竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第十六話 悪魔の妹

 

魔理沙とパチュリーの弾幕ごっこから逃げ出した俺と子悪魔さん。

図書館には今近づけないし丁度良い機会なので、この子に屋敷の案内をして貰っている。

この屋敷、見た目以上に中が広いと思ったら、あの銀髪メイドが空間を弄って広くしているとか。

……あの人、華奢な見た目以上にとんでもない能力を持ってるよな。

小悪魔さんの話だと、空間を弄る以外にも時を止めたりも出来るそうだし。

能力だけなら、吸血鬼以上に強力な気がする……と言うか、俺より上だな。

時を操作出来る竜なんて、俺の中には居ないっての。

 

「なんであのメイドがレミリアに付き従ってるのか謎だな」

「それはきっとアレですよ。お嬢様のカリスマが凄い証拠ですよ」

「カリスマ…ねぇ」

 

そんな事言われても、あの見た目の所為でイマイチ迫力に欠けるんだよな。

確かに力を解放した時の威圧感は凄かったけど、抑えてる時は普通の子供にしか見えない。

小悪魔さんの話だと、アレで五百歳らしいが……成長が遅いってレベルじゃないぞ。

 

「……あ、そう言えば聞きたい事があったんだ」

「はい。なんでしょう?」

「この屋敷の地下に変な力があったけど、アレはなに?」

「変な力と言うのが何か分かりませんが、紅魔館の地下にはパチュリー様と妹様しか居ませんよ」

「妹様?」

「レミリアお嬢様の実の妹である『フランドール・スカーレット』様の事です。普段から屋敷の地下で生活してるんですよ」

「へ~」

 

あのレミリアの妹ねぇ……。なんか、あの子以上の我が侭な気がする。

いや、実はあの姉を反面教師にした品行方正な良い子な可能性も…………あるわけないか。

寧ろ、この幻想郷でそんな子が居るのか如何かを物凄く聞きたい。俺の知り合いって癖の強い子ばっかりだからな~。

 

「私の知る限りでは他に居ない筈ですので、リュウさんが仰っているのは多分、妹様の事だと思いますよ。……お会いになりますか?」

「いや、それは遠慮して―――」

 

俺が断ろうとした時、突然目の前の床が何かに破壊された。

余りにも突然の出来事に、俺達はその場に立ち止まり固まってしまう。

一体何事だ? まさか、二人の弾幕ごっこの被害が此処まで出た訳じゃないよな?

まだ状況が読めず、その場で呆然としていると……目の前の穴から、七色に光クリスタルが付いた異形の翼を持つ、赤い服を着た薄い黄色い髪の少女が出て来た。

 

「い、妹様?! 如何して此処に!?」

「妹様って、あの子がレミリアの妹か……」

 

小悪魔さんの反応で、あの子が誰なのか理解出来たけど……なんでいきなり出て来たんだ?

態々挨拶の為に出て来た……って訳でもないだろうし。本当に何をしに来たんだ?

 

「……見つけた。お兄ちゃんがあいつが言っていたリュウね」

「(あいつ?)……確かに俺がリュウだけど、君とは初対面だよな?」

「うん。でも、貴方の事はあいつから聞いてた。なんでも、面白い能力を持ってるんだってね」

「別に面白くはないと思うぞ?」

「変身するんだし、十分に面白いよ。……折角だし、その力フランにも見せてよ!!」

 

それだけ言うと、フランドールは行き成り弾幕を放って来た。

あの子の狙いは俺らしく、弾幕を自分の周囲に放ちながらも確りとコッチを狙ってくる。

でも、この位の弾幕ならまだ避けられる。前に戦ったレミリアのスペカよりは楽だ。

俺は手元に剣を召喚し、斬撃の形をした弾幕で応戦する。

コッチの弾幕は連射出来ないが、速度・威力ともに十分にある。

……やっぱ、無手よりも剣で戦うほうが性に合ってるのかも知れないな。

 

「お兄ちゃん。今どうやって剣を出したの?」

「まぁ、ちょっとした手品みたいなもんかな」

「へぇ~。なら、私も剣を出すからね!」

「好きにしてくれ。……小悪魔さん、貴女は早く逃げた方が良いぞ」

「そうさせて貰います」

 

彼女は一目散で来た道を引き返し始めた。

出来る事なら俺も逃げ出したいけど、多分見逃してくれないんだろうな。

……と言うか、今この場を逃げ出したら癇癪起こしてもっと面倒に為りそうだ。

 

「それじゃ行くよ。…禁忌『レーヴァティン』」

 

フランドールが一枚目のスペカを宣言すると、彼女の手に自分の身長以上に長い赤い剣が出現した。

アレはレミリアが使った『スピア・ザ・グングニル』と同じ系統のスペカなのか?

