竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第百八十六話 消えぬ明星

 

気が付けばもう年の瀬の大晦日。今年も色んなことがあったが、例年と大差ない様な気もする。

変わった事といえば衣玖が天人と縁を切り、俺の従者として正式に仕える様になったくらいだが、前々から神社に通っていたから正式に従者になっても何かが変わったわけじゃないんだよな。そう考えると今年も何事もなく一年が過ぎたわけか。

 

「……ま、平和だったから別に良いか」

「平和でしたって、神社が倒壊したり地底から怨霊が湧き出てきたのは大事件だったと思いますが……」

「去年の大晦日の事件と比べれば平和だったってことじゃないの」

「あの事件と比較するのは如何なものかと」

 

一緒に居間でだらけていた霊夢と衣玖からツッコミが入るが、実際に平和だと感じてしまったのだから仕方がないと心の中で言い返しておく。

しかし、去年の事件は本当に大変だったな。何が一番大変だったかっていうと事件後の里の住人の反応が急変したことが一番大変だった。

天照の所為で事件後からは親しくしていた八百屋のおっちゃんが敬語を使うようになったり、里を歩くたびに爺さん達から手を合わせて崇められるようになったりで、すんごく居心地が悪かった。

幻想郷では人妖問わず龍神を信仰しているとは聞いてたけど、まさかあそこまで急変するとはな。信仰は時に人を変えるってどっかで聞いたけど、アレは変わりすぎだろ。

 

「あ~ぁ、早くあの事件が風化してくれねぇかな~」

「き、急に話しが変わりましたね」

「去年の事件を思い返してるんでしょ。私としては今のままでいいと思うけどね。母さんも神社の株が上がったって言ってたし」

「霊夢さんの場合はそれだけではありませんよね」

「うっさい。……っと、そろそろいい時間ね。それじゃ私は儀式を行うから邪魔をしないでよ」

「わーってるって」

 

霊夢は席を立ち、そのまま居間から出て行った。

準備は既に終わっている筈だから、あとは道具を外に出して儀式を行うだけ。毎年恒例行事とはいえ、こんな寒い中よくやるもんだと改めて感心する。

 

「あのリュウさん。霊夢さんは一体何をしに行ったのですか? もうすぐ日付も変わりますのに」

「ん? あぁ、そういや衣玖は初めてだっけか。霊夢のやつは星神を封印しにいったんだよ」

「……色々と省略されていてなんの事だか分からないのですが」

「そうはいっても俺も詳しく知ってるわけじゃないからな。この儀式をやらないと闇の力が強くなって妖怪の年になるって覚えとけばいいだろ」

「なるほど。それでは大変重要な儀式をいえるのですね」

「そうだな。夜明けまでずっと行うからかなりの長丁場になる」

「い、今から夜明けまでですか」

 

儀式の長さを知って衣玖も珍しく引き攣ったような顔をする。

この時期は日暮れは早いが日の出は夏なんかに比べるとかなり遅い。例年の事を考えると大体6時間以上は外で立ちっぱなしになる。

俺も初めてあの儀式に立ち会った時はあまりの長さに途中で部屋に引っ込んで寝てたからな。あれは相当な根気のいる儀式だ。

 

「それだけ長時間執り行うと言う事は、かなり大掛かりな儀式という事でしょうか」

「時間は掛かるけどそんな大した事はやってないぞ。境内にちょっとした祭壇を作って祝詞を読むだけだ」

「霊夢さん、よく続けられますね」

「まったくだ。普段はめんどくさがって大した事やらないのに、この儀式だけは毎年欠かさずやってるからな」

「その根気をもっと他の事にも回せればよいのですが……」

「言ってやるな。ま、かなり時間の掛かる儀式だから先に寝ててもいいぞ」

「ですが、リュウさんは儀式が終わるまで起きているのでしょう? でしたらわたくしだけ先に寝てしまうわけには参りません。わたくしも最後まで起きいます」

「別に寝ても怒りはしないが……まぁいいか。それじゃ衣玖、茶を一杯頼む。なるべく渋いのをな」

「畏まりました」

 

