竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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前回の続きのようで全くというほど関係のない話。


第百八十五話 恋愛願望

「あ~寒い。こんな寒い時期だってのになんで夜中に外出しないといけないんだ」

「文句ならレミリアに言いなさいよ。アレが突然言い出してきたことなんだから」

「突然〝パーティーするから参加しなさい〟ですものね。有無を言わせない辺りは流石でしたが」

「あぁ、火燵の中でだらけていたい」

 

愚痴を零しながら冬の寒空の下、俺と霊夢と衣玖の三人は紅魔館へと向かって飛んでいた。

本当は冬の夜中に外出なんてしたくないんだが、この前レミリアの奴が家に突然やって来てパーティーを屋敷でするとか言い出して、仕方がなく参加する事になり現在に至るわけだ。

ぶっちゃけ参加しなくても良かったんだけど、レミリアの奴が「来なかったら咲夜に連れて来させる」とか言って脅してきやがった。返り討ちに出来る相手なら兎も角、時間を止められたらどうしようもないからな。幾ら俺でも時間に干渉されたらどうしようもないって。

今更ながら時間干渉能力ってズルイよなとか思いながら飛んでいると、前方から弾丸の様な勢いで紅いのが飛んで来た。弾丸というにはかなり大型で、砲弾の様な気もするが気にしていても仕方がない。

俺は砲弾のような奴を避けて、その擦れ違い様に首根っこを捕まえる。

 

「いきなり飛んで来るなんて危ないだろ、フラン」

「えへへ。ごめんなさ~い」

 

首根っこを掴まれたフランは特に悪びれる様子もなく笑顔だった。

一体何をそんなに喜んでいるのかと思っていると、フランの格好が普段の服装ではなく正装している事に気付く。寒さ対策に一枚羽織っているが紅いパーティードレスに身を包んでいて、良いとこのお嬢様にも見えないことは無いが行動が全てを台無しにしている感があるな。

 

「駄目ですよフランさん。その様な格好で飛びつくなんて」

「初めてパーティーに参加できるのが嬉しくてつい」

「……そういえば宴会にも参加した事なかったわね。なんで?」

「何時もはお姉様が駄目だって言って部屋から出してくれないの。でも今回はリュウが来るから良いって!」

 

あの野郎……。俺にフランの面倒を押し付ける気だな。確かに俺が傍に居れば万が一の時にも対処できるけど、俺にばっかり任せてないで自分でなんとかしようとしろよ。

 

「あら、そうなの。それは良かったじゃない」

「でも私、この格好あまり好きじゃないんだ」

「そうなのですか? よく似合っていると思いますけど」

「だってコレお姉様のお古だし、胸の辺りが窮屈で苦しいんだもん」

「……そうですか。ですが、その様な事はご本人にお伝えしてはいけませんよ」

「え、もう言っちゃったよ。そしたらアイツ固まっちゃったけど」

 

流石の衣玖でもなんと言えば良いのか分からないらしく、苦笑いを浮かべている。

実の妹から胸が小さいと言われて何を思ったのかわからないが、会場でアイツとであったら思いっきり哀れんでやろう。

 

「さて、何時までもこんな所で話してないで、いい加減屋敷にいくか」

「は~い!」

 

掴んでいた首根っこを離してやると、フランは俺の腕に抱きついてくる。

パーティーに参加できるのがよほど嬉しいのか、フランがご機嫌なのは構わないんだが後ろからの視線が若干痛い。フランは見た目も心もまだ子供なんだからこの位は見逃してやれといいたい。

まぁそんな事を言ったって後ろの視線が和らぐわけじゃないし、屋敷に着くまで我慢しよう。

若干の居心地の悪さを感じながら紅魔館に着いた俺達は、此処で働いている妖精メイドに大ホールまで案内してもらった。何年も此処に着ているから屋敷の構造は大体把握しているけど、こういうのはお決まりみたいな物だから特に口を出したりはしない。

案内された大ホールには既に沢山の客が集っていて、皆思い思いにパーティーを楽しんでいるようだ。

形式は立食パーティーらしく、料理が並べられたテーブルはあっても座るための椅子はない。

ウチでやる宴会のような喧騒はないが、会場の広さが違うから集っている人数も宴会の倍くらいは居そうだ。

よくもまぁコレだけの人数を短期間で集めたもんだと感心するが、集っているやつの大半が妖怪か。

この会場に来ている人間なんて霊夢と咲夜と魔理沙くらいなもんか? でも八坂の姿が見えるから探せば守矢の巫女も居るのかもしれないな。

 

「随分と遅かったわね。もうパーティーを始めちゃってるわよ」

「あ、お姉様ただいま」

「えぇ、お帰りなさいフラン」

 

