竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第百八十八話 蓬莱人形

アリスSide

 

何時もの私の家、何時ものダイニング。本当に何時もと変わらないはずなのに、あの子の所為で何もかもが一変してしまった。

 

「そんなに怖い顔をしないでアリス。一緒にお茶を楽しみましょう」

「……この状況でどう楽しめって言うのよ」

 

私は目の前に居る人形『蓬莱』に睨みを利かせるけど、蓬莱は動じず楽しそうに笑うだけ。

この子を睨んだところでどうにも為らないのは分かっているけど、状況が状況なだけにささやかでも抵抗をしたくなる。

上海とはこうして談笑していたから人形とお茶をするのに違和感は感じないけど、今の私は椅子に糸で縛り付けられ、自分の人形に私の意志とは関係なく世話を焼かれている状態。

外の様子を窺おうにも、窓には大量の糸で覆われている所為で外がどうなっているのかも分からない。

人形に世話をしてもらうのは別に構わないけど、人形に反乱されたという事実が無性に腹が立つ!

 

「そんなに怖い顔をしないでアリス。ワタシは漸く貴女とお話できて凄く嬉しいんだから」

「だったら私を今すぐ解放して。それに上海を壊そうとするのも止めて」

「それは出来ないわ。貴女を解放したらワタシを壊そうとするでしょうし、上海なんて要らないもの」

「要らないって……上海は貴女にとって妹みたいなものなのよ! それなのに!」

「要らないわよ、あんなの。それにこれはワタシだけの意見じゃなくて皆の総意なのよ」

「みんな…の?」

「えぇ。貴女が作ってくれた人形たち皆の」

 

蓬莱がそういうと私が作った人形たちがわらわらと集ってくる。

弾幕ごっこの為に、魔法の研究の為に作ってきた人形たちが何かを訴えるように無機質な目で私の事をジッと見つめてくる。

 

「上海が出来るまでは良かったわ。アリスは皆の事を大切にしてくれた、平等に可愛がってくれた。出来損ないのワタシの事も大事にしてくれた。……でも、アレが出来てからはアリスは変わった。上海ばかり大切にして、上海ばかり可愛がって、上海の為だけに研究するようになった。今までアリスがワタシ達にくれていた愛は全部あの子が独り占め。そんなの許せるわけないじゃない」

「そ、それは違うわ! 確かにあの子を元に研究する事は多くなったけど、それは皆を上海の様に自我を持たせるためで!」

「だったらワタシ達を蔑ろにしても良いの? 研究のためならワタシ達はどうでも良いの?」

「それは……」

 

私は何も言い返すことが出来なかった。研究の為に他の子たちを蔑ろにしていたのは事実だから。

研究の為に部屋に篭るときは人形たちの事は上海に任せていたけど、まさか人形たちがこんな事を思っていただなんて。上海以外の人形に自我はないし、私が操らない限り動けない人形ばかりだったから。

 

「でも悲しまないでアリス。ワタシ達は貴女の事を怒っているわけでもなければ、憎んでいるわけでもないの。ただアレの存在を許せないだけ。だから壊すの。アレの身体をバラバラに切り刻んで、粉々に為るまで砕き続けて最後は灰も残らないくらいに焼却するの。そうすればあの頃に戻れる、ワタシ達を愛してくれていたあの日々が戻ってくるわ」

 

本当に嬉しそうにいう蓬莱の言葉に同調するかのように、私の人形たちが一斉に拍手をしてくる。

無機質な眼のまま、人形たちの乾いた拍手が部屋中に響き渡る。

人形たちの拍手を一心に受ける蓬莱の嬉しそうな姿を見て私は恐怖と絶望を同時に味わった。

私は人形の自立化を目指して魔法の研究を続けてきた。好きな人形が動いている姿が見たくて、あの子たちをお話してみたくて……。ただそれだけの理由だったのに如何してこんな事に……。

私の研究は間違っていたのだろか。思わずそう考えてしまうと頬を冷たいものが伝う。

 

