竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第百六十五話 晴嵐の赤眼

 

咲夜にレミリアの押し付けが成功した俺は、彼女に追い掛け回される前に屋敷を出て、次の目的地である『迷いの竹林』へと向かった。

紅魔から竹林はまでの距離が結構あり、俺が竹林に辿り着いたときには日が暮れて夕方になってしまっていた。

此処で輝夜からの了承を得ないと、泊まる所を得られず、今夜は野宿する破目に為ってしまう。

俺は旅をしていたから野宿には慣れているが、霊夢にそんな経験はないだろうし、アイツに野宿なんてさせたくもない。

今回は土下座する覚悟で交渉に入ろう、そう思いながら竹林を歩いていると、何故か辺りから霞の様なものが立ち込め始めた。

でも、本来の霞っての言うは春の昼間、遠方の山に掛かる帯状の雲の様に見えるものの事だ。

夏にも同じ様な現象は見られるけど、アレも山に出来るものだから竹林に発生する筈がない。

恐らくはレミリアの奴が言っていた異常気象なんだろうが、この現象は異常気象の一言で纏めて良いものなのか?

 

「気象の一つとして捉えるなら間違ってないけど、霧の様な靄が立ち込めてるだけだからな。本来なら発生しないって事を考えると、異常気象と言えば異常気象なのか」

 

いっその事、叢雲でこの霞を斬り払ってしまおうか等と考えていると、竹の根元で何かを探しているウサミミ少女を見つけた。

あの子は確か……永遠亭に住んでいるウサ耳二号だったか? 未だに名前を知らないから、如何呼べば良いのか分からないんだよな。

……まぁ、ちゃんと名前が分かっていても呼んでいない奴も居るし、余り気にする事でもないだろ。

そんな事を思いつつ、俺は彼女に近付いて声を掛けてみる事にした。

 

「ウサ耳二号、ちょっと良いか」

「だ、誰がウサ耳二号よ……って、あなたはリュウ? こんな時間に竹林で何してるの」

「輝夜に頼み事があってな。アイツは屋敷に居るのか」

「姫様なら出かけてたと思うけど、戦闘音も止んだし、そろそろ帰ってくるんじゃないかな?」

「戦闘音って……アイツ等、また喧嘩してたのかよ」

 

相変わらず飽きもせずに喧嘩ばかりしている二人に、俺は思わず呆れてしまい盛大な溜息を吐く。

仲良く出来ないのは知ってるけど、もう少し周りに迷惑が掛からない方法で喧嘩しろよな。

 

「それよりもリュウ。いい加減、私の事変なあだ名で呼ぶの止めてもらいたいんだけど」

「んな事言われたって、俺はお前の名前を知らないんだぞ」

「……何度も永遠亭に遊びに来てるのに、未だに名前を知らないって如何言う事なの……」

「別に知らなくても特に困らなかったからな」

「私はものすんごく困るの!! ……いい、私の名前は『鈴仙・優曇華院・イナバ』よ。ちゃんと覚えて」

「……長いからうどんで良いか」

「良くなーい!!!」

 

新しく付けたあだ名が気に入らないのか、うどんは指を俺に向けて座薬の様な弾丸を放ってきた。

俺は反射的に叢雲を取り出し、放たれた弾丸を真っ二つに斬り捨てた。

真っ二つに斬られた弾丸は俺の横を通り過ぎ、そのまま周囲に生えている竹と激突した。

 

「おいコラ、いきなり何をするんだうどん」

「だからうどんって言うなー!!」

 

うどんは俺の話しを聞こうともせず、指から弾幕を放って攻撃して来た。

俺は後ろに後退しながら邪魔な弾幕を斬り払い、オマケで斬撃も飛ばしてうどんに反撃する。

放たれた斬撃は周りの竹を斬り捨てながら進んで行くが、うどんはその場で跳躍する事で斬撃を躱し、直撃する事はなかった。

だが、避けた代わりに切り倒された竹が頭に直撃し、うどんは地面へと叩き落とされる。

当たった竹がよほど痛かったのか、うどんは頭を押さえてその場で蹲り、痛みに堪えている姿が見えた。

 

「あ~……大丈夫か?」

「し、心配するならこんな攻撃を仕掛けないでよ」

「いや、今のは只の偶然だからな」

 

本当の事を告げたのだが、うどんは納得する事が出来ないのか、恨めしそうに俺の事を睨んでくる。

 

「うぅ~……。こうなったら、師匠が作ったあの薬を試すしかないわね」

「あの薬?」

 

