竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第百六十六話 妖怪の賢者の怒り

ある日突如として発生した地震によって、神社が倒壊してから既に一週間が経った。

その間に起こった事と言ったら、霊夢が今回の異変の犯人である天人を懲らしめたって事くらいなもんだ。

余り詳しい事は聞かなかったが、どうやらその天人は天界での生活が余りにも退屈だった為に、地震を発生させて異変を解決しに来た奴を倒して遊ぼうとしていたらしい。

この話を聞いたとき、そんなくだらない理由で壊されたのかと、怒りよりも先に呆れ果ててしまった。

今まで色んな異変に関わってきたが、今回ほど呆れた理由ってのも後にも先にもないだろうな。

流石の霊夢もこの話を聞いたときは激怒したそうだが、弾幕ごっこでたっぷりと懲らしめた後、神社を向こうの金で再建させるように約束させたとかなんとか。

だから今現在、博麗神社跡地では天界からやってきた天人連中が神社再建に汗を流している。

連日の様に空から人が降りてきて、神社の再建にアチコチ駆けずり回っているが、何故かその陣頭指揮を取っているのが例の天人だ。

なぜ彼女が陣頭指揮を取っているのかと言うと、本人曰く、自分で壊したものだから自分が指揮を取る……との良く分からん理由だ。

自分が壊した事に本当に責任を感じているのなら、指揮を取るんじゃなくて、自分から率先して大工仕事をやれば良いだろうに。

俺は心の底からそう思うのだが、本人は優雅に日傘に指して、働いている天人に檄を飛ばすくらいの事しかしない。

あの様子を見ると、本当に反省をしているのか凄く不安になってくるな。

 

「神社、大分直って来たわねリュウ」

「そーだなー」

「…? なによ、随分と如何でも良さそうな返事ね」

「そうじゃなくて、あの天人がどうも胡散臭くてな。ちゃんと建つのか不安なんだよ」

「あ~確かに。見た目は前よりも立派なんだけど、何かしら仕込んでいそうよね」

「暇潰しに地震を起すような奴だからな。何を仕出かすのか分かったもんじゃない」

「その辺りの話、ワタシにも詳しく教えてくださいな」

 

霊夢と二人、神社近くの木の木陰で再建の見物をしていると、何の前触れもなく射命丸が現われた。

突風が吹き抜けた訳でも無いから、恐らくは近くで降りてからそっと歩いてきたんだろう。

 

「なんだ、アンタか。今日はなんの用で来たのよ」

 

いきなりの射命丸の登場に霊夢は露骨に嫌そうな顔をする。

 

「そんな邪険に扱わないでくださいよ~。今日は只の取材なんですから」

「取材って……今回の異変に関しての事か」

「はい。やっぱりこう言う事は当事者から直接話を聞かないと裏が取れませんからね」

「……基本的にゴシップばかり書いてるくせに、何を偉そうに言ってるんだか」

「それはそれ。これはこれ。……と言う訳で、話を聞かせて下さい」

「俺は今回の件に付いては詳しく無いから、全部霊夢に任せた」

「あ、ずるい!」

 

俺は適当な事を言って逃れると、霊夢から抗議の声が挙げられる。

だが、射命丸の興味は既に霊夢に移っており、今更俺に抗議したところでもう遅い。

射命丸に近付かれて困り果てた霊夢は、顔を近づけてきた彼女を一旦押し退けた後、深い溜息を吐いてから今回の異変に付いて語り始めた。

俺は一度聞いた話をもう一度聞く気はなく、何処かで暇潰しでもしようと席を立ち、宛てもなく歩き出そうとした瞬間―――

 

ガシッ!

