竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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今回は久し振りに霊夢視点ですが、別に竜×霊って訳でもないです。


第百六十九話 紅魔の海

 

天人に壊された神社も再建し終え、衣玖が正式にリュウの従者になったりと色々とあったけど、漸く何時も通りの日常が戻ってきた……と思ったけど現実は違っていた。

 

「……あ、暑い」

「耐えろ霊夢。暑いのは皆一緒だ」

「それでも暑いものは暑いのよ」

 

新しくなった母屋の居間で私は、見っとも無く巫女服を着崩しながら思いっきりだらけていた。

部屋の四隅には氷柱を入れた桶を置いてあるけど、真夏の太陽のうでる様な暑さに私の気力を根こそぎ奪う。

今年は例年にないくらいの猛暑みたいだし、こんな中でも働いている農家の人には感服するわね。

 

「……私、今ほど巫女でよかったって思ったことはないわ」

「唐突だな。てか、今の台詞を先代が聞いたら激怒するぞ」

「この場に居ないんだから別に問題ないわよ」

「やれやれ」

 

リュウはわざとらしく肩を竦めるけど、今はそれに反応するだけの余裕もない。

こう暑いと頭がボーっとして、色んな事がどうでもよくなってくる。

天照が悪くないのは分かってるんだけど、こんだけ暑いと彼女に文句の一つや二つ言いたくなってくる。

夏なんだから仕方がない事なのかもしれないけど、幾らなんでも限度ってものが有るでしょうに。

空から照りつける太陽を恨みがましく思いながら、居間でだらけていると―――

 

「リュウさん、霊夢さん。ただいま戻りました」

「よう、邪魔するぜ」

 

―――買い出しから戻ってきた衣玖と、小さな袋を背負った魔理沙がやって来た。

 

「お帰り、衣玖。なんか余分なものと一緒だけど、如何したのよ」

「おいこら。余分なものってなんだよ、余分なものって。それってもしかして、自分のぜいにk―――」

 

魔理沙が何かを言いかけている途中で、私は反射的に立ち上がり、片手で五月蝿い口を押さえ付ける。

 

「……それ以上余計な事を言うなら、リュウに顎を砕かせるわよ」

「わ、わかっひゃ。ほれいじょうはいわない」

「てか、そんな面倒な事を俺にさせようとするなよ」

「え、え~っと……とりあえず魔理沙さん、此処に来た目的を話されたほうが良いかと」

「おうそうだった。唐突だけどお前等、今から水浴びに行こうぜ!」

「「はっ?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

毎度の如く唐突にやって来た魔理沙だけど、話を聞いてみるとなんて事はなく、ただ遊びに誘いに来ただけだった。

なんでも香霖堂で水着が大安売りしていたらしく、それを大量に持ち出したから私たちを誘ったとか。

その話を聞いてリュウは余り乗り気じゃなかったけど、暑い中家でだらけているよりもマシと言う事で私と衣玖でなんとか押し切った。

去年の暮れにレミリア達が巨大な水風呂……じゃなくて、海と言う名のプールを作っていたし、涼みにいくには丁度良かったわね。

 

「……それにしても、なんで霖之助さんは水着を大量入荷したのかしら? 殆ど女物じゃないの」

 

紅魔館に押し掛けた私たちは、プールのある地下の大図書館を占領して水遊びの準備をしている。

空っぽだった桶に水を溜めるのはリュウに任せて、私たちは山の様に積まれた水着から自分にあったものを選んでいる。

種類が多すぎてどれを着ようか迷っちゃうけど、これだけの量の水着を入荷した霖之助さんが変態に思えてならない。本当になんでも仕入れるわね、あの人。

 

「別にこーりんの店に男物の水着がないわけじゃないぞ。ただわたしが女物の水着を持って来ただけだからな」

「それじゃ今霖之助さんのお店には男物の水着で溢れ返っているわけか。……それはそれで可哀そうね」

 

男物の水着で溢れ返った香霖堂を想像すると、なんだか吐き気が込み上げて来る。

あの人には悪いけど、水着を大量入荷した霖之助さんが悪いんだし、余り気にしないようにしよう。

 

「あの~……お二人とも。リュウさんのお手伝いはしなくていいのでしょうか? 流石にあの大きさを水で一杯にするのは少々大変ではないかと」

「リュウなら大丈夫よ。それに私たちが行ったところで手伝える事なんて何もないし」

「それは確かにそうなのですが、従者として主の手伝いをしないと言うのが心苦しくて……」

「お~お~、衣玖は真面目だねぇ。そんなにアイツの事が気になるなら、これでも着てリュウを元気にさせてくればいいじゃねぇか」

 

そう言いながら魔理沙が衣玖に見せてきたのは……なんと言うか〝紐〟だった。

うん、比喩でも何でもなくて、本当にそうとしか言いようのないくらいに〝紐〟だった。

 

「い、いや、流石にそれは恥かしいと言うか、それだけはありえないでしょう!」

「いやいや、お前さんのスタイルなら絶対コレを着こなせる。わたしが保証するぜ!」

「そんな保障はいりません! それにわたくしはそんな破廉恥な物よりも、こう言う可愛らしい物の方が好みです」

 