何かを決意したうどんが突然立ち上がると、スカートのポケットから緑色の液体が入った小瓶を取り出してきた。

恐らくアレが永琳が創ったと言う薬なんだろうが、彼女が創ったって時点で余り信用出来ないのは何故なんだろう。

見た目からして体に悪そうな色しているが、うどんは若干躊躇しながらも緑色の液体を一気に飲み干す。

液体を飲み干すと、赤かったうどんの眼は更に赤みを増し、足元から赤いオーラの様なものを立ち昇った。

 

うどんは空になった小瓶を地面に投げ捨てると、何を考えているのか突然俺に殴り掛かって来た。

俺は呆れながらも剣を振るい、遠くへと斬り飛ばそうとするが、意外にもうどんは俺の攻撃を華奢な両手で受け止めてしまう。

思い掛けない出来事に驚き、攻撃の手をやめてしまった俺は、そのままうどんに数発の打撃を貰ってしまった。

筋肉が付いているとは思えない位に細い腕だが、繰り出してきた打撃の一撃は鋭く、思ったよりもダメージを受けてしまう。

だが、所詮は華奢な腕で繰り出された打撃、俺を倒すには余りにも威力が足りなさ過ぎる。

俺は無理やり剣を振るい、接近してきたうどんの胴を薙ぐ要領で遠くへと吹き飛ばす。

飛ばされたうどんは脇腹の辺りを押さえるが、あの薬の影響で防御力も上がっているのか、多少痛がる程度で倒れたりはしなかった。

 

「つ~~~ッ。師匠の薬を飲んだって言うのにこの威力、幾らなんでもおかしいって」

「そう言われてもな。俺が本気で斬り付けてたら、今頃お前死んでるぞ」

「さらっと恐いこと言わないでよ! ……仕方が無いわね、続けてもう一本飲むしかないか」

 

そう言ってうどんは同じ薬をもう一本取り出して、今度も一気に飲み干してしまった。

見るからにやばそうな薬だが、連続で服用しても彼女の身体に変化がない所を見ると、二本程度なら特に問題は無いんだろう。

何本飲んだら不味いのか知らないけど、最悪の場合は無理矢理にでも吐き出させるしかないかな。

そんな事を頭の片隅で考えながら、俺は叢雲を構え直し、うどんが如何出ても良いように警戒する。

薬を飲んで一息ついたうどんは、俺に向かって指から弾丸を放ち、攻撃を再開してきた。

さっきのとは違い、ゆっくりと進む弾丸を避けようとすると、離れた所にいる筈のうどんが突如として俺の目の前に現われた。

 

「ッ?!」

 

驚いた俺は慌てて斬り掛かるが、叢雲からは何かを斬り付けたような手応えはなく、空しくも何も無い空を斬っただけだった。

其処で俺はやっとうどんの能力を思い出し、あの赤い眼を見た所為で幻覚を見たのだと理解した。

目の前に現われた幻覚が忽然と姿を消すと、ゆっくり進んでいた弾丸が直ぐ其処にまで迫って来ていた。

俺は咄嗟に後ろに後退しながら、直ぐ其処にまで迫っていた弾丸を斬り払い、うどんの弾丸を掻き消す。

そして直ぐに斬撃を飛ばそうと叢雲を構えるが、さっきまでいた場所にうどんの姿は無く、周囲からも気配を感じる事はできない。

細い竹が生い茂るこの竹林で、人間の少女と同じ体格の兎が姿を隠せる訳もないのだが、彼女の眼を見た所為で色々と感覚が狂っているんだろ。

周囲を幾ら探しても見つける事の出来なかった俺は、叢雲を下段に構えてその場で瞑目して佇む事にした。

眼を閉じた事で視覚からの情報は一切入ってこなくなったが、その代わり意識を聴覚と触覚に傾けて研ぎ澄ませる。

動く事無くジッとしていると、耳には何かが風を切る音が届き、服越しの肌には硬い石の様なものがぶつかるのが伝わる。

肌に伝わる石の様なものは一つではなく、二つ・三つと何かがぶつかるが眼を開ける事だけはしない。

叢雲を下段に構えたまま意識を研ぎ澄ませていると、誰かが地面を蹴って俺の傍にまで近付いてきた音を聞いた。

俺はその音を聴いたと同時に、閉じていた眼を開き、叢雲を渾身の力を込めて下段から振り上げ、近付いてきた奴一気に斬り上げた。

 

「な……」

 

斬り上げた相手が誰なのか確認してみると、空中には驚愕の表情をしているうどんの姿があった。

だが、あの薬の効力の所為か、思ったよりもうどんにダメージを与えられなかった様だ。

魔理沙辺りなら昏倒してもおかしくない一撃だが、思ったよりもあの薬の効力は厄介な物みたいだ。

本当ならこのまま落ちてきたところを狙うが、うどんは空中で体勢を立て直して後ろに下がってしまう。

あのまま落ちてくれれば楽だったんだが、逃げられてしまっては仕方が無い。

目論見どおりに行かなかった事に肩を落とすが、直ぐに気を取り直して俺は叢雲を構え直した。

後ろに距離を取り、地面に着地したうどんは信じられないモノを見る様な眼で俺を見てきた。

 

