるじゃねぇか、龍神。……まぁ、その通りなんだが」
将棋の駒を動かしながらも、いきなりやって来た龍神の方を振り向く。
いつもの事ながら何の前触れもなく唐突にやって来る奴だが、そんなんで竜宮の方は大丈夫なんだろうか?
「うわッ?! この子、何時の間に現れたんだ?」
「ほんの少し前じゃ。…それよりも藤原の、駒の配置はそれで本当に良いのじゃな?」
「えっ? う~ん…………いや、これで大丈夫のはずだ。まだ王の逃げ道は有るし」
「そうか。ならばこの勝負、竜の勝ちじゃな」
「いや、確かに私の劣勢だけど、まだ勝敗は決しちゃいないだろ」
「あ~……悪い、妹紅。ここに桂馬を配置すれば詰みだ」
「…………ハッ!?」
俺が妹紅から取った桂馬を再配置したことで、彼女の王の逃げ場がなくなり、負けが確定した。
次の彼女の手で桂馬を取ることが出来ず、別の所に逃げようとしてもさっき王手を掛けた駒が残っている為、何処に移動させようとも次の俺の番で王は取られてしまう。
「や、やられた……。桂馬みたいな序盤の内に取られた駒なんて覚えてねぇよ」
「伏兵ってのは忘れた頃にやって来るもんさ。それよりも、この勝負は俺が勝ったんだから早くお茶を取りに行け」
「あ、妾の分も宜しく頼むぞ。なるべく熱いヤツを頼む」
「わーったよ、チクショウ。……次は碁で勝負だからな!」
なんともイマイチな捨て台詞を吐いた妹紅は、席から離れて炊き出し組の所へと向かった。
その途中で上白沢さんに捕まってしまうが、多少ゆっくりしていてくれた方が話も聞けるし都合がいいか。
「…それで、今日は何の用で来たんだ、龍神」
「なに、先日の
「分かった事?」
「うむ。…どうやらアヤツは、何者かに無理やり呼び出されたらしいのじゃ」
「無理やり呼び出したってそんな事が本当に出来るのか? 戦ったから分かるが、そこ等で漂っている様な神霊とは訳が違うぞ」
「コレに関しては妾も驚いておるが、外の世界に在るアヤツを祀った社が壊されたという報告はない。ならば、社を追われて幻想郷に流れ着いたとは考えられぬ」
龍神の言う事が本当なら、確かに住む場所をなくして幻想郷に流れ着いた神とは考えにくい。
八坂や守矢のヤツは、外の世界では信仰が得られなくなったから来たらしいが、
「話は分かったが、本当に神を召喚する方法なんて存在するのか? 俄かには信じられないんだが」
「あのなぁ竜よ、此処を一体何処だと思っておるのじゃ。人々に忘れられ、幻想となったモノが流れ着く幻想郷じゃぞ? 人々に忘れられたモノの中に神を呼び出す禁書があっても不思議はあるまい。本来そう言う危険なモノは人の手に渡らぬよう紫が管理しておったのじゃが……」
「何らかの拍子に失くしたか、或いは何者かに盗まれて紛失してしまったと」
「うむ。アヤツと式が家を留守にしている間に入られて盗まれたらしい。紫の屋敷に辿り着くのは至難の業なんじゃが、あの屋敷に忍び込んだ時点て犯人は人間ではあるまい」
感心しているのか、呆れているのかイマイチ分からん口調だが、俺は心の中で八雲の屋敷に乗り込んだヤツに感心してしまう。
誰も見た事のないと噂されている八雲の屋敷。それを見つけ出した上に盗みまで働くなんて、並の妖怪でもまず無理な事だろう。
そんな大それた事を成し遂げたんだから、きっと犯人は八雲以上に狡猾な奴なんだろうな。
「自分の屋敷に泥棒が入るなんて、八雲のヤツ相当頭に来てるだろうな」
「犯人を見つけ次第八つ裂きにしてやるとか言っておったが、今は盗まれた時に一緒に紛失した本の回収で忙しいそうじゃ」
「ふ~ん……。それで
「紛失した物は多くないとは言え、何処に流れてしまったのか分からぬ物ばかりじゃし、今回ばかりは仕方がないじゃろ」
龍神は八雲を庇うような口ぶりだが、俺はアイツがどれだけ苦労していようとも興味はない。
それに今回の一件がアイツに責任があるとも思ってないし、あーだこーだと言うつもりも無いが……邪神が現れた時くらい手を貸してくれても良いだろうに。
「まぁ、アイツがどれだけ苦労しようとも知った事じゃないし、本を盗んだ奴がまた何かしでかしても叩き潰してやれば良いだけだ」
「なんとも頼もしい言葉じゃ。流石は守護の竜神殿は言う事が違うのぉ」