「……へっ?」

 

―――地面から伸びた何者かの手に足を掴まれ、そのまま地面に開いた亀裂の中に引き寄せられてしまった。

俺は完全に引き寄せられる前に地面を掴もうとするが、地面に開いた亀裂は更に大きく開いてしまい、何処にも掴む事ができなかった。

 

「リュウ!?」

「これは新しいネタの予感!」

「アンタは何を言ってるのよ!!」

 

近くから霊夢の叫び声が聞こえてくるが、亀裂は俺を完全に飲み込むと直ぐに閉じてしまい、外からの声が聞こえなくなってしまう。

俺は何が起こっても良いように叢雲を取り出し、視線を動かして周囲の状況を確認する。

周囲にはコレと言った物は存在していないが、筆舌し難い異様な空間が何処までも広がっている。

この異様な空間は世界の何処にも存在しない場所だと直ぐに分かるが、俺は前にもこの空間に放り込まれた事を思い出す。

そしてこんなふざけた事をしてきた奴が、一体何処の誰なのかも直ぐに理解することが出来た。

 

「ったく、一体何の心算だ八雲」

 

誰も居ない筈の空間に声を掛けると、目の前の空間に亀裂が走り、その中から八雲が姿を現す。

表面上は何時もと変わらない表情をしているが、何処となく不機嫌なようにも見える。

何度か顔を合わせた事はあるが、こんな風に静かに怒っている八雲を見るのは今回が初めてだ。

特別怒らせる様な事をした心算も無いが、一体何に対して起こっているんだコイツ?

 

「お久し振りね竜神さん。貴方に一つ聞きたい事があるのだけど良いかしら?」

「別に構わないけど、態々こんな所に呼び込む必要があったのか」

「それは貴方の返事次第よ。……それじゃ早速聞くけど、如何してあの天人を好きにさせているのかしら?」

「あの天人? ……あぁ、神社を建て直しに来ている青髪の奴の事か。如何してって言われても、アイツが勝手にやってるだけだぞ」

「なら、如何して止めようとしなかったの。貴方がいながらあの様な輩の好きにさせるなんて」

「…?? 話がさっぱり見えてこないんだが……」

 

八雲の話を聞く限りだと、あの天人が何かを仕出かしたんだろうが、如何して俺が起こられているのか分からん。

アイツに用があるのなら直接話しに行けば良いのに、なんで先に俺に説教しに来てんだ。

 

「全く、貴方が居ればあの神社は大丈夫だと信じていましたのに、この体たらく。酷い裏切りね」

「……期待を裏切ったのは悪いが、酷い言い草だなオイ」

「貴方には一度お仕置きが必要みたいね。自分がどういう立場に居るのか自覚してもらう為にも」

「本当に勝手な奴だなお前は。なんでそんな面倒なものを受けなくちゃいけないんだよ」

「問答無用よ」

 

人の話を聞かず、八雲の奴が指を俺の方に向けた途端、周囲を取り囲む様に亀裂が走り、其処から大きな一つ眼が俺を見詰めるかのように出現する。

その数はざっと数えただけでも50は超えており、只でさえ不気味な空間がより不気味なものへと変貌した。

その状態で八雲の奴が俺に向かって弾幕を放つと、周囲を取り囲んでいる眼からも光弾が放たれる。

俺は素早く後ろに下がって弾幕を回避しようとするが、色んな方向から放たれる光弾を回避しきるのは中々に骨が折れる。

叢雲で邪魔な弾を斬り裂き、退路を確保しながら距離を取ろうとはするものの、此処は奴の領域だからか中々距離を離す事が出来ない。

恐らくは〝距離〟の境界でも操ったんだろうが、此処までしなくても良いだろうに。

 

「おいコラ八雲! 幾らなんでもこれは理不尽なんじゃないか!!」

「……理不尽の塊である貴方がそれ言う? 通常空間で戦って勝ち目がないのなら、自分に有利な空間で戦うのは当然でしょ」

「テメェは何処の帝国術士だ」

「言っている意味が良く分からないわ」

「別に分からなくても問題ねぇよ!」

 

