竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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えっ? ゴリアテが出たのは緋想天じゃないだろって? そんな細かい事は気にするな!


第百六十三話 ゴリアテ人形

 

神社が倒壊した為、暫くの間泊まらせて貰えないかとアリスの家がある魔法の森にやって来た。

化け物茸の胞子で住むには適さない場所だけど、泊まらせてくれそうな奴の大半が変な所に住んでるから、そんな細かい事に拘ってられないんだよな。

上白沢さんの家に泊まらせて貰えれば良かったんだけど、交渉しに里に出向いたら爺さん達に捕まって凄く面倒な事になった。

天照の演説の影響がまだ色濃く残ってるようだが、俺を神様に祀り上げるのは止めて貰いたい。

俺はそう言う存在じゃないって言ってるのに、爺さん達こっちの話を全然聞きやしないんだよな。……この恨み、忘れんぞ天照。

 

「……まぁ、そう言う訳だから暫くの間お前ん家に泊まらせてくれ」

「事情は分かったわ。でも、帰って」

「少しは考えてくれもいいだろ……」

 

アリスの家に着いて、さっそく交渉してみたが思いの外難航……と言うか、はっきり断られた。

泊まれないにしても、少しくらいは考えてくれるものだと思っていたが、流石にそれは甘い考えだったか。

それなりに長い付き合いなんだし、もう少し検討してくれても良いじゃねぇか。

 

「考えるも何も、貴方をウチに泊めたら後で霊夢に嫌味を言われるじゃない」

「いや、神社そのものが倒壊したから、泊まるときはアイツも一緒だぞ」

「だったら尚の事泊まらせられないわね。今すぐ回れ右して帰りなさい」

「なんで霊夢も一緒だったら余計に駄目なんだよ……」

「貴方たち二人を同時に泊めるなんて鬱陶しい事この上ないからに決まってるじゃない」

 

わけの分からん理由を突きつけられて流石に頭を抱えたくなる。

別に霊夢とは仲が悪い訳じゃないはずだし、面識が全く無いってわけでもないし……なんでだ?

 

「用件が済んだらさっさと帰ってくれる? 私、これから魔法の実験をするから」

「ま~た部屋に篭るのか。偶には身体を動かさないと身体を壊すぞ」

「今日の実験は外でやるから大丈夫……って、そうだ。丁度いいから少し手伝ってくれないかしら?」

「手伝ったら泊まらせてくれるってんなら―――」

「それは却下で」

「……だったら内容次第だな」

「別に大した事はしないわよ。ただゴリアテの動作確認を手伝って欲しいだけ」

「ごりあて?」

 

 

 

 

 

………

……

 

「それじゃ始めるわよ」

「何時でもどうぞ」

 

半ば押し切られる形で手伝う事になったゴリアテの動作確認実験。

やる内容としては、前に言っていた人形の巨大化魔法の実験らしいんだが、動作を確認するなら標的がいてくれた方が良いとかなんとか。

正直なところ、人形を巨大化させる事に何の意味があるのか聞いてみたいが、本当にそんな魔法が成功するのか興味が湧く。

早く居候先を見つけないといけないんだけど、折角なんで少しだけアリスの実験に協力する事にした。

 

自分の家のまん前でアリスは、双剣を手にした上海と似ているようで何処か違う人形を地面に置くと、少し離れた場所で魔導書と思われる本を読みながら呪文を詠唱し始める。

詠唱が進むに連れて地面に置かれた人形が反応し、まるで鼓動するかの様に人形が揺れる。

次第にその揺れも収まってくると、今度は人形が身に着けている物ごと巨大化していく。

如何いう原理でリボンや服も巨大化するのかと聞きたいが、其処に触れるとややこしい事になりそうな気がする。

また随分と変な魔法を創ったもんだと思いながら観察していると、俺の目の前に全長10mはありそうな巨大な人形が出現した。

 

「はぁ~……。こりゃまた随分とでかくなったもんだ」

「感心している場合じゃないわよ。実験はコレからなんだから」

 

そう言うとアリスは取り出していた魔導書を仕舞い、両手の指に嵌めた指輪から伸びる糸を操り、巨大な人形を操作し始める。

最初は人形の動きを確認するかのように慎重に操作していたが、巨大な人形を動かす事に慣れてきたのか、段々と動きが激しい物に変わっていく。

粗方の動きをチェックしたアリスは、そのまま人形を操り、手に握られている巨大な双剣を俺目掛けて振り下ろして来た。

 

「……おいおい、冗談だろ!?」

 

突然の出来事に驚きながらも、振り下ろして来た巨大な剣を余裕を持って回避する。

身体が大きい分、動作が遅い上に軌道が読みやすいんだが、あの巨体から繰り出される一撃は流石に貰いたくない。

流石に一撃でやられる事はないと思うが、アレだけの巨体となると一撃の威力も凄い事になってそうだ。

 

