竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第百六十四話 紅い屋敷の迷探偵

 

「いらっしゃい、容疑者Aさん。それじゃさっそく、楽しい楽しい尋問を始めましょうか」

「……お前は一体何を言っているんだ?」

 

咲夜に拉致られた俺は、そのまま有無を言わさずにレミリアの元にまで連れてかれた。

レミリアが待っていた場所は何故か客間ではなく、以前にも戦った事のある大広間。

其処には不釣合いな豪華な椅子に腰掛け、レミリアは何時もの様に偉そうな態度で俺の事を見下ろしてくる。

他人に見下ろされるのは性に合わないが、景色が変わったと思った時には既に鎖で縛られて転がされていたからな。……此処まで厳重に縛るなよな、抜け出せないだろ。

 

「お嬢様、容疑者をお連れしました」

「ご苦労様。貴女はもう下がって良いわ」

「畏まりました」

 

レミリアに下がる様に命じられた咲夜は、礼儀正しく一礼をすると、音も無く忽然と姿を消した。

大広間には俺とレミリアの二人だけが残されるが、いきなり容疑者扱いされるとは思わなかったな。

何の容疑が掛けられているのか知らないけど、八割方レミリアの暇潰しなんだろうと思うと正直やってられない。

早く泊まらせてくれる家を捜さないといけないのに、こんな所でコイツの遊びに付き合っていられるか。

 

「あ~……レミリア。悪いけど俺忙しいから、もう帰りたいんだが」

「……待ちなさい、容疑者A。取調べはまだ終わってないわよ」

「だから取調べってなんだよ」

「此処最近の異変に決まってるじゃない」

「異変ねぇ……」

 

うんざりしながらも、レミリアの話を聞くため鎖に縛られたままの状態で身体を起こす。

 

「此処最近の異変ってのが、局所的に発生している異常気象の事なら別にお前が気にする事じゃないだろ。あんなのほっときゃ勝手に収まる」

「そうは思えないから私が調べているのよ。まぁ、犯人が素直に話すとは思っていないから、大人しく私の取り調べを受けなさい。素直に吐けば痛い思いをしなくて済むわ」

「痛い思いって……それは取り調べじゃなくてただの拷問だろ」

「あら? 情報を吐くのならどちらでも同じじゃないかしら?」

「……確かに情報を得ると言う意味では同じだが、その二つを一緒くたにするな」

 

少々きつめに言って暴言を吐いて来たレミリアを睨むが、本人は睨まれても臆する様子も無く至って平然としている。

この程度の事で臆するとは思ってないが、多少は動揺すると思っていたんだけどな。

500年程度しか生きていないとは言え、流石にこの程度の事ではアイツを脅すのは無理か。

 

「それじゃ早速だけど、此処最近起こっている天候の変化。あの現象は貴方の仕業かしら?」

「なんで俺がそんな面倒な事をしないといけないんだ。如何考えても他の奴の仕業だろ」

「私の記憶が確かなら、貴方は天候を操る武器を持っていたわよね? それを使えば出来ない事でもないわ」

「俺が叢雲を使って天候を捻じ曲げてるとでも? 馬鹿を言うな、そんな事をしたら天照の奴に文句言われるっての」

「でも、貴方の武器ならそれが出来る。……と言う訳で、リュウを犯人と決め付けて断罪するわ。さぁ、泣いて許しを請うが良いわ」

 

人の話を聞かず、俺を犯人と決め付けたレミリアは、椅子から降りると猛スピードで突撃して来る。

 

「ったく、相変わらず人の話を聞かねぇな!!」

 

俺は叢雲を宙に呼び出して、落ちてくる叢雲に身体を縛る鎖を断ち切らせる。

そして即座に床に突き刺さった叢雲を引き抜き、真っ直ぐ向かって来るレミリアに合わせて叢雲を振り下ろそうとするが、背後から現われた赤い鎖が腕に巻きついて動きを止められてしまう。

鎖の抵抗など意にも返さず、力付くで叢雲を振り下ろそうとするが、レミリアに間合いを詰められてしまい彼女の爪の餌食となる。

赤く伸びた爪に二・三度切り付けられ、胸部から鋭い痛み伝わりが全身を駆け巡る。

俺は鋭い痛みに耐えながらも叢雲を振り下ろし、張り付いてうっとおしい吸血鬼を遠くに斬り飛ばす。

レミリアは簡単に吹き飛ばされるが、当たる瞬間に後ろに跳ぶことでダメージを少しは軽減していた。

後方へと吹き飛んでいったレミリアは、俺と10m以上離れたところで漸く地面へと着地して体勢を立て直した。

何度か戦った事があるからか、俺の攻撃の対処法をある程度は学習しているようだ。

だが、後ろに跳んでダメージを幾ら軽減しようとも、一撃の威力が高い俺には余り関係のない事だ。

 

