竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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何時も通り、サブタイに深い意味はありません。あと今回は短いです。


第百五十九話 らしくない彼女

「ん? 魔理沙? こんなところで会うなんて珍しいな」

「げっリュウ」

 

里の食糧確保の為に山に入った俺は珍しい所で偶然魔理沙と再会した。

コイツと顔を合わせるのは去年の忘年会以来だが、会うなり嫌そうな顔をするのは失礼だろうに。

 

「な、なんでお前がこんな所に居るんだよ」

「そりゃこっちの台詞だ。俺はただ里の食料が底をつきそうだってんで獣を狩りに来ただけだ」

「そ、そうなのか。わ、わたしは…その……ただの散歩だ」

「散歩ねぇ……」

 

魔理沙の言葉に相槌を打つものの、どうも会った時から魔理沙の様子がおかしい。

彼女らしくないしどろもどろとした言葉に、慣れない様子で俺の一挙手一投足の動きを観察している。

……いや、観察と言うよりも俺の事を警戒しているような感じか。

此処まで露骨に警戒されるのは……何も初めてじゃないが、敵意を持っていない分だけ対処に困るな。

 

「そ、それじゃわたしは先を急ぐからこの辺で失礼するよ」

「まぁ待て。折角久し振りに会えたんだ、もう少し付き合ってくれてもいいだろ」

「い、いや、霊夢の奴に密会してると思われたくないし、別にいいよ」

「そんなに警戒するな。別に獲って喰うつもりはない」

「なッ?!」

 

バレていないとでも本気で思っていたのか、魔理沙は目を見開いて狼狽する。

あれだけ露骨に警戒していれば流石に分かる。思わずそんな言葉が出掛かったが、口には出さずにそのまま飲み込んだ。

 

「やれやれ。最近神社に来なくなったと思ったら、嫌われていたなんてな。まぁ、アレだけ叩きのめせばそれも当然か」

 

月から帰ってきた後、魔理沙とパチュリーを叩きのめした事を思い出しながら呟いた。

変な薬を飲まされた上に無理やり月に行かされて、挙句の果てに月の連中と一悶着まであったからな。騒ぎを起こすのは勝手だが、面倒事に俺を巻き込まないで欲しいもんだ。

 

「……別にアレが原因じゃねぇよ。寧ろその前だ」

「あ? その前?」

 

よっぽど思い出したくないのか、魔理沙は心底嫌そうな顔をしながら小さな声で呟く。

その前の事が原因だと彼女は言うが、それが一体何の事を指しているのか思い出せない。

月に行く前は特に何も無かったし、月に行った後は……暴れたりはしたが、魔理沙に危害を加える様な事はしていない筈だ。

俺の記憶違いがなければ嫌われる様な事はしていない筈だが……はて、魔理沙に何かしただろうか?

 

「その様子だと、自分が何をしたのか分からないって感じだな」

「嗚呼。俺の記憶が正しいなら月から帰ってくる前に何かをした覚えはないぞ」

「そりゃそうさ。わたしはお前に何かされて嫌いになったんじゃない。ただ、お前の事が恐ろしくなっただけだ」

「俺の事が恐ろしくなった?」

「そうさ。……アレだけの力を見せ付けられれば当然だろ」

 

振り絞るように呟いた一言で、俺は如何して魔理沙に嫌われて……いや、恐れられているのか理解した。

あの月が崩壊するのではと思わせる程の戦いを彼女は間近で見ていた。

博麗の巫女として育てられた霊夢や、吸血鬼として長く生きるレミリアと違って魔理沙は普通の家庭で育った娘だ。家を飛び出し、魔法の森で暮らすようになったと言っても生まれや育ちが変わりはしない。

魔理沙の前で変身したことは何度かあったが、あの姿で戦っているところなんて殆ど見せたことがない。

確かグミオウが召喚された時に『カイザー』に変身したけど、直ぐに片付けちまったから印象に残らなかったんだろ。

弾幕ごっこで戦いには多少慣れていたとしても、アレは飽く迄も遊びの範疇だ。その程度の戦いしか経験していない魔理沙が、素戔男尊(すさのお)との戦いを見て恐怖を覚えるのは無理もない事か。