俺達がやってきた事に気付いたのか、レミリアの奴が咲夜を引き連れて俺達の元へとやって来た。

レミリアは夜空のように暗いドレスに身を包んでいるが、パーティーにそんな暗い色のドレスで良いのだろうかとつい思ってしまう。

それにさっきのフランの話の所為で思わずレミリアの胸を見てしまう。ぱっと見た感じだと大差ない様な気もするが、これで妹より小さいのか。そう思うとやっぱり哀れだよな。

 

「全く。折角のパーティーなのにどうして貴女たちは何時も通りの格好なのかしらね」

「わたくしの場合はこれが正装ですので」

「巫女服以外の服っていったら晴れ着か浴衣くらいしかないわよ」

「そもそも俺は正装がない」

「二人はともかくリュウは服を買いなさい。後その哀れみに満ちた眼はなにかしら」

「別に大したことじゃないから気にするな」

「いいえ気にするわ。何を言いたいのか察しはつくけど、さっさと話しなさい」

「察しが付いてるなら別に言わなくてもいいだろ」

「いいからさっさと話せ」

 

俺が何を思ったのか察しがついているからか、レミリアの奴ものすんごく怒ってる。

折角のパーティーにそんな顔は不粋だと言いたい所だが、そんな事を言ったって誤魔化しきれる訳もない。

だからといって態々地雷を踏みに行くような趣味はないし、どうにしてやり過ごせないだろうか。

 

「……おい、レミリア。白い翼を生やした奴が窓からコッチの様子を窺ってるぞ」

「なんですって!?」

 

適当な嘘をついてレミリアの意識が俺から逸れた隙に、シャドウウォークを使ってこの場から離脱する。

本当はこんな事に使うスキルじゃないが、咲夜の奴に捕まらずに逃げるにはコレを使う以外の方法が思いつかなかった。後でなんか言われそうだけど、そん時はヒュール使って家に帰れば良いか。

晩飯も食わずにやってきたから、置いてあった取り皿に料理を取れるだけとって窓際に移動する。

別にその場で食べても良かったんだが、立ちながら食べるってのがどうも落ち着かなくてな。壁にもたれ掛かりながら食べるとするか。

椅子があればもうちょい落ち着いて食べられるのに、なんで態々立食形式にしたんだろうか。そんな事を思いながら窓際に移動すると既に先客が居た。

 

「なんだ、姿が見えないと思ったらこんな所に居たのか。守矢の巫女」

「えっ? ……あ、リュウさん。お久し振りです」

「そんな久し振りって程でも無いがな」

 

壁際で一人佇む守矢の巫女に声を掛けたが、俺が声を掛ける前から難しそうな顔をしていた。

レミリアの奴もそうだが、パーティーには似つかわしくない表情だな。

なんかくだらない事でも考えているんだろうけど、こんな時くらい気楽に楽しめばいいのに。

 

「すみません、リュウさん。うちの神奈子様と諏訪子様がご迷惑を」

「別にアンタが謝る事じゃないが、迷惑だったのは間違いないな」

「本当にごめんなさい」

「だからアンタが謝る事じゃないっての」

 

俺が何度言っても守矢の巫女は申し訳無さそうにするばかり。多分これが性分なんだろうけど、なんとも面倒な性分だな。

 

「……ところで、アンタはなんでそんなに難しそうな顔をしているんだ?」

「えっ?」

「俺が来た時から難しそうな顔をしていたし、パーティーを楽しんでいるようには見えなかったからな」

「あぁ、別に大したことじゃないですよ。ただクリスマスの日に吸血鬼がパーティーを開くのって如何なのかなっと」

「くりすます?」

「はい、今日12月24日はクリスマス・イブです。……ご存じないですよね」

「まぁな。幻想郷で暮らすようになって何年も経つが初めて聞いた」

 

洩矢の奴から似たような話を聞いた様な気がするが、あんまり覚えていないから恐らく関係ないだろ。

 

「クリスマスというのは聖人の聖誕祭なんですが、その方はレミリアさんの様な吸血鬼とは敵対関係にある筈なんですよ。それなのに今日パーティーをして良いのかなって」

「それで場の空気に馴染めずこんな所で一人佇んでいたと」

「はい。幻想郷で暮らすようになって一年が経ちましたけど、未だに馴染めない事が多いんですよね。早苗の知っている常識とは違う事が多いし、生理用品を買おうにも里の薬局に置いてないし」

「……せいりようひん?」

「あ、いえ、今のは失言でした気にしないで下さい」

 