それならまだ避け易くはあるけど、槍みたいに投げない分厄介そうだな。

 

「それじゃ行くよ!」

「ッ! 覚悟を決めるしかないか!」

 

俺はフランドールの太刀筋を見切り、それを避けた後にコッチの弾幕を放つ。

彼女は俺の弾幕を避けた後、また赤い長剣で切り掛かってくる。

あの華奢な腕の何処にそんな力があるのか知らないが、今度振り落とされた剣はかなり速い。

今の身体じゃ避け切るのは難しいと判断した俺は、刀身の上を滑らせ、フランドールの剣を逸らす事にした。

剣を逸らす事は成功したけど、今ので刀身がかなり削られてしまい、あと数回同じ事をしたら確実に剣が折れるな。

 

「手に入ったばっかりだから、もっと大切にしたかったんけど……仕方が無いか」

 

正直な所、剣を気遣って戦っていたら間違いなく落とされる。

出来る事ならそんな事はしたくないけど、この戦いで剣が折れるのも覚悟しないとな。

 

「まだまだ行くよ!」

「そうかい!」

 

フランドールは宣言通り、赤い長剣を振り回してくる。

俺はそれを掠りながらもなんとか回避していく。

お陰で剣はボロボロ。あの輝きを放っていた剣は、見るも無残な姿になっていた。

相手を直接斬る事は出来ないだろうけど、弾幕を放つ事は出来るだけマシか。

 

「コレで如何だ!」

「なんの!」

 

俺はフランドールの一撃をかわし、お返しに弾幕を叩き込んだ。

この一撃が効いたのか、あの赤い長剣は突如消滅した。

……スペカ一つ攻略するのに随分と時間が掛かったな。他にもあるのかと考えると気が滅入る。

 

「あ~ぁ、攻略されちゃったか。……それじゃ次のスペカね!」

「……切り替え早いな~」

「二枚目! 禁忌『フォーオブアカインド』!」

 

彼女が二枚目を宣言すると、突如フランドールが四人に分身した。

能力の程はどうなっているのか分からないが、姿形だけは四人とも全く一緒でどれが本物か判断できない。

同じモンスターに同時に襲われるって事はあったが、流石に戦闘中に分身する相手と戦うのは初めてだ。

こう言うのは各個撃破していくのが定石だが、狭いこの空間で流石にそれは厳しいものがあるか。

 

「さぁ」「続きを」「始めようよ」「お兄ちゃん」

「……分かったから、喋るのは誰か一人にしてくれ」

 

四人一斉に喋られなかっただけマシだけど、一区切りづつ喋られるのも変な感じだな。

そんな俺の気持ちなど露知らず、フランドール達は一斉に弾幕を放って来た。

当然の様に全員が俺を狙ってきてるが、四人同時に放って来るから弾幕が厚く感じられると言うか実際に厚いんだし、それでも回避するスペースは残っているだけマシか。

俺はなんとか四人のフランドールの弾幕を回避しつつ、斬撃を飛ばし少しずつダメージを与えて行く。

 

「やるねお兄ちゃん。でも、まだまだこれからだよ」

 

一人のフランドールがそう言うと突然放たれる弾幕のパターンが変わり始めた。

今までのパターンに慣れていたから、突然のパターン変更には流石に驚かされる。

迫り来る弾をギリギリのところで掠めながら、隙をみては斬撃を飛ばして攻勢に出る。

弾幕のパターンが変更されても回避出来ない訳じゃないし、落ち着いて冷静に対処すれば切り抜けられない訳じゃない。

回避を重視しながら攻撃を重ねていくと、チマチマ攻撃していたのが功をそうしたのか、フランドールの分身を一人撃破することが出来た。

倒された分身はそのまま空間に解けるようにして消え去り、俺の目の前から完全に姿を消した。

一人倒した事で弾幕の密度も和らぎ、その隙を狙って俺は一気に攻勢を仕掛け、一気に残りの分身も撃破して見せた。

 

「おぉ! 二枚目もクリアされた!」

「…攻略された割りに楽しそうだな」

「うん! 長い事地下で暮らしてたからこんなに楽しいのは初めて! ……だから、そろそろ本気で行っても良いよネ?」

「ッ?!」

 

フランドールは楽しそうに眼を輝かせるが、その言葉を皮切りに突如として彼女のの雰囲気が変わる。

さっきまで無邪気な感じだったのに、今の彼女からは狂気じみたモノを感じ、その顔にはおぞましい笑みが張り付いていた。

……どうやらさっきまでは只の遊びで、ここからが本番って事のようだ。

元を正せば、この弾幕ごっこも遊びなんだけど、遊びの本番って一体なんだよ。

 

