遅れはしたものの霊夢と合流する事が出来たのは良いが、正直なところ状況が良く分からん。
向かって来る鬼どもを全て倒した後、地霊殿に向かったらそこの住人に此処へ向かえと言われただけだからな。今回の異変について何も分かっていない状態なんだよ。
霊夢に詳しい話しを聞こうにも疲れて眠っちまったし、このまま帰るのもなんか釈然としないんだが……流石に霊夢をこのままにしておく訳にもいかないか。
「おい、黒猫」
「は、はい! なんでしょうか!?」
「俺達は地上に戻る。近日中に地上に湧いた怨霊どもはなんとかしておけ。でないと……地底がどうなるか保障しかねるぞ」
「せ、誠心誠意頑張らせていただきます!」
竜人の姿のままでいるからなのか、黒猫の奴がやけに素直に言う事を聞いてくれる。
余計な手間が省けて楽なんだが、ここまで素直だと逆に不気味だな。……まぁ、何を企んでいても叩き潰せばいいから別に如何でもいいんだけど。
「あ、あの……一つ質問なんですが。間欠泉の方は如何すればいいですか?」
「温泉は沸かしたままでいい。霊夢が入りたがってたからな。……分かったらさっさと自分の仕事に戻れ」
「にゃい! ……あ」
最後の最後で噛んだみたいだが、別に気にする事もないのでスルーしよう。
ネコは噛んだ事を気にしているようだが無視を決め込み、足元に魔法陣を展開してさっさとこの無駄に熱い環境から離脱する。
灼熱地獄跡と地上の気温差はかなりあるが、こればかりはどうしようもないから諦めるしかない。
霊夢が風邪をひかないか心配だけど、そうなった時はそうなった時だ。永遠亭にいけば薬くらい如何とでもなるだろ。
そんな事を考えながら、これ以上地底に用もなく、俺は魔法陣を起動させて地上へと帰還した。
………
……
…
地上に戻って数日が経ち、間欠泉から湧き出していた怨霊どもも綺麗に居なくなったが、案の定霊夢の奴が体調を崩した。
地上は雪が降り積もるくらいに寒いのに、灼熱地獄跡は焼けるくらいに熱かったから、仕方が無いと言えば仕方がない。
体調を崩した霊夢の世話は衣玖に任せ、ここ数日間の俺は毎日のように守矢神社に通い詰めていた。
今回の異変がおきた理由を霊夢から聞き、事情を説明してもらおうとアイツ等のところに出向いているんだが、向こうは俺の動きでも察知しているのか、俺が神社に行くたびに留守にしてやがある。
居留守でも使っているのかと気配を探ってみるが、本当に居ないみたいだし、どっかに雲隠れしてるんだろ。
本当だったらアイツ等をウチに呼び寄せて事情を説明してもらうところだが、アイツ等が博麗神社に来るわけ無いからな。態々こっちから出向いてやってるってのに……ホントにいい度胸してやがる。
今日も行っていなかったら、その時はアイツ等の神社を跡形もなく消し飛ばしてやる。
「まったく、特に用もなく山に出入りしたくないってのに……」
思わず愚痴が零れてしまうが、アイツ等の所為で無駄な時間を過ごしているんだから、愚痴の一つや二つ言いたくもなる。
旋那に許可を貰っているとは言え、この山に住んでいる神々をあまり刺激したくないんだがなぁ……。本当に面倒な事この上ない。
何度目になるかも分からない溜息を零しながら山を登っていると、視界の隅で見慣れぬ少女の姿を捉える。
この山に住んでいる妖怪には見えないが、特に興味もないのでとりあえず無視する事に。
何も見なかった事にして先へ先へと進んで行くが、またしても視界の隅に同じ少女を捉える。
さっきからちょこまかと俺の周りをうろついているが、一体何がしたいのかさっぱり分からん。
いい加減鬱陶しくなってきたし、また視界の隅に映った少女の見つけて、彼女の襟首を捕まえた。