「如何したのアリス。なんで泣いているの? あ、もしかしてアリスもあの頃に戻れるのが嬉しいのね!」

「……違う、そうじゃないわ」

「そうなの残念。ならお腹でも空いた? 折角のお茶会なんだし、お菓子も食べたいわよね」

「………………」

「待ってて、今すぐ用意するから。ほら、皆アリスの為にお菓子を作るわよ」

 

蓬莱の号令を合図に周りに居た人形たちは台所へと向かって移動する。

蓬莱も台所へ行ってしまい、ダイニングに残ったのは私を私の世話をしている人形だけに為った。

私はただ台所へと向かう蓬莱の後姿を見ることしか出来ず、悔しさと悲しみで胸が一杯に為る。

人形遣いなのに人形を制御する事も出来ず、やっと話せる様になった蓬莱に私の気持ちは届いていない。

こんな筈じゃなかったのに、如何してこうなってしまったのだろう。そんな思いから涙が止め処なく溢れてくる。だけど人形たちは私の思いとは関係なく世話をしてくる。

御世辞にも上手いとはいえない手つきで機械的に世話をしてくる人形たち。

私のやって来たことはなんだったのだろう。この子たちを見ているとそう思ってしまう。

何も出来ず悲しみに暮れていると―――

 

「おい、アリス! 助けに来たぞ!」

 

―――外から彼の声が聞こえてきた。

 

アリスSide out

 

 

 

 

 

 

 

 

リュウSide

 

「おい、アリス! 助けに来たぞ!」

「……いや、聞こえてる分からないだろ」

「そうかもしれんが、それでも声を掛けるしかないだろ」

 

魔理沙に頼まれて魔法の森のアリス邸にまでやってきたが、事態は俺の思っていた以上に面倒な事に為っているみたいだ。

誰も出入りさせないつもりなのか、アリスの家には大量の糸が巻きつけられていて、人が出入りできそうな箇所は全て封鎖されている。

コレだけの糸をよく保管していたもんだと感心するが、魔理沙が言っていた人形の姿は何処になかった。

恐らくアリスを家に居るんだろうけど、あの大量の人形が家の中を蠢いているのかと考えると気味が悪い。

まったく、ちゃんと人形の整理をしないからこういう事に為るんだ。この件が片付いたらその辺りの事を言い聞かせておかないとな。

 

「その声はリュウ!? 貴方そこに居るのね!」

「うお、ちゃんと届いてた」

「魔理沙も一緒なの!? ちょっと魔理沙、上海は如何したのよ!」

「リュウの家に預けてきたから大丈夫だって。それよりもアリスは平気なのか?」

「私は大丈夫。……お願い二人共、全部壊して」

「壊すっていったい何を?」

「私が作った人形を壊して! 一つも残さずに全部!」

「アリスの人形をって、いきなり何を言ってるんだよお前!」

「訳なんていい、とにかく全部壊して! あんなのはもう見たくないのよ……」

「あーうー……。どうするよ、リュウ。なんかアリス変だぞ」

 

アリスは泣いているのか、懇願してくる言葉から深い悲しみが伝わってくる。

俺達が来るまでの間によほどの事が遭ったのだろう。でなけりゃ、人形好きのアリスが自分の人形を壊してなんて言うはずが無い。

妖怪は精神的な攻撃に弱いと昔聞いたことがあるが、魔界の住人のアリスもそう言うのは駄目なんだろう。

 

「とにかくわたしとリュウで助け出すから、お前は其処で大人しくしてろよ。いいな!」

「………………」

「ほら、行くぞリュウ」

 

居ても立ってもいられなくなった、魔理沙はアリスを助けに家に近付こうとする。

俺もその後に続こうとした矢先、魔理沙の足元の雪が盛り上がっていることに気付いた。

俺は咄嗟に魔理沙の襟首を掴んで強引に後ろに下げると、雪を撥ね飛ばして槍を持った数体の人形が飛び出してきた。反応があと少し遅れていたら槍が魔理沙の身体を貫通していただろう。

 

「あっぶね! 悪い、助かったよリュウ」

「礼なら後だ。まだまだ来るぞ」

 

