竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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サブタイからも分かる様に、今回は久方振りの諏訪子の登場ですが、神奈子や早苗は出てこないよ。


第百八十四話 土着神のお願い

最近は冷え込みがより厳しくなり、外に出る時間が減ったなと自分でも感じるようになった。

雪掻きや買出し以外で外に出るような用事もなく、完全に暇を持て余した俺は暇潰しをかねて叢雲の手入れをしていた。

叢雲が新しくなってもう一年が経つわけだが、未だに刃毀れどころか傷一つ付いていない。

普段戦うときは剣に俺の力を纏わせて見えない鞘をつけているが、飽く迄相手を斬り殺さないようにするための配慮であって、剣を保護するような機能はついていないんだよな。

それなのに未だに傷一つ付いていないとか、相変わらずとんでもない硬さだな。この金属。

一体どんな製法でこの剣を創ったのか気になるが、どうせ聞いたところで理解出来ないし、話してくれると思えないから無理に聞いたりはしない。

 

「……よし、こんなところか」

 

綺麗になった叢雲を見て、俺は一人頷き満足する。

こうして剣を眺めていると霊夢たちから変な目で見られることがあるが、自分の愛刀が綺麗になったんだから眺めていて何が悪いっていつも思ってる。決して、剣を眺めてにやけている様な変人ではないぞ。

 

「…・・・なんか空しいからこれ以上は止めておくか」

 

一体誰に対して弁解してるんだと自分で呆れていると、雨戸の方から何か物音が聞こえてくる。

季節がら雪が入らないように雨戸をしていたが、それに何かがぶつかって……と言うよりも、誰かが雨戸をノックしている様な感じだ。

魔理沙の奴なら裏庭から上がり込んで来る事が多いけど、態々ノックするような奴じゃないし別人だろ。

面倒だから放置でも良いんだが、かなり諦めが悪いのか何度も何度も雨戸をノックしてくる。

鬱陶しいし、衣玖にでも対処させたいところだが生憎と今は出掛けていて家には居ない。霊夢の奴も茶を飲みに出掛けていないし、今は俺しか家に居ないんだよな。

 

「はぁ、面倒だ」

 

溜息を吐きながら雨戸を開けて外の様子を見てみると―――

 

「ど、ども~」

 

―――ものすんごく珍しい事に洩矢の奴の姿が在った。

周囲には八坂の姿もないし、緑髪の巫女の姿もなく一人でウチにやって来たみたいだ。

地底の一件の後始末にコイツ等をボコボコにしてやったが、また殴られに俺んちに着たとは考えられないし、態々俺に会いに来たとも考えられない。本当に何をしに来たんだこいつ。

 

「あ、あの~……外は寒いし、上がらせて貰ってもいいかな?」

「………………」

 

守矢の奴が引き攣った笑顔で頼んでくるが、どうせ碌な事にならないだろうと思い俺は雨戸を閉める。

勝手に開けられないようにつっかえ棒もしておきたいところだが、流石にそんな都合の良いものは転がっていない。

勝手に上がってきたら、その時は実力行使でたたき出せばいい。そう思いながらお茶を淹れに台所へと向かう。

 

「ちょッ?! 閉めないで開けて! 別に戦いに来たわけじゃないから、話がしたくて来ただけなんだって!」

 

雨戸の向こうで洩矢のがドンドンドンと雨戸を強く叩いて抗議してくるが、雨戸を破壊してまで乗り込むような真似はしてこなかった。

本当に話がしたくて来ただけなのか、戦いの火蓋が切られるような真似はしたくないんだろう。

だからと言って、態々話を聞いてやる義理も無いし、アイツ等が動くと碌な事にならない様な気がするから正直関わりたくないんだよな。

しかし洩矢の奴にそんなことが分かる筈もなく、コッチの迷惑も顧みず雨戸を強くたたき続ける。

 