「うわッ!? 捕まっちゃった!?」
「あぁ、捕まえてやった。……で、君は誰だ? 何が目的で俺の周りをうろちょろしてたんだ?」
「わたしの名前は『古明地こいし』だよ。お兄さんの周りをうろちょろしてたのは特に理由はないよ」
「理由もなくうろついてたのかよ。傍迷惑なやつだな」
しょうもない理由に呆れながら、俺は捕まえていた少女の襟首を放してあげた。
今まで色んな異変に関わってきたが、それらに比べれば少女の理由はまだ可愛いもんだし、特に害も無さそうだから放置しても問題ないだろうって感じたからだ。
「それじゃ俺はもう行くから、あまりこの辺りで遊ぶんじゃないぞ」
「あれ、お兄さん何処へ行くの?」
「この先に在る神社だよ。そこに住んでる神にちょっと用があってな」
「あそこの神様なら今神社に居ないよ。確か滝の方に居たはず」
「……なに?」
「わたしを見つけてくれたお礼に案内してあげる。ついてきて」
「あ、おい! ……ったく、しょうがねぇな」
言われるがまま、俺は楽しそうに先行する少女の後をついて行く事にした。
この辺りの地理なら大体把握しているから、大体の場所を示してくれれば辿り着ける自信はあるが、何処となく嬉しそうにしている少女に水を差すのが躊躇われたからだ。
……それにしても〝わたしを見つけてくれたお礼〟ってどういう意味だ? 存在が不安定ってわけでもないだろうし、なにか理由でもあるのだろうか?
少女の発言の意図が理解できず、頭を悩ませながら道なき道を歩いていたら、何時の間にか少女の姿を見失ってしまった。
幾ら考え事をしていたからってこうも容易く姿を見失うとは思えない。俺の歩く速度が速くて追い越したのかとも思ったが、後ろに人影はなく、雪に残る足跡も俺と少女の分がちゃんと残されていた。
足跡はちゃんと残っているのに少女の姿は見えず、周囲に気配すら感じさせない。
狐か狸にでも化かされたのか。そんな事を考え始めたとき―――
「すぅ……わッ!!」
「おわッ!?」
―――気配もなく後ろから大声を掛けられた。
驚きの余り声を挙げてしまい、慌てて後ろを振り返ると……其処に居たのはさっき出逢った少女だった。
「あはははははッ。どう? 驚いた?」
「驚いたって……いきなり何をするんだよ」
「だってお兄さん、なにか考え事をしていてわたしから意識を外すんだもん。そりゃ無意識に潜っちゃうよ」
「……無意識に潜る?」
「潜ると言うか、お兄さんの無意識に入るって言えば良いのかな? わたしの能力は『無意識を操る程度の能力』。普段は誰にも意識される事の無い空白の空間、そこがわたしの世界。誰にも気付かれずに何処へだっていける。……だから、ちゃんとわたしの事を見てないとまた見失うよ?」
「そらまた難儀な能力だな」
そう言って話をうやむやにしたが、さっき少女がいっていた見つけてくれたお礼って言葉の意味が分かった。
誰にも気付かれずに何処へでもいけるといえば聞こえはいいが、実際には誰にも彼女の事を気付いてもらえないという事だ。
少女が傍で何かをしていても周りに気付かれずに過ぎていく。便利なのか不便なのか判断しにくい能力だ。
「それでお兄さんは何を考えていたの?」
「君がさっき言っていたお礼の意味だよ。その意味はもう分かったから良いんだけどな」
「お、何も考えていないように見えてちゃんと考えてるんだね」
「考えてないって……そんな風に見えるのか、俺」
「うんん。適当に言っただけ」
「……さいですか」
どうやら少女にからかわれたみたいだが、なんとも距離感の掴み辛い子だ。
ずっと楽しげに笑っているから表情の変化が全く読めず、感情の一部を無くしている様な印象を受けるな。
