竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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今回は珍しく全編妖夢視点でお送りします。


第百五十九話 妖夢の誤算

「……よし、今日こそはあの時の事を謝罪します!」

 

博麗神社へと続く山道の前、私は決戦に赴く位の気持ちで決意を固める。

背中と腰には何時もの刀を差し、手には斬馬刀と、幽々子様が持たせてくれた外の世界の菓子折り。

恐らく紫様に頼んだ品物なのでしょうが、この際なのでこのお菓子の出所については考えないようにします。

他の方が見れば不思議な顔をして首を傾げるそうな荷物ですが、人も妖怪もあまりこない場所なので気にしません。

 

「この山道を登って、あの人に謝罪する。たったそれだけの事じゃないですか。頑張れ、私」

 

山道の前で自分にそう言い聞かせるものの、足は一向に動こうとせずその場で立ち尽くしている。

前に進もうと思っても足は動かず、その場にしゃがみ込んで項垂れてしまう。

 

「……やっぱり無理ですよ、幽々子様。いまさらあの人に合わせる顔なんてありませんって」

 

去年の年末に仕出かしてしまった事からくる自責の念。それが私の肩にズッシリと圧し掛かり、この場から動けなくさせる。

……ホント、今に為って思い返してみてもなんであんな事を言っちゃったんだろ。お酒に酔っていたとは言え、幾らなんでもアレはない。

宴会の席で言ってしまったリュウさんに対する暴言……と言うより、私自身の思い上がった発言の数々。

あの席以外でも色々と言っていた所為もあって、申し訳なさよりも恥かしさで一杯に為る。

こんな事が師匠に知られでもしたら、一喝されて後にお説教も入って、初めから稽古をやり直せとか言われる気がする……。

 

「あ~……本当にどんな顔でリュウさんに会えばいいんだろ。向こうからしたら、私なんてもう会いたくないですよね……」

「会いたくないかどうか知らないが、そんな所で蹲ってると蹴り飛ばしちまうぞ?」

「いきなりやって来ておいて物騒な事を言わないで下さい」

 

項垂れていた顔を上げると、其処には一升瓶を片手に持った魔理沙さんの顔が間近に迫っていた。

 

「うわッ?!」

「お、中々いい反応だぜ、妖夢」

「い、いきなり驚かさないでくださいよ、魔理沙さん!」

「あははははは。悪かったな」

 

口では謝罪を言いながらも、魔理沙さんは全く悪びれているような感じはしない。

ただ私の反応を見て面白がっている様にしか見えない。

 

「謝る気が無いなら謝罪しないで下さい。全く、なんなんですかいきなり」

「別に大した用はないぞ。ただ、神社の山道前で知り合いがしゃがみ込んでたから気に為っただけだ」

「それはお気遣いどうもありがとうございます。でも、私は大丈夫ですから気にしないで下さい」

「あっそう。んじゃ、わたしは先に行くぜ」

 

魔理沙さんは興味なさ気に言うと、その場から立ち上がって箒に跨り、空へと飛び立とうとする。

 

「って、魔理沙さん。一体何処に行くつもりですか?」

「何処って……此処まで来て神社以外に何処へ行けって言うんだ?」

「いや、確かにその通りですけど……魔理沙さんってリュウさんの事、恐れてませんでしたっけ?」

「あ~……その事か」

 

私が気になった事を質問してみると、魔理沙さんは言いづらそうに頬を掻く。

触れて欲しくない事に触れてしまったのだろうか。珍しく言いよどむ魔理沙さんを前に、思わずそんな事を気にしてしまった。

 

「あ、すいません。なんか変な事を聞いちゃいましたね」

「いや、気にするほどの事じゃねぇよ。ただなんて言えばいいのか返答に困ってな」

「返答に困る……ですか?」

「うん。確かにあの月の一件でアイツの力に恐怖したけど、このあいだ久々にアイツと話す機会があってな。その時に吹っ切れたと言うか、リュウを恐れている自分が馬鹿らしくなったって言うか」

「えっと……つまり如何言う事ですか?」

「そんなのわたしに聞くな。わたしだって上手く説明できなくて困ってるんだから」

「それもそうですね」

「ただ一つだけ言えることは、わたし等が如何思おうとアイツは何も変わらないって事だけだ」

「……リュウさんは何も変わらない、ですか」

 