「私が人の話を聞かないのなら、貴方は相変わらず莫迦みたいな攻撃力してるわね」

「お前の防御力が低すぎるだけだろ。どんなに速くても紙装甲じゃ直ぐに落ちるぞ」

「別に低くは無いと思うだけど……まぁいいわ」

 

呆れたように一言呟くと、レミリアは何処からとも無く一枚のスペカを取り出した。

 

「運命『ミゼラルブルフェイト』」

 

レミリアがカードを宣言すると、彼女の周囲から赤い鎖が幾つも現われ、俺に向かって飛んで来る。

俺は迫り来る無数の鎖の間を通り抜け、レミリアへと向かって一気に駆け出して行く。

あと少しで俺の間合いに入ると言う距離まで詰めた時、後方から避けた筈の鎖が直ぐ其処にまで迫って来ていた。

このままでは鎖に捕らえられると判断した俺は、その場で直ぐに反転し、迫り来る鎖を叢雲の薙ぎ払いで一掃する。

叢雲の一撃で斬り裂かれた鎖は、赤い魔力の霧となって霧散して消滅し、後顧の憂いを綺麗に断ち切った。

 

「必殺『ハートブレイク』」

 

背後からレミリアが宣言する声が聞こえたかと思うと、赤い槍が俺の身体を一瞬にして貫いた。

貫かれた時の衝撃で急に呼吸が止まってしまい、俺は身体のバランスを崩して倒れてしまいそうになる。

倒れそうになるのを気力を振り絞って踏み止まるが、体勢を崩して出来てしまった隙まではカバーする事は出来なかった。

俺はなんとかしてレミリアの方を振り向くが、彼女は既に俺との間合いを詰めていて、爪に渾身の力を込めて振り被っていた。

 

「……悪魔『レミリアストレッチ』」

 

その名前はどうなんだとツッコミを入れたくなったが、俺は言葉を発する間もなく渾身の力が込められた爪に薙ぎ払われ、後方へと吹き飛ばされてしまう。

余りの威力に意識が飛びそうになるが、吹き飛ばされて地面と激突した時の衝撃のお陰で、なんとか意識を失わずに済んだ。

俺は全身から伝わる痛みを無視して立ち上がり、叢雲を構えてレミリアを真っ直ぐ見据えた。

 

「ったく、なんた今の技。普段のお前らしくない感じの技だったぞ」

「私も貴方の真似をして力押しを試しただけよ。でも、エレガントさに欠けるから余り好みじゃないわ」

「……技にエレガントさって必要なのか?」

「必要よ。弾幕ごっこは美しさを競う勝負でもあるのだから」

「そういやそんなルールもあったな。すっかり忘れてた」

 

美しさとかには無縁の生活を送っているから、余りその辺りのルールは気に掛けてこなかった。

そう言うのは柄じゃないと言うのもあるが、見た目を気にするよりも力で圧倒した方が早いというのが俺の考えだ。

敵を打ち倒してばかりの生活を送っていた弊害だが、この戦い方を続けて周りに文句を言われた事もないし、今更戦い方を変える気も無い。

 

「まぁ、そんな事は如何だって良いか。今はただ、目の前に居る敵を打ち倒すだけだ」

 

俺は息を整えてから握った叢雲を握り直し、そのまま何も言わずレミリアに向けて斬撃型の弾を飛ばす。

レミリアは斬撃を迎撃しようとはせず、後ろの壁に張り付いて躰し、そのまま俺に向かって突撃して来る。

俺は突撃してくるレミリアにもう一度斬撃を飛ばし、真正面から突撃してくる彼女を撃ち落とした。

落とされたレミリアは直ぐに体勢を立て直し、手の中に赤い槍を作りだして俺に向かって投げて来る。

その槍を叢雲の一閃で薙ぎ払い、そのまま全力疾走してレミリアとの間合いを一気に詰める。

レミリアは俺が駆け出すのに合わせて空に飛び上がり、俺の頭上を飛び越える事で疾走をやり過ごそうとするが、俺は走り抜けずに自分の間合い一歩手前で立ち止まる。

彼女に取っては俺の行動は予想外だったのか、レミリアは空中で僅かな隙を作ってしまう。

俺はその隙を見逃さず、素早く踏み込む事で彼女を自分の間合いに入れ、渾身の力を込めて叢雲を突き出しレミリアを穿つ。

 

「カハ……」

 

叢雲を突き込まれた事で、レミリアは肺の中の空気を吐き出し、くの字になって空中に浮き上がる。

俺は素早く剣を引いて上段に振り被り、勢いよく振り下ろしてレミリアを地面に叩き伏せる。

地面に叩き付けられたレミリアは、衝撃で身体を跳ね上がらせるが、其処を狙って叢雲を横に振るいレミリアを薙ぎ飛ばす。

飛ばされたレミリアは直ぐに体勢を立て直すが、俺は一瞬にして間合いを詰めて彼女の身体を十字に斬り、そのまま走り抜けた。

そして直ぐに反転した勢いを乗せて叢雲を振るうが、レミリアに刃を掴まれて受け止めらてしまった。

 