魔理沙が選んだ〝紐〟を拒む衣玖が代わりに取ったのが、意外にも花柄の水着だった。

人の好みにとやかく言うつもりはないんだけど、その選択はものすんごく意外な感じね。

 

「……花柄ってすんごく意外な選択だな」

「いけませんか? 結構可愛らしいと思うのですが」

「いや、可愛いとは思うけど……すんげぇー子供っぽく見える。衣玖なら黒のビキニでも着こなせるだろ。なぁ霊夢?」

「えっ?! あ、うん、そうね。私もそう思うわ」

「……今ものすんごく動揺してなかったか?」

「あ、アンタの気のせいよ。それよりもさっさと水着を選んじゃいましょ。リュウも待たせている訳だし」

「……まぁそう言う事にしておいてやるよ」

 

なんか引っ掛かる言い方だけど、魔理沙はそれ以上何も言おうとはせず、自分の水着選びに戻った。

それを見て衣玖は安堵の溜息を吐いて、手に取った花柄の水着を渋々戻して別の奴を捜し始める。

二人の意識が外れた事にホッとしながら、私は手に取っていた水玉模様の水着をそっと戻した。

個人的にはアレでも良かったんだけど、魔理沙が衣玖を指摘しているのを見て、なんとなくコレも子供っぽい様な気がして……。

私ももう良い年なんだし、いい加減こういう柄を止めて、もっと大人っぽい物に挑戦してみようかな。

……でも、大人っぽい水着ってどんな物なのかイマイチ分かんないのよね。水着は大量にある筈なのに、どれもこれも同じ様に見える。

それに衣玖が一緒となると、どんな水着を選んでも衣玖に勝てる気がしないのよね。

出るところは出てて、引っ込むところは引っ込んでいる理想系と言うか、何を食べたらそんなスタイルになるんだって言いたくなる位だから、私じゃ逆立ちしても勝てる気がしない。

魔理沙が相手なら勝てそうな気もするけど、アイツはリュウに興味ないみたいだから最初から相手にしてない。

折角の機会だから、水着姿でリュウの気を惹こうにも、普通の水着じゃ衣玖に勝てる気がまったくしない。

ここは多少の冒険をしてみるべきなんでしょうけど、衣玖のスタイルを超えるほどの衝撃となると……魔理沙が選んだ〝紐〟しか。でも、アレは流石に人として如何かと……。

 

「う、う~ん……。一度だけ試して……いや、でも、流石に恥かしすぎる」

「ちょっと霊夢。そんなところで何時まで唸っているのよ」

「ひゃあッ!?」

 

突然話し掛けられ、驚いて声がした方を振り返ってみると、そこには水着姿のレミリアがいた。

 

「れ、レミリア、アンタ何時の間に私の背後を取ったのよ」

「貴女が水着の山の前で唸っていた時によ。全く、何をそんなに真剣に考えていたのやら」

「煩いわね。それよりも何しにきたのよ」

「あら、私の屋敷なのに私が水浴びをしちゃいけないのかしら?」

「アンタも参加したいって言うの? 吸血鬼のくせに物好きね」

吸血鬼(わたし)が苦手なのは雨や川の様な流水で、流れていない水は平気なのよ」

「ふ~ん……まぁ別になんだっていいけど。参加したいなら勝手にすれば」

「えぇ、言われなくてもそのつもり。だけど、未だに準備が終わっていないのは霊夢だけよ。彼も着替え始めてるしね」

「え、嘘!?」

 

レミリアに言われて慌てて周りを見ると、確かについさっきまで居た二人の姿が何処にもない。

耳を澄ましてみると、本棚の向こうで水が跳ねる音と賑やかな声が聞こえてくる。

……どうやら本当に私だけが取り残されちゃったみたいね。全く、二人とも一言くらい声を掛けてくれればよかったのに。

 

「まぁ、それだけの水着があるから悩む気持ちは分かるけど、彼を待たせ過ぎないようにね」

「うっさい! アンタに言われなくても分かっているわよ!」

「やれやれ、人が親切に忠告したっていうのに」

「あ~もう、煩いからさっさと何処かいきなさい!」

「はいはいっと」

 

喧しいレミリアを追い払い、急いで水着を選ぼうにもついさっきまで悩んでいたのに簡単に決められる訳がない。

とりあえず目に付いた赤いビキニタイプの水着を手に取り、大慌てでそれに着替える。

でも、着替えてみると結構露出している部分が多くて、思いの外恥かしい様な気も……。

だけど今更選び直すわけにもいかないし、覚悟を決めてこれにしよう。そう決意して私も皆の居る水辺へ行こうとした時―――

 

「ご、ごめんなさーいッ!!!!」

 

―――余り聞きなれない女性の叫び声の様な謝罪が聞こえてきた。

何となく気になって声の方に顔を出してみると、小悪魔が顔を真っ赤にして何処かへと走り去っていく。

その少し後にリュウが気まずそうに頭を掻きながら出てきたけど、二人の間に一体何があったのかしら?