何か言ってはいけない事でもいったのか、守矢の巫女は珍しく慌てて否定してくる。

里の薬屋なんて行った事がないから何を売っているのか知らないが、薬が欲しいなら永遠亭にでもいけば良いだろうに。もしかして竹林の正しい道順を知らないのか。

 

「それにしてもまだ馴染めてないってのは意外だな。一年も経てば慣れると思うけど」

「やっぱり早苗の知っている常識とは違うというのが一番大きいですね。見当違いな事を言って恥を掻く事も多々ありますし」

「外の常識に囚われすぎているのか。郷に入りては郷に従えともいうし、もう少し幻想郷の事を学んだら如何だ?」

「そうですね。……ところで、確かリュウさんも外の世界からやって来たんですよね?」

「あ~一応そう言う事になるな」

「それじゃこの世界に来て困った事が起こったときは如何していたんですか?」

「困った事が起こったときの対処法か……」

 

守矢の巫女に尋ねられて昔を振り返ってみるが、コレといった対処法が思いつかない。

確かにコッチに来た時は見るもの聞くもの全てが初めてだったけど、霊夢の奴が居てくれたからコレといって困ったことは起こらなかった。

そもそも俺が旅をしていた世界の生活水準も外の世界からすれば幻想郷と大差ないし、惑星自体が違うから守矢の巫女みたいに常識に囚われる事もなかったな。

……駄目だ。どれだけ考えても彼女の為になる様な事は何一つ思い浮かばねぇ。

 

「……あ~すまん。俺の場合は霊夢が居てくれたから困った事にならなかったわ」

「そうなんですか、残念です。…………ん? 霊夢さんが居てくれたからって、お二人は一体何時頃から同棲しているんですか?」

「何時からって初めて会った時からずっとだぞ。あと、同棲じゃなくて居候な」

「初めて会った時からって、えぇッ!? そんな昔から一緒に暮らしているんですか!?」

「そうだけど、それがどうかしたのか?」

 

そんなに驚く様な事ではないと思うが、守矢の巫女はなぜか知らないが凹んでいる。

今の会話のどこに彼女を凹ませる様な要因があるのか分からないが、彼女が幻想郷に馴染めない原因は常識が違う以外にもありそうだな。

 

「どうして早苗と霊夢さんではこうも差があるんでしょうか。幻想郷に来る以前から親しい異性の友人なんて一人も出来た事なんてないのに。ましてや同棲できるほどの関係の男性なんてとてもとても」

「だから同棲じゃなくて居候だって言ってるだろ」

「外の世界じゃ緑色の髪なんて他に居ないから良く苛められてたのに、霊夢さんはリュウさんと楽しく過ごしていたなんて……なんて羨ましいッ」

「……頼むから俺の話しを聞いてくれよ」

 

あまり守矢の巫女と話したことがなかったから分からなかったけど、コイツもしかして一度暴走すると中々止まらないタイプなんじゃないだろうか。もしそうだとするとかなり面倒だな。戦闘狂よりはマシだけど。

 

「早苗だって青春を謳歌したかったのにその機会もなく、少ない時間をやりくりして神社でのお仕事を片付ける毎日。親しくなれた友人とも遊ぶ時間がとれず疎遠になり、灰色の青春を過ごしてましたけど本当は早苗だって海に行ったり遊園地に行ったりしたかったんです! 恋人だって作りたかったんです!!」

「酒を飲んで酔っ払ってるんじゃねぇだろうなコイツ」

「でも、早苗以外に神社の仕事を出来る人は居なかったし、こんな髪だから余り目立つ事をするといじめの対象になるしって、ちょっと聞いてますかリュウさん!」

「あぁうん、聞いてる聞いてる。……まぁ過ぎ去った時間を戻す事はできないが、恋人を作ることは今からでも出来るだろ? 里の連中にも覚えられたみたいだし、あの二人も今すぐ消えるわけじゃない。だったら少しは自分の事に時間を使っても罰は当たらんだろ」

「……本当にそうでしょうか」

「嗚呼。アイツ等もお前を労いたいって言ったしな」

「今からでも間に合うんでしょうか」

「間に合う間に合う」

 

適当な事を言って守矢の巫女を宥めてみると思いの外効果があったらしく、先程までとは打って変わって明るさを取り戻した。

 

「そうですよね、まだ間に合いますよね! 早苗の青春はこれからですよね!」

「あぁうん、きっとそうなんじゃないか」

「有り難う御座います、リュウさん。言いたい事をいったら気持ちが軽くなりました」

「そりゃよかったな」

「はい! もう年末ですけど、心機一転して頑張りますよ! ……あ、でも恋人ってどうやって作るんだろ?」

「俺が知るか」

 