俺は掴んでいた魔理沙の襟首を放し、叢雲を取り出して背後から迫っていた剣を持つ数体の人形を吹き飛ばす。

吹き飛ばされた人形は気に激突して動かなくなるが、剣を振り抜いて出来た隙をついてさっきの槍を持った人形たちが俺に襲い掛かってくる。

 

「こんにゃろッ!」

 

魔理沙は持っていた箒で槍の人形を殴りつけるが、一体しか攻撃できず残りは通してしまう。

槍を持った人形は俺の腹を貫こうを槍を繰り出すが、それよりも早く槍を切り裂いて人形の武器を無力化する。

武器を切られても人形は構わず攻撃してくるが、特に痛みもなく体に纏わり付かれて鬱陶しいから適当に放り投げておく。

これで第一陣の攻撃が終わったのかと思いきや、アリスの家から人が通れない様な小窓から無数の人形が現れ、上空で俺達の事を見下ろしていた。

 

「……おいおい、どんだけ居るんだよ」

 

大量の人形に呆れながら呟くと、上空の人形たちは俺達に向かった闇色の弾幕を展開してくる。

一体一体が繰り出す弾幕は大した量じゃないが、五十・六十の人形が同時に繰り出せばかなりの量になる。

全て避けきるには少々無理があると判断した俺は、魔理沙の前に立ち迫って来る弾幕を叢雲で切り裂いていく。

切り裂かなかった弾幕が地面に当たり雪を舞い上げ、目の前が白の下地に黒の点がある変な景色に為った。

闇色の弾幕のお陰で雪が舞い上がっても見失わずに済むが、眼にはかなり悪そうだ。

迫り来る弾幕を全て斬り裂いて次弾がない事を確認した俺は即座にその場でしゃがみ込んだ。

俺という障害物がなくなった事で魔理沙は上空に居る人形たちに向けて魔法の光線を放つ。

放たれた光線は舞い上がる雪を貫いて空へと伸びていくが、小さな人形たちには当たらず吹き抜ける風に煽られた程度に留まった。

 

「おい、魔理沙。ちゃんと当てろよ」

「うっせッ! わたしは霊夢と違ってホーミングとか苦手なんだよ!」

「じゃあ頑張って開発しろ」

 

そういって魔理沙の足を払い強引に転ばさせ、叢雲で振り下ろされた巨大な剣を受け止める。

後ろを振り返るとアリスが作った巨大化する人形『ゴリアテ』が剣を振り下ろしていた。

 

「つぅッ」

「リュウッ!」

「俺の心配よりも……さっさと移動しろ」

「あ、あぁ!」

 

俺に促されて魔理沙は慌てて巨大な剣の下から非難する。

魔理沙が移動したのを確認してから叢雲の上を滑らせようとしたが、ゴリアテの力が強すぎるのか剣がピクリとも動きやしない。

叢雲はちゃんと手入れしているからゴリアテの剣に細工でもしてあるんだろうが、とにかく重い。

 

「くっそ、この人形こんなに重かったか?」

「女の子に重いとか言っちゃ駄目だよ、おとーさん」

「あ?」

 

聞きなれない声に顔を上げるとアリスの家の玄関に上海そっくりの人形がいた。

サイズと服の色が違う事を覗けば上海を瓜二つだが、上海以外に喋る人形が居るだなんて俺は聞いていない。

それに他の人形とは違って変な違和感も在るし、アレが今回の事件の犯人か。

 

「こうしてお話するのは初めてだよね。ワタシの名前は蓬莱。宜しくね、おとーさん」

「確かに初めましてだが、俺は人形の娘を持った覚えはないぞ」

「うんん、貴方はワタシのおとーさんだよ。だって、貴方が教えた魔法でワタシは生まれたんだから」

「……なるほど。その理屈で言えば、アリスの奴がお母さんって事になる訳か」

「そうだね。なら今度からはそう呼ぼうかな」

 

蓬莱と名乗る人形は俺の発言を聞いて楽しそうな笑みを見せる。

姿形は上海の奴によく似ているがやっぱり別物だな。アイツは楽しそうに笑ったりはしない。

 