「……さっきまで優位だったのに、一瞬にして此処まで追い込まれるなんてね。流石の私でも其処までは読めなかったわ」

「俺の攻撃の対策は立ててたみたいだが、初めて叩き込まれる連携には対処出来ないだろ」

「えぇ、全く持ってその通りだわ。前と同じパターンなら完封も出来たものを……」

 

レミリアは残念そうに呟くものの、まだ勝利を捨てた心算も無いらしく、叢雲を離そうとはしない。

俺は叢雲を引いて振り解こうとするが、小さな手で力一杯掴んでいるのか振り解く事が出来なかった。

 

「おいコラ、さっさと離せ吸血鬼。俺はこんな戦いを早く終わらせたいんだ」

「お終いにしたい気持ちは私も一緒よ。……当然、私の勝ちと言う形でね」

 

そう言うとレミリアは、剣を掴んでいない方の手の中に、一枚のスペカを何処からとも無く取り出してきた。

アイツが取り出したカードは、この状態からでも使用できる物だと言う事は容易に想像ができる。

だが、片手が塞がっているこの状況で、俺から逆転できる技なんて持っているのか?

 

「さぁ、喰らいなさい。紅魔『スカーレットデビル』」

 

レミリアがカードを宣言した瞬間、足元から紅い光の奔流が立ち昇り、その流れに飲み込まれてしまう。

光の奔流に飲み込まれた俺は、立ち昇る流れに逆らう事ができず、そのまま空へと弾き飛ばされた。

俺は空中で体勢を立て直すことが出来ず、地面へと叩きつけられてしまうが、まだ意識を失ってはいない。

その事にはレミリアも気付いているらしく、視界の隅で俺に止めを刺そうと、爪に力を込めて振り被っている。

起き上がるよりも先に爪を振り下ろされると判断した俺は、起き上がることはせずに手を地面に当てて力を解き放つ。

 

地破土(ジハード)!」

 

力を解き放つと、レミリアの足元の地面だけがせり上がり、一本の石柱が大広間に出現する。

難を逃れた俺は直ぐに立ち上がると、石柱が下の方から亀裂が走り、一気に崩壊を始めた。

石柱が崩落を始めると、地面に持ち上げられていたレミリアも一緒になって落下してくる。

翼を持つレミリアは、空を飛ぶ事で瓦礫の中から抜け出し、地面との激突を回避してみせた。

俺はこの隙に叢雲を握り直し、手の中に一枚のスペカを取り出して宣言する。

 

「竜剣『ドラゴンブレード』!」

 

宣言と同時に剣に力を込めて光の刃を形成し、真っ直ぐ空を飛んでいるレミリアへと振り下ろす。

振り下ろした刃は広間の壁を傷つけながら、飛んでいるレミリアを地面へと斬り伏せた。

刃を地面にまで振り下ろすと、巻き起こった風で粉塵が広間中に舞い散り、視界が埃に覆われて見えなくなってしまう。

俺は叢雲に刃を解除しながら二度ほど振るい、邪魔な埃を切り払って視界を確保する。

最後の方で俺が派手な事を仕出かしたと言う事もあって、綺麗だった大広間はまた無残な姿に為ってしまっていた。

この屋敷は何度改修されれば気が済むのかと、思いっきり他人事の様に思いつつ、俺は倒れ伏せているレミリアの様子を見に行く。

瓦礫の中に倒れているレミリアは、埃まみれになっていて服も所々破けているが、呼吸は確りとしていてコレと言った大事はなさそうだ。

 

「おい、レミリア聞こえるか?」

「……う、うぅ……。リュウ、あなたははんにんなんだから、おとなしくまけなさいよ」

「お前の思い込みで犯人に仕立て上げられて堪るか。天候の事はその内霊夢がなんとかするだろうから、それまで気長に待ってろ」

「ほんと、いつになることだか……」

 

最後の気力を振り絞ったのか、レミリアが弱々しく呟くとそのまま気絶した。

俺はレミリアを抱き抱えて、咲夜にでも預けようかとも思ったが……前にソレをやって酷い目に遭った事を思い出す。

あの時と同じ哲を踏みたくはないが、このまま黙って紅魔館を去るのも後味が悪い。

色々と考えた俺は、レミリアをこのまま大広間に残し、屋敷の何処かに居る咲夜に全部押し付ける事にした。

何時までも此処で油を売っている訳にも行かないし、早いところ泊まらせてくれる家を捜しに行かないと。

レミリアの勝手な思い込みで無駄な時間を過ごしたが、当初の予定通り永遠亭の方にでも顔を出してみるか。

 




しっかし、何度見てもレミリアのスペカ名って独特だよな。《レミリアストレッチ》って。
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