やっと守矢の巫女の暴走が止まった。その一心から俺は大きな溜息を吐く。

外の世界で起こった出来事や幻想郷に引越してきて不満も堪っていたんだろうけど、そのはけ口にされるだなんて堪ったもんじゃない。

そう言うのはもっと身近な奴に言ってもらいたいが、彼女の最も身近な奴っていうと八坂と洩矢だよな。さすがにあの二人にこんな事は言えないだろうな。

だから不満と溜める事しかできなかったわけだが、この分だと彼女の夫になる奴は苦労するだろうな。

 

―ぐぅ~……―

「そういや、まだ飯食ってなかったな」

 

守矢の巫女の愚痴を聞いていた所為で晩飯を食べていなかったことを思い出した。

折角のパーティーなのに飯をまともに食えないって一体如何言う事なんだろうか。てか、俺が窓際に来たのは彼女の愚痴を聞くためじゃなくて、ひっそりと飯を食うためだ。

やっとその目的を果たす事が出来ると、すっかり冷めてしまっている料理を食べ始めようとすると―――

 

「あ、やっと見つけたわよリュウ!」

 

―――物凄くタイミング悪く霊夢に見つかってしまった。

せめて飯くらい食べさせてもらいたいもんだが、あの感じからしてきっと無理だろうな。

 

「まったく、こんな所で何してんのよ。探したじゃない」

「あ~……守矢の巫女とちょっとした雑談を」

「早苗と雑談? 随分と珍しい組み合わせだけど、どういう繋がりよ」

「繋がりも何も、俺が窓際に来たら彼女が先に居たってだけの話だよ」

「そうなの。アンタが急に居なくなったから心配したじゃない」

「悪い。でも、レミリアの奴から逃げるにはあぁするしかなかったんだ」

「逃げるくらいなら喧嘩なんて売らなければいいでしょうに。……まぁ気持ちは分かるけど」

「だろ?」

 

霊夢も同じ様な気持ちだったのか、二人して思わず頷いてしまう。

妹よりも小さいのかなんて流石に言えないが、つい哀れんでしまうよな。

 

「あの、霊夢さん。一つお聞きしても良いですか?」

「ん? なによ」

「変な質問だと思うかもしれませんけど、恋人って一体どうやって作るんですか?」

「は? ちょっとリュウ、こいつ一体何を言ってるのよ」

「色々と遭ったんだよ。とりあえず相談に乗ってやってくれ」

「ふ~ん……。でもそんな事を聞かれたって分からないわよ」

「それじゃ恋愛相談が出来そうな人って誰か知りませんか」

「知らないわよ。でも恋人を作る気があるなら速めに動かないと不味いわよ」

「そうなんですか? まだ危機感を覚えるような年齢じゃないと思うんですが」

「何言ってるのよ。幻想郷じゃ二十歳から年増って呼ばれるのよ」

「……えっ?」

「二十代前半ならまだ望みは有るけど、二十五を過ぎたら絶望的でしょうね」

 

霊夢から告げられた思い掛けない言葉を聞いて守矢の巫女は固まってしまった。

今のは俺も初めて聞いたが、思い返してみると里の女性って若くして嫁入りしてる様な気がする。

ウチの神社で挙式をあげる奴なんて居ないから分からなかったけど、そういう事情があったりしたのか。

 

「さ、早苗はまだ十代だから全然大丈夫です」

「そんな事いって楽観視してるとあっという間に時間が過ぎて行くわよ。それにアンタって異性との付き合いが凄く苦手そうだし」

「れ、霊夢さんにだけは言われたくありません!!」

「ちょっとそれどういう意味よ!」

「いや、言葉通りの意味だろ」

「アンタねぇ……ッ。兎に角これで相談は終わり! それじゃリュウを連れて行くわよ」

「ちょっと待て。俺はまだ飯を食い終わってないぞ!」

「そんなのアッチで一緒に食べれば良いじゃない。それじゃ、アンタはアンタで頑張りなさいよ」

 

霊夢に腕を捕まれ、俺は為す術もなくそのまま何処かへと連行されてしまう。

守矢の巫女は呆然とこっちを見送るだけで引き止めることはなく、霊夢も言葉がよっぽど響いた様子だった。

正直な話し、飯を食べるなら何処でも良かったと思うんだ。態々移動する必要なんてないだろ。

別に今は酔っ払っているわけでもなさそうだし、やっぱり女ってのは良く分からん生き物だな。

 




昔何処かで見た情報だと明治頃の女性は17~19歳くらいで結婚していたとかなんとか。博麗大結界が張られたのも明治時代だし、幻想郷の女性の結婚適齢期もこの辺りじゃないかと。
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