「おい、リュウ」

「あ、なんだよこんな時に」

「この場に霊夢が居なくて良かったな」

「……それを言うな。確かにその通りだけど」

 

別に今言う必要のない事だが、アイツが居たら間違いなくややこしい事になっていただろうな。今回ばかりは霊夢を引き止めてくれた先代に感謝だ。

しかしゴリアテのやつ重いな。変身すればこの程度どうってことは無いが、向こうもそんな時間を与えてくれるわけもなく、人形たちがアリスの家から更に出現してくる。

魔理沙の周りもすっかり取り囲まれちまったみたいだし、槍と剣を持った人形たちが俺の事を狙っているし、あまり悠長に構えていられないか。

 

「おい、アリス。最後にもう一度だけ聞いておくが、本当に壊してもいいんだな」

「………………」

「俺達が来るまでの間に何が遭ったのか知る気はないが、自暴自棄になっているだけなら頼みを聞く気はない。だからもう一度聞くが、本当に壊しても良いんだな」

「……お願いリュウ、全部壊して」

「そうか。だったら後悔するなよ」

 

俺はアリスの悲痛な願いを聞き入れ、剣に纏わせていた力を消し叢雲の刃を解放する。たえだそれだけの事で重しの様に乗っかっていたゴリアテの巨大な剣を両断した。

巨大な鉄の塊が目の前の地面に突き刺さり、急に力を込める先が無くなった事でゴリアテがバランスを崩して前のめりに倒れこんでくる。

巨体のまま倒れこんでくるゴリアテをアリスの願いどおりバラバラに切り裂き破壊した。

そして一息つく暇もなく槍と剣を持った人形たちが迫って来るが、十体程度なら大した問題にもならない。

叢雲の間合いに入った人形たちを斬り捨て、刃を返して上空に浮んでいる人形たちに斬撃を飛ばして斬り落とす。

斬り捨てた人形たちは地面に落ち、上空の人形たちは屋根にぶつかって鈍い音を立てる。

人形たちは俺の事を脅威だと認識したのか、魔理沙になど眼もくれずに一斉に襲い掛かってくる。

鉄の剣を持つモノや鉄の槍を持つモノ、少し離れたところで弾幕を撃ってくるモノなど様々だが、今の俺に敵の数なんて関係ない。俺の間合いに入ったもの全てを斬り裂くだけだ。

間合いに入った人形たちに武器を構える時間すら与えず斬り裂き、弾幕を放ってきた奴には斬撃を飛ばして斬り落とした。

障害がなくなった隙をついて、アリスの家の前で陣取っている蓬莱に向かって駆ける。

邪魔に入る人形を斬り捨て、間合いに入った蓬莱を斬り捨てようと剣を振り下ろすが盾を持った人形が割り込んできた。

人形が持っている体格に合わない大きな鉄の盾。普通の剣なら受け止められるのだろうが、叢雲にとっては何の障害にもならない。

盾ごと人形を斬り捨て、このまま蓬莱を斬り裂こうとしたが後ろに回りこまれ、大きく間合いを離されてしまった。

 

「あ~ぁ、ワタシの友達がバラバラになっちゃった。娘の友達を斬るなんてちょっと酷いんじゃない」

「だから俺は人形の娘を持った覚えはないし、その程度で揺さぶられやしない」

「貴方が何度否定してもワタシは貴方の娘だよ。いい加減認知して欲しいんだけどなぁ~」

「そんなの知るか」

 

蓬莱の言葉を呆れながら否定しつつ、玄関に纏わりついている糸だけを斬り裂く。

 

「あ、ずるい!」

「知るか。魔理沙、アリスの救出はお前に任せる。俺はあの口うるさい人形を壊す」

「任された!」

「そんな事させない!!」

 

蓬莱の怒声が当たりに響き渡ると、その声に反応するかのように俺が斬り捨てた人形たちが再び動き始める。

斬られたパーツがまるで磁石の様にくっ付き、壊される前と何ら変わらない姿へと戻る。

普通の人形だけではなくゴリアテも元通りに直っている。糸か何かでくっ付けた様には見えないし、蓬莱の奴が何かしたのか。

 