「開けてくれないなら大声で泣くよ! そんでもって里で君がどれだけ酷いやつかってことを言い触らすよ! それでもいいの!?」

「やってみろ。そんな事をすれば次の新聞の見出しにテメェのあられもない姿が載ることになるぞ」

「あ、すみません。調子に乗ってました。それだけは勘弁して下さい」

 

あんまりにも煩いもんだから、雨戸を開けて脅してやると洩矢の奴はその場で土下座して許しを請う。

雪の上で土下座するとか、どれだけ新聞に乗りたくないんだよと呆れながら、これ以上喚かれても面倒だと思い渋々彼女を家に上げる事にした。

雪が付いたまま裏庭から家に上げるわけもいかず、一度玄関の方へと回ってもらい、雪を落としてから客間に案内する。

客間といっても特別何かが在る訳でもなく、只単に普段使っていない部屋と言うだけのこと。

掃除はまめに衣玖がしているから汚れ一つなく綺麗なものだが、話を聞くだけなら別に上げなくても良かったんじゃないかと今更になって思う。

どうせ向こうも長く居座る気もないだろうし、態々家に上げて茶を用意する必要もなかったよな。

今更になって若干失敗したと思いながら、客間に居る洩矢に茶を差し出す。

 

「あ、どうも。……いや~、まさか君がお茶を淹れてくれるなんて思わなかったよ。これは帰ったら神奈子に自慢できるぞ」

「本当に今日は良く回るな。その舌、よっぽど要らないと見える」

「やめて! なんだか今日は一段と凶暴性が増しているように見えるけど、何か嫌な事でも遭ったの?」

「そうだな。今俺の目の前に居る神の所為なのは間違いないな。ちょっと前に面倒事を起こしたばっかだっていうのにどの面下げてきやがったこの野郎」

「いや、その…………本当に申し訳御座いませんでした」

 

そういって洩矢は頭を下げて謝罪してくる。

頭を下げて謝ってくるのはいいが、本当に悪いと思っているのならもう少し時期を考えてもらいたい。第一頭を下げる相手は俺じゃなくて地霊殿の主だろうに。

 

「それで? 今日は一体なんの用で来たんだ」

「えっとだね、今日は君にお願いしたい事があってきたんだ」

「だからそのお願いってなんだよ」

「実は……地底の核開発を再開させてほしいなぁ~って」

「お前等、本当に反省しているのか」

「してるよ! だからこうして頭下げてるじゃん!」

「だったらこんなにも早くその話を持ち出すなよ。もっと時間を空けてから切り出せ」

「それは……まぁそうなんだけど」

 

洩矢本人もこのタイミングで切り出した事に思うところがある様だが、こうして俺に頼みにきている辺り八坂が暴走して突っ走っている訳でもないだろう。

もし仮に八坂が暴走しているのだとしても、あいつ一人を抑えられないほどに力が弱っているとは思えない。

逆に洩矢の奴が暴走しているとしても、同じ理由で八坂の奴がコイツを抑えるだろう。

二人で話し合って同意したから俺の元に赴いて切り出したんだろうが、コイツは一つ勘違いをしているみたいだな。

 

「ま、あの烏の件はお前等で勝手にやれば良いんじゃねぇの。俺には興味ない」

「え、いいの? 君の事だから絶対阻止してくると思ったのに」

「なんでそんな事をしないといけないんだよ、めんどくさい」

「だって地底の地獄烏に力を与えたら滅茶苦茶怒ってたじゃん」

「確かに烏に力を与えて面倒事を引き起こした事にはきれたけど、別にあの烏の力を如何こうしようとは考えちゃいない。あの力のお陰で温泉が湧いているんだし、これからも恒久的に温泉が湧き続けるのであればお前等が如何しようと関与する気はない」

 