「私の能力で視界が変に為ってる筈なのに、如何してあなたは攻撃を当てられるの」

「……確かにお前の能力で視界はおかしくなってる。今もちゃんと距離を測れているのか怪しいしな。…でも、おかしく為っているのは視覚だけで、他の五感は正常なままだ。なら、残りの部分を頼りにすればなんとかなるだろ」

「い、言っている意味は分からなくもないけど、普通実戦でいきなり試したりする?」

「あ~……眼が使えなくなるのは今回が初めてじゃないし、前にも眼が見えないまま戦ってたりしてたからな」

「最終的には慣れですか?! と言うか、あなたは今まで何処でどんな戦いをしてきたの!?」

「あんまり聞かない方が良いぞ。俺も相当長い事戦い続けてきたから、全部は覚えてないんだよ」

「ど、どちらにせよ、歴戦の勇士なのは間違いないみたいね」

「……別にそんなかっこいい者でもないさ」

 

思い出せる限りの過去を思い出してしまい、思わず愁いを帯びた笑みを浮かべてしまう。

うどんは心配そうな顔でこっちを見てくるが、俺が叢雲を握りなおすと、慌てた様子でポケットからまた同じ薬を取り出し、また一気に飲み干してしまう

これで三本も同じ薬を飲んだ事に為るが、コレと言って体に変化は見られないし、もしかしたら俺の杞憂だったのかもしれないな。

頭の片隅でそう思い安堵していると、うどんはもう一本同じ小瓶を取り出して飲もうとする。

 

「おいおい、それ四本目だろ。そんなに飲んで大丈夫なのか?」

「師匠は何も言ってなかったからきっと大丈夫よ。……まぁ、これが最後の一本なんだけどね」

「其処までして俺に勝とうとしなくても良いだろう」

「……あなたに勝たないと、私の事一生うどんって呼び続ける心算でしょ」

「そりゃもちろん。……そんなに気に入らないか、この呼び名」

「気に入るわけ無いじゃない! あなたに勝って呼び方を変えさせるんだから!!」

 

そう意気込んだうどんは、小瓶の口を開けて中の液体を一気に飲み干した瞬間、何故か彼女の身体から轟音と共に緑色の閃光が弾けた。

何かが爆発したような轟音が辺りに響き渡り、うどんの身体から弾けた緑の閃光は衝撃波を巻き起こし、足元の地面を軽く吹き飛ばした。

 

「……はい?」

 

俺は距離が離れていたから何も被害は無いが、余りにも突然の出来事に素っ頓狂な声を出す事しか出来なかった。

なんで薬を飲んで爆発したのかも分からないし、永琳の奴は如何して自分の弟子にあんな危険な薬を渡したのかも分からない。

色々とわけの分からない事ばかりだが、地面に倒れ伏せているうどんの様子を見てみる事にした。

また爆発をしたら嫌だから、少し距離を取った場所で様子を見てみるが、うどんにコレと言った外傷はなく、ただ気絶しているだけにも見える。

念のために落ちていた竹の枝で突いてみるが、いきなり起き上がってくる事も、まして突然爆発する事も無くうどんは眼を回していた。

 

「本当に気絶してるだけみたいだが、あの薬は一体なんだったんだ?」

 

俺は傍に転がっていた空の瓶を手に取るが、表面に『国士無双の薬』と書かれたシールが張られているだけで、それ以外の事は何も分からなかった。

薬の名前を考えれば、能力強化系の薬だとは直ぐに分かるんだが、それで爆発する理由が分からない。

昔旅をした世界にも強化系のアイテムは幾つか有ったが、使って爆発する様なアイテムは一つも無かった筈だ。

うどんは永琳が作った薬だとか言っていたけど、まさか最初から四回以上使うと爆発する様に創られてたんじゃないだろうな?

