竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第百六十一話 人形の頼み

長かった冬も終わり、季節が移り変わって春になりそうな今日この頃。

少しずつ雪が溶け始めた裏庭を見ながら、そろそろ梅の花が咲きそうだな~っと如何でも良い事を考えていると、珍しく珍客がウチにやって来た。

 

「ん? 上海?」

「こんニチわ」

 

裏庭に姿を現したのは、アリスが創った自立型人形試作機の上海。

普段はアリスの奴と一緒に行動しているから、アイツがいないとまず見る事のない子だけど、今日はおかしな事にアリスの姿がなく、上海一人だけだった。

 

「上海が一人で来るなんて珍しいな。アリスの奴は一緒じゃないのか?」

「リュウ……。お願イ、マスターを助ケテ」

「助けてって、アリスの身に何か遭ったのか?」

「マスターが部屋から出てこないノ。それも一月近ク」

「……なんだ、ただの引き篭もりか」

 

上海が助けを請うから何事かと思えば、アリスが引き篭もったから何とかして欲しいって頼みのようだ。

態々俺に助けを求めるくらいだから大事かと思ったが、この位なら別に大した事なさそうだな。

そんな俺の考えとは裏腹に、上海は抗議するような視線でこっちを見てくる。

 

「リュウ。確かにマスターは出不精だけド、別に引き篭もりじゃなイ。ただ研究に没頭していテ、チャント食事を取らない位に頑張ってるダケ」

「覚えとけ、上海。そう言うのを引き篭もりって言うんだよ」

「マスターはソンナんじゃなイ」

「あ~はいはい。なら、そう言う事にしておく」

「むゥ……」

 

上海は何処か不満そうにしながらも、それ以上抗議してくる事はなかった。

この子からしたらマスターを侮辱された様に聞こえたんだろうが、実際に研究室から出てこないんじゃ引き篭もりって言われても仕方がないだろうに。

……それにしても、あの上海が此処まで流暢に話せるようになるなんて。初めて会った頃からは想像も出来なかったな。

あの頃は人見知りが凄かったと言うか、全く喋らない無口な子だったからな。こうして思い返してみると随分と成長したもんだ。

 

「どうしたノ、リュウ。ナンカ変な顔してル」

「いや、別に大した事じゃないから気にするな。それでアリスの事だけど、アイツは魔法使いなんだし、研究で一月近く篭ってても問題ないだろ。基本的に魔力があれば生きていける種族だし」

「でモ、ココ最近マスターからの魔力供給が少ないノ。今までコンナ事なかったのニ……」

「アリスからの魔力供給が少ない? ……確かにソレは気に為るな」

 

一見すると、この上海は完全に自立しているように見えるが、実際の所はアリスからの魔力供給に依存して行動している。

アリスからの魔力供給が滞れば性能もダウンするし、完全に魔力が尽きてしまうと上海は動かなくなる。

前に術式やらなんやらを見せてもらったが、この辺りの改良はまだ手をつけていない筈だ。

上海の事を大切にしているアリスが供給を減らす理由は無い筈だし、大掛かりな儀式を行うってんなら前もって上海に言うよな。

アイツに限って上海を見捨てる何て事はないと思うし、何らかの理由で魔力供給が滞っているって考えるのが妥当なところか。

 

「……しゃーない。ちょっとアイツの様子でも見に行ってみるか」

「ありがとウ、リュウ」

「礼を言われる程の事じゃねぇよ」

 

大した事じゃないと礼を流しつつ、俺は上海を肩に乗せて一路アリス邸へと向かう。

その道中で引き篭もる前のアリスの様子を聞いてみると、なんでも上海の改良に行き詰ったらしく、息抜きに他の研究に手を出し始めたらしい。

なんで研究の息抜きに研究をするのか理解出来ないが、その研究の内容が既存の人形を巨大化させるというよく分からんモノだから、余計に理解に困る。

研究に行き詰りすぎて頭がおかしく為ったのかもしれない、なんて事を口に出したら上海に頭を小突かれてしまった。

魔力不足な上に人形の身体だから別に大した事無いけど、本当に上海は感情豊かに為ったもんだな。

この上海を制作するのに相談に乗ったりしたから、ついそんな事を思って感慨に浸ってしまう。

 