守矢の連中からしたら思い掛けない産物だったとしても、ウチからしたらあの温泉はかなりありがたいものだ。

俺の力で如何にかなるとはいえ、風呂を沸かすのも結構な手間だからな。その手間が省けるのであれば今のままでも何の問題もない。

それにコイツ等の言う核開発なんて、自分たちの信仰を集める為のアピールの様なものだろうしな。人間の信仰がなくても生きていける俺からすれば、コイツ等の邪魔をする理由が全くないんだよ。

 

「そ、それじゃ、私らの好きなように開発を進めてもいいんだね!?」

「別に構わないが、また何か問題を起こしたらその時はお前等を粛清するぞ」

「何も問題が起こらないように念密に計画を立てて進めさせていただきます」

「ちゃんと地霊殿の主にも話しておけよ」

「分かってますって」

「それならいいが話ってのはこれだけなのか」

「いやいや、実はもう一つあるんだけど……これはどちらかと言うと個人的なお願いかな」

「個人的なお願い? お前が俺に?」

「うん。まぁ、個人的にっていうのはちょっと語弊が有るけど」

 

物凄く意外な方向性の話に驚くが、それ以上に胡散臭さを感じてしまう。

俺の事を嫌っているコイツ等が俺に個人的なお願いをしてくるだなんて信じられないし、普通に考えたらまず在り得ないことだ。

俺は神々の天敵だし、記憶には無いがコイツ等の事もきっと叩きのめしているはず。そんな相手にお願いだなんて……洩矢の奴、実は正気を失っているんじゃないだろうな。

 

「な、なんか物凄く疑われているけど私は正気だよ。それに個人的なお願いって言っても、これは私と神奈子のお願いだし」

「お前と八坂のお願いだぁ? 益々信じられねぇな」

「随分と疑っているみたいだけどちゃんと話を聞いて。今度のクリスマスにパーティーを開いて、私らを招待して欲しいんだ」

 

洩矢のお願いはまた随分とわけの分からない内容だった。

くりすますってのなんなのか知らないし、パーティーを開いてと依頼した上に自分たちを招待してくれなんてわけが分からん。普通こういうのは今度パーティーをするから参加しないって誘う物じゃないのか?

 

「あ、なんか意味が分からないって顔をしてるね」

「そりゃパーティーを開いてと依頼しながら、自分たちを招待して欲しいだなんて言われたの初めてだからな。何を考えてるのか知らんが、やりたいのなら自分の家でやれ」

「確かに自分の家でできれば一番なんだけど、それをやっちゃうと早苗を驚かせる事ができないからさ」

「早苗ってぇと…………あぁ、お前の所の巫女か」

「正確には巫女とは違う役職なんだけど……まぁいいか」

 

それで良いのかと思わず言ってしまいそうになったが、話が拗れる様な気がするから黙っていよう。

 

「それでお前等は一体何を企んでいるんだ? また悪巧みでも考えてるのか」

「悪巧みとは失礼な。私らは早苗を労いたいだけなの」

「いや、労いたいだけなら普通に労えばいいじゃねぇか。態々驚かせる必要もない」

「確かにそうなんだけど、普通に労おうとするとあの子が遠慮しちゃうんだよ。私らの都合でこっちに越してきたんだから、そこは素直に受け取って欲しいんだけどね」

「お前等にしては殊勝な心がけだな。……で? なんで俺らがパーティーを開かなくちゃいけないんだ?」

「いや、ほら、君等が開いてくれれば私らも参加しやすいし、クリスマスって事で早苗にプレゼントを渡せるでしょ?」

「つまりお前等は俺達をだしに使いたいんだな」

「言い方は悪いけどそう言う事です。……だめ?」

「駄目に決まってんだろ」

 

洩矢は小首をかしげて可愛らしく頼んでくるが、そんなので頷くとでも思ったのか馬鹿野郎。

どういう経緯でウチに白羽の矢が立ったのか知らないが、簡単にパーティーが開けるほどウチの財政に余裕なんかないっての。八雲の奴から近々忘年会をするからと言われているのに、他の宴を開けるわけないだろ。