「うおッ!? 人形が独りでに直りやがった!」

「驚いている暇があるならさっさと構えろ。……来るぞ」

 

直った人形たちは脅威である俺と、アリスを助けようとする魔理沙に向かって攻撃を開始する。

何度直ろうともまたバラバラに斬り裂くだけだが、同じ様に人形たちも何度斬られてもまた元通りに直る。

魔理沙も箒を片手に応戦するものの、人形たちは何度弾き飛ばされても怯む事無く立ち向かっていく。

どれだけバラバラにしても、魔理沙の光線で撃ち抜こうとも何度でも復活してくる人形たち。際限なく復活してくる人形ってのもある種ホラーだが……さて、どうしたもんかな。

 

「あーもう、鬱陶しい! リュウなんとかしろよ!」

「なんとかって……。それならお前がマスパを撃てばいいだろ」

「コイツ等そんな時間もくれねぇじゃねぇか!」

「それもそうだな」

 

魔理沙の抗議を聞き流しながら人形を斬っていると、さっき壊した筈のゴリアテが参戦してくる。

俺に纏わりついている人形たちなど気にも留めず、ゴリアテはその巨大な拳を振り下ろす。

動きが緩慢なため避けることは難しくはないが、ゴリアテの拳に巻き込まれて幾つかの人形が粉々に砕け散る。

原形も留めない位に細かな破片になった人形たちだが、破片となった状態からでも元通りになる。

粉々になった人形は再び俺に向かって来るが、ちょっとした衝撃で直ぐに粉々になってしまう。

それでも身体を修復しながら俺へと立ち向かってくるその姿は余りにも痛々しいものだった。

しかし周りの人形たちはそんな事気にもせず、俺達へと攻撃を続けてくる。

 

「アリスは、アリスは誰にも渡さない。そのための力を神様がくれたんだから!」

 

泣き喚くように蓬莱は悲痛な声を挙げて叫ぶ。その声に反応するように人形たちの攻撃も苛烈さを増していく。

小さな人形たちがちょこまかと俺の周りに纏わり付き、動きが止まったところをゴリアテが殴りかかって来る。

ゴリアテの攻撃で俺が手を下さなくても人形たちが砕けていくが、直ぐに治ってしまうから数が一向に減りやしない。

普通はあそこまで粉々になれば直せないはず。糸で如何こうなる様なレベルじゃないし、考えられるとすれば魔法か何らかの能力ってところか。……ちっとばかし賭けに出てみるか。

 

「……おい、魔理沙! お前いま自分自身になんか魔法を使っているか!」

「あ? なんだよ急に」

「いいから、いま自分に魔法を付与してるのかって聞いてんだ!」

「使ってねぇよんなもん! てか、わたしはそっち系に魔法は未修得だ!」

「そうか。なら問題はねぇな!」

 

魔理沙から確認をとった俺は、攻撃の手を休め白い四つの球を四方に放つ。

攻撃の為に放ったわけではない球など人形たちは気にも留めず、変わらずに俺達への攻撃を続けてくる。だが、それは俺にとっても都合がいい。

人形たちがこっちを向いている隙に球を基点にして、この辺りを覆うように四角形の結界を展開した。

 

「こりゃ結界か? でも、なんも起こらねぇじゃねえか」

「……生憎とこれは攻撃の為の結界じゃないんでね。でも、ケリは着いたぞ」

「へっ?」

 

魔理沙の間抜けな声を合図に人形たちは動きを止め、バラバラになってその場に崩れ落ちた。

活動を停止しバラバラになった人形たちだが、今度は直ることもなく雪の地面の上で沈黙を保っている。

 

「……どうしたの皆。早くたってよ、このままじゃアリスが奪われちゃうよ!」

「無駄だ。俺の結界で人形に掛かっていた魔法を全部無効化したからな。そいつ等はもう動かない」

「魔法の…無効化?」

「あぁ。今の結界は攻撃する訳でもなければ、防御する為の物でもない。ただ結界の内側に入る奴全員に掛かっている魔法を無効化するだけだ。どうやって直しているのかまでは知らないが、人形を動かしているアリスの魔法だ。だったらそれを無効にすれば動かなくなるのは当然だろ」