初めて会ったころの事を思い返しながら空を飛んでいると、森の中に佇むアリス邸に辿り着いた。

森の中は相変わらず茸の胞子が空気中を漂っているが、それは何時もの事でそれ以外にコレと言った変化はない。

森に変化が見られないと為ると、アリスが研究中に何かをやらかしたって考えた方がよさそうだな。

 

―ガチャリ―

「リュウ、鍵開いたヨ」

「それじゃ、お邪魔しますっと」

 

上海に鍵を開けてもらい、久し振りにアリスの家にお邪魔させてもらったが、家の中は思いのほか綺麗に片付いている。

アリスが引き篭もっているから、掃除も滞っているのかと思ったけど意外とそうでもなかった。

恐らく上海が小さな身体で頑張ってるんだろうけど、この家を一人で掃除するのは大変だったろうに。

上海以外に動く気配の無い人形達を見ながらそんな事を思いつつ、俺は家に隣接している塔を昇る。

壁に沿って造られた螺旋階段を上がっていくが、その途中で嗅ぎなれない異臭とかは漂ってこなかった。

魔法薬の実験に失敗したとか、容態が急変して最悪の事態に陥ったとかはなさそうだが、一体研究室でなにをやっているんだ?

 

―コンコンコンコン―

「お~い、アリス~。リュウだけど、今大丈夫か~」

 

いきなり扉を開けて入るのも失礼だし、一応ノックしてみたものの……アリスからの返事はない。

念のためにもう一度ノックをしてみたが、それでも彼女の反応はなかった。

 

「……反応がないみたいだが、中で寝てるのか?」

 

吸血鬼じゃあるまいし、何を真昼間から寝ているんだか。そんな事を思いながら目の前の扉を開けようとしてみたが、鍵でも掛かっているのか扉は微動だにしない。

誰にも邪魔されないように鍵を掛けたんだろうけど、ドアノブの周りには鍵穴と思われるモノはなく、外付けの止め具すらも存在していなかった。

 

「鍵穴がないって、まさか中から鍵を掛けてるのか」

「多分そウ。マスター、研究の邪魔をされないようにって言ってたカラ」

「神経質と言うか、なんと言うか……」

 

研究の為に其処までやるのかと呆れてしまうが、今はアリスの安否確認が先だと頭を切り替える。

俺の目の前には鍵穴が存在しない扉が存在しているが、魔法で補強している様子はなく、扉の材質自体も特殊な物を使っているわけでも無さそうだ。

扉を蹴破って中に入ってしまうのもいいが、それだと後片付けが面倒な事に為りそうだし、別の方法で壊すか。

 

壁と扉の僅かな隙間に目を付けた俺は、その幅よりも薄い魔力剣を作り出し、隙間の中に剣と通してそのまま振り下ろした。

ドアノブの付近で固い何かとぶつかる感触がしたが、特に抵抗もなく、難なく切り裂いてみせる。

鍵を切った事に上海から抗議の視線が注がれるが、一々反応するのも面倒なんで無視する事に。

邪魔な鍵も切り裂き、不要になった魔力剣を消して部屋の中に入ってみると、中は予想外の状況に為っていた。

 

「……なんだこりゃ?」

 

部屋の中は物があちこちに散乱していて、足の踏み場もない……と言うか、下手な事をすると余計に酷い状況に為りそうな気がする。

何を如何すればこうなるのか分からないが、足元に転がっていた丸められた紙を開いてみると、一応は魔法の研究をしていた事が分かる。

紙には魔法の理論と思われる文字が書き込まれているが、丸められて転がっていたところを見ると、この理論はボツにしたんだろうな。

 

「マスターッ!」

「っと、アイツの安否確認に来たんだった。お~い、アリス。生きてるか~」

 

上海の声で此処に来た目的を思い出した俺は、部屋の奥の机に伏しているアリスに声を掛けながら近づく。

扉の前で声を掛けた時と同じく返事はないが、それ以上にアリスの息遣いが全く聞こえてこない。

物凄く嫌な予感がしながらアリスの体を起こしてみると、まるで死んでいるんじゃないのかって位に熟睡していた。

 

「……リュウ、どうしよウ。マスター、起きてくれナイ」

「いや、ただ熟睡してるだけだから大丈夫だろ。……とは言え、流石にこのままにしておく訳にも行かないし、ベットに運んでやるとするか」

 