衣玖は礼儀正しく一礼すると席を立ちそのまま台所へと向かう。

眠気覚ましにお茶を頼んだのはいいが今から夜明けまではかなり時間がある。これといってやる事もないし、適当に本でも読んでいるしかないか。

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

霊夢が儀式を始めてから数時間が経過した。日の出にはまだ遠く、夜の気配が強い。

暇潰しに本を読んでいるのはいいが、既に何度も読んでいる本ばかりだから新鮮味がなくて正直つまらん。

里の貸本屋が営業を再開していたら本を借りれたんだが、あそこの貸本屋ぼったくりだと言いたくなる位の値段だからな。あんまり利用したくない。あの小娘、人の足元を見やがって……。

やっぱり本を購入するなら森近さんのところに行くのが一番だよな。

既に読み飽きた本のページを捲りながらそんな事を考えていると、ふと神社周辺からおかしな気配を感じた。

妖精のものではないし、妖怪のものとも似ているけど何かが違うけど何処か懐かしい。そんな不思議な気配。

この時期のこんな時間帯に来客とは思えないし、十中八九厄介事だろう。

まったく元旦は平穏に過ごさせて欲しいもんだが、向こうからしたら知った事じゃないってわけか。

 

「……やれやれ、面倒だな」

「如何かされましたか、リュウさん」

「いや、大した事じゃない。ちょっと掃除してくるだけだ」

「こんな時間に掃除……ですか」

「嗚呼。なに、夜明けまでには終わる。そんな心配するな」

「……分かりました。どうかご武運を」

 

衣玖の言葉を背に受け、俺は居間を出て自室に置いておいた上着を叢雲を手に外に出る。

外は風もなく雪も降っていないが気配がさっきよりも増えている感じだ。

紫もやしがまた何かやらかしたのか、地底から怨霊が湧き出してきたのかは知らないが、なにもこんな時にやってこなくても良いだろうに。

思わず溜息を吐いてしまうが、そんな事をしたって事態は何も変わらないのは目に見えている。

霊夢の奴は儀式の最中で今動く事は出来ないし、アイツに心配を掛けるわけにもいかないからさっさと済ませてしまおう。

霊夢の奴に気取られぬように裏から回って気配の元へと向かおう。

すっかり雪で覆われた道なき道を突き進んでいくと、異様な気配を発するものの正体が見えてくる。

一つ目の鬼に骸骨の騎士、中身のない甲冑に大鎌をもった骸骨と、なんとも統一感の無い連中が山を登ろうとしている。

幻想郷でも見かけない連中だし、外の世界からやってきた妖怪にしては自我を感じない。

獣ほどの知性があるのかも怪しい連中だが、薄気味わるい気配を漂わせてこの山を登ろうとしてんじゃねぇよ。

 

「止まれ。それ以上進めば全員斬り捨てるぞ」

 

奴等の前に出て念のために最後通告を出しておくが、言葉が通じないのか奴等は止まろうともしない。

それどころか俺の姿を確認した途端、各々が持つ武器を構えて臨戦態勢をとった。

 

「■■■■■■■■ーッ!」

 

一つ目の鬼が雄叫びを挙げる。しかしその雄叫びは聞き苦しく、獣の咆哮の方がまだ品がある。

余りにも聞き苦しかった為、俺は一瞬の内に間合いを詰めて鬼の首を刎ね飛ばした。

 

「喧しいぞ木偶の坊。少しは時間を考えろ」

 

首を刎ね飛ばされた一つ目の鬼は反撃してくることもなく、地面に倒れ消滅する。

残りの連中は仲間が倒されても動揺の色を見せず、臆する事無く俺に斬り掛かって来る。

元々獣ほどの知性を持ち合わせていない連中だ。最初から仲間意識なんて物は持ち合わせていないのだろう。

現に俺に斬りかかろうとしているコイツ等もバラバラで、連携なんて考えてもいなさそうだ。

 

「……はぁ、これなら獣を狩っている方がまだマシだな」

 

溜息一つ吐いてから上空に跳んで奴等の攻撃を躱し、地面に降りる勢いのまま大鎌を持った骸骨を斬り裂く。

そして直ぐに叢雲を振るって骸骨の騎士を斬り払い、そのまま中身のない鎧の剣を弾き落とす。

剣を弾かれた鎧は落とした剣を拾おうともせず殴りかかって来るが、それよりも早く鎧を粉々に斬り刻む。

斬り刻まれた鎧は細かな破片となって雪の上に落ち、塵となって消滅した。

先に斬り捨てた骸骨二体も既に消滅し、アイツ等が居たと思われる跡だけが雪に残っていた。

妖怪も死ねば遺体は残らず消滅すると聞いたが、コイツ等もその類だったみたいだ。

動物じゃないのはまず間違いないが……コイツ等は一体何処から来たんだ? 幻想郷はあちこち見て回ってきたがこんな連中は見た事がない。

鬼なら地獄にいけば居そうな気はするけど、知性の欠片も無い様な奴は流石に居ないだろ。

そうなると益々コイツ等の正体が分からなくなるが、どうやら俺に考え事をさせてくれる時間はないらしい。

 