 

「……成る程。あの力を、あの戦いを目撃して今になって俺が怖くなったってわけか」

「わたしは霊夢とは違う。森に篭ってどれだけ魔法の研鑽を積んでも普通の人間だ。アイツの様にはなれない」

「…………」

「お前と遊ぶのは楽しかったけど、今では恐怖の方が上回っちまってるんだ……」

 

あの時の恐怖がこびりついて、忘れたくても忘れられずにいる。

力を振るう側からすれば、アレがどれほどの恐怖になるのか分からない部分が多いが、恐らく魔理沙の反応が普通なんだろう。

里であの力を使った時は八十禍津日神(やそまがつひのかみ)が暴れていたし、天照の奴が事態を収拾してくれたお陰で無用な混乱も起きず、里の人達にも嫌われる様な事はなかった。

でも、魔理沙は違う。コイツは誰からのメンタルケアもなく、あの時感じた恐怖をずっと抱え込んでいた。

……これじゃ避けられるのも仕方が無いことだと思うが、なんか魔理沙らしくないな。

 

「俺が怖くなたってのは理解出来たが、随分と弱気な事を言うようになったな」

「な、なんだと!? テメェ、わたしの苦悩を嘲笑うとはどういう了見だ!」

 

俺がいった一言を侮辱と受け取ったのか、魔理沙はこっちを睨み付けながら憤慨する。

 

「別に嘲笑っちゃいない。ただ事実をそのまま口にしただけだ」

「それが嘲笑うって言うんだよ! 大体、お前みたいな化け物にわたしの苦悩が分かるのかよ!」

「んなもん、分かるわけないだろ。何当たり前のことを聞いてるんだよ」

「……はあッ!?」

 

ごく当たり前な事を言うと、魔理沙は信じられないと言いたげに大声を挙げる。

その声に驚いて周囲の木々に止まっていた鳥たちが一斉に驚き、慌てふためいた様子で一斉にこの場から飛び立つ。

此処まで大声を出さんでもいいだろうに。軽い耳鳴りがする耳を押さえながら心の中でそんな事を思った。

 

「わ、分からないってなんだよ、分からないって! 普通こう言う時って分かるって言うもんじゃないのか?!」

「あのなぁ……なんか思い違いをしてるみたいだから言うけど、そう言うのは似た経験をしたことの有る奴だけが言える台詞なんだぞ。俺は今まで自分以上の絶対者になんて会った事がないんだから、お前の苦悩なんて分かる訳ないだろ」

「………………」

 

心の何処かで自分の苦悩を分かってくれると思っていたのか、憤慨していた表情が一変し、口を開けてなんともマヌケな面を晒している。

俺に一体何を期待していたのか聞くつもりはないが、どうも魔理沙は根本的なところが分かっていないらしい。

その人の苦悩を理解するって言う事は、自分も似た苦悩を懐いていた事が有るからこそ言えるんだ。自分も同じ苦しみを味わったからこそ、言葉に重みがでて受けたほうが励みにも為るんだ。ソレがどれほど苦しいものなのか分かりもしない奴が言って良い事じゃない。

あの森の中で何年暮らしているのか知らないけど、人里から離れた所為でその辺りの事が分からなくなってきているのかねぇ。

 

「お前が懐いている恐怖ってのは、俺じゃ理解し得ないものだ。そんな苦悩を解ってやれる訳ないだろ。第一俺が言いたかった事は、俺の知っている霧雨魔理沙は人前で弱音を吐くような奴じゃないって事だ」

「……わたしだって人間だ。弱音や愚痴を言いたくなるときくらい有る」

「まぁ確かにそうだろうな。でも、そういったのを飲み込んで人の迷惑顧みず騒ぎを起こすのがお前じゃないのか?」

「なんかさらっと馬鹿にしてないか?」

「俺は事実を言ったまでだ。大体、今まで何度俺に迷惑を掛けてきたと思ってんだよ」

 

過去にしでかした数々の所業を思い出して、思わずジト目になりながら魔理沙を睨み付ける。

 