これが彼女の素なのか、本当に感情をなくしているのか分からないが、余り踏み込んでも仕方が無いし、出来るだけ気にしないようにするか。
「ところで、守矢神社の神々が隠れているのはもう少し先なのか?」
「うん、そうだよー。なんかこの先にある滝の裏の洞窟に隠れてた」
「それも能力のお陰で発見したのか?」
「能力のお陰と言うか、特に目的もなくふらついていたら辿り着いたって感じかな。あそこの神様たち、わたしが傍に居ても全然気付かないからつまらなくて」
「アイツ等、常に何かに怯えながら暮らしてただろ」
「怯えてたっていうよりも落ち着きがない感じかな。白い犬耳の天狗が来た時に色々と話をしてたけどね」
「白狼天狗か。なるほど、アイツ等の千里眼で俺の動きを察知してたんだな」
少女のお陰でアイツ等がどうして俺の動きを察知できたのかが分かった。
確かに千里眼があれば常に俺の動きを察知する事ができるし、どのタイミングで神社に戻れば良いのかも直ぐに分かる。
この件に旋那の奴が絡んでいるとは思いたくないが、白狼天狗を騙したか買収したかして味方につけたか、ここらに住んでいる神々に警告を出すために天狗が動いているかだな。
「……となると、今の俺の動きも察知されてる可能性があるか」
「それならもう居ないかもしれないね」
「居ないなら居ないで構わないさ。ただ、アイツ等の神社が消し飛ぶだけだ。あの神社に住んでいる巫女の家がなくなっちまう訳だけど、里の人達なら暖かく迎えてくれるだろうから大丈夫だろ」
「さらっと酷い事を言うね。そんなにあそこの神様が嫌いなの?」
「別に好きでもなければ嫌いでもない。ただ、地底での異変の時にアイツ等が好き勝手なことをやっていたみたいでな。その辺りの事情を聞かせてもらうだけさ。神社に関してはタダの八つ当たりだ」
「わーひどーい」
随分と酷い棒読みで少女はいうが、その表情はやはり楽しげに笑っていた。
本当に楽しいと思って笑っているのか、笑顔にしか表情を作れないのか、本当に判断できない少女だ。
「あ、お兄さん。目的の滝が見えてきたよ」
「ん?」
そう言って指差す先には山から流れる大きな滝があった。
滝の裏の洞窟というから何処の事を指しているのかと思えばなんて事はない。妖怪の山が誇る大滝だ。
あの滝の裏に洞窟が在るなんて初耳だが、この寒い時期に滝の裏を調べ様だなんて思いもしないわな。
「どうするお兄さん? わたしが先行して様子を見てこようか?」
「いや、此処まで来たら後は俺一人で十分だ。それよりも君は一度家に帰ったら如何だ? その様子だと暫くは家に帰ってないんだろ?」
「う~ん……どうしようかな? 家にいても面白い事なんてないし」
「面白い事がなくても様子を見に帰るべきだよ。今回の異変は地霊殿が管理してる灼熱地獄跡で起こったからな。一度戻って家族を安心させてやれって」
「あれ、どうしてお兄さんはわたしが地底の妖怪だって分かったの?」
「自己紹介をした時に『古明地』って名乗っただろ。地霊殿の妖怪も同じ苗字だったし、胸にある眼を見れば家族か何かだと思うのは当然だろ」
俺の推察を利いた少女は驚いたような顔になり、此処に来て初めて笑顔以外の表情を見せる。
「驚いた~。お兄さんって意外と推察力あるんだね」
「意外は余計だ。……まぁそう言う訳だから、一旦家に帰っとけって」
「そうだね。最近お姉ちゃんの顔も見てなかったし、怒られに一度帰ってみようかな」
「怒られるのはそれだけ自分の身を案じてくれているんだと思っておけ」
「でも、怒られて気分のいい人なんていないよね」
「そらそうだ」