 

「ちょっとリュウ、さっきの叫び声は一体なんだったのよ」

「あ、霊夢か。いや、実は……小悪魔に着替えているところを見られてな」

「見られた? アンタが小悪魔の着替えを覗いたんじゃなくて?」

「俺が覗いたんなら謝って走り去らないだろ」

 

言われてみれば確かにと私は思わず納得してしまう。でも、顔を赤くして走り去るって言うのが納得できない。

確かに今のリュウは短パンの様な水着に、白い上着を羽織っているだけだけど、特別変な格好をしているわけじゃない。

第一、仮にも〝悪魔〟なんだし、リュウの裸を見た程度で逃げ出すなんて思えないけど……一体何を見たのかしら。

 

「………………」

「な、なんだよ霊夢。俺の事をジーっと見詰めて」

「いや、小悪魔が逃げ出すなんて一体何があったのかなぁ~って」

「別に何もない筈だけど……ホントなんでだろうな?」

「さぁ? 分からないものを考えても仕方がないわよ。それよりも……どう、かな?」

 

ちょっとしたポーズを決めて、リュウに水着の感想を聞いてみたけどリュウは不思議そうな顔をして首を傾げるだけだった。

 

「…? どうってなにが?」

「…………」

 

リュウは私が何を聞いているのか分からないのか、本当に不思議そうな顔で聞き返してくる。

私たちの付き合いも結構長いんだし、この位のことは分かってくれると思ってたけど考えが甘かったわ。

 

「……そうよね。アンタってそういう奴だもんね」

「なんだよいきなり。俺、何かへんな事をいったか?」

「別になんでもない! それよりも早く皆のところにいくわよ!」

「お、おう……」

 

朴念仁なリュウに腹を立てながら向かおうとすると、衣玖の方から私たちの元へとやって来た。

私たちの事なんて気にせずに先に水浴びをしていたのか、魔理沙に突き落とされたのか分からないけど、彼女の全身は既に水で濡れている。

水浴びをしていたのだから当然だけど、それ以上に目が行ってしまうのが衣玖のスタイルの良さだ。

服の上からでも分かっていた事だけど……改めて目にすると恐ろしいまでの破壊力を秘めている。

せめてあの半分……いえ、四分の一でもいいから私に分けて欲しいものね。

 

「どうかしましたか、リュウさん。先程女性の声が聞こえてきましたが」

「いや、大したことじゃない。ただ小悪魔に俺の着替えを見られただけだ」

「着替えを見られた? リュウさんが覗いたのではなくて?」

「……霊夢と同じ事を聞くなよ。てか、二人して俺をなんだと思ってるんだ」

「いえ、リュウさんがその様な事をする方ではないと信じていますが、リュウさんも殿方ですし、魔が差してしまうのではないかなぁ~っと」

「あのな……」

 

衣玖の言葉に頭を抱えて呆れるリュウだけど、私は見逃していなかった。リュウが意図的に衣玖の胸から視線を逸らしている事を。

衣玖のスタイルが良いのは私も認めているし、リュウがそう言う事に反応してしまうのは仕方がないとしても、私の水着姿をみて一切反応が無かったって如何いう事よ!

確かに私のスタイルは衣玖の足元にも及ばないのは分かっている……だけど! なんの反応も無いなんて凄く屈辱的だわ。

湧き上がって来る怒りのままに、私はリュウの脇腹に肘を叩き込んでやった。

 

「うごっ!? い、いきなり何をするんだよ霊夢!」

「べっつに~。大した意味なんてないわよ~」

「意味もなく人を殴るなよ。肘って結構痛いんだぞ」

「知らないわよそんなの。それじゃ私、ちょっと泳いでくるから」

「お、おう……」

 

私は二人を置いて水辺へと向かうと、凄く腹立たしい笑みを浮かべた魔理沙とはち会う。

ただでさえ今は虫の居所が悪いって言うのに、私にいったい何の用かしらね。

 

「……なんの用よ、魔理沙」

「いやな、嫉妬に駆られて旦那を殴る癖を直した方がいいんじゃないかって思っただけだ」

「それはご忠告どうも。とりあえずアンタは、その良く回る舌は要らないみたいね。今すぐ動かせなくしてあげるから、ちょっとツラを貸しなさい」

「ちょ、まっ?! わたしに怒りをぶつけたってどうしようもないだろ!」

「うっさい! 八つ当たりよ!!」

「り、理不尽だーっ!!」

 

私の怒りに触れて魔理沙は一目散に逃げ出すけど、此処のスペースが限られている以上、追いかけて捕まえる事は大して難しくもない。

一々取らなくて良い揚げ足を取ってきて、そんなに私を怒らせて楽しいのかしら? もしそうだとしたら相当趣味が悪いわ。

とりあえずあの莫迦には、口は禍の元だって事をその身体に徹底的に分からせてやる!!

 




リュウの着替えを見てしまった小悪魔は後にこう語る。〝彼のは凄かった〟っと。
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