魔理沙さんの言葉を聞いて、私はソレを如何受け止めれば良いの分からなかった。

何も変わらないと言う事は、あの宴会の事も気にしていないのだろうけど、最初からまともに相手されていない事を再認識させられる。

一矢報いようと色々と努力を重ねては来たけど、その努力も全く意味のないものだったのかな。

 

「……………」

「ん? なに落ち込んでるんだ、お前?」

「別に落ち込んでなど居ません! ただ、リュウさんに相手にされていないと思っただけです」

「ふ~ん…………ハッ! まさかお前、リュウに気があったのか!?」

 

突如として言って来た魔理沙さんの妄言に、思わず面食らってしまいその場で転びそうになる。

何を如何勘違いすればそんな風に思うのか分かりませんが、幾らなんでもそれはないでしょう……。

 

「い、いきなり何を言い出すんですか。寝言は寝てる時に言ってください」

「いや、だって、リュウに相手にされないって言うから」

「それは剣士としての話です。それに私はあんな人よりも、もっと紳士的な人の方が……って、何を言わせるんですか!」

「お前が勝手に喋ったんだろ!?」

 

魔理沙さんの口車に乗せられて余計な事を言ってしまいましたが、この場に霊夢さんがいなくて良かった。

今の一言が霊夢さんに聞かれでもしたら、何をされるのか分かったもんじゃないですからね。

 

「まぁ、お前の趣味なんて如何でもいいけど、わたしはそろそろ行くぞ。今日は神社で酒盛りの予定だからな」

「酒盛りってまだお昼ですよ? こんな時間から飲み始めるんですか?」

「それは向こう次第だけど、昼間から飲む酒も乙なもんだろ」

「……なんか魔理沙さんって、将来大酒飲みに為りそうですよね」

「いやいや、流石に萃香やたっちゃんには負けるって」

「あの二人を引き合いに出さないで下さいよ」

 

引き合いに出してくる人を間違えているけど、お酒関連ならあの人達の名前が挙がるのも仕方が無い。

萃香さんは年がら年中酔っ払っていますし、たっちゃんは彼女と最後まで飲み続けられる数少ない人物。

紫様でも限界があるでしょうから、そう言う意味ではあの子の存在は凄く貴重なのかもしれない。

……そう言えばたっちゃんって一体何の妖怪なんだろ? 宴会の時くらいしか顔を合わせないからあんまり知らないんですよね。

 

「んじゃ、わたしはもう行くぜ」

「あ、待って下さい。私も一緒に行きます」

「あん? それは別に構わないけど……なんだかんだ言ってお前も飲みたかったんだな」

「違います。私は神社に個人的な用が有るだけです」

「はいはい、そう言う事にしといてやるよ。そんじゃわたしの後ろに乗りな」

「あ、安全運転でお願いしますね」

「直ぐ其処なんだから飛ばしたりしねぇって。まぁ、二人乗りは慣れてないから保障しかねるけどな」

「……………」

 

魔理沙さんの一言に凄く不安が過ぎりますが、私一人では何時までも此処から動けそうにないですし、この際四の五の言ってられません。

不安を押し殺し、魔理沙さんの箒の後ろに跨ると、箒は私達を乗せたまま浮き上がり、そのまま博麗神社を目指して飛んでいく。

箒で空を飛ぶなんて初めての経験ですが、箒の柄が股に食い込んできて物凄く痛い……。

でも、流石にこんな事は言えるはずもないし、誰にも話さないで心の中に留めておこう。

痛いのを我慢しながら箒に跨っていると、あっという間に山を登りきり博麗神社へと辿り着いた。

二・三ヶ月ぶりの博麗神社は相も変わらず……かと思いきや、神社の裏庭からモクモクと白煙が上がっています。

神社で火災……と言うには煙の量は少なく、裏庭で焚き火をしているっと言った方がまだしっくりくるかな。

とは言え、もし本当に火災だったら一大事なので念のため、魔理沙さんと一緒に確認しに行ってみると、其処には意外な光景が広がっていました。

 

「魔理沙と……妖夢? アンタ等が一緒なんて珍しいわね、何しにきたのよ」

「いや、そりゃこっちの台詞だ。お前等一体何してんだ?」

 