昔を思い出させる八雲の言動に声を荒げるが、そんな事をしたところで事態は好転しない。

幾ら逃げても距離を離せないと悟った俺は、逃げる事を止め、迫り来る光弾に立ち向かう事を決めた。

50を超える光弾が迫り来る中、俺は叢雲を振るって斬撃を飛ばし、邪魔な光弾を斬り払らう。

光弾の大部分は今の一撃で消滅したが、全てを消滅させることは出来ず、若干残ってしまった。

残った光弾は俺に向かって飛んで来るが、その数はさっきと比べて10にまで減っており、叢雲を振るうだけで簡単に掻き消す事が出来る。

光弾が全て消えたのを見計らい、俺は八雲に向かって斬撃を飛ばし、反撃に移る。

斬撃は真っ直ぐ八雲に向かって飛んでいくが、直撃する手前辺りで見えない何かに阻まれてしまう。

見えないモノに阻まれたところを見ると、今度は空間の境界を操って壁にでもしたんだろう。

空間そのものを壁にしたのなら、それを断ち切れない限り、コッチからは手の出しようがないって訳か。

 

「ったく、相変わらず色々と便利な能力だな」

「でも、これだけの能力を持っていても貴方の白い竜には敵わなかったわ」

「あの時の記憶は曖昧なところが多いんだから、そんなことまで覚えてない」

「あら酷いわね。あんなにも激しかったのに」

「……その台詞に悪意を感じるのは俺だけか」

「さぁ、どうかしら?」

 

八雲は口元に手を当てておどけた様に笑うが、今はあの笑顔が無性に腹が立つ。

『アンフィニ』に変身して、あの空間ごと押し潰してやっても良いが、そんな事をしたら後々面倒な事にしかならない。

何か手はないかと考えを巡らせるが、空間を断ち切る良い方法なんてそう簡単に思いつく筈もない。

色々と考えては見たものの、結局俺は何時もの様に突撃して、力尽くで突破する事にした。

あーだこーだと考えても仕方がないし、下手な策を弄して戦うよりもずっと俺らしく戦える。

 

呼吸を整え、覚悟を決めた俺が何もない空間を蹴って駆け出すと、八雲の奴は弾幕を放ち応戦してくる。

周りに在る眼からも光弾が放たれ、大量の弾幕が一斉に俺に向かって飛んで来るが、今回は避ける事はせず真っ直ぐ突き進んでいく。

光弾を掠らせながら避けていき、如何しても避けられないものだけを叢雲で斬り捨てていく。

俺が避けようとしない事を察した八雲は、弾幕の量を増やし、俺を撃ち落とそうと狙ってくる。

数が増えて回避がより困難に為るが、ソレでも俺は止まる事はなく、八雲に向かって駆けて行く。

無数の光弾の中を駆け抜け、体中擦り傷だらけに為りながらも弾幕を突破した俺は、漸く八雲に手が届く距離にまで近づく事ができた。

 

「竜剣『ドラゴンブレード』!」

 

間合いを詰めた俺は素早くスペカを宣言し、叢雲に力を注ぎ込み、光の刃を刀身に纏わせる。

その巨大になった刃を八雲に向けて振り下ろすが、斬撃を飛ばしたとき同様に見えない壁に阻まれてしまう。

渾身の力を込めて振り下ろそうとするが、人間のままではこの壁を突破する事は出来そうにない。

 

「……流石の貴方でもこの壁を突破する事は出来ないようね」

「う…るせぇ……ッ」

「口の悪さも相変わらず。やはり一度キツイお仕置きが必要みたいね」

 

そう言うと八雲は自分の目の前と、俺の周囲にスキマを作り、自分の前のスキマに無数の弾幕を放った。

放たれた弾幕は八雲の前のスキマを通り、空間を飛び越える形で俺の周囲のスキマから出現する。

それと同時に眼からも無数の光弾が放たれるが、この状況で今から回避なんて間に合う訳がない。

だから俺は回避したりせず、光の刃を纏わせたままの叢雲を、真後ろにあるスキマに向けて突き立てる。

光の刃は後ろにあるスキマを通り抜け、八雲の目の前のスキマから出現し、八雲に突き刺さった。

 

「なっ……」

 