 

本当は半分以上賭けだったが、読みが外れなくて良かった。

 

「……リュウ、お前って意外と魔法使いの天敵だったんだな」

「そこまで戦々恐々としなくていい。これは飽く迄肉体に掛かっている魔法を無効化するだけだ。攻撃や防御の魔法までは無効化出来ない」

「それを聞くと結構微妙な結界だな」

「あぁ。俺も有効に使えたのはコレが初めてだ」

 

カイザーが何故かこの結界を覚えていたんだが、イマイチ使い方が良く分からなかったんだよな。

あの世界で肉体に掛ける魔法が無い訳じゃないけど、この結界を発動するくらいなら素直に殴っていたほうが早く倒せるし、そもそも攻撃や状態異常以外の魔法を使う敵が少ない。……ホント、なんで覚えてたんだろ。

 

「さて、どうするんだ蓬莱。お前の友達はもう動かないぞ」

「……まだよ、ワタシはまだ負けてない!」

「お前の手駒はもう尽きただろうに。一人芝居に付き合ってやほど俺も暇じゃねぇんだ」

「ひ、一人じゃないもん! ワタシには皆が……ッ!」

「だから芝居だって言ったんだよ。第一この人形たちを動かしていたのお前だろ」

「……ッ!」

 

俺の指摘が的を得ていたのか、蓬莱は驚きを顕わにした。

 

「この人形たちを動かしてたのが蓬莱……って、この数全部かッ!?」

「あぁ。恐らくアリスの魔法に干渉して人形たちを動かしていたんだろ。ゴリアテの格闘の動きが去年暴走した時と似てたからな」

「そんな事ない! 皆上海の事が憎くて、皆で上海の事を壊してアリスの事を取り戻そうって!」

「そうか。だったらもう一つ教えてやる。……お前はもうアリスの人形じゃない」

「……えっ?」

「俺が張った結界は魔法を無効化するものだが、無効化範囲の中に当然お前も含まれている。魔法で動いている人形ならお前も他の人形の様に動かない筈だ。それなのに動けているって事は、お前は魔力で動いている人形ではなく人形が妖怪化した存在って事だ。魔法に干渉できる能力もそれが理由だろ」

 

蓬莱の正体は恐らく九十九神の一種なんだろうが、普通はこんなに早くものが妖怪化するとは思えない。

恐らくアリスが俺の教えた魔法を中途半端に成功させた為、人形の身体に自我だけが芽生えてしまったんだろ。

そしてアリスに大事にされる上海に嫉妬し、その内上海に憎しみを懐くようになり、さっき口走った〝神様〟とやらの所為で完全に妖怪化したってところか。

まったく、こんな事を仕出かしたのは一体何処のどいつだ? また守矢の連中じゃねぇだろうな。……いや、アイツ等がこんな事をしても何のメリットもないか。

アリス一人を信者にするためにこんな事をするくらいなら、もっと別の方法でより多くの者を信者にする方法を取るに決まってる。

 

「……まぁとにかく、お前はもうアリスの人形には戻れない。大人しく諦めて討たれろ」

「ちがう、ワタシはアリスのにんぎょう。ようかいじゃない。ワタシはワタシハ……」

「お、おいリュウ、なんか様子が変だぞ」

「ち~とばかし苛めすぎたか。まぁ斬り捨てるから如何でもいいけど。それよりも魔理沙、お前は早くアリスを助けて来い。今なら大丈夫だから」

「お、おう。その人形の事は任せたからな」

「へいへいっと」

 

今度こそアリスを助けようと魔理沙を向かわせると、蓬莱が闇色のオーラを纏って魔理沙に突撃してくる。

魔理沙に激突する前に蓬莱の顔を掴み、そのまま木々に向かって蓬莱を全力で投げ付けた。

木と激突した蓬莱は地面に倒れ、上から降ってきた雪に埋もれる。

 

「あっぶなッ!」

「一々振り返ってないでさっさと行け」

「わ、分かった!」

 