驚いた様な、呆れた様な顔の魔理沙さんは縁側に居る霊夢さんに尋ねるけど、内心では私も同じ思いだった。

そう言うのも、裏庭ではリュウさんが鉄の箱を前に季節はずれの団扇を扇いでいて、鉄の箱に風を送っている。

縁側では霊夢さんと宴会でよく見る大食いの子……確か名前はルーミアだったかな? 兎に角その二人が大量に出来ている燻製肉を食べていた。

 

「どうもこうもないわよ。昨日だったか一昨日か忘れたけど、ルーミアが大猪を狩ってきちゃって食べるのに困ってるのよ」

「……で? 何が如何あって大量の燻製肉が出来上がるんだ?」

「見て分からない? 大量に残った猪肉を今リュウが燻製にしてくれてるのよ。残したまま腐らせるのも勿体無いしね」

 

そう言って霊夢さんは鉄の箱の前で燻製を作っているリュウさんへと視線を移した。

私達もソレに釣られてリュウさんに眼を向けるけど、その背中には何時かの恐ろしさは微塵も感じさせなかった。

 

「霊夢。いい加減疲れた」

「頑張りなさい。肉はまだまだ残ってるから」

「リュウ、おかわり」

「まだ出来てない。てか、腹が減ってるなら塩漬けした肉でも齧ってろ」

「やだ。燻製にした方が美味しい」

「だったら我慢してろ。……ったく、幾らなんでも食べるの早すぎだろ」

 

まるで手伝おうとしない二人に愚痴を零しながらも、リュウさんは手を休める事無く風を送り続ける。

でも、この人の力なら団扇で扇がなくても風を起こせるはずなのに、如何して態々こんな面倒な方法を取っているんだろ?

 

「おい、リュウ。お前なんで魔法を使わないんだ? 団扇で扇ぐよりも楽だろ」

「確かにその方が楽だけど、魔法で風を起こすと火の勢いが強く為りすぎるんだよ」

「それで態々団扇で扇いでいるんですか……」

「まぁな。……ところで妖夢はいったい何の用できたんだ? また手合わせして欲しいってんなら後にしろ」

「それはそれで魅力的ですが、今回は…その……リュウさんに謝罪したくてやって来ました」

 

言葉を詰まらせながらそう言うと、リュウさんは団扇を扇ぐ手を止めて私の方を振り向く。

向き合われると思わずしり込みしてしまいそうに為るけど、リュウさんはなんで謝られるのか良く分かっていないような顔をしている。

あの時の出来事は忘れているのかもしれないけど、一つのケジメとしてちゃんと謝罪しておかないと。

私は自分にそう言い聞かせながら、持って来たお菓子をリュウさんに差し出して、深々と頭を下げた。

 

「去年の忘年会……と言うか、コレまで色々と生意気な事を言って申し訳御座いませんでした!」

 

深々と頭を下げ、声を張り上げて謝罪したけど、リュウさんは何も言ってはくれなかった。

私の誠意が伝わっていないのかと思い、少しの間頭を下げていたけど……それでもリュウさんは何も言って来なかった。

私は不思議に思いながら顔を上げてみると、リュウさんは呆れた様な、めんどくさそうな顔をしていた。

 

「あの、リュウさん?」

「……妖夢、お前が謝りたかった事ってそれか?」

「え、あ、はい」

「だったら別にいいよそんなん。お前が身の程知らずな事を言うのは今に始まったことじゃねぇし」

「い、今に始まったことじゃないって、私の事いったいなんだと思ってるんですか!?」

「相手の力量も理解出来ない半人前」

「直ぐに思い上がる愚か者」

「リュウのストーカー」

「霊夢さんと魔理沙さんには聞いてません! と言うか魔理沙さん、ストーカーって如何言う意味ですか!」

「ん? ストーカーってのはな、個人の事を付回す変質者の事で―――」

「言葉の意味を聞いてるんじゃない!!」

 

三人してボケてくるから、思いがけず大声を張り上げてしまった。

リュウさんには初めて会った頃に半人前とか呼ばれてましたけど、まさか霊夢さんや魔理沙さんにまでそんな風に思われているだなんて思いもしなかった。

……確かに霊夢さんの言う通り思い上がるところが有るかもしれませんけど、私はリュウさんの事を付回したりなんてした事ありません!