八雲は驚愕の表情で俺の事を見てくるが、俺の視界はすぐに弾幕の爆発で覆い隠されてしまう。

回避と防御を捨てた為、八雲の弾幕を防ぐものは何もなく、次々と直撃して行く。

一つ一つのダメージは大した事は無いが、放たれた弾の数が多い所為でダメージが蓄積していく。

耐える事無く全身に伝わる痛みに耐え続け、漸く放たれた弾を全て受け切る事が出来た。

爆煙が晴れ、視線を落として自分の怪我の状況を見てみると、思ったよりも大した怪我はしていなかった。

ただ、弾幕の直撃を受けた影響で服はボロボロとなり、なんともみずぼらしい姿に為ってしまった。

 

「……やれやれ。これは帰ったら霊夢にどやされるな」

「怒られる程度で済むなら良いじゃないの。私なんてあの子に恨まれるのよ」

 

声を聞いて視線を八雲の方に向けてみると、八雲は俺とは反対に傷もなく綺麗なままの姿だった。

突き刺さっていた筈の刃は既になく、八雲の弾幕を受けているときに掻き消えたのだろう。

俺からの攻撃は『ドラゴンブレード』の一回だけと考えると、怪我がないのも当然と言えば当然なのかも知れない。

 

「如何してあの場面で避けないのよ。普通は避けるか防ぐかするところじゃない」

「守りに入ったらお前に一撃喰らわせられないだろ」

「そんな理由で私の弾幕を受け切らないで欲しいわね……」

「んな事よりも、いきなり攻撃をしてきた訳を話して貰おうか。わけもなく攻撃してきたんじゃないんだろ」

「分かったわよ。……はぁ、なんでこうなるのかしらね。今回は勝てると思っていたのに」

「いや、如何考えてもアンタの勝ちだろ。こっちはボロボロなんだから」

「とてもじゃないけど納得できないわね」

 

八雲は呆れたように溜息を吐きながら、いきなり攻撃を仕掛けてきた訳を説明しだした。

なんでもあの天人は、博麗神社の何かを仕込むことで、あの神社を自分の物にしようと企てているとか。

アイツの家系にも神社があるらしく、その縁から神社を乗っ取り、自分に取って住み良いものに改造しているらしい。

それだけでも気に入らないって言うのに、八雲は何時まで経っても動こうとしない俺に業を煮やしたそうだ。

別に俺の神社でもないし、流石に見てるだけでそんな事が分かる訳がないとはっきり言ったんだが―――

 

「あそこに住んでいる以上、貴方にはあの子と神社を守る義務があるの。ソレが分からない様なら1から教育してあげましょうか?」

 

―――などと物凄く恐い笑顔でトンでもない事を言ってきやがった。

霊夢を守るのは望むところだが、神社まで守らないといけないとは夢にも思わなかった。

今後は気を付けると言う事で八雲には納得してもらい、今回のところは怒りを納めて貰う事にした。

 

「それにしても、中々にいい性格をしてる天人だな。自分で壊しておいて、家主の断りもなく勝手に作り変えるなんて」

「貴方がもっと確りしていてば良かったものを。……まぁいいわ。兎に角、あの神社は気に入らないから壊させてもらうわね」

「霊夢には俺から伝えておくから好きにしてくれ。だが、ちゃんと神社は建て直してくれよ」

「それについては問題ないわ。ちゃんと腕利きの職人に頼んでおいたから」

「んじゃ、何も問題はないか。後はご自由にどうぞ」

「貴方に言われなくてもそうするわ」

 

八雲は恐い笑顔のまま呟くと、人一人が通れるくらいの隙間を作り、帰り道を用意してくれた。

こんな場所に用は無いし、俺はその道を通って帰ろうとすると―――

 

「……あぁ、一つ言い忘れていたわ。貴方の使いが今、天界で強制労働をさせられてるわよ」

 

―――なんとも随分と興味深い話を聞かせてくれた。

 

「……場所は」

「天界に一角に在る、あの天人の屋敷。山の上を目指していけば着けるでしょう」

「そうか。……一応感謝はしておく」

「貴方から礼を言われる日が来るなんて。きっと天変地異の前触れね」

「勝手にほざいてろ」

 

言葉少なく礼を述べた俺は、今度こそスキマ空間を抜けて地上へと戻った。

 

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