少女の言葉が可笑しくて笑っていると、何時の間にか少女の姿は何処にも見当たらなかった。
俺の意識が彼女から外れたのか、彼女自身が俺の無意識に潜ったのかは分からないが、少女は家に帰ったのだろうと言う事が足跡から見て取れる。
真っ直ぐ帰ると良いんだが、どうも彼女は風来坊のようだし、帰る途中どこかで道草でもするんだろう。
そう考えると仕方のない奴に思えてしまうが、それが彼女の持ち味なのだろうと割り切っておく。
一人納得したところで、彼女が案内してくれた滝の裏へと回り、岩肌にぽっかりと空いた洞窟へと入る。
いつもの様に光源を作り、薄暗い洞窟の中を進んで行くと、少女の話どおり八坂と洩矢が隠れていた。
「……ようお前等。こんな薄暗いところに篭って冬眠でもする気か?」
「げッ!? 白竜?!? 如何して此処がわかったのさ!」
「此処に来る途中で親切な少女に会ってな。そいつが教えてくれた。……あぁ、先に言っとくけどその子は天狗じゃねぇから、アイツ等を問い詰めても無駄だぞ」
笑い掛けながらあの二人に近付いていくと、二人は何かに怯えるように身を寄せ合って震え始める。
「おいおい、なに怯えてるんだよ。これじゃまるで俺が悪者みたいだろ」
「わ、わたし等神々からしたらアンタは天敵だろ。怯えるなって方が無理だ」
「と言うか、白いのの笑顔が物凄く怖い」
「俺の笑顔が怖いって事はそれだけ後ろめたい事があるって証拠だろ」
「「………………」」
「今更黙ってもおせぇ」
しらを切ろうとする二人に怒気を叩きつけると更に怯え震え上がる。
アイツ等がどれだけ怯えようとも俺には関係ない。今回の件を引き起こしたわけを聞く前に、色々と面倒を掛けさせてくれた礼しておかなくちゃな。
「さてお前等、こんなところに篭ってたんだから覚悟は出来てるよな?」
「待て、落ち着くんだ白竜! 話し合えばきっと分かり合える!」
「その話し合いもせずに地底の地獄烏に能力を与えたのは何処の誰だ?」
「……わ、わたし等です」
「よく分かってるじゃねぇか。それじゃ落し前を付けさせてもらおうか」
そういって俺が一歩前に出た瞬間、足元の地面がいきなり陥没した。
即座に上に飛んで難を逃れるが、その間に二人は俺の下を通ってこの洞窟から逃げ出そうとする。
「まてや、テメェ等!!」
「誰が待てるか!」
「もう白いのにボコボコにされるのは嫌だー!!」
「この俺からそう簡単に逃げられると思うなよ!!」
洞窟の外へと逃げ出した二人を追いかけて、俺も洞窟の外へと飛び出していく。
洩矢と八坂は二手に分かれて別々の方向へと逃げていくが、どちらかさえ捕まえられればいいから別々に逃げようとも関係ない。必ずとっ捕まえて落し前付けさせてもらうから、覚悟しておけよ!!
最後は無理やり終わらせた感がありますが、これにて地霊殿編は終わりです。
今回の異変はリュウを地底に同行させるかどうかで悩みました。いや、本当に悩んだ。
地上の妖怪を地底都市に入り込ませないって約束があって、これにリュウが引っ掛かるのかで悩んでました。
別に霊夢一人でも問題ない様な気もしましたが、色々と考えた末に今回の様な形で落ち着きました。結果としてそれが良かったのか分かりませんが、地霊殿編が終わって一段落ついたところです。
それで次回の更新なのですが、若干間が空くかもしれません。
次回は以前提供していただいたネタを使って書こうと思っているのですが、その前に書き上げるのに時間の掛かるコラボを書こうかと。普段できない事だからどうしても色々と詰め込んじゃって、書き上げるのに時間が掛かるんですよね。
そう言うわけですので、本編の更新は少し待っていてください。