内心、手間の掛かる奴だと思いながらも、アリスの体を抱き抱えて散らかし放題の部屋を出て行く。

上海は余程アリスの事が心配なのか、彼女から離れようとはせず、傍で声を掛け続ける。

寝てるだけだから心配はないと思うが、念のために永琳を連れて来るべきだろうか? でも、何処か具合が悪そうにも見えないし、とりあえず今日一日様子を見て判断しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

アリスをあの研究室から連れ出してから早三時間。未だにアリスが起きてくる様子はない。

一応、何が遭っても良いように彼女の家で待機させてもらっているが、正直物凄く暇だ。

そう簡単には目も覚めないだろうと思い、先に霊夢の奴には伝えておいたけど、別にアリス邸に残る必要もなかったかもしれないな。

早計過ぎたと若干後悔しながら、アリスの家の台所を借りて、暇潰しに淹れた事のない紅茶を淹れてみる。

どういう風にやるのか全く分からないが、同じお茶なんだし緑茶を同じ様に淹れれば大丈夫だろう。

 

「……よっし、出来た。見た目は普通なんだが、味の方は…………あぁ、うん」

 

初めて自分で淹れた紅茶を飲んでみたが、その出来栄えはなんとも微妙な味だった。

別に不味いわけでもないが、特別美味い訳でもないと言う、凄く評価に困る味。

紅茶を淹れたのは初めてだからって言い訳も出来るが、ならなんで淹れたんだよって自分で思ってしまう。

こんな事なら衣玖を連れて来るべきだった。思わずそんな事を思っていると、家の中から誰かがこっちに来るような足音が聞こえてきた。

 

「あ、こんな所にいたのね」

「よう、アリス。随分と遅い起床だな」

 

やっと目を覚ましたのか、アリスが起きてきたのは良いがまだ若干眠そうにしている。

上海は一緒に降りてきてないが、色々とあって疲れたんだろ。……あれ? 人形って疲れるのか?

 

「久し振りに会うけど、貴方そこで何をしてるの?」

「見ての通り紅茶を淹れたんだよ。アリスも飲むか? 味は保障しないけど」

「保障されない紅茶なんて飲みたくないから遠慮しておくわ」

 

そう言ってアリスは近くの椅子に座り、背もたれに寄りかかりながら背筋を伸ばす。

一月近くも研究室に篭っていた所為なのか、アリスが背筋を伸ばすとバキバキと豪快な音が鳴る。

碌に休みもせずに研究しているからそうなるんだ。思わずそんな言葉が出掛かったが、豪快な音と立てて恥かしそうにしているアリスを見て言うのを止めた。

 

「……ところで上海への魔力供給が滞っていたみたいだが、何か遭ったのか?」

「ぇ、あ、いや、別にコレと言って大した理由は無いわよ。ただ研究のしすぎで魔力不足に陥っちゃったから、上海に送る魔力が不足しただけよ」

「なんだ、そんな理由かよ。あの研究室で死んだように眠っているから、大事でも遭ったのかと思っただろ」

「あら、私の心配でもしてくれたのかしら?」

「まぁな。数少ない友人があんな状態に為ってたら普通心配するだろ」

 

何当たり前のことを聞いてるんだ。そう言葉を続けようとしたが、アリスは驚いた様子で俺の事を見てきたため、言葉が引っ込んでしまった。

 

「……なんだよ、変な事でも言ったか?」

「変ってことはないけど、まさか貴方からそんな言葉が出てくるとは思わなかったからついね」

「おいおい、幾らなんでも友人の心配をしない様な冷血漢でもないぞ」

「確かにそうなんでしょうけど、良く他人を邪険に扱ったりはするわよね」

「アー、オ茶ガ美味イ」

「その紅茶の味は保障しないんじゃなかったかしら?」

 

嫌なところを上手くついてくるが、ここまで人の揚げ足取りが上手いやつだったっけか? 前に会った時はこんなんじゃなかった気がするが、また揚げ足を取られたくないし話題を逸らそう。

 

「そう言えば上海から聞いたが、研究に行き詰ったから別の研究を始めるのは止めた方がいいぞ。気分転換になってないから」

「私もそれは分かってはいるんだけどね。他にする事もなかったのよ」

「それなら上海を連れて何処かに遊びに行くとか、実家に帰省するとかすれば良かっただろ」

「季節は冬だったのよ? 里は崩壊したって噂を聞いたし、他に行く宛も無かったのよ」

「まだ実家が残ってるだろ。偶には親に顔を見せてやれよ」

「久し振りに実家に戻ったらまたお見合いを勧められたわ。……あの人、どれだけ私に結婚してもらいたいのかしら」

 