「おいコラ、アリス! 攻撃動作のチェック始めるなら一言くらい言えよ!」

「あら。何時でもどうぞと言ったのは貴方の方じゃない」

「いや、確かにそうだけども……」

「それにチェックはまだ始まったばっかりよ。気を抜かないで」

「……こんな事なら手伝うんじゃなかった」

 

ちょっと前の自分の浅はかさに後悔しながら、巨大な人形が繰り出してくる攻撃を避ける。

巨体の所為で動きが緩慢だから、避ける事自体は対して難しくないけど、アリスは本気で俺を倒す気でいるのか、避けても直ぐに巨大な人形を移動させて切り掛かって来る。

左右の剣で袈裟と逆袈裟を同時に繰り出してきたり、薙ぎ払うように二つの剣を振り抜いたり、二つの剣を真っ直ぐ振り下ろしたりと色々してくるが、基本的に動きはかなり単調だ。

この巨大人形は上海と違って自我を持っていない上に、操作しているアリスは魔法使いだ。双剣の振るい方なんて熟知している筈もなかった。

 

「くっ……。普段操っている子達と感覚が違うから、動かし辛いわね」

「アリス。剣の振り方が甘いぞ」

「簡単に…言わないでよッ」

 

使い慣れていない巨大な人形に悪戦苦闘しながらも、アリスはなんとか糸を操って攻撃を続けてくる。

しかし、どれだけ頑張って糸を操ろうとも動きが単調な事に変わりはなく、その動きにすっかり慣れてしまった為、回避するのは余りにも容易だった。

ただ回避するだけにも飽きてきて、一体何時まで続ければ良いんだろうかと考え始めた頃、アリスの様子がおかしい事に気がつく。

何故か腕を交差させたまま必至にもがいていて、とてもじゃないが人形を操るような格好には見えない。

この位置からじゃ確かな事はなんも分からないが、あの様子からして糸が絡まっちまったのか?

仮にも人形遣いだし、流石にそれはないと思い直していると、急に人形の攻撃が苛烈なものに変化した。

片方の剣を真っ直ぐに振り下ろし、もう一方の剣を横に振るい薙ぎ払ってくる。

先程までの攻撃と比べて随分と殺気が込められているが、それでもまだ大振りなため回避は楽なもんだ。

 

「おい、アリス! さっきよりも激しい攻撃をしてくるじゃねぇか! なんか怒らせる様な事したか、俺」

「そんなの…知らないわよ! こっちは糸が絡んで……大変なの!」

「……お前人形遣いだろ」

「五月蝿い! 人形遣いでも……失敗するときくらいある!」

「……やれやれ、手間の掛かる友人だ」

 

すっかり巨大な人形に振り回されているアリスに呆れながら、俺は叢雲を取り出して迎撃体勢に入る。

人形は巨大な剣を俺目掛けて振り下ろして来るが、避ける事無くその剣を叢雲で両断した。

斬り裂かれた巨大な刀身は、地面にぶつかると耳を塞ぎたくなる様な轟音と振動を巻き起こし、化け物茸の胞子を巻き上げる。

音と振動が収まると、地面に落ちた鉄の塊が収縮していき、元のサイズへと戻る。

人形の手元を離れて魔法の効果が切れたのか、色々と考察したいところではあるが、今はそんな事をしている場合じゃない。

剣を一つ両断したと言っても、巨大な人形の手にはもう一つの剣が残っている。

人形は壊れた剣を手放し、無事な方の剣を両手で確りと握り締め、勢いよく振り下ろして来る。

糸に引き摺られているアリスは、その勢いに揺さぶられて、糸に繋がったまま投げ飛ばされそうな勢いで振り回される。

普通の人間じゃ、直撃すれば抵抗できずに押し潰されてしまいそうな一撃だが、叢雲を手にした今の俺にその程度の攻撃など効きやしない。

 

「……学習しないってのは、成長できない人形らしいところだな」

 

小さな声でそう呟きながら、俺は勢い良く振り下ろされた剣を難なく両断した。

斬り落とされた刀身は、先に斬った剣同様に小さく収縮していき、元のサイズへと戻る。

これでこの人形が装備していた武器は全て破壊したが、武器を斬られようとも人形の攻撃が止む事はなく、壊れた武器を捨てて今度は殴り掛かって来た。

 

「この……止まりなさいって、きゃあッ!?」

 

完全にアリスの制御を離れているのか、どんなに制御しようとしても操れず、人形は暴れ続ける。

攻撃方法が変わったといっても、攻撃速度自体が変化したわけでもなく、回避するのが容易である事に変わりはない。

けれども、俺が回避し続ける事で地面に大きな穴が空き、地面を殴った衝撃で化け物茸の胞子が舞い上がる。

別にこの程度なら大した影響が出るわけじゃないが、このまま暴走させ続けているとアリスの家が壊れてしまう。

暴走を止めるだけでいいなら、結界を張って魔法効果全部を無効にすればいいけど、アレは効果範囲に入っている魔法を無効にするから上海も危険に晒す事になるな。

いっその事、人形の手足を切り落として、首を跳ね飛ばせば楽で良いんだけど、流石にそれをやると後でアリスが怒るか。

アリスが怒るとは言っても、このまま何もしないで凌いでいる訳にもいかないな。

 