「三枚目。禁忌『カゴメカゴメ』」

 

フランドールが三枚目を宣言すると、俺の周囲を弾幕で囲まれてしまった。

ただ、さっきまでの弾幕とは違ってこの弾幕は周りを囲んだだけで動く気配がない。

随分と変わったスペカだと思っていると、フランドールが別の弾を放ち、弾幕の囲いを崩し始めた。

無数の弾で出来た囲いは、フランドールの放った一発の弾でバラバラになり、不規則に飛び散った。

大量の弾をばら撒く弾幕は経験したが、此処まで不規則に飛び散る弾を見るのは初めてだ。

不規則に飛んでいる分、弾が密集しているところもあれば、大きな隙間が出来ているところもある。

俺はそう言う隙間を瞬時に見つけ出し、ギリギリのところで回避できるスペースを確保しながら、フランドールの弾幕を避け続ける事に専念する。

 

「…上手ク避ケルネ。ナラ、コレハ如何? 禁弾『スターボウブレイク』」

 

この三枚目では倒しきれないと判断したのか、フランドールは三枚目を中断し四枚目を宣言した。

四枚目のスペカは、カラフルな弾を狙いも無くばら撒く感じのものだった。

ばら撒くだけならさっきのと大差ないが、今度の弾は一度に放たれる数も多く、弾速もバラバラだから回避するのが難しい。

極端に速い弾はないけど、今までのと比べて極端に遅い弾がある。

速いのは目が慣れてるから良いけど、あまり遅い弾があると反応に誤差が生じて当たりそうに為ってしまう。

弾の数も多いってのに、速度の緩急にも気を付けないと………って?!

 

「ぐあッ!」

「マズハ一回ダネ。オ兄チャン」

 

速度の緩急についていけなかった俺は、直ぐ傍に迫っていた弾に反応できず喰らってしまった。

頭の中では分かっていたんだが、それに体の動きが付いて来れるかどうかは別問題だ。

一回も被弾せずに勝てるとは思ってなかったけど、あの子の弾幕は俺の予想以上に痛い。

この先もこんな弾幕だとすると、今の姿じゃコレ以上はキツイか。

俺の手元にあるのは『オーラ』のカードしかないけど……仕方が無いな。

若干自棄に為りながらも俺はポケットに入っているスペカを取り出し―――、

 

「基礎『オーラ』!」

 

―――そのカードを宣言した。

スペカを宣言した俺は、足元から立ち上った赤い光に包まれ、光の中で人と竜の中間の姿になる。

この姿を見たフランドールは驚き顕わにしたが、直ぐに嬉しそうに禍々しい笑みを浮かべた。

今まで色んな奴にこの姿を見せてきたが、あんな笑顔を浮かべた奴は初めてだな。

まぁ、個人的には『オーラ』ではなく『カイザー』で戦いたかったが……仕方が無い。

 

「ソレガオ姉様ノ言ッテイタ姿カ……。ウン、ソノ姿デ戦ッタラ物凄ク楽シソウ」

「……戦いを楽しむ感覚は俺には理解出来んのだが、まあ良い。さっさと続きを始めるぞ」

「分カッテルヨ。……禁弾『過去を刻む時計』」

 

フランドールが五枚目を宣言すると、二つの魔法陣が出現した。

その魔法陣は四方向から光を出すと、回転しながら俺に向かって来る。

フランドールはと言うと、俺に向かって扇状に弾幕を張り始めた。

回転している魔法陣は面倒だが、この程度ならさっきの弾幕の方が厄介だったな。

 

だが、『カイザー』と比べて能力は劣っているとは言え『オーラ』も竜の一体。

魔法陣の行動パターンが読めているのなら、この程度の攻撃で落とされやしない。

俺は回転する魔法陣に気を付けつつ、手刀から斬撃の形をした弾幕を叩き込む。

威力や速度は変わっていないが、竜に変身しているお陰で連射性は上がっている。

使えるスペカが一枚しか無い以上、この弾幕で押し切らせてもらう。

 

「……秘弾『そして誰もいなくなるのか?』」

 

俺が弾幕を叩き込んでいると、フランドールは五枚目を捨てて六枚目のスペカを宣言した。

スペカの宣言と同時にアイツの姿が消え、俺の目の前から弾が迫って来た。

それを回避するのは難しくないが、弾の軌道にそって大量の弾が放たれるのが厄介だな。

しかも、最初に出現した奴以外にも同じ様な弾も迫って来る。

 