「■■■■■■……」

「ったく、まだ居るのかよ」

 

唸り声が聞こえてきた方に顔を向けると、さっきと似たような奴等が山を登ろうと押し寄せてきていた。

一体や二体なら大した時間は掛からないが、流石に十や二十となると面倒な事になってくる。

いったいコイツ等が何処からやって来たのか気に為る所だが、今はそんな事を考えている場合でも無さそうだ。

 

「本当に面倒だな。……夜明けまでに終わらせないといけないんでな、遊んでやるつもりはねぇぞ」

「■■■■■■■■ーッ!!」

 

一つ目の鬼の雄叫びを合図に俺は地面を蹴って奴等に斬り掛かる。

数が増えたところで俺の敵じゃない。アイツ等に心配を掛けないためにもさっさと蹴散らさせてもらう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

全ての敵を斬り終った頃には夜も明け始めていた。

敵を二十体近く倒した頃から奴等も後退をし始めたが、人里を襲われても面倒だったから全て斬り捨てた。

お陰で無駄な時間を使っちまったけど、新年早々から妖怪退治の依頼が来ないだけマシか。

 

「ったく、雑魚の癖に手間取らせやがって」

「今回はアンタの手際が悪かっただけじゃないの」

「霊夢か。儀式の方はもう良いのか」

「えぇお陰さまで」

 

一仕事を終え、一息ついていた所に霊夢がやって来た。

儀式の方は無事にやり遂げたみたいだが、夜中に戦っていたのがばれているのか若干不機嫌だ。

バレない様に静かに戦っていたつもりだけど、霊夢相手に気付かれないようにするってのは無理な話か。

 

「全く新年早々から何やってんだか。アンタならもっと早く片付けられたでしょ」

「まぁそうなんだが思いの外敵の数が多くてな」

「だったら私を呼ぶか、衣玖に手伝ってもらえば良かったじゃないの」

「儀式の邪魔をする訳にもいかなかったし、衣玖の技は色々と目立つからな。夜中に使う技じゃない」

「確かに雷撃系ばっかりだもんね、衣玖の技って」

「悪いわけじゃないんだけどな」

 

衣玖の技の事を思い出しながら二人で笑っていると、地平線の向こうから太陽が昇り始めた。

空が明るくなっていく中、今も太陽に負けじと輝き続けている星の姿が眼に入る。

明けの明星なんていわれている星だが、アレが太陽に負けてくれないと今年は妖怪の年になってしまうらしい。

まぁ霊夢も儀式を執り行っていたし、天照の奴も頑張っているだろうから大丈夫だろうと楽観していたが、何時まで経っても明星は負ける事無く輝き続けていた。

 

「あれ、嘘でしょ!? 私、ちゃんと儀式を執り行ったわよ!」

「……天照のやつ、サボったのか」

「どっかの門番じゃないんだからそんな訳ないでしょ。あ~でもこれは結構凹むわ。今まで儀式に失敗したことがなかっただけに余計に凹む」

「今から天照の代わりに俺が星神を討伐してくるか?」

「そんな事をしたって結果は変わらないわよ。でも、今回の件は母さんにバレない様にしないと。バレたら説教三時間じゃすまないわよ、絶対」

「……結局はそこかよ」

「妖怪の年になってもアンタが傍に居てくれるもの。どうにでもなるわよ」

 

霊夢はそう言って笑いかけてくるもんだから、俺もつられて笑い返してしまう。

そう言ってくれるのは素直に嬉しいけど、やっぱり儀式に失敗した事よりも母親に怒られる事を心配するのはどうかと思う。……霊夢らしいといえばらしいが。

太陽が昇っても輝き続ける明星を見ながら、今年は面倒な一年になりそうだと心の中で溜息を吐いた。

 




……あと三十話くらいかな
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