 

「全くなんなんですか三人して。私の事を苛めて楽しんでませんか?」

「お前が如何思っているのか聞いてきたんだろうが」

「今までのアンタの言動を思い返してみると、そうとしか言えないわよ」

「わたしはなんかの新聞でみた記事をそのまま言っただけだぜ」

「魔理沙さん。それは一体何処の新聞ですか!?」

「えっと……確か、か…か……かかし新聞だったっけか?」

「本当に何処の新聞ですか、それ!」

「さって何処だったっけか? なんせ一年位前に読んだ奴だから忘れちまった」

 

そう言いながら魔理沙さんは、微塵も申し訳無さそうにしていない笑顔を見せる。

どうせ他人事だから如何でもいいとでも思っているのでしょうが、そんな記事を書かれたほうは堪ったもんじゃありませよ。

確かにリュウさんと戦うために神社に足しげく通ってましたけど、本当にそれだけでリュウさんを付回したりだなんてしてません!

 

「……人の事を勝手にストーカー呼ばわりするだなんて、書いた人が判明したら目に物見せてやる」

「天狗の連中に喧嘩を売るような真似は止めとけって。派手にやると旋那の奴が切れるから」

 

心底如何でもよさ気に言いながら、リュウさんは再び燻製に風を送る作業を再開する。

片付けに行くのも面倒なのか、私があげた菓子折りを仕舞う事無く地面の上に置いた。

既にあげた物とは言え、そんな風に扱われるのは流石に気分のいいものじゃない。

霊夢さんも何も言おうとしないし、私が一言と注意してやろうとすると、既にルーミアさんが菓子折りに目を付けていた。

 

「ねぇリュウ」

「ん? なんだルーミア」

「そのお菓子いらないなら頂戴」

「……この中身って菓子だったのか?」

「うん。余り嗅いだ事のない匂いだけど、甘い感じがするから多分間違いない」

「匂いって……まるで犬みたいだな。まぁ、俺は食べる気無いから食っちまっていいぞ」

「うん、貰う」

 

今し方貰った物を、渡した本人の目の前で他の子にあげるなんて……。幾らなんでも酷すぎる。

流石にこれは文句を言われても仕方がない。此処はガツンと文句を言わせて貰わねば。

そう決意し、リュウさんに文句を言ってやろうとしたところで霊夢さんが口を挟んできた。

 

「ちょっと待ちなさい、ルーミア。勝手に食べようとするんじゃないわよ」

「霊夢さん……。貴女もしかして私の味方を―――」

「私も食べてみたいんだから少しは残しておきなさいよね」

「―――…………」

 

霊夢さんが味方をしてくれるかも知れない。そんな淡い幻想は本人の手で見事に打ち砕かれる。

……よく考えてみれば、彼女がわたしの味方に為ってくれる訳ありませんし、こうなるのは当然かもしれない。

こうなる事は必然だった。自分にそう言い聞かせてみてもやりきれない思いはやっぱりある。

謝罪一つであんなに葛藤していた自分はなんだったのだろうかとか、リュウさんはもっと真摯に受け止めてくれても良かったんじゃないかとか、色んな事が頭に浮んでは消えていく。

このやり切れない思いは一体誰にぶつければ良いのだろう。そんな事を思いながら肩を落としていると、魔理沙さんがそっと私の肩を叩いてくる。

 

「……魔理沙さん」

「言っただろ、妖夢。馬鹿らしくなるって」

「そうですね。本当にその通りでしたね」

「ホント、こっちが呆れるくらいに何時も通りなんだよな。……まぁ、ごちゃごちゃ考えなくて済むからいいけど」

「私はやり切れない思いで一杯ですよ……」

 

溜息を吐くように呟いた一言ですが、それが三人の耳に届くことはなく、私達の事を気にしている様子もなかった。

通い辛くなる前と全く同じ感じがする一方で、ウダウダと考えていた自分が馬鹿みたいに思えてくる。

謝罪しなければ、謝罪しなければと考え込んでいたあの日々は一体なんだったんだろ。

思わずそう愚痴りそうに為ったけど、それすらも馬鹿みたいに思えてくる。

あーだこーだと考えるのも面倒になって来たし、この人達の事で深く考え込むのはもう止めてしまおう。

目の前で本当に何時も通りに過ごすリュウさん達を見て、私は心の中でそう決意した。

 

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