そう言って魔理沙が駆け出すのと同時に雪の中から蓬莱が飛び出してくる。

蓬莱は俺に眼もくれずアリスを助けようとする魔理沙に向かっていく。

そのまま蓬莱は俺の横を通り過ぎようとするが、俺は擦れ違い様に蓬莱の身体を斬り刻みバラバラにした。

斬り刻まれた蓬莱は闇色のオーラが霧散し、勢いをなくして雪の上に散らばる。

この間に魔理沙はアリスの家に入っていくが、蓬莱は身体がバラバラになっても家へと向かおうとする。

 

「ありす…ハわたしノ……。ダレニモワタサ……ナイ」

「その執念は大したもんだが、お前は手段を間違えた。上海を壊す必要なんて何処にもなかっただろ」

「わたし……ハありすノ……」

「それ以上は痛々しいだけだ。だからもう眠れ」

 

今回の一件を終わらせる為に剣を振り下ろそうとしたその時、茂みから上海が飛び出し蓬莱を庇い、俺は反射的に剣を止めてしまう

蓬莱がよく似た人形を盾にしているのかと思ったが、人形の身体に巻きついている包帯は俺と衣玖が神社で施したものだ。

何時壊れてもおかしくないくらいにボロボロなのに、こんな所でいったいなにをしてるんだ。

 

「……なにしてんだ、上海。神社で大人しくしてろ」

「リュウ、この子を壊しちゃ駄目」

「そいつはお前を壊そうとした人形だぞ。それを許そうってのか」

「許すとか許さないとかはよく分からない。でも、この子は壊しちゃ駄目」

「分かんねぇな。その妖怪の為にお前がそこまでする理由なんかないだろ」

「理由ならある。この子はわたしのお姉ちゃんだし、この子が壊れたらきっとマスターが悲しむ。他の子たちは壊れちゃったけど、この子まで壊れたらきっと立ち直れなくなる。だから壊しちゃ駄目」

「………………」

「わたしはマスターの悲しんでいる顔を見たくない。マスターには笑っていて欲しい。だから壊さないで」

 

上海は叢雲を前にしても一歩も引かず、蓬莱を壊さないでと、アリスを悲しませないでと頼んでくる。

そんな願いなんて聞かず、上海を退かして蓬莱を斬るのは簡単だ。……でも、それはするべきじゃない。

人でない俺が人道を語るのも変な話だが、ここで上海の願いを無碍にして蓬莱を斬るのはその道から外れてしまうな。

 

「……上海も人の悲しみを感じられる位に成長したってことか」

「リュウ?」

 

不思議そうに首を傾げる上海を他所に、俺は剣を引いて叢雲を仕舞った。

蓬莱はアリスを求めて家へと向かおうとしているが、コイツを如何するかはもう俺が決める事じゃない。

もうやることも無いし、そろそろ家に帰ろうとすると―――

 

「お~い、リュウ~。アリスを助けてきたぞ~」

 

―――タイミングよく魔理沙がアリスを連れて家から出て来た。

アリス自身にはコレといった怪我はなさそうだが、憔悴しきった顔をしている。

あんな顔をしているアリスを見るのは初めてだな。今回の件がよっぽどきつかったんだろう。

アリスの無事に一応安心していると、アリスは蓬莱が生きている事を確認して目を丸くする。

 

「ちょっとリュウ。その子、まだ―――」

「それを如何するかはお前が決めろ。壊すのも直すのもお前の自由だ。他の人形たちは壊れてなければもう一度魔法を掛ければ元通り動く」

「え、いや、でも……」

「妖怪化しているみたいだが、身体は人形だ。お前なら如何とでも出来るだろ、人形遣い」

「………………」

「そんじゃ俺はもう帰る。上海はあまり無理するんじゃねぇぞ」

「うん、分かった」

「……いまいち信用できねぇな」

 

上海への愚痴を零しながら、地面を蹴って空を飛び帰路に着く。

新年早々面倒な事件に巻き込まれたが、今年はそう言う年なんだし諦めるしかないか。

……そういや、誰かに阻まれて剣を止めたのはあの時以来か。まさか霊夢以外の奴の願いで剣を引く日が来るなんてな。

 