「そ、そんなに多くは無いだろ! 今までに三……いや、四回くらいか?」

「でも、俺以外の相手にも迷惑掛け捲ってんだろ? 森近さんも〝魔理沙は物を勝手に持って行って困る〟って嘆いてたぞ」

「だ、だって、香霖のやつ溜め込んでばっかりだから、わたしが使っても問題ないかなぁ~って」

「それなら一言いってから持って行くか、普通に買い取ればいいだろ。なのに無断で持って行く上に常習犯とか……お前の心臓は毛でも生えてるのか?」

「んなッ!? 幾らなんでも心臓に毛が生えてるはないだろ! 今のはわたしの繊細な乙女心が傷付いたぞ!」

「繊細? 乙女? ……ハッ。寝言は寝てから言いやがれ」

「んだとこのやろう!!」

 

馬鹿に……じゃなくて、煽り続けた事で漸く普段の魔理沙の調子に戻ってきた。

捻くれ者の癖に落ち込んでいられるとこっちの調子が狂うし、冗談なのか本気なのかイマイチ分からん方が気楽でいい。

 

「幾らリュウでも言って良い事と悪い事があるぞ! わたしだって乙女なんだからもう少し優しく扱え!」

「お前を乙女と認めたら、世界中の可憐な乙女に土下座しないといけなくなるから嫌だ」

「ど、どんだけ下に見られてるんだよ……」

「今までの自分の言動を思い出せ。アレは如何考えても乙女がすることじゃない」

「……そうか? あのくらい淑女なら誰でも嗜むものだろ?」

「んな訳ねぇだろ。後、乙女と淑女は別物だからな。今すぐ世界中の淑女に謝って来い」

「なにいってんだ。紫の様な能力のないわたしが外の世界に出られる訳ないだろ」

「いや、そう言うことじゃねぇよ」

 

呆れて溜息を吐くように呟く俺を見て、魔理沙は楽しげな笑顔を見せる。

昨日泣いたか烏がもう笑った……ってのとはちょっと違うが、大分調子も戻ってきたみたいだし、もう大丈夫だろ。

俺の力に対する恐怖はコレからも消える事はないだろうが、この分なら苦悩して頭を抱えることもないな。

 

「……さてっと、俺はそろそろ狩りに戻るが、お前は如何するんだ」

「あ、えっと……わたしはそろそろ帰ろうかな。小腹も空いて来たし、今日はぐっすり眠れそうだしな」

「そうかい。そんじゃまたな、魔理沙」

 

魔理沙に簡単な別れを告げた俺は、そのまま彼女に背を向けて山の奥へと入っていく。

狙っている大物は山の奥に隠れ潜んでいると思うが、晩飯までには狩っておきたいところだな。

今の太陽の位置から大よその時間を考えていると―――

 

「おい、リュウ!」

 

―――背中越しから大声で魔理沙が話しかけてくる。

その声に反応して後ろを振り返ると、視線の先には不敵な笑みを浮かべる魔理沙の姿があった。

 

「ん? なんだ?」

「また宴会やっから酒の準備はしておけよ!」

 

他に言う事はないのだろうか。思わずそんな言葉が出掛かったが、俺達の関係を考えればこっちの方があっているのかもしれないな。

 

「おう、待ってるぞ。……でも、ツマミになる様な物は持って来いよ」

「分かってるって。んじゃまたな!」

 

最初に会った時とは打って変わって元気を取り戻した魔理沙は、箒に跨って空の彼方へと消えていく。

これでまた騒がしい魔理沙に戻ったのか。元気に飛んでいく彼女の後姿を見て、思わず苦笑いが零れる。

人の迷惑顧みずまた騒動を起こしそうだなと思いつつも、退屈してるよりはマシだと思ってしまう。

静かな魔理沙なんて滅多に見れるもんじゃないし、今日は珍しいもんが見れたって事で納得しておこう。

その代償が今後起こるかもしれないトラブルかと思うと、また苦笑いが零れてしまうのだった。

 




……さて、魔理沙はこんなもんで良いとして、次は妖夢かな。
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