俺は空の瓶を片手に余り考えたくない事を想像していると、さっきの爆発を聞きつけたのか、誰かがコッチにやって来る足音が聞こえてきた。

この状況を見られて、如何やって言い訳するか考えつつ後ろを振り返ると、其処にはボロボロになった服を着ている輝夜と妹紅の姿が在った。

 

「なんだリュウか。そんなところで何をしているんだ」

「あ~っと……怪我人の保護?」

「怪我人って其処で倒れているイナバの事? それじゃ、さっきの爆発はその子が原因?」

「まぁ、そうなんだけど……なんで爆発したのか、俺にも良く分からないんだよな」

「なんだそりゃ?」

 

俺は今起こった事を二人に事細かく説明するが、二人は訝しむ様な顔をして首を傾げた。

まぁ、薬を四本飲んだら爆発した……なんて説明されれば、誰だってこんな顔をするよな、俺だってそうなる。

でも、今話した以上の事の説明なんて出来っこないし、信じて貰うしかないんだよな。

 

「……ねぇリュウ、イナバが飲んだって言う薬の空瓶を見せてくれない?」

「別に良いが、大したこと書いてなかったぞ」

「何も分からないよりはマシよ」

 

俺は小さな溜息を吐きながら、言われた通りうどんが飲んだ薬の空瓶を輝夜に渡した。

輝夜はその瓶をジロジロと眺めていると、何かが分かったのか、一人で勝手に頷きだした。

 

「おい、輝夜。一人で納得してないで、私達にも説明しろ」

「うっさいわね、今説明するわよ。……あのねリュウ。イナバが爆発した原因だけど、間違いなくこの薬の使い過ぎが原因よ」

「んな事は言われなくても分かってる。気に為っているのは何で爆発したのかって事だ」

「なんでって言われてもねぇ。わたしは使い過ぎると危ないとしか聞かされないわ」

「……それじゃ、なんでコイツにそんな物騒な薬を持たせたんだよ」

「ちゃんとした薬のデータが欲しかっただけじゃない? 創った本人も危ないから飲みたくないって言ってたし」

 

輝夜の一言を聞いて流石の俺もうどんに同情してしまった。

本人も知っていたら使わなかっただろうし、恐らくは聞かされていなかったんだろうな。……いや、聞かされていても使いたくないけどな。

 

「師匠の玩具にされるとは、この兎も哀れだな……」

「竹林ホームレスに哀れみを掛けられるなんて、イナバも落ちたものね……」

「あん? テメェこの場でもう一度戦おうってのか?」

「わたしは別に構わないけど?」

「……上等だ、この場で消し炭にしてやる!」

 

沸点の低い妹紅は輝夜の挑発に乗り、背中から炎の翼を出現させて臨戦態勢に入った。

輝夜もそれに応える様に秘宝を取り出し、何時でも戦えるように準備をし始める。

俺は相変わらずな二人に呆れ果ててしまい、思わず盛大な溜息を吐いてしまう。

 

「お前等なぁ……。喧嘩するのは勝手だけど、先に俺の用事を済まさせてくれないか?」

「ん? そういやリュウは何しに此処に来たんだ?」

「ウチの神社が倒壊してな、今住む場所がないんだよ。だから、暫くの間輝夜の所に泊まらせてくれないかなぁ~っと」

「わたしは別に良いけど……当然霊夢も一緒なんでしょ?」

「当たり前だろ。何を言ってるんだよ」

「成る程、了解。それじゃ、イナバを起こしてその旨を伝えておいてね。……さぁ~って、覚悟は良いかしら妹紅。さっきの借りを倍にして返してあげるわ」

「おもしれぇやってみろよ。灰すら残さず燃やし尽くしてやる」

 

呆れる位の殺気を漲らせた二人は、そのまま同時に空へと飛び上がり、この場で殺し合いを始めた。

此処まで来ると仲が良いようにも見えてくるが、それを本人達に言ったら間違いなく怒るな。

俺は再度呆れて溜息を吐き出し、傍で倒れたフリをしている奴に声を掛けた。

 

「おい、うどん。其処で倒れていると二人の戦いに巻き込まれるぞ」

「……い、何時から気づいてたいたの?」

「今さっきだ。それで……どの辺りから気が付いてた」

「えっと……神社が倒壊したとかって辺りからね。でも、それがどうかした?」

「いや、聞いてないならそれで良いんじゃないのか」

「…??」

「それよりも、早く此処から逃げないと本当に巻き込まれるぞ」

「うわっと、そうだった! ……あなたは私と一緒に来るの?」

「いや、霊夢を迎えに行ってからそっちに向かう。永琳にはそう伝えておいてくれ」

「分かったわ」

 

うどんはそう言って頷くと、兎とは思えない速さで駆け出して行き、この場を後にした。

まぁ、誰だって殺し合い何かに巻き込まれたくないだろうし、全速力で逃げるのも当然だよな。

空中で盛大に戦い続けている二人にまた溜息を吐いた後、俺は霊夢を迎えに行くために博麗神社跡地へと急いで向かうことにした。

 




緋想天と言えばこのネタは外せないと思っている。初めてあの爆発を見たとき爆笑したもんだ。
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