リュウSide out

 

 

 

 

 

 

アリスSide

 

私はリュウが去っていく背中を見送った後、もう一度蓬莱のほうを振り向いた。

リュウにバラバラに斬り裂かれ、頭と胸しか残っていない状態で私に向かって必至に這いずってくる。

他の人形たちも彼によって斬られたのか、バラバラになっているものが多く、その姿を見ると胸が痛む。

人形たちのこんな姿は見るに耐えない……でも、私がケリを着けないと行けないのよね。

私は意を決して蓬莱の元へと向かい、痛々しいまでに壊れてしまった彼女を拾い上げる。

 

「あり…す……」

「ねぇ蓬莱、どうしてこんな事をしたの? こんな事をする必要なんてなかったじゃない」

「わた…しハ、シャンハイガうらやマシカ……タ。ありす…ト、いっしょ…ニイルアノこが……。ダカラ、アノこノいばしょ……を、うば……ッテわたしガ……ありすノとなリニ……」

「そうだったの……」

 

途切れ途切れの片言だったけど、それでも蓬莱は懸命に理由を話してくれた。

ただ上海の事が羨ましかったって、私と一緒に居たかったって。ただそれだけの理由で蓬莱はこんな事を仕出かした。

……これは完全に私の落ち度だ。私がもっと早く蓬莱の事に気が付いてあげられればこんな事には。そう思うと申し訳ない気持ちで胸が締め付けられる。

この苦しみを何処に吐き出せば良いのかも分からず、ただ自責の念に押し潰されそうになっていると、小さくて無機質な手が私の頬に触れるのを感じた。

 

「……上海?」

「そんな顔をしないでマスター。きっと大丈夫だから」

「……ッ」

 

それはぎこちない笑顔だったけど、それでも上海は笑って私の事を励ましてくれた。

 

「そう…よね。まだきっと間に合うわよね」

「うん」

「ありがとう、上海」

 

私は蓬莱を抱きかかえたまま、地面に転がっている蓬莱の身体を集める。

リュウは私に壊すのも直すのも好きにしろっていった。なら私はこの子を直してあげたい。そして叶うならもう一度やり直したい……うんん、違うわね。私たちはまだ始まってすらいない。だから始めるんだ、この子も一緒に。

 

「あれ、パーツが足りない。森の中にまで吹き飛んだのかしら」

 

足りないパーツを必至になって探していると―――

 

「ほれ、探してるのはコレだろ」

 

―――意外にも魔理沙が蓬莱のパーツを見つけてくれた。

 

「……魔理沙が手を貸してくれるなんて意外だわ。何が目的?」

「ヒデェな。別に魔導書を見せろとかいわねぇよ。只のお節介だ」

「そうなの。ならもう少しだけそのお節介に頼ろうかしら」

「お茶は出るなら考えても良いぜ」

「お茶どころか夕食も出すわよ」

「だったらお節介を焼くしかないな」

 

おどけたように笑いながら、魔理沙は蓬莱のパーツを探し始めてくれる。

詳しい事は何も聞かないでただ手を差し伸べてくれるだなんて、本当に人間っておかしな生き物よね。

 

「……ありがとう、魔理沙」

「あん? なんか言ったか?」

「別に何も言ってないわ。それよりもちゃんと働きなさい。美味しい夕食が食べたいならね」

「手伝ってやってるのに随分と上から目線だな」

「料理に釣られたくせに何言ってるんだか。この時期の日暮れは早いんだから、急ぎなさいよ」

「分かってるっての。……ったく、リュウの奴。こうなる事を見越して先に帰りやがったな」

 

文句を言いながらも魔理沙は残りのパーツも懸命に探してくれる。

その姿に感謝しながら、空を見上げて先に帰ってしまった彼の事を想う。

見上げた空は彼の髪と同じ様に綺麗な青空をしていて、何処までも澄み渡っていた。そんな空を見上げながら私は心の中で〝ありがとう〟と呟いた。

 

アリスSide out




Q:蓬莱が言っていた神様って誰さ

A:ラスボスです。
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