「アリス! ちょっと強引な方法を取るから覚悟しとけ!」

「ゴリアテを…破壊するつもりなら、許さない…から!」

「あ~……そんなんじゃないから安心しろ」

「イマイチ…信用できない……わよ!」

「あっそう。だったら、大事な人形が壊れないように祈ってろ!」

 

アリスに向かってそう叫んだ俺は、避け続けるのをやめ、一気に攻勢に転じて前に出る。

人形は俺が前にでも驚きもせず拳を振り下ろして来るが、俺に取ってはそちらの方が好都合だ。

俺は振り下ろして来た拳の上に飛び乗り、そのまま腕の上を駆け上がって肩の上から跳び降りた。

人形の背中にはアリスがぶら下がっていて、彼女と人形の間には太陽光に反射して微かに光る糸が確認できる。

俺を追撃しようと巨体を動かす人形に引き摺られて、アリスの身体が人形から離れた僅かな隙を突いて、間に伸びる糸を全て斬り裂いた。

 

「キャアッ!?」

 

アリスは糸を切られたことでバランスを崩し、地面へと落下しそうになるが、直ぐに体勢を立て直して宙に浮ぶ。

巨大人形は糸を切られても攻撃しようとするが、次第に動きが鈍っていき、最終的には拳を振り上げたところで動きが完全に止まり、元のサイズに戻った。

もしかしたら、糸とは関係なしに動いているのかと思ったが、別にそんな事はなかったみたいだな。

 

「……いよっと。まぁ、こんなところかな」

 

地面に降り立ち、周囲の状況を確認してみたが、其処まで悲惨な状況にはなっていなかった。

アリスの家の周囲に大きな穴が幾つか空いてしまったが、この程度なら魔法で如何とでも出来る。

化け物茸の胞子が巻き上がっているけど、視界が悪いだけで吸い込んだところで害は無いか。

 

「おい、アリス。大丈夫か?」

「えぇ、一応ね。……それにしても、まさかあんな方法を取るなんて思わなかったわ」

「お前が糸を操っていないとしても、アリスの魔力で動いているのは間違いないんだ。ならその供給を断ってしまえば良いだけの事だろ?」

「別に私の魔力は糸で供給している訳じゃないけど、まぁいいわ。助かったのは事実だし」

「……さいですか」

 

イマイチ感謝されてるのか分からないが、その辺りの事は余り考えないようにしよう。疲れるだけだし。

予定外の戦闘に溜息を零していると、アリスは胞子の霧の中を掻き分けて、先程まで暴走していた人形を抱き上げて調べ始める。

 

「……身体は特に問題ないはずだから、やっぱり術式の方に問題があったのかしら? それとも別の要因?」

「その辺りは勝手に調べてくれ。流石にこれ以上此処に留まってられないし、俺はもう行くぞ」

「えぇ、分かったわ。……やっぱり、術を開発している片手間で作ったのがいけなかったのかしら」

「……………」

 

こんな空気の悪いところで考え事なんて止めろと言いたくなったが、流石にこれ以上は付き合いきれない。

俺は胞子の霧を突き抜けて空へと飛び上がり、周囲を見渡してドッチ方面に飛ぶか頭を捻る。

他に泊めてくれそうな場所となると、永遠亭か紅魔館のどちらかだが……面倒がなさそうなのは永遠亭かな。

旋那の所で厄介になるってのも考えたが、あの辺りに住む神々と揉めそうだと言う理由で考えを改めた。

行き先も決まったし、早いところ輝夜を見つけて寝床を確保するとしよう。

そう思い、永遠亭のある竹林に飛んで行こうとしたその時、音もなく俺の目の前に咲夜が現れた。

 

「うおッ!? さ、咲夜か。ったく、能力を使って現れるの止めろよな。結構心臓に悪いぞ」

「神様も平気で殺す貴方の心臓がこの程度で止まる筈ないでしょ。それよりも、お嬢様が貴方を呼んでいるわ。一緒に来なさい」

「面倒だからパス」

「貴方に拒否権なんてないわ。強制連行するだけよ」

 

相変わらずの忠犬ぷりに感心してしまうが、予想通り紅魔館の連中じゃ面倒な事になったか。全く、今度はどんな我が侭に振り回されるのやら。

そんな風に現実逃避しながら、無駄な抵抗はせず大人しくしていると辺りの風景は一変し、灯りの乏しい暗い部屋の中に放り出されていた。

暴れないようにする為なのか、身体には太い鎖が巻きつけられていて、まるで囚人か何かになった気分だ。

憂鬱な気分になり思わず溜息を零すと、何の前触れもなくいきなり部屋の明かりが一斉に点いた。

 

「いらっしゃい、容疑者Aさん。それじゃさっそく、楽しい楽しい尋問を始めましょうか」

「……お前は一体何を言っているんだ?」

 

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