遠い眼をして呟くアリスの表情はかなり虚ろな物だった。恐らく神崎の奴に鬱陶しいくらいに進められてうんざりしているんだろ。

アイツにも何か思惑がある……とは思えないし、本当にただアリスに身を固めてもらいたいだけなんだろう。でもこの様子だと当分は魔界に帰りたがらないだろうな。

 

「お前の気苦労は察しておくが、あんまり取り合わないようにした方が良いと思うぞ。疲れるだけだし」

「私もそう思って聞き流していたわよ。そしたら今度はお見合いパーティーを開こうとしてきて……」

「……あぁ、うん。お疲れ」

「私は必要ないって言っているのに、人の話を全然聞こうとしないのよ。面白半分でやってるんじゃないかって疑いたくなるわよ」

「流石にそんな事は……ないと言い切れないな。あの性格だと」

「大体母さんは―――」

 

……どうやら俺は踏んではいけない地雷を踏んでしまったらしく、この後二時間ほどアリスの愚痴に延々と付き合わされることになった。

神崎の愚痴に始まって、魔法の研究が上手くいかないだの、里が崩壊して収入が減って買い物もまともに出来ない等を聞かされた。

魔界神の愚痴は相槌を打つだから良いけど、研究や里の崩壊の愚痴は俺に言われもスッゲー困る。

あの神が現れた原因はまだ分かってないし、魔法の研究が上手くいかないのは根つめ過ぎているからだろ。

正直もう帰りたいところだが、流石に今のアリスをこのままにしておく訳にもいかないし、霊夢の奴には今日は遅くなるって言っちまってるからな。帰るに帰れないんだよ……。

 

「里での人形劇は私の数少ない収入源且つ気晴らしなんだから、行えないと凄く困るのよ」

「それだったらボランティアでやれば良いだろ。里の子供達も暇そうにしてたし」

「それじゃ収入がないでしょ。人形の衣装を一着作るのにも色々と必要なのよ」

「……経費削減って事で昔の奴を使いまわせば良いだろ」

「その発想は無かったわ。……今度それで人形劇をやろうかしら」

 

そう言ってアリスは新しい人形劇の草案を考え始めたが、俺は愚痴を二時間も聞かされてドッと疲れが出る。

こう言う事を話す相手がいなかったからか、かなりの鬱憤が堪っていたんだと思うが……聞かされる側はかなり辛い。

話の途中からアリスが何を言っていたのか覚えてないが、これだけ話せば大分スッキリしただろ。

 

「……そういや人形で思い出したけど、人形を巨大化させる魔法って何の意味が有るんだ?」

「別に大した意味はないわよ。ただやれるのかどうか試してみたくなっただけ」

「そんな理由であそこに一ヶ月も篭ったのか? ある意味凄いな」

「それほどの事でもないわ。それに理論を完成させただけで、ちゃんと使えるか試してないもの」

「……家の中で試したら確実にこの家が崩落するだろうな」

「幾らなんでもそんな事しないわよ。魔理沙じゃないんだし」

「それは失礼しましたっと」

 

話が一段落付いたのを見計らって席を立ち上がり、そろそろ帰る事にした。

 

「あら、もう帰るの?」

「嗚呼。アリスも元気に為ったみたいだし、これ以上長いする必要も無いからな」

「そう。……今日は色々とありがとう。お陰でスッキリしたわ」

「そいつは良かったな。上海の奴にも宜しく伝えておいてくれ」

「えぇ分かったわ」

「んじゃ、またな」

 

それだけ言って俺はアリス邸を出て行く。太陽の位置からしてまだ三時ごろだと思うが、この時間から家に帰るのは流石に早い。

とりあえず里によって時間でも潰せばいいが、霊夢の奴俺の分のご飯を用意しててくれるかな? それだけが心配だ。

 




突然ではありますが、次週はちょっと別のモノを書く予定なので、竜幻本編の更新は再来週になります。
一応この小説の外伝的な物になりますが、本編の伏線に為る様な話じゃないです。
なのでスルーしても全然問題はありませんが、読んでくれたら嬉しいなぁ~って。
特に興味のない方は、本編の更新は再来週までお待ち下さい。












えっ? 一体何の話をするのかって? それはある方とのコラボ短編小説だよ。
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