「……その呼び方はやめろ。てか、なんでその事を知ってるんだよ? 天照の奴から聞いたのか?」
「まあの。しかし、戦神で破壊神で守護神な竜神とはこれ如何に」
「そんなもん、俺が聞きてぇよ。てか、これ以上恥かしい二つ名なんか要らん」
「えぇ~…なんじゃつまらん。折角の機会なんじゃし、物凄く変な二つ名を付けようとは思わんのか?」
「思わねぇし、いらねぇよ。第一、お前が俺をからかいたいだけだろ」
「うむ! この様な機会は滅多に無いからな、楽しめる内に楽しまねば!」
「傍迷惑だから他所でやりやがれ」
不貞腐れながら言うものの、龍神はただ楽しそうに笑うだけ。
人をおちょくってそんなに楽しいのかと言いたいところだが、実際に楽しいから笑っているんだろうな。
俺からしたらいい迷惑でしかないが、龍神がその辺りの事を配慮してくれるわけも無いか。
「お~い、茶持って来たぞ~……って、何かあったのか?」
「いや、大した事はない。ただコヤツをからかうのが面白くてな」
「……からかわれる方はちっとも面白くねぇけどな」
「はぁ~……本物の神様を殺した相手に良くそんな事できるな。ちっこいのに大した奴だ」
「はっはっはっはッ! ちっこいは余計じゃ小娘。妾はこの姿が気に入っておるのじゃ」
今の姿に何か思い入れでもあるのか、偉そうに胸を張る龍神だが…背丈の所為でただの童女にしか見えない。
ただの化身体なんだし、その気になれば姿も自由自在に変えられると思うが、なんでその姿に拘るんだか。
「こ、小娘って……おい、リュウ。この子、一体幾つなんだ?」
「詳しい事は知らないが、少なくとも数千年は生きてるんじゃないのか」
「下手したら輝夜よりも上か。…そりゃ私も小娘呼ばわりされるか」
「てか、コイツよりも年上なんて神々しかいないだろうよ」
「お主の言う通りではあるが、妾は天照よりも年上じゃぞ」
「……お前、マジで年幾つだよ」
「竜よ、女性の年齢は無闇に聞くものではないぞ? どうしても知りたくば命を賭けろ」
「なんで年齢を聞くのに命を賭けなくちゃいけないんだよ……」
龍神の本気なのか冗談なのか良く分からん発言に、俺は心底呆れ果ててしまった。
ただ龍神の眼から察するに、コイツの年齢を聞くには本気で命を掛ける必要がありそうだ。
本人は天照よりも年上だなんて言っているけど、実際には彼女の親よりも年上じゃないかと思っている。
……まぁ、こんな事を本人に直接言ったら只じゃ済まないだろうし、心の中に秘めておくがな。
「今、そこはかとなく喧嘩を売られた気がするが……気のせいか?」
「気のせいだろ。それよりも早く茶を飲んじまわないと冷めるぞ」
「……まぁそう言う事にしておいてやろう。藤原の、お茶を寄越せ」
「へいへい。…それじゃリュウ、茶を飲みながら今度は碁で勝負だ。負けた方が昼食を取りに行くぞ」
「あぁ良いぜ、受けて立ってやるよ」
「負けたほうは妾の分も頼むぞ」
「それ位は自分で行け」
正直言ってかなりめんどくさいんで、龍神の頼みをはっきりと断っておく。
龍神は文句を言いたそうな目でこっちを睨んでくるが、そんなのは無視して将棋盤を片付け碁盤を用意する。
将棋と違って碁はあんまり自信がないんだが、負けても霊夢たちの様子を見れるし、特に困りはしないか。
そんな事を思いながら、妹紅は白の碁石を使い、俺は黒の碁石を使ってゲームを開始を始める。
今日もこのまま何事もなければ良い、そんな事を願いながら俺達は碁を指し始めた。
ついに此処まで来たか……。リュウが辿り着いた幻想郷・最終章〝幻想の守護竜〟まで。
長かった…本当に長かった……。色々と新しく書き下ろしたりしていたから、最終章にくるまでにこんなに話数が掛かってしまったよ。移転前だったら緋想天も終わってたのになぁ~。
でも、忙しくなる前に此処まで来れたのは幸いだった。次の更新は土曜か日曜になるだろうし。
今までみたいな更新速度は無理ですが、今後は一週間更新を目標に頑張っていきますので、これからも宜しくお願いします。
……しかし、この小説完結までに後何話掛かるんだろ? なんか二百話を超えそうな気がするんだよなぁ~。それだと年内の完結は無理だよな。