大体そんな事をする位なら知り合いの神々でも呼んでやればいいだろうに。基本的に神々は飲兵衛ばかりだから、酒を大量に用意すれば勝手に集ってくるだろ。……それじゃあの巫女が遠慮しちまうのか

 

「そんな事言わずに頼むよ。他にこんな事を頼めるのが居ないんだよ」

「知るかんなもん。只でさえウチで忘年会をする事になっているのに、他の宴の準備まできるか」

「じゃあ私らはどうやって早苗を労えば良いのさ。此処に断られたら他にあてがないんだよ」

「なんでそんなに交友関係が狭いんだよ。大体労をねぎらうのに態々パーティーを開く必要もないだろ。夕食の時にでもプレゼントを渡せばいいじゃねぇか」

「それで頂けないって言われて断られちゃったからこうして頼んでるんだよ……」

 

断る巫女もどうかとは思うが、コイツ等の事だから一回渡しそうとしただけで直ぐに諦めたんだろ。

彼女の性格から考えると二度三度と言えば受け取ると思うが、あの巫女の断り方がコイツ等の痛いところを付くような断り方だったんだろうか。

 

「どうしてもやりたかったら、ウチじゃなくて紅魔館に行けよ。アッチの方がでかいんだから」

「でも、吸血鬼の館でクリスマスパーティーを開くのってアリかな?」

「あん? レミリアの家で行うのになんか不都合でもあるのか」

「不都合というか、宗教的な問題」

「……土着の神が他所の宗教の戒律を気にしてどうするんだよ。此処は幻想郷だぞ」

「それを言われると反論できないんだけど、私あの吸血鬼と面識が殆ど無いんだよね」

「そんなの自分でなんとかしろ。手土産持って趣旨を説明して、土下座でもして頼み込めばなんとかなるんじゃねぇの?」

「そ、そこまでしないと駄目なの!?」

「寧ろ本当にやりたいと思うならこの位の気概を見せろ。アイツはかなりの我が侭だぞ。ちょっとやそっとのことじゃ首を縦には振らない。……ま、暇を持て余していたら案外すんなりと行くかも知れないけどな」

「なんとも心強いアドバイスをどうもありがとう」

 

盛大に皮肉ってきたのかと思ったら、洩矢はお茶を飲み干して席を立ち上がる。

これ以上ウチに留まっても目的は果せないと思ったんだろう。洩矢はそのまま客間を出て行く。

態々見送ってやる理由も無いし、このまま帰ってくれるなら俺としてはありがたいんだが、世の中そう上手くはいかないものだ。

俺が見送らない事に不審に思ったのか、洩矢の奴が来た道を戻って態々顔を出してくる。

普段だったら見送るんだが……別に今回の奴は見送る必要は無いだろ。

 

「あれ? 見送りはないの?」

「なら逆に聞くが、なんで俺がお前を見送らなくちゃいけないんだ」

「いや、でもほら、お客様が来たら普通見送るもんでしょ?」

「客ならな。でも俺はお前を客として招いた覚えはない」

「ヒドッ!? そんな態度だと何時か祟られるぞ!」

「俺を祟る事のできる存在か。そんなのがいるなら会ってみたいもんだな」

「そんな事をいうならミシャクジを送りつけて祟らせるぞ!」

「あははははッ。例えなんであろうと〝神〟であるなら殺せる俺に祟り神が如何にかできるとでも?」

「ぐ、ぐぅ~……。やっぱり白いのなんてだいっ嫌いだ!!」

 

最後に捨て台詞を吐いた洩矢のはそのまま走り去っていった。

ちょっと苛めすぎた様な気もするが、洩矢だし別に気にする事はないだろう。

俺はすっかり冷めてしまったお茶を飲みながら、特にする事のない午後を如何過ごすか考え始めていた。

 




自分で書いておいてなんですが、諏訪子の《白いの》って随分と酷い呼び方だな。まぁリュウの方がもっと酷いんですけどね。
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