こう面倒な弾幕は、フランドールを攻撃して黙らせた方が早いんだが、本人の姿が見えない以上この手は使えない。

姉もそうだったが、妹もかなり面倒なスペカを考え付くもんだ。

俺は心の中で悪態を付きつつも、迫って来る弾と辺りに飛び散っている弾の回避に専念する。

その弾を回避していると、今度は上下左右から別の弾が迫って来た。

弾のパターンは何個かあるが、どれも俺を囲い込むように迫って来る。

 

人のままだったら囲いに閉じ込められるが、今の姿なら僅かな隙間を縫って避ける事が出来る。

この弾幕が何時まで続くのか知らないが、弾の軌道させ読み間違えなければ問題ない。

俺は今までと同じ様に、弾幕を避ける事に専念する。

少しの間弾幕を避け続けていると、唐突に周囲の弾幕が消え去り、フランドールが姿を現した。

 

「コレモ避ケ切ルナンテ、オ兄チャンハ凄イネ」

「それはどうも」

「素ッ気無ナイネ。サッキトハ大違イ」

「……あまり意識はしてないんだが、変身するとこうなるみたいだ」

「フ~ン……マァイイヤ。ソレジャ、ラスト行クヨ!」

「嗚呼」

「QED『495年の波紋』」

 

フランドールのラストスペルは、彼方此方に弾の塊を出現させ、それを波紋の様に広げる弾幕。

最初は少なかったが、徐々に波紋の数が多くなり回避するスペースが少なくなって来る。

今はまだいいが、このまま行けば避けれる場所がなくなり詰むのは明白。

フランドールの姿があるから弾幕を叩き込めるが、向こうの弾幕が厄介になる方が先だな。

そう判断した俺は、一枚のスペカを取り出し宣言した。

 

「光線『ドラゴンブレス』」

 

俺がカードを宣言すると、周りの弾幕を吹き飛ばして黒い球体に包まれ……中で黒いトカゲにも似た竜になる。

黒い球体から突き破って出た俺は、背中から空色の羽を伸ばし空中で静止して、正面にいるフランドールに狙いを定める。

その状態で口に力を集束させ……溜まった力をフランドールに向けて一気に撃ち放った。

 

放たれた力は赤い光線となり真っ直ぐ突き進むが、俺の想定していた以上の威力が出てしまっている。

フランドールはコレを回避しようとしたが、間に合わずそのまま飲み込まれていった。

あの子が光線に飲み込まれたのを見て、俺は力を押さえ込み……大惨事に為る前に人の姿に戻った。

無理矢理もとに戻った所為で若干の頭痛はするが、俺自身にそれ以外の変化は見受けられない。

元の姿に戻った俺は、光線に飲み込まれたフランドールの様子を見に彼女の傍に駆け寄る。

倒れる事無く空に浮ぶフランドールは、その服こそ多少焦げ付いているけど、彼女自身には目立った外傷は無かった。

ただ、空中に浮んだまま呆然としてるのが心配だな。

 

「おい、大丈夫か?」

「……………」

「お~い」

「ねぇお兄ちゃん! 今のもう一回やって!!」

「……はい?」

 

声を掛けても返事が無かったと思ったら、突然元気になり『ドラゴンブレス』をもう一度見せてくれと言い出した。

……うん、なんでそんな事を言い出してきたのか俺にも良く分からない。

竜に変身する事以外は、特別珍しい事でもないと思うんだが……あ、だからこそもう一度見たいのか。

 

「ねぇ~もう一回やってよ~」

「あ~……今日は疲れたから勘弁してくれ」

「えぇ~!」

「今度遊びに来た時に別の竜を見せるから、それで我慢してくれ」

「そんなの待ってられないよ」

「なら、フランドールがウチに遊びに来ればいいだろ」

「……行っても良いの?」

 

フランドールは少し不安そうに聞いてくるが、本当に大丈夫なのかこっちの方が不安になってくる。

仮に弾幕ごっこをするにしても、神社と人里に迷惑が掛からない場所に移動すれば良いし、特に問題も無いと思うが……。

霊夢には文句を言われそうだけど、其処は気にしていても仕方が無いか。

 

「幾つか約束を守ってくれればな」

「うん! それで約束って?」

「それはだな―――」

「お~い、リュウ! 大丈夫か~!」

「―――この声は魔理沙か?」

 

声が聞こえた方を振り向くと、魔理沙と何故かボロボロに為っているパチュリーがやって来た。

多分、小悪魔さんがフランドールの事を二人に知らせてくれたんだろ。

……しかし、随分とボロボロにされたなパチュリー。至近距離でマスパでも受けたのか?

 

「ねぇお兄ちゃん。約束ってなに?」

「あ~……それは後で話すよ。今はあの二人と合流しよう」

「は~い!」

 

俺はフランドールの手を取って、二人を合流した。

他の竜を見せるなんて約束をしたけど……色んな意